北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ソマリア沖アデン湾海賊対処任務へ第四次派遣部隊 護衛艦さわぎり、おおなみ出航

2010-01-31 23:15:21 | 国際・政治

◆アデン湾海上護衛任務

 海上自衛隊の海賊対処部隊第四次派遣部隊を編成する二隻が、29日、30日に横須賀、佐世保を出航したようだ。

Img_0721  30日、佐世保基地を護衛艦さわぎり、が出航した。海賊対処任務への佐世保基地からの護衛艦派遣は初めてとのことであり、出航記念行事では佐世保地方総監の加藤耕司海将は、海上交通の安全こそがその海域を通行する全ての国の繁栄の礎となる、派遣隊員を激励して柴田公雄艦長以下210名を見送った。

Img_1765  29日には、横須賀基地を護衛艦おおなみ、が出航。式典では派遣部隊指揮官となる南孝宣第六護衛隊司令が訓示を行い、頑張って参りますとの挨拶を残し、190名の乗員とともに横須賀基地を出航した。おおなみ、は洋上で、さわぎり、と合流、東アフリカソマリア沖のアデン湾へ進路をとる。

Img_0930_1  第四次派遣部隊の二隻は、二月下旬に第三次派遣部隊と交代、アデン湾における商船護衛の任務に就く。他方で、ソマリア沖における海賊事案は、地中海を経てアラビア海、インド洋とを結ぶアデン湾から、アフリカ大陸東岸へ移行しつつあり、事案発生も2008年の111件から2009年は215件へ増大しているとのこと。

Img_1661  インド洋海上阻止行動給油支援が終了した今日だからこそ、増大する海賊被害に対して、アデン湾での海上護衛任務をもう一隊派遣する、ということは検討できないか、と考える次第。そうすれば、巡回方式を採る各国艦艇の何隻かは、アデン湾から東アフリカ沖へ転進することも可能になる訳で、もちろん、ローテーションは厳しいこととなるやもしれないが、一考の余地はあろう。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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政府専用機(B-747)を補完する他の航空機が必要なのではないか

2010-01-30 22:56:13 | 防衛・安全保障

◆仙谷内閣府特命担当大臣、747でダボス会議出席

 防衛省HPに政府専用機の運行予定が発表されていました。29日から31日まで、東京国際空港とチューリッヒ国際空港を往復するようです。

Img_0993  政府専用機は、皆さんがジャンボジェットとして御存知のボーイング747-400を二機、航空自衛隊が運用しています。総理府予算で二機が導入されたこの機体は、B-747と称されています。個人的にはBでは爆撃機のような印象を受けますのでVC-747と称するのが正しいのでは、と思うのですが、鳩山内閣が出来ましてから外遊でかなりの回数が運用されているのですよね。しかし、航空自衛隊には、VIP輸送に用いるU-4という機体がありまして、何故に747にこだわるのか、と少し疑問に思ったりします。

Img_1003  政府専用機747は、首相や皇族の移動には必要な機体であると考えます。767や787ではなく、それ以前の外遊では日航の747を利用することが多かったから、747の必要性は理解できますし、一国の代表という機体なのですから、相応の大型機を、という観点から機種を選定する必要はありますし、随行員の同乗はもちろん、四発機ということでの安定性も無視できない利点といえます。しかし、ダボス会議出席のための内閣府特命担当大臣輸送の為に、要人輸送で150名、人員輸送では350名を輸送することが可能な航空機を運用する、というのは少しオーバーなのではないでしょうか。

Img_1010  この点、U-4はガルフストリーム社製のビジネスジェットで、乗員は操縦の2名に加えて19名が搭乗できるだけと、やや小ぶりではあるのですけれども、航続距離は12000kmあります。U-4は、2008年の北京オリンピックに際して、その開会式に出席した福田総理大臣を現地まで輸送するという任務に充てられていまして、既に海外へのVIP輸送にも実績のある機体です。日本の政府専用機として、747は必要でしょう。日本は地理的に欧州のように主要国間が近い訳でもなく、同盟国アメリカは太平洋の向こう側ですので、基本的に太平洋を飛び越えることができる機体は必要でしょう。しかし、現政権は、外遊の回数も多い事ですし、747への負担を考えればU-4の多用ということも考えるべきではないでしょうか。747は二機しか無いのですから、この点重要でしょう。

Img_9382  突き詰めて考えれば、747以外にVIP輸送に対応することのできる航空機がU-4、そして考えればYS-11もあるのですけれども、747と中間にあるべき航空機が航空自衛隊に配備されていない、というのが一つ考えるべき時期に来ているのでは、と論点を一歩進めることもできるかもしれません。例えばボーイング767、一時期は中古のボーイング767を政府専用機として航空自衛隊が導入するのでは、という話も流れていたのですが、どうなったのでしょうか。大臣クラスの輸送であれば、767や737でも対応できると考えます。そんなに人数が多数随行する、というわけでもないのですからね。

