北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】チャレンジャー2課題と130mm戦車砲に豪Land-400計画リンクス41戦闘車

2020-08-31 20:01:18 | インポート
■週報:世界の防衛,最新9論点
 各国の陸軍関係最新事情を紹介しましょう。戦車と戦車砲の話題に装甲戦闘車と軽装甲車の話題など今回は9の話題をみてみます。

 自衛隊の募集難という実情を見ますと、思い切って師団普通科連隊の1200名定員を抜本的に見直して、即応機動連隊定員850名というものに段階的に切り替えていってはどうか、と考えます。即応機動連隊の本部管理中隊に3個普通科中隊と機動戦闘車隊に火力支援中隊、この編成はアメリカのストライカー諸兵科連合大隊のようで非常に考えられているもの。

 即応機動連隊を念頭に戦車部隊を組み込み装甲機動連隊というものを編成できないか、機動戦闘車隊の編成を戦車20両からなる戦車隊とすればよい、普通科主体の軽量版即応機動連隊として遠征機動連隊を編成できないか、普通科中隊は高機動車主体で機動戦闘車隊に代えてMPMSの対舟艇対戦車隊を置けばよい、これでかなりコンパクト化できましょう。
■チャレンジャー2vsアルマータ
 イギリスは日本と違い戦車国産基盤が既に無くチャレンジャー戦車の維持部品さえもスウェーデンで生産しており、結果として近代化改修はままなりません。ただ日本は見ておく必要がある。

 イギリスチャレンジャー2戦車はロシアアルマータT-14戦車に対抗出来ない、イギリス議会国防部会において問題となっているようです。これは7月に議会において、チャレンジャー戦車の近代化改修や装甲車両の近代化計画の遅れなどが指摘され、特にチャレンジャー2は主砲更新計画が停滞しているとともに車体部分基本設計は1960年代のチーフテン戦車です。

 チャレンジャー戦車は120mmライフル砲の砲弾が製造終了となって久しく、弾薬製造技術が失われている為にドイツ製120mm戦車砲への換装が計画され宙に浮いたままでこのままでは主砲弾薬が枯渇します、そして汎用装甲車であるFV-430などは足回りの改良や増加装甲が追加されていますが製造は1960年代、自走砲のAS-90もそろそろ砲身が寿命です。

 ロシアのアルマータT-14戦車は全く新しい戦車であり、イギリスはロシアと関係が悪化する前の時点では最早ロシアの脅威はないとして戦車全廃さえ検討していた為に影響は甚大で、また2000年代にアフガニスタン治安作戦において大量軽装甲車を取得する事に多額の国防費を消費してしまい、AJAX装甲偵察車等を例外として装備更新が全く進んでいません。
■ラインメタル130mm砲
 105mm戦車砲が120mm戦車砲時代に切り替わってから間もなく40年ですが、いよいよ世代交代を迎えるのでしょうか。

 ドイツラインメタル社は7月31日、同社が開発を進める130mm戦車砲の試験映像を公開した。現在、世界各国の主力戦車は120mm戦車砲を基本としているが装甲防御力の進化により120mm口径での貫通撃破が難しくなりつつある。ラインメタル社の130mm戦車砲は自動装填装置を備えており試験映像にはその装填機構の一部も併せて公開されている。

 130mm戦車砲は我が国でも防衛装備庁が試験を行い10式戦車への換装も見込んでいるとの事、またフランスやロシアでは更に強力な140mm戦車砲の開発も進み、次世代には120mm戦車砲は世代交代する可能性もある。しかし同時に戦車をこれ以上巨大化させる事は機動力に限界を招く為、併せて120mm戦車砲用新型戦車砲弾の開発も各国が進めている。

 ロシアはソ連時代にT-72戦車へ125mm戦車砲を搭載しており、これを機に1980年代、欧州やアメリカも135mm砲による対抗を模索したが実現していない、また125mm戦車砲弾と同程度乃至それ以上の威力を有する120mm戦車砲弾も開発されている、1960年代にはアメリカが152mm砲を備えた戦車を開発したがミサイル発射用であり普及していない。
■Land-400/Phase3計画
 オーストラリア陸軍は規模を維持しつつ大胆な装甲化計画を推進中です。89式装甲戦闘車の配備が空振りに終わった日本としては羨ましい。

 レッドバックvsリンクス。オーストラリア陸軍の次期装甲戦闘車選定は最終段階となったようで、これまでに強豪のスウェーデン製CV-90や最新鋭のイギリス採用AJAXなどは落選、韓国製レッドバック装甲戦闘車とドイツ製リンクス装甲戦闘車が一騎打ちとなり、ここで決定された側が採用される。過去豪州は韓国製K9自走榴弾砲を選外としたが今回は。