Img_9392  航空自衛隊では、空中給油輸送機としてKC-767の導入を進めており、現在最後の四号機が小牧基地に到着し、運用試験を行っています。KC-767は人員輸送に対応できるということではありますが、窓の無い明らかな空中給油機にVIPを搭乗させるのは、あんまりなのではありますが、767の運用基盤は構築されていることは確かなので、中古の767あたりを探してみては、と思います。ちなみに写真は757です。他方で、国際人道支援任務を考えれば自衛隊員の輸送を考えて747を増勢する、という選択肢もあるにはあるかもしれません。人数が人数ですので、U-4では不可能な規模、このあたり、日本航空が運用終了を計画している747-400あたりを1~2機、検討してもいいのでは、と考える次第です。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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PAK-FAが初飛行 ロシア空軍の新しい次世代戦闘機は2015年から部隊配備を計画

2010-01-29 23:28:20 | 先端軍事テクノロジー

◆第一印象はサイレントフランカー

 スホーイがロシア空軍向け次世代航空機として開発を進めていた次世代戦闘機PAK-FAが29日、極東のコムソモリスクナアムーレで初飛行に成功したとのことです。

Img_7102  航空自衛隊が現在進めているF-4戦闘機後継機の選定、F-Xに対してもロシア空軍の次世代機の与える影響はかなり大きいものとなることは明白なのですけれども、印象としてはSu-27フランカーにステルス性を付与させた、いわば“サイレントフランカー”、という印象の機体に仕上がっています。ボーイングではF-15E戦闘爆撃機ストライクイーグルが大きな問題とされた大きなレーダー反射面積を軽減させた新機種として、F-15SE“サイレントイーグル”を開発中ですが、そういう印象、という意味で個人的に“サイレントフランカー”と呼んでみました次第。Su-27は、その究極発展型として軸対象TVノズルを搭載したSu-37フランカーを開発していますが、その機体にステルス性を付与させた、という印象です。第五世代航空機という位置づけで開発されていたPAK-FAは、当初の概念図ではより先進的なステルス機として設計されており、機体全体にレーダーを配置したスマートスキン構造を採用するなど、意欲的な機体、という印象のあった航空機なのですが、初飛行した機体は、Su-27の系統から次世代機に昇華した、というような機体でした。

Img_7465  しかし、さすがは次世代機というだけはあって、機首部分やコックピット周辺にはレーダー反射面積を局限化するためのステルス構造が配慮された形状となっているほか、エアインテイクがこれまでとは外側に配置されています。エアインテイク、エンジンへの吸気口となるこの部分は、そのままエンジンのタービンブレードまで直通する従来の設計の場合、正面から飛び込んだレーダー波がタービンブレードに反射して、レーダーに映る、という難点があります。そこで、脇に寄せることで、エアインテイクからエンジンまでの区画に傾斜をつけることでレーダーに写りにくくするという構造なのですよね、この配慮は、例えばF/A-18CからF/A-18Eを設計する場合に配慮されています。F-15SEに関しては現段階ではこうした配慮があるのかは微妙で、PAK-FAの方が先進的となっている可能性はあります。また、主翼形状やその他可動部分についても配慮は為されているようですね。

Img_7199  東西冷戦終結後のソ連崩壊から、Su-37やMiG-35という新型機をロシア空軍は開発してきましたが、基本的にSu-27,MiG-29というソ連空軍が開発した機体の一部を改修した、という航空機でした。MiG-1.44も施策はされましたが実用化には至らず、今回のPAK-FAで開花した、というかたちでしょうか。さて先ほど、Su-27の系統にある、という表現をしましたが、これは、米国がF-15CからF-22Aへ大きく一気に飛んだのに対して、Su-27/30そして並列複座のSu-32/34、カナードを加えたSu-33/35/37と技術的な模索と研究を継続的に実施し、S-37のような実証機による技術開発の末に大成した機体、つまりF-22Aを天才とすれば、PAK-FAは秀才型の航空機、という表現ができる航空機です。こうして究極の機動性と安定性を具現した、と評価されるスホーイの戦闘機にステルス性が付与されることにより、第五世代機に対して機動力が発揮できる範囲まで接近する余裕が生まれた、ということができるでしょう。

Img_7413  PAK-FAは2015年からの部隊配備を構想しているとのことですが、その頃には航空自衛隊の次期戦闘機も運用を開始しているころに繋がります。なるほど、F-35のように無理に国際共同開発を行わないだけに、仕様変更や政治的思惑、要求性能の変化がないことで初飛行の後の実用化は比較的早い、と考えることも出来るかもしれません。これが日本の機種選定に影響を及ぼす可能性はあります。もっとも、相手がステルス機ならば、こちらもステルス機で、というのは誤解で、相手を捕捉することのできるレーダーが無ければ、対処することはできません。ステルスとは航空優勢確保のための手段の一つ、として理解する必要があるのでしょう。この点の認識がどのように機種選定に反映されるかが興味深いところですね。しかし、それにしても、今回当方はロシアまで撮影行くことができませんでしたので写真こそありませんが、サイレントフランカーというべき、Su-27フランカー譲りの無駄の無い美しい機能美に溢れた機体としてまとまっています。

HARUNA

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海上自衛隊 平成21年度特別輸送訓練・対潜特別訓練実施中

2010-01-28 23:00:15 | 防衛・安全保障

◆日米合同:1月26日~28日・2月2日

 海上自衛隊は、現在、九州沖と東海・四国沖の海域で日米合同の洋上訓練を実施中です。海上自衛隊HPに実施情報がありましたので、本日はこちらを紹介。

Img_7973  平成21年度特別輸送訓練は、日米の輸送艦・揚陸艦との間での協同訓練を行い、連携要領を演練して、両用戦能力の向上を目指す訓練です。行われているのは1月26日から本日28日までで、明日29日が予備日に指定されているとのこと。演習海域は九州西方で、訓練統制官は、第一輸送隊司令佐々木俊也1佐と米海軍揚陸艦艦長。海上自衛隊からは輸送艦おおすみ、くにさき、が参加、米海軍からは艦名が発表されていないのですが揚陸艦一隻が参加。LCACの運用訓練や戦術行動、艦艇相互研修が行われ、輸送特別訓練は今回で五回目とのこと。

Img_5928  海上自衛隊HPに記載されていたのは以上です。海上自衛隊の輸送艦といえば、1998年に、満載排水量14000㌧の、おおすみ、が就役するまでは4000㌧で、そのまま接岸する、みうら型輸送艦までで、日米の合同訓練を行うには能力的に問題がありました。おおすみ型三隻が整備され、最近はエアクッション揚陸艇LCACを運用するようになり、かなり陸上から離れた海域で、つまり陸上からの揚陸艦に対する反撃が想定できないほどの位置から運用することができるようになったのですけれども、今日、その位置づけは変化しつつあるようです。

Img_7849  そういいますのも、近年、米海軍では陸上から本格的な反撃が予想できるような上陸任務の可能性が減少していることから、LCACについて、その位置づけを見直しつつあるそうで、しかし、より大型のエアクッション揚陸艇を開発する構想や、水陸両用装甲車AAV-7の後継に、より高性能で調達価格も大きいEAVを開発していることもありまして、いったい米海軍が今後、どのように両用作戦を実施してゆくか海上自衛隊としても関心事となることでしょう。これらの展望、訓練や指揮官交歓を通じて得られるものは非常に多いのではないでしょうか。

Img_7709  同時に日米で、対潜特別訓練が実施中です。対潜特別訓練は、1月26日から2月2日まで、東海地方沖から四国沖までの海域で実施されています。この訓練は、昭和32年から実施されていて、今回で118回を迎えるとのこと、一年間に数回行われていることになります。訓練統裁官には、海上自衛隊からは潜水艦隊司令官である永田美喜夫海将が、米海軍からは第七潜水艦群司令のマイケルJコナー(Michael J. Connor)海軍少将が当たっており、対潜戦の訓練を実施している、とのことです。

Img_7895  参加部隊は、海上自衛隊から、護衛艦7隻、潜水艦5隻、訓練支援艦1隻、航空機20機。米海軍からは潜水艦1隻が参加しています。海上自衛隊HPに公開されている情報は以上です。護衛艦7隻、となるとかなりの規模ですが、日米併せての潜水艦は6隻、うち一隻は米海軍ですから原子力潜水艦、ということになるのでしょう。それにしても、対潜戦の訓練ということですから、米海軍はもう少し駆逐艦などを訓練へ参加させてもいいのでは、と思う次第、米中関係を考えれば、日本の高性能なディーゼル潜水艦との訓練は非常に有意義では、といえるからです。

Img_7721  海上自衛隊の潜水艦について、騒音が大きいのでは、という誤解があります。これは、潜水艦の水中放音の一覧表で、もっとも大きい一隻に、海上自衛隊の、うずしお型潜水艦の名前が挙げられていたからなのですが、うずしお型潜水艦のガタピシ音は当時、海上自衛隊部内でも問題とされ、米海軍からも指摘されていました。シャフト部分に起因するようなのですが、ゆうしお型、はるしお型、おやしお型、そうりゅう型を型式が新しくなる一方、一覧表には、うずしお型以外の潜水艦が載せられないことに起因している一つの誤解で、最近の潜水艦では顕著なガタピシ音の話は幸い出てきません。

Img_5836  日本は原子力潜水艦を運用していないのですが、米海軍の潜水艦は全て原子力潜水艦です。発電機で逐電してバッテリーにより運用される通常動力潜水艦は、航続距離に限界があり、一方で原子炉から事実上無限の動力を得られる原子力潜水艦は航続距離が実質的に無限大です。しかし、原子力潜水艦は、行動中も原子炉から動力を得る必要があるので、内部のギアなどは常に動いたままの状態となっています、ここから少なくない音が漏れる、そして航空機や水上艦から、この音で発見される訳です。

Img_7706  他方で、通常動力潜水艦はバッテリーを用いている期間、かなり静かに行動することができるという利点があります。そして、中国海軍は、この種のディーゼル潜水艦を保有していて、近年までは戦時中のUボートをコピーしたソ連製の潜水艦を複製改良したものを建造していたのですが、ロシア製の高性能通常動力潜水艦の導入などを進めています。中国製潜水艦の国産技術も進歩はしていまして、米海軍は少なからず警戒しているのですよね。そういう意味から、対潜特別訓練は、もう少し米海軍が参加しても、と思いました次第。他方で、海上自衛隊は、米海軍が原子力潜水艦を参加させてくれるということで、原子力潜水艦を目標とした訓練ができますので、この点、得るものは大きい訓練といえますね。

HARUNA

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ハイチPKOへ陸上自衛隊派遣、もっと早く派遣していれば復興人道支援に専念できた