 Land-400/Phase3計画。これはオーストラリア陸軍の第二次世界大戦後最大の陸軍近代化計画で装軌式装甲戦闘車と派生型等400両を導入するもの。オーストラリア陸軍の編成は兵力3万2000名と2個師団が基幹とする。レッドバックはハンファディフェンス社製の重量42t、輸出が実現すれば1994年にマレーシアへKIFV装甲車輸出以来の装甲車輸出だ。

 リンクスKF41装甲戦闘車はラインメタル製で冷戦時代に大量生産されたマルダー装甲戦闘車の車体設計を流用し車体を大幅に防御力強化し、30mm機関砲を搭載したもの。オーストラリア軍はASLAV軽装甲車の後継としてドイツ製ボクサー重装輪装甲車の30mm機関砲搭載型を採用しており、兵站補給や整備教育の面でのある程度の互換性は期待できる。
■ブラッドレーハイブリット化
 日本では89式装甲戦闘車の車体部を換装する評価試験が進んでいますがアメリカでもパワーパック交換計画があるもよう。

 ブラッドレー装甲戦闘車のハイブリッド動力システム化改修をBAEが着手したとのこと。これはアメリカ陸軍が主力装甲戦闘車として運用するブラッドレーの延命計画としてすすめているパワーパック交換事業の一環でイギリスBAE社は試作車両のパワーパック交換を3200万ドルで受注しました。ハイブリッド動力システム研究は2010年から継続中です。

 パラディン自走榴弾砲など、アメリカ陸軍では旧式化しつつも近代化改修により当面運用を継続する装備は多く、ブラッドレー装甲戦闘車のハイブリッド動力システム化改修はパラディンなどにも応用されるとのこと。しかし老朽化も現実であり2021年までに画期的なOMFV将来無人装甲戦闘車を開発する企業を求めるRFP技術提案書も発表しています。
■パトリアAMV無線操縦実験
 自家用車の自動運転は中々実用化しませんが軍用車の世界では交通事故よりも人員防護が優先され意外と進んでいます。

 パトリアAMV,自衛隊も検討しているフィンランド製装甲車だ。その昔東宝映画の“世界大戦争”において近未来朝鮮半島有事に無人ミサイル戦車部隊、CH-46ヘリコプターから遠隔操作されるミサイル戦車部隊が登場しました、目立つ位置を飛行していたCH-46が真っ先に破壊されていましたが。さて、現代ではもう少し上手くやるという、4Gや5Gでね。

 パトリアAMVを4G/5G回線で遠隔操作実験に成功。これは30mm機関砲を搭載したAMVにて実施したもので、もともとAMVに搭載されている30mm機関砲は無人砲塔を車内から管制している為、これを車内から実施するか後方から実施するかで砲塔については遠隔操作の余地があるものでした、ここに自動運転技術を応用し遠隔操作運転を実施したもの。

 将来の無人戦車に期待を繋ぐと共に、実はこの技術で戦車と遭遇した際に乗員が下車退避しつつ機関砲による戦闘と下車歩兵の対戦車火器との協同という選択肢や、自衛隊の場合は現状全員が下車し無人となる軽装甲機動車の運用に、遠隔操作銃搭とともに無人のまま下車普通科隊員を火力支援するというような、新しい光明をさす事となるやもしれません。
■フランスVBMR装甲車
 フランス陸軍は野戦用のVAB軽装甲車を耐爆装甲車により置き換える構想です。VABは1975年から大量配備され日本の82式指揮通信車に似ています。

 フランス陸軍は海兵連隊へ最新鋭のVBMR装甲車の受領を開始した。VBMR装甲車は耐爆装甲車型車体で旧式化したVAB軽装甲車後継として開発されていた。配備を受けたのはヴァール県フレジャス兵営の第3機甲師団第6軽機甲旅団第21海兵歩兵連隊で9月までに14両を導入し、年内に更に14両を取得、2個中隊を充足させる。実戦部隊として四番目だ。

 VBMRグリフィン多目的装甲車は六輪式装輪装甲車で戦闘重量25t、400hpのエンジンを搭載し12.7mm遠隔操作銃搭RWSを備える、定員は乗員2名と兵員8名で車幅は2.5mと小型である。取得費用は一両当たり100万ユーロ、フランス陸軍は319両を発注しており将来的に1872両まで取得を計画している。またベルギー陸軍も417両の導入計画がある。
■ドイツ軍トラック4000両
 自衛隊では毎年徐々にトラックを置き換えてゆきますが一挙に多額の予算を投じる方法もあるのですね。

 ドイツ連邦軍は旧式化した連邦陸軍トラック刷新へ4000両を20億ユーロでラインメタル社と契約した。製造はラインメタルグループのMAN社がドイツ製部品をオーストリア工場にて最終組立する、MAN社製トラックは陸上自衛隊19式装輪自走榴弾砲の車体部を生産している事でも知られる。4000両の新型トラックは2027年までに納入されるとのこと。

 MANトラックはまず、第一次契約として540両を3億4800万ユーロで導入し、内230両はアフガニスタン派遣などでの戦訓から装甲トラック型とされる。導入は2021年から。連邦軍にはMAN社製やダイムラープフ社製にFAUN社製等といった数種類のトラックが混在し運用されているが、今回のMAN社製トラック導入により装備補給体系の一本化を図る。
■ロシア軍の新師団電子戦
 ロシア軍はソ連時代から伝統的に電子戦を重視しています。そしてこのほど新型の師団電子戦システムが完成し実戦配備されたという話題です。

 ロシア陸軍は最新鋭野外電子戦システム初の大規模演習を2020年7月に実施したと発表。実施部隊は第 4 親衛戦車師団で、主として無人攻撃機による攪乱攻撃からの広域防護を想定し、無人攻撃機からの電波を受信しその位置と攻撃目標を解析するとともに妨害し破壊するまでの一連の行動を演練したとのこと。近年、小型無人機は新しい脅威となっている。

 野外電子戦システムはR-330ZH方位探知装置と R-330M1P-Diabazol電子妨害装置より構成され、大型トラックに複合アンテナマストを設置、師団隷下部隊として迅速に機動可能という。ロシア軍は電子戦を重視しており、最も強力なものでは艦隊データリンクを標的とし数千キロ先のデータリンクを破壊するムルマンスクBNなどの装備を保有しています。
■韓国初の戦車用エンジン
 30年前に90式戦車のエンジンを開発した三菱重工は凄かったのですね。

 韓国K-2戦車用国産1500馬力エンジンが遂に完成した、韓国国防省は戦車用1500馬力エンジンを国産出来たのはアメリカとドイツだけで世界第三の開発と誇示している。なお三菱重工も30年前に90式戦車用の1500馬力エンジンを、フランスのルクレルクもSACM社製1500馬力を、中国の99式A型戦車用エンジンも開発している為に、珍しくはない。

 K-2戦車は2009年にエンジン以外完成しているが、前型のK-1戦車が設計と主要部品生産をアメリカに依存しており、どうしても輸出用に純国産の戦車を必要としていた。2009年のK-2戦車はドイツMTU社製エンジンを搭載していた。韓国はトルコのアルタイ戦車、そしてポーランドにK-2戦車派生型の輸出を希望しており、今回ここに目処が就いた訳だ。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】第33普通科連隊-久居駐屯地創設61周年祭(5)模擬戦状況展開(2013-04-21)

2020-08-30 20:06:51 | 陸上自衛隊 駐屯地祭
■自衛隊装甲部隊の展開
 第33普通科連隊の訓練展示は機械化部隊の展開へと状況が進んでゆきます。

 96式装輪装甲車を先頭に二両の高機動車が。高機動車には装甲型も海外派遣用に開発されていますがこちらは普通型、ちなみに曳火射撃を受けた場合、96式装輪装甲車ならば人員乗員は無傷ですが高機動車では大変なことになる。遮蔽物への待避も間に合いません。

 装輪装甲車は不整地に強い、泥飛沫とともに進む。高機動車は1200万円、96式装輪装甲車は9600万円、ちなみにアメリカのストライカー装甲車は140万ドルだ。96式装輪装甲車は決して高級な装備や費用ではなく、毎年200両300両配備されても良いとおもった。

 迫撃砲の放列を背景に装甲車は重機関銃の空包射撃を行う、車内からも操作できる。96式装輪装甲車は重機関銃か擲弾銃を搭載する、従って敵の装甲戦闘車と遭遇した際には一方的に駆逐されてしまう。故に戦車や機動戦闘車と連携して、機械化部隊へ対抗している。

 96式装輪装甲車とともによく見れば87式対戦車誘導弾が展開している。87式中MATはレーザー誘導方式、レーザーを敵に照射し発射すると反射光に向けて秒速400mで目標へ命中、2kmであれば5秒で命中し、相手が発煙煙を素早く展開せねば、一発で撃破という。