2010-01-27 22:30:03 | 国際・政治

◆治安出動の状況下での復興支援

 本日扱うのは自衛隊のハイチPKOについて。国連は治安部隊を求めているのですが、自衛隊は災害復旧の部隊を派遣するそうです。

Img_8539   もっと早くに部隊を派遣していれば、例えば震災二日後に、おおすみ型輸送艦を派遣していれば、もう既に到達して任務に当たっていることができたのでしょうし、瓦礫の下からの救助には各部隊が持つ人命救助システムが活躍、もっと早くにC-130で衛生部隊を派遣していれば多くの人を救えたでしょうけれども、自衛隊は震災後に本格的にパニックが起こり、治安が悪化した状況で派遣するということになってしまいました。

Img_3402 つまり地震直後の情勢が悪化する前、早い時期に何らかの対処を行っていれば行う必要の無かった、武器使用、ということを念頭に置かなければならないのですよね。首相判断の遅れという政府の失政で、救うべき被災者に武器とともに向かい合わなくてはならなくなった自衛隊。これについて考えます。

Img_0665  武器。いうまでもなく、治安任務が必要な地域へ自衛隊を送るのだから、状況によっては武器使用の可能性もあるわけです。自衛隊の施設部隊というのは、自活能力のある土建屋さんではなく、師団・旅団の施設は敵前で障害を実力で除去し、占領後は逆襲に備え防御陣地を構築する戦闘工兵です。

Img_2623  方面隊直轄の施設部隊は、方面隊隷下の師団や旅団が所要の任務を達成できるよう支援することが任務とされており、野戦築城から補給路の維持までを担う建設工兵、歴とした戦闘支援職種です。災害時はその高い能力の一端を民生復旧に供しているのですが、本業は戦闘支援であるわけだ。

Img_9601  ハイチ地震の犠牲者は15万名という空前の規模に達しようとしている。インド洋地震スマトラ島津波災害、中国四川省地震と並ぶ激甚災害となったが、温暖な気候が幸いし、凍死者というような状況には至っていない。また、瓦礫の下からの奇跡的な生存者の一報も多少は報じられ、凶報のなかの一筋の光明として挙げたい。

Img_7003  さて、今回の地震にたいして、日本の対応は地震国であり、十五年前に阪神大震災が人口密集地神戸を襲い、多大な犠牲者を出した教訓があり、近年も幾度と無く国土を地震の災厄蹂躙され、その恐ろしさと早期の救援がなによりも重要であるということを経験的に知りつつも、現政権の対応は残念ながら遅きに失したといわざるを得ない状況で、見かねた野党自民党が旧与党としての責任感から、早期に緊急人道支援としてハイチへの災害派遣を要請する異例の事態となったのは記憶に新しい。

Img_4150  現在、広島県海田市駐屯地に司令部をおく第13旅団を中心に編成された国際緊急人道支援部隊が医療支援を実施中で、外報などによる現地情報では、既に地震にともなう建築物の倒壊などで骨折、複雑骨折などの重傷を負った負傷者の少なくない数が化膿し壊疽という状況、つまり対処の遅れにより、残念ながら手足を切断しなければ命を救うことができない、という状況に陥っているということだ。なるほど、外報では、そうした映像がありますのでご注意くださいと促す旨の断りが繰り返されており、仕方ないにしてももう少し早ければ、と思わずに入られない状況ではある。

Img_1252  さて、こうした状況に際して、鳩山政権は国連が求めているハイチPKOへ陸上自衛隊の派遣を決定した。350名の部隊派遣を検討中とのことで、施設科部隊を中心に編成、首都近郊での道路復旧やインフラ再生に関する任務に就くとのこと。派遣期間は六ヶ月が見込まれており、派遣部隊に関する明確な提示はないが、恐らく中央即応集団隷下部隊と、現在待機部隊に指定されている第13旅団、そして大久保駐屯地に駐屯する中部方面隊直轄の第4施設団を中心とした部隊が編成され派遣されるのではないかと考えられる。

Img_0311  しかし、注意しなくてはならないのは、今回、国連が派遣を求めているのはPKO部隊でも、陸上自衛隊がこれまでに実績が多数ある復興人道支援任務としての道路やインフラの復興ではなく、悪化する治安に対する対応としての治安任務部隊の派遣を求めている、ということである。というのも、現地ではハイチ復興のPKO部隊が地震により指揮官が死亡し、多くの要員も犠牲となったり行方不明となっている状況であり、当然、ハイチの警察機構も大きな打撃を受け、再建中という状況にある。

Img_0591 従って、治安状況は甚だ悪い状況にあり、結果、国連はPKO部隊として、治安任務にあたる部隊を各国に要請する形となってしまった。日本では大規模災害に際しても、少なくとも今日までは、被災地への救援は比較的短期間に実施され、例えば阪神大震災に際しても、災害要請が、兵庫県知事のひたすら自宅前で公用車の到着を待ち、派遣要請が遅れたことで遅い遅いと非難された陸上自衛隊の災害派遣も一両日中に実施されている。こうした社会基盤の復旧の早さが暴動のような状況に陥ることを抑制しているといえる一方で、ハイチにはその能力がなかったことで今日の状況に至っている。