 下車戦闘へ向けハッチが展開した。89式装甲戦闘車のような大火力と防御力を備えた車両ならば機関砲で相手の反撃を封じ敵陣目の前で最後に下車するのだけれど、軽装甲の装甲車なのだから敵の対戦車ミサイルから遮蔽された遠い場所で下車展開しなければならない。

 高機動車からも下車戦闘へ、高機動車の車上からはMINIMIが映える。ベルギーで設計され豊和工業でライセンス生産されるMINIMIは小銃の5.56mm弾を用いる軽機関銃で、7.62mmの軽機関銃が1800m程度の面制圧が可能だが、こちらは精々650mが射程という。

 普通科隊員が手信号で戦車と協同する、手信号、ハンドサイン、一見古風には見えますが意志が明確に伝わる。なにしろ戦車とともに前進しているのだから早く伏せなければなりませんが、早すぎると敵陣地まで時間が掛かり、相手に防御再構築の時間を与えてしまう。

 高機動車の手前で機銃組が伏せている。FN/MAG機銃やM-240機銃にM-60機銃、世界には7.62mm機銃と5.56mm小銃や分隊機銃を併用する陸軍も多いのですが、自衛隊に続いドイツ連邦軍も7.62mmのMG-3機銃を廃止し5.56mmのMG-5機銃に統合しています。

 装甲車とMINIMIと、そしてM-1破壊筒が見えた。M-1破壊筒、そう、今回の訓練展示では仮設敵が陣地構築を行い、鉄条網など障害構築を行っています、これを破壊するには爆薬詰めたM-1破壊筒で爆破処理しなければなりません、地雷原に人員用通路を啓開できる。

 戦車の手前で小銃班が伏撃ちの姿勢で構えて待つ、鉄条網など障害構築は基本的に地雷原などに防御されるとともに障害に凝集した人員などを掃討できるよう側防火器が設置されていますので、安易に突破しようとしますと甚大な被害が生じ、施設作業小隊が頼り。

 地雷原発見らしい、M-1破壊筒装備の施設作業小隊が装甲車の援護下で前進を開始した、結局、障害処理に破壊筒という手法は、米軍でもストライカー旅団が日米合同演習にて実施していまして、いろいろ新軍事技術があってもほかに手段というものはないのですね。

 早掛けにて小銃小隊も交互に躍進してゆく、装甲戦闘車があれば敵前100mくらいまで機関砲で制圧しつつ一挙に肉薄してしまい、そのまま最後の瞬間だけを下車戦闘、という選択肢もあるのですが、装甲戦闘車がないのだから仕方有りません。しかし、必要だと思う。

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令和二年度八月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2020.08.29-08.30)

2020-08-29 20:01:34 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 富士総合火力演習で例年ならば盛上る季節、自衛隊行事はありませんので富士総合火力演習の想い出話でも並べてみましょう。

 今週末の自衛隊関連行事はありません。しかし防衛予算概算要求の発表時期であると共に例年であれば富士総合火力演習に賑わった季節です。本来ならば今年は東京五輪2020として世界へ五輪が執り行われ、この関係で本年は五輪季節を避ける意味から五月に富士総合火力演習が行われていましたが、今年はCOVID-19により非公開演習となりましたね。

 富士総合火力演習。今年の熱波が凄いといいますか、夏の猛暑は年々すごく、実は今年は梅雨が長かっただけに冷夏になって冷房の使用頻度も少なくできるのではないかな、と淡い期待を抱いていましたが、なんとNHKまでも夜に冷房を止めないで、と。考えてみると昨年の夏は暑かったと共猛暑の期間が長く、あんな暑い盛りに良く見学できたなあ、と。

 東富士演習場、富士の裾野というよりは標高が1000m近い事もありまして富士山の中腹という立地にあります。この為に夏の猛暑は夜にはかなり余裕があるといいますか気温が下がりまして、朝方には気持ちの良い、朝霧のなかの富士山を望めるのですね。富士総合火力演習は点検射の一閃と衝撃波と共に始まります、慣れてくるとこの夜明けはは心地よい。

 戦車射撃は音が凄い、と表現される方が居ますが、実のところ半分しか合っていません、戦車射撃は空気の振動が叩きつける、音よりも衝撃波の方が凄いものでして、小さな耳栓やイヤホンを装着するだけで耐えられないものではありません、が、畑岡地区の見学席、位置によっては耳を塞がないとびりびり振動が続き脳を揺さぶられているような状況に。

 ちゃい。こんなメールが送られてきましたので朝から砂糖たっぷりのインドの紅茶かな、と思っていたら着弾見えた、と友人が現場からメールを送ろうとした瞬間に小隊射撃が執り行われ驚いて指が弾みそのままメールを送信してしまったため、という。耳を塞いでいればよいのですが。ここで大事なお話です、カメラを構えていると、耳を塞げないのです。

 10式戦車に90式戦車、注意していないとうっかり耳栓を忘れる、ということが二十年近く富士総合火力演習を撮影していますと数回はあるものでして、特に見学席が戦車射撃を真横から、見学席は逆扇形故に有り得る、真横から撮影する事となりますと衝撃波がまともに来まして、特に点検射時間帯は観客も少なく衝撃波がそのまま地を這ってくる故に凄い。

 迫力も凄いのですが前段演習が始まるのは1030時から、点検射は0630時頃ですので、朝の気持ちの良い涼しい時間帯も1030時になりますと徐々に気温が上昇してゆきまして、これは危ないかな、という気温に。東富士演習場は市街戦、もとい紫外線が強いのです、標高が高い故にね。気温も凄い事となるのですが、紫外線に焼かれるような苦しみが加わる。

 水分と塩分を充分に摂取し、とは常套句ですが富士総合火力演習はなにしろ三万もの見学者が集う公開展示訓練、そして手洗いは数十か所あるのですが、常に凄い行列となり、いうなれば手洗いの回数は出来るだけ最小限としたい、そういう方も多く、稀に救急車のサイレンが。そう、熱中症搬送される人も出てくるのですね。水の呑み方が重要になります。

 イスラエル軍や南アフリカ軍は一時間に数回に分け確実に水を飲む時間を設定する、軍用腕時計がアラームを標準装備しているのはこの為ともいうのですが、陣地で動かない状況でも毎時00分と30分に水筒キャップ一杯分の水を準備し、口に含むとそのまま呑みこまず転がすように少しづつ喉に送り少ない量で満足感を得る様に確実に水分を補給するとも。

 富士総合火力演習ではそこまで極限状態ではありませんので、1000mlミネラルウォーターを2本と500ml清涼飲料水を1本用意し、10分置きに一口づつ水分を摂取し、適宜塩分や電解質をタブレット等で摂取していました。戦車射撃、こうして待機と撮影を行いますと、いやはや猛暑もなかなか快適に思えてくるのですね。ただし雨が降っていない場合に限る。

 山の天候は急変する、これは富士山も例外ではありません、なにしろ東富士演習場は富士の裾野ではなく中腹といえる標高なのですから、すると干天の慈雨と甘い事を言っている状況ではなく、雨雲の接近と共に撮影を継続しつつ雨具を装着しなければなりません、カメラを防護し靴もレインカバーで覆いカメラバックも防滴対策をしなければなりません。

 万全の準備と共に富士総合火力演習を愉しむ、そしてそれなりの撮影成果を叩き出す。これが醍醐味というところでした。来年は富士総合火力演習はどうなるのか、東京五輪が一年延期となり、来年は秋に中央観閲式がありますので恐らく五月前倒し実施となるでしょうが、それまでにCOVID-19のワクチン接種による集団免疫獲得となるか、関心事です。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭

・今週末の行事なし

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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安倍総理大臣辞意表明,八年間に及ぶ日本国家憲政史上最長の安定政権に健康不安と突然の終幕

2020-08-28 20:01:57 | 国際・政治
■安全保障面での功績に注目
 安倍ショックというべき衝撃が世界を巡っています、トランプ政権と世界の指導者を仲介しTPP枠組を主導し中国やロシアと自由主義圏の橋渡し的存在が突然の辞意です。

 安倍総理大臣が辞意を表明しました。六月の健康診断により持病である潰瘍性大腸炎再発の兆候が見られるとし、投薬治療を続けてきましたが、先月中ごろから体力が続かなくなり体調に異常を感じた状況となり、潰瘍性大腸炎再発が20日頃に確認され、投薬治療を更に強化する必要があるとし、体力がまだ残っている24日ごろに辞任を決意したという。

 政治においては結果が求められ病気と治療を抱える中で政治判断を誤る事を回避するべく、結果を出せない事の無いよう、総理大臣の地位を降りる決断をしたとの事です。辞任はCOVID-19感染対策もあり、悩みつつ感染傾向が減少し、冬への対策の目処が就いた事から今が辞職の時機である、本日夕方の首相会見において述べられました。総理、辞職です。