Img_1048  治安状況の悪化は一部報道にあるような刑務所の倒壊による脱獄囚に起因するものも少なからずあるのだろうけれども、現時点で全ての被災者に充分な物資が行き届かないという現実がある。結果、多くの一般市民がやむを得ず生存権を守るために行う行動が治安の悪化をまねいている、という構図になる。今回の鳩山政権による陸上自衛隊の派遣は、インフラ復旧作業の実施に主眼をおいて行われるとのことだが、治安が悪化している地域では、好むと好まざるとに関わらず、状況を単なる災害派遣の延長としてみるのではなく、部隊の自衛のために小銃を構えるという状況も想定しておかなければならない。被災者に銃口を向けなくてはならないほどの状況が悪化しているというわけだ。

Img_1421  それよりも、工兵部隊はどの程度、現地で需要があるのかということを考え、果たして今の段階になって、PKOとして陸上自衛隊を、本来の治安任務ではなく、復旧で派遣することの意義がどの程度あるのか、ということは考えなければならない。特に、復旧から復興に転換する瞬間は、むしろ現地の需要は、資金援助の方が重要なのではないか、と考える次第。自衛隊が必要とされるのが災害時における復旧であり、復興は住民の努力により成し遂げられるものだからだ。もちろん、ハイチ政府が必要とするのであれば、輸送艦の派遣や、施設科部隊の派遣などは行うべきであるし、輸送機や輸送ヘリコプターの派遣も為されて然るべきなのだけれども、その重点は復興資金の援助、ODAというかたちでの国家再建への協力、ということに重点をおくべきなのではないだろうか。他方、今の連立与党には自衛隊の派遣に懐疑的な政党勢力も含まれているのだが、治安出動に近い状況下である。まさか非武装で、というような意味不明な発言はでないように願いたい次第。

HARUNA

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速報:XC-2初飛行! 2009年1月26日 念願の航空自衛隊次期輸送機、空へ

2010-01-26 13:13:02 | 先端軍事テクノロジー

◆国産機としては史上最大、C-X初飛行

 本日、航空自衛隊岐阜基地において、開発が進められていた次期輸送機C-Xが念願の初飛行を実現させた。

Img_7272  晴天の本日1月26日1020時、川崎重工岐阜工場から岐阜基地滑走路へと移動したXC-2は、T-4練習機が上空から随伴する中を初飛行に成功した。2007年に初飛行が予定されていたものの、輸入リベットの不良や機体強度不足により遅れていた初飛行が、ついに実現した形となった。

Img_7338  初飛行の一報は新聞でも取り上げられ、新型機の飛行を一目見ようと多くの市民が集まり、新型機の進空を祝った。XC-2は、離陸の後1127時、所要の航路を飛行したのち岐阜基地上空をフライパス、1135時に岐阜基地へ着陸した。初飛行を終えたのちも課された課題は少なくは無いものの、将来の航空輸送能力を担う新型機は、着実に一歩を進めたことは確かなようである。

HARUNA

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海上自衛隊ソマリア沖海賊対処任務、第100回護衛任務が本日完了

2010-01-25 23:55:01 | 国際・政治

◆海賊対処行動第59回

 防衛省によれば、1月22日から開始されたソマリアアデン湾護衛任務が本日25日に完了したとのことだ。

Img_1600  今回の任務完了をもって海上自衛隊の海賊対処任務が海上警備行動命令時代のものを含めて百回を越えた。東西冷戦時代に鈴木総理が提唱していた1000海里シーレーン防衛構想や。90年代の日米新ガイドライン締結時代に極東有事の範囲内は台湾海峡を含むか否か、という議論が相当空虚に聞こえてくる次第。

Img_1558  1月22日より開始された標記護衛について、1月24日(日本時間午後)、アデン湾における海賊対処のため派遣された自衛隊の部隊(護衛艦「たかなみ」及び「はまぎり」)による護衛が終了しました。 今回の護衛対象であった船舶6隻の内訳は以下の通りです。日本籍船 0隻、我が国の船舶運航事業者が運航する外国籍船 1隻、(タンカー×1)・その他の外国籍船 5隻(コンテナ船×2、一般貨物船×2、タンカー×1)http://www.mod.go.jp/j/news/2010/01/25e.html

Img_7226  海賊対処任務は歴としたシーレーン防衛の一形態であるとともに、海上自衛隊の現有の能力発揮の場としての抑止力維持、各国海軍との交歓や商船護衛を介しての信頼醸成という副次効果など、実際の海上自衛隊艦艇による日本向け商船護衛を介しての日本経済活動の維持継続以上に大きな成果を発揮してきていることは確かである。

Img_7458  他方で、回数を重ねるごとに海上自衛隊への護衛要請の隻数は増加しており、最大で10隻を越えることも珍しくは無くなってきている。これは必然的に船団が長大化することを意味しており、各国が実施している艦艇巡回、ポイントディフェンス方式とは異なりエスコート方式を採っている以上、リスクは大きくなる。今後、可能であるならば派遣護衛艦の増勢は求められるかもしれないが、一方で海賊対処が新しい海上自衛隊の世界に認識される任務となるだろう、

HARUNA

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普天間飛行場移設が事実上の争点 名護市市長選挙に基地反対の稲嶺氏が当選