 連続在職2799日と歴代最長の佐藤栄作政権の2798日を超えたのは8月24日、歴代在任日数最長は2019年11月20日に2887日となり、日露戦争時代の桂太郎総理大臣の任期を超えることとなりました。日本の総理大臣は一年程度で変る為に誰が日本の指導者であるのかが分り難い、長く揶揄された問題を小泉内閣と安倍内閣が転換したといえましょう。

 八年に及ぶ長期政権。この長期政権を支えたのは無い悪総理大臣であるとともに自民党総裁として見せつけた選挙への強さ、でしょうか、衆議院参議院ともに6回の国政選挙において勝利を収めており、議院内閣制は衆議院から首相が任命されるため、選挙に勝ち続けるという事は何よりも重要です。これをうけ自民党総裁選でも3回選ばれ続けています。

 憲法。実のところ安倍政権が長期政権として成し遂げた点は、歴代内閣が実現出来無かった憲法、特に憲法9条に踏み込んでの憲法の範囲内の限界を明確とした上で防衛政策を大きく変容させた点でしょうか。実のところ1955年の自民党結党以来、自民党が下野したのは安倍政権前の民主党連立政権と、その前の社会党連立政権があり、問題を露呈しました。

 日本の安全保障政策は法的というよりも属人的努力により曖昧な法整備下の欠缺を補い機能している点があり、これは憲法上の制約を敢えて問題視させ政争化を避けた背景があります、これは政治と官僚機構が調和する限り機能しますが必要な機構や会議枠組、調整機能などを対応出来なければ、危機管理が滞ります、阪神大震災、東日本大震災のように。

 内閣危機管理監制度が設置されたのは橋本内閣時代ですが、これは前の村山内閣時代に首相官邸において危機管理に即応する枠組みが無く、1995年の阪神大震災、地下鉄サリン事件に際し関係当局から首相官邸に上奏される情報を包括管理する事が出来なかった反省に基づくものです。1990年湾岸戦争に際し指摘された問題を常設制度化したともいわれます。

 2011年東日本大震災では、菅内閣で安全保障会議が開かれる事が無く首相官邸危機管理センターの延長により対応しています。元々安全保障会議設置法が議論された1986年に、関東大震災規模の災害は発生した場合には災害応急対応の限界を超える場合、国家の基本方針を明確に示すために招集される、と議事されていますが、開かれるに至っていません。

 安全保障会議設置法の改正による国家安全保障会議制度の創設、2013年12月の法改正により首相官邸の従来の曖昧な防衛のみに機能するとされた安全保障会議に留まらない危機管理枠組が構築され、またこの枠組みを機能させる為に2014年1月に国家安全保障局が常設機構へ設置、危機管理に際しては首相官邸による政府機能主導権が明確に示されました。

 国家安全保障会議と事務局としての国家安全保障局設置は、第一次安倍政権においても検討されていましたが時期尚早との見方から実現せず、属人的名人芸が次の民主党政権、鳩山内閣と菅内閣に継承されなかった事が東日本大震災の特に原発危機に際し、政府の対応、特に同盟国アメリカとホワイトハウスに対する受け皿となる機能不在が、問題化しました。

 国家安全保障会議が日米ではホワイトハウスの国家安全保障会議と結び、常設の事務局が緊急事態に際し、首相と大臣の出席を以て即座に機能する枠組みが構築されたことで、2013年に入り属人的な名人芸といえる安全保障機能から常設機構が創設された点は歴史的といえましょう。機構が置かれれば、どの政権でも危機管理が即時行えるようになるのですね。

 防衛省自衛隊統合幕僚監部への運用一本化。防衛に関しては小泉政権時代の最終段階である2006年3月に統合幕僚会議を発展的に改編し統合幕僚監部へ強化しましたが、防衛省の運用は内部部局運用企画局と統合幕僚監部の二頭体制となっており、意思決定に時間を要している状況がありました、特に部隊運用にも内局の運用企画局が関与できる体制でした。

 統合幕僚監部への運用一本化は2015年10月に実現され、防衛省のトップを統合幕僚長としつつ、内部部局に新たに防衛省統括官制度を設置し統幕副長級文官ポストを設置した事で防衛政策の部隊運用への反映を迅速化する事となりました。これは意思決定に速度を要する統合運用というものに陸海空自衛隊の運用を内局と個々に調整する状況を一新します。