2010-01-24 23:50:08 | 国際・政治

◆本日はPC不調につき、写真は無しです

 本日、名護市市長選挙が行われました。今回の選挙は、沖縄県の一首長を選出する占拠、という以上に全国の耳目を集める選挙戦となったことは御存知の通りです。

 名護市長選挙が注目を集める、何故ならば、名護市にはアメリカ合衆国海兵隊キャンプシュワブが置かれており、そのキャンプシュワブの沖合に、現在、日米摩擦の象徴となっているというべきでしょうか、普天間飛行場移設計画が立っているからです。果たして、移設賛成、いや、賛成というよりは沖縄県全体で拒否したい米軍基地の移設先を、渋々ながら市民が受け入れてくれれば、沖縄県全体に貢献する、という断腸の思いで受け入れた現職市長か、やっぱり新しい鳩山政権が見直し、って言ってくれてるのだから、基地にはNO、という候補か、注目が集まっていたわけです。

 選挙結果は、毎日新聞の記事から引用します、全文引用したので、若干長いですが以下の通りです。名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の移設問題を最大の争点とした沖縄県名護市長選が24日投開票され、県外移設を主張する無所属新人で前市教育長の稲嶺進氏(64)=民主、共産、社民、国民新推薦=が、条件付きで移設を容認する現職で無所属の島袋吉和氏(63)を破り、初当選した。これにより、自公政権が06年に米政府と合意した米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(同市辺野古(へのこ))への移設は困難となった。鳩山政権は移設先の見直しを加速させる方針だが、米側は合意の履行を求めており、解決のめどは立っていない。 投票率は76.96%で、過去最低だった前回(74.98%)を上回った。当日有権者数は4万4896人だった。名護市長選で移設の是非が争点となるのは普天間飛行場返還に日米が合意した96年4月以降、98年2月を最初に今回で4回目。これまでの3回は移設容認派が当選しており、反対派の勝利は初めて。09年8月の衆院選で県外移設を訴えた鳩山由紀夫首相率いる民主党中心の連立政権が発足し、移設見直しへの期待が高まっていた。 稲嶺氏は、島袋氏が06年に辺野古移設を容認した経緯などに不満を持つ一部保守系市議が擁立。国政与党の民主、社民、国民新党のほか、共産党の推薦も受け、県外移設を求める立場を明確にした。選挙戦では「辺野古に新基地は造らせない」と主張。鳩山政権との連携による地域振興などを訴え、無党派層にも支持を広げた。 自民、公明両党や市経済界の支援を受けた島袋氏は、選挙戦では移設問題にほとんど触れず、市政継続を訴えたが及ばなかった。 鳩山政権は12月、普天間移設問題の結論を5月に先送りすることを決め、政府・与党の沖縄基地問題検討委員会(委員長・平野博文官房長官)を設置して見直し作業を進めている。鳩山首相は名護市長選の結果が移設先の検討に影響する可能性に言及しており、辺野古移設の選択肢は事実上消えたことになる。 稲嶺氏の当選により県外移設への期待が沖縄県内でさらに高まるのは確実。これに対し、平野長官は10日、沖縄本島や離島を上空から視察するなど県内移設を模索する構えも見せている。米側との調整も難航は必至で、鳩山首相が設定した5月の期限へ向け政府は難しい対応を迫られる。【http://<wbr></wbr>mainich<wbr></wbr>i.jp/se<wbr></wbr>lect/to<wbr></wbr>day/new<wbr></wbr>s/20100<wbr></wbr>125k000<wbr></wbr>0m01008<wbr></wbr>9000c.h<wbr></wbr>tml

 さて、以上の通りです。普通にTVでも報道しているようなのですが、本日は私事ながらBACK TO THE FUTUREの三部作が新品で投げ売りされていましたので、こちらを購入しまして観ていたので、といいますか現在まさにⅡをみている最中なので、テレビ報道に関してはご容赦ください。Ⅱの舞台は2015年、そういえば普天間基地の移設完了は2014年でしたので、作品中の世界では普天間基地はどこかに移設されているのでしょう。第一作で飛ぼうとした未来は作品中の1985年から25年後なので、今年2010年なのですね。・・・、ほんとうにどうでもいい話です。

 今回の市長選挙で、民主党は基地移設反対の稲嶺候補を支援したのですが、さす側民主党と言うところなのでしょうか、見事支援した候補が勝ちました。しかし、お気づきとは思いますが、鳩山総理は、五月までに普天間基地の移設先について、日米合意する、と発言しています。最近はトーンダウンして、いいや、日本側の意見を五月までにまとめるという事ですヨ、と言い換えていますが、この移設先はゼロベースで考える、と言っておりました。つまり、名護市辺野古のキャンプシュワブ沖合に移設する、という選択肢も残っているのですよね。そうです、辺野古沖の可能性が残っている以上、今回の市長選は民意を問うというべきでしょうか、中立の立場から考えるべきだったのです。

 アメリカ海兵隊は、現在、沖縄県の海兵隊地上戦闘部隊との間で協同運用を行うために、沖縄県の部隊からヘリコプターで20分以内に到達できる場所を普天間飛行場代替施設として求めています。つまりは、普天間の代替飛行場は辺野古沖に、という日米合意があるのだから、それを履行してくれ、ということです。CH-53KやV-22など、現在海兵隊で運用されている航空機は発展してゆくのでしょうが、どのように発展しようとも、海兵隊は大統領命令だけで運用できる直轄部隊であり、緊急展開部隊、つまり装備が軽量な部隊であるわけです。したがって、重い戦車や自走砲を保有していない分、機動力が何よりも重視されるわけなので、ヘリコプターを使った訓練は日常的に行う必要があるわけなのですよね、そこで、移転先はヘリで20分以内、ということになりました。