 平和安全法制施行。2016年3月に所謂有事法制を再編強化した法制度を実現しました。これも安倍総理肝煎りであり政権発足から二か月後の2013年2月に、分館で外交官である国際海洋法裁判所所長を座長とする安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会を首相決裁で設置し、それまでの安全保障関連法制では欠缺といえる状況に法治主義を持込みました。

 武力攻撃に至らない武力行使の段階での防衛措置としてグレーゾーン事態対処を明確化とする。国際社会平和安定に寄与する為の貢献策として集団安全保障機構である国連の一員として集団的自衛権行使に関する明確な法的位置づけの明示を行う。現行憲法下での許容される自衛権の措置への明確化。平和安全保障法制は此処に踏み込んだ歴史的転換点です。

 いずも、かが、F-35B搭載、F-35戦闘機大量配備、即応機動連隊や16式機動戦闘車、というようないわばハードウェアでの防衛政策が大きく取り上げられるところではありますが、危機管理の枠組が憲法問題に触れる事での政争化を懸念しての回避、危機に泥縄的な名人芸に依存する枠組みから明確な法制度、というもので残した点は大きな成果でした。

 安全保障会議設置法の改正による国家安全保障局常設化、これにより危機管理の受け皿が明確化されました。防衛省自衛隊統合幕僚監部への運用一本化、これで文民統制を内局が指揮するという誤解から政治による文民統制が明確化された。安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会からの平和安全法制施行、曖昧な自衛権の概念が明確線引きされました。

 現行憲法下法整備の限界点をこう、明確化したのは功績といえるでしょう。しかし、安倍総理自身は憲法改正により、自衛権と平和主義の両立、憲法が手段としての平和主義を明示しており、目的としての平和主義への転換を成し遂げる事を強く望んでいましたが、政治のレジェンドとしての憲法改正までは、至らなかった事は心残りの最たるものでしょう。次の総裁選出まで安倍総理は職責を全うするとのことです。

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南シナ海へ中国中距離弾道弾四発発射-アメリカ軍発表,空母キラー&グアムキラーの可能性

2020-08-27 20:03:53 | 防衛・安全保障
■緊張激化の南シナ海情勢
 中国軍が南シナ海へ中距離弾道弾4発を発射した、アメリカ軍当局者が発表した内容としましてNHK等で報じられています。日本のミサイル防衛にも無関係ではありません。

 中国軍の弾道ミサイル発射、これは26日に香港英字新聞が第一報を報道しており、26日朝に弾道ミサイル2発を発射しており、このミサイルは東風21D型と東風26型と報道されていました。この点についてアメリカ軍は発射されたミサイルは2発ではなく4発であり、報道されているミサイルの型式などについては現在検証を進めている段階とのことです。

 嘉手納基地において中国弾道ミサイル発射の前後にアメリカ空軍のRC-135偵察機の発着が目撃されており、RC-135は通称コブラボール、弾道ミサイル実験の監視能力を有している事から今回もミサイル発射の兆候を事前察知し偵察飛行を行った可能性があります。香港報道では、ミサイルは中国東部浙江省と中国内陸部の青海省から発射されたとのこと。

 南沙諸島と西沙諸島。南シナ海では中国軍による人工島造成と軍事要塞化が進められており、これら人工島はフィリピンやヴェトナム領の小島や環礁を不法占拠、一部には駐留守備隊を襲撃殺害し占拠する極めて悪質な行動により自国領化した上で平和目的観測施設建設を宣言、この施設に地対空ミサイルや地対艦ミサイル関連施設、飛行場を建設しました。

 この海域では中国軍による大規模な演習が予告されており、演習海域に指定された海域はヴェトナムの排他的経済水域が一部含まれる事からヴェトナム政府が中国政府へ演習の中止を要求していますが実現していません。ミサイルは正にこの緊張の海域へ発射されたわけです。また中国海軍は9月下旬にここ20年間で最大規模の演習を九州沖で行う予定です。

 中国はアメリカがオバマ政権時代にはヴェトナムやフィリピンとの間で二国間問題である点を強調し、一方で周辺各国と激しく対立しています。しかしトランプ政権時代となり、アメリカは二国間問題ではなく海洋安全保障秩序への重大な脅威であるとして関与を強化、この為に摩擦が激化し、今回のミサイル発射は周辺国とアメリカへの牽制と考えられる。

 大規模な軍事演習を中国はこの海域において宣言しており、南シナ海の不法占拠環礁海域を自国領と宣言している為に南シナ海のほぼ全域に中国の排他的経済水域が設定されるとの主張、ここに基づき中国の海域での演習を宣言しています。しかし国連海洋法条約や大陸棚条約等の国際法ではこの主張が認められず、アメリカは24日に偵察機を派遣しました。