 民主党や社民党、国民新党からなり連立与党は、普天間移設反対ではなく普天間の滑走路を短くして運用すれば住宅街から数百メートルの距離を置けるという移転反対案、いいや、九州の大村航空基地のあたりが海兵隊ヘリコプターを搭載する強襲揚陸艦の母港、佐世保基地に近いので便利なのだからいいだろう、いいや、大阪府知事がまんざらでもない発言をしている関西国際空港にヘリコプターを移転してみてはどうだろうか、海兵隊のキャンプがあるキャンプ富士周辺に東富士演習場を縮小して飛行場を建設しよう、海兵隊なんか全部グアムに移転してしまえばいいんじゃないのかな、どこかよさげな無人島を、例えば硫黄島なんてどうだろうか、ストラトス4で有名になった下地島を海兵隊に提供すれば問題ないのではないか、いっそのこと沖縄本島に近い伊江島が昔補助飛行場の建設を認めてくれたから、補助飛行場がいいのなら基地も受け入れてくれるのではないか、などなど百花繚乱。このなかで現実的なのは、辺野古沖以外は、伊江島くらいなのでしょうか。個人的には那覇移転案もあるのだとおもうのですが。

 さて、民主党は群馬県の八ツ場ダムを一方的に建設中止にする、と政権公約に記載して、政権を獲得すると、地元の意見を無視する形で建設中止を押しつけました。何十年も経て合意に至ったのだから、建設反対派も賛成派もなんとか呑んだ合意、ということで、渋々ダムを建設してもらおうではないか、という決意に水を差したのですね。これが問題になっています。もっとも似たような胆沢ダムや、巨額の資金を必要とする霞ヶ浦導水路などは継続されているのに、という一部疑問があるかもしれませんが、この場合は置いておきましょう、本題からそれますからね。

 政府として、出した結論が名護市キャンプシュワブ沖合しかなかった場合はどうすればいいのでしょうか、という事が一番重要でしょう。某ダムのように、中央が決定したのだから、地方は従ってもらわねが困る、名護市が反対して、市長が反対していても強制的に飛行場は云々、というつもりなのでしょうか、これは難しいでしょう。なんといっても、今回当選した新市長さんを民主党も社民党も支持したのですから、それとこれとは話が別、ということで基地は名護市沖合だあ、というのは出来ない事です。

 それでは、どうやって新しい移設先を考えるのでしょうか、ゼロベースであるのだけれども実質的には辺野古沖は考えない、ということになるのでしょうか、さすがに五月以降に決定を先延ばしと言う事は無理でしょう、そもそも、自民党政権が十五年間かけてなんとか落ち着き先を見つけたのに対して、いきなり民主党が政治主導で、と掲げても少し無理があり過ぎるようで、どうやって解決策を探すのか、御手並み拝見と行きたいところです。

HARUNA

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陸上自衛隊の装甲車装備計画はどのように見積もられているのか

2010-01-23 23:31:15 | 国際・政治

◆必要なのは長期計画

 富士重工のAH-64D調達中止に伴う訴訟ですが、そもそも、装備計画が予算として明示化されなかったのが大きな問題であった訳です。予算というのは一種の法律なのですが、なるほど、一括発注以外では多年度にわたる装備計画の予算化は難しかったことも背景にあるのでしょうか。

Img_6436  本来、長期計画として防衛大綱が制定され、中期計画として中期防衛力整備計画が画定され、年度ごとの装備計画が行われる、というのが筋なのでしょうけれども、防衛計画の大綱に明記された別表の装備定数は、ある種の上限として受け止められているようで、本来は最低限、これだけの装備は必要、ということを明記するべきところを、財務省が予算抑制のための、ここここまでしか装備化の予算は出せませんよ、という数字のように受け止められている次第。実際、前の防衛大綱では、特科火砲の実数が750程度であった際にも、定数の900まで増強しよう、という動きに至らなかった訳ですし、この点、顕著なのは戦車定数。あたかも、通常戦力削減条約の実施計画大綱の如く受け止められているので、そうではなく、防衛力を整備充実させるための実施計画大綱とするべきなわけです。

Img_0103  結果的に装備計画の柔軟化のために、限られた装備しか、その定数を明記せずに今日に至るのですが、この防衛計画の大綱に戦闘ヘリコプターの定数を盛り込み、この数字が最低限、という事で整備する方向性を、今流行りの“政治主導”で提示すれば、こうした予算捻出が出来ずに装備計画の中断、という事も無かったはずなのですよね。さて、陸上自衛隊の長い期間にわたっての懸案は、装甲防御力の確保、特に装甲車により普通科部隊を防護することが可能なだけの数量を確保する予算が捻出できない、というものでした。装甲車に乗車していれば、いきなり火砲で砲撃された際でも普通科隊員を防護することができますし、戦車が攻撃前進する際に普通科部隊が随伴していなくては戦車部隊が対戦車兵の肉薄攻撃にやられてしまいますが、装甲車がいなければ戦車への随伴は危険が伴う訳です。

Img_53051

 ちなみに、この場でいう装甲車の定義は、軽装甲機動車のような普通科部隊の火力拠点として、また重火器の移動手段としての車両ではなく、戦車に随伴することが可能な程度の不整地突破能力を有して、そして装甲防御力を有するものを意味します。軽装甲機動車は、中期防衛力整備計画にも明記されていない車両で、年間100両以上の数が調達されているので、普通の装甲車が30両前後というのとくらべれば、随分違ってくるのですが、路上機動力では優秀な車両な一方で、市街地以外での不整地では、あまり運用を考えていない車両なのですよね。そういう意味で、装甲車とは、89式や96式のような車両を示します。

Img_6446  戦車部隊は、通常、普通科連隊一個に対して一個中隊が配属されて、特科大隊や施設小隊とともに連隊戦闘団を編成するのですが、そうなると、少なくとも戦車部隊が配属されている師団や旅団の普通科連隊は、一個普通科中隊が装甲車を配備されているべきなのですよね。ところが、一応中期防衛力整備計画では装甲車の整備計画はたてられているものの、防衛計画の大綱には盛り込まれていないので、製造企業としてもどの程度の期間、ラインを維持しなくてはならないかが計画することが出来ない、という問題が生じる訳でして、長期計画が立てることが実現さえすれば、この点、改善するのですよね。実数を盛り込むことに投機性があるのならば、例えば基本計画のための師団編成や旅団編成を明示して、その編成に装備定数を参考数として書き込む、そして編成実現のための予算体制を構築する、という方法もあったはずです。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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富士重工、戦闘ヘリコプター調達中断で生じた損害の賠償を求め防衛省を提訴

2010-01-22 23:06:40 | 防衛・安全保障

◆350億円の損失補てんを求める

 陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプター調達中止問題で、富士重工側が訴訟に出たようです。本日はこの話題について。

Img_0448  陸上自衛隊は新型戦闘ヘリコプターAH-64Dを、現用のAH-1S対戦車ヘリコプターの後継として60機を導入する計画を立てていたのですが、当初の計画よりもAH-64Dが高価であったこと、そして一部ではAH-64D戦闘ヘリコプターの搭載するレーダーが日本の入り組んだ地形や木立の中では、当初いわれていたような戦域情報収集能力が、これは主に中東の砂漠地帯や中央アジアの岩肌の出た高山部での運用により導き出された性能なのですが、発揮できないということがわかり、加えて現在調達中のAH-64Dが一部仕様変更になったことも加え、60機を調達予定のところを、急きょ約50機分、キャンセルしたため、アメリカボーイング社とライセンス生産を行うべく部品購入を行った富士重工が防衛省の調達打ち切りに対して訴訟に出た、ということです。

Img_7401_1  富士重工、国に350億円求め提訴 ヘリ調達中止で :富士重工業は15日、防衛省が当初予定していた戦闘ヘリコプターの調達を途中で打ち切った問題で、国を民事提訴した。防衛省が同社に発注予定だったヘリの費用未回収分として約350億円の支払いを求める。顧客が事実上、国に限られる防衛産業では異例の展開。 支払いを求めるのは戦闘ヘリ「AH―64D」(通称アパッチ・ロングボウ)生産の初期費用の未払い分(初度費)で、ライセンス費用や生産設備、部品の購入費用など。(13:21)
http://<wbr></wbr>www.nik<wbr></wbr>kei.co.<wbr></wbr>jp/news<wbr></wbr>/sangyo<wbr></wbr>/201001<wbr></wbr>15ATDD1<wbr></wbr>500X150<wbr></wbr>12010.h<wbr></wbr>tml
Img_7285_1  結局のところ、60機を調達する、ということで防衛省が富士重工にライセンス生産を依頼したのですよね。直輸入よりもライセンス生産のほうが高くつくのですが、第一に日本国内の工場でライセンス生産した方が、定期整備でわざわざアメリカに持ってゆく必要がなくなるということ、そして、直輸入の場合は、整備サービスをこの場合ボーイング社に求め、整備支援要員の派遣などをうけるのですが、こういうサービスは、AH-64Dが本当に必要になる際、つまり防衛出動で危険がせまると中断することがあるのですよね。実際、NATO加盟国でもイラク戦争やアフガン攻撃で同様のことがありました。そこで、富士重工にライセンス生産、という運びになったのですが、製造ライセンスをAH-64Dの製造メーカーであるボーイング社から富士重工が得たものの、全ての部品を日本で位置から生産する訳には行けない、ということで、防衛省が調達するとした60機分を購入していたのですよね。

Img_1628  訴訟までは、防衛省と富士重工の間で、それなりに長い道のりがありました。防衛省が調達中止を決定したのだけれども、調達再開を発表すればそのまま丸く収まる事もありえましたからね。それに、防衛省は60機を調達予定であるけれども、調達するとは言っていない、という発言も過去に出しています。それはもう、350億円、当初は500億円ともいわれたのですが、損害賠償で支払うには大きすぎますからね。しかし、それは無理です。部品を毎年2~3機分づつアメリカに発注すれば、その方が高くつきますし、部品の仕様は変更されてしまうかもしれない。そこで60機分、購入した訳です。莫大な損害が生じたので、これはもう何とかしてもらうしかないというのが富士重工の普通の感想でしょう。普通に考えれば、60機、AH-64Dを購入する、というかたちで示談にすればいいとも思うのですけれども、ね。なんとなれ、今使っているAH-1Sの後継機は必要になるわけですし、この点、防衛省はちょっと再考の余地があるように思う次第。この件はいずれ詳しくみてみたいですね。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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