 U-2偵察機による偵察飛行、中国国防相は25日に報道官談話を発表しアメリカのU-2偵察機が繰り返し中国海域に侵入し演習を妨害した、と非難しました。この直後に弾道ミサイル発射が行われている為、中国国防相は現時点で弾道ミサイル発射を公表してはいませんが、今回のミサイル発射はアメリカの海域問題関与への牽制といえるのかもしれません。

 空母キラー、東風21D型は射程2150kmの准中距離弾道弾とされており移動式発射装置より発射、中国沿岸部に展開した場合は小笠原諸島南部を除き日本全土が射程に収まるものです。注目する点は元々は対地攻撃型となっていますがD型は射程を1500km程度に抑えつつ弾頭を単弾頭から改め5個前後のクラスター弾頭を採用し、水上目標を照準可能です。

 東風21D型は空母キラーと呼ばれ、ミサイルそのものの半数命中界は300mから400m程度とされていますが、クラスター弾頭によりこの範囲内に水上戦闘艦の薄い上部構造物を破壊可能な子弾を散布可能であるとしています。また移動発射装置から発射が基本となっていますが、改良型はH-6ミサイル爆撃機に搭載、射程を延伸できる可能性があるという。

 グアムキラー。東風26型は2016年に開発された中国人民解放軍の中でも新型ミサイルに区分され、射程は4000kmとアメリカ軍の一大策源地である在日米軍基地全ては勿論、グアム島米軍施設を射程としているものです。そして東風26型について懸念するのは中国は東風26型の弾頭について公表しておらず核弾頭を搭載する可能性が高いと考えられている。

 中距離弾道弾はアメリカやロシアが保有していない装備体系です、これは1987年に米ソ間で締結された中距離核戦力全廃条約により射程550kmから4500kmまでの射程のミサイル保有を全面禁止し、また1987年までに装備されていたアメリカのパーシングⅡやソ連のSS-21等のミサイルも相互に製造番号を確認し模造品が無い事を確認し解体しています。

 しかし、トランプ政権に入りアメリカは、中距離弾道弾というアメリカとロシアだけが装備開発出来ない兵器体系において中国が漁夫の利を得ているとし、またシリア内戦へのロシア軍巡航ミサイル攻撃等の実例からロシアが条約枠外の中距離核戦力を開発していると非難し、INF全廃条約から脱退を発表、結果条約枠組は終了する事となってゆきました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ロシア製神経剤ノビチョク使用か?ロシア野党指導者旅客機襲撃事件で治療のドイツ国内報道

2020-08-26 20:09:39 | 防衛・安全保障
■旅客機内で神経剤中毒症状
 ロシア野党指導者襲撃事件は、検証の結果、旅客機内で神経剤ノビチョクによる昏倒という前代未聞の事態へ発展しました。ノビチョク、新参者という意味です。

 旅客機に神経ガスを持ち込み使用する。カート-ラッセルとスティーヴン-セガール主演で1996年公開の映画エグゼクティブ-デシジョンにおいて描かれた内容でした。映画ではアテネ発ワシントンDC行のジャンボ旅客機が化学兵器を抱えたテロリストにハイジャックされ、アメリカ上空で散布しようとする。これをNBC専門家と特殊部隊が阻止する内容です。

 神経剤ノビチョクが旅客機内で政治家暗殺に使用された。こちらは映画の話ではありません、先週8月20日、ロシアの野党指導者で弁護士のアレクセイ-ナワリヌイ氏が西シベリアからモスクワへ向かう旅客機の機内で突然苦しみを訴え、オムスク空港に緊急着陸しました。毒物の投与が疑われ、ロシア国内では治療不可能である事から外国へ支援を求めた。

 ドイツ政府がこの求めに応じ、オムスク医療当局は毒物投与の疑いはないとして当初外国移送に難色を示していましたが、21日に一変して容体が安定したとしてドイツ政府が派遣した医療用特別機の医療団へナワリヌイ氏を引渡し改めて精密検査を行いました。そして25日、ドイツ公共放送ZDFは、今回、ノビチョクが使用された可能性を報道したのです。

 ノビチョクが使われたのか。驚きました、が、ナワリヌイ氏が旅客機内で毒物により倒れたという20日の第一報は、ロシアに常識は通じない、と嘆息する一方、青酸や砒素毒等を想像していたのですが、体内から毒物は検出されなかった、という続報を聞きまして、そういえば2018年にイギリスでも正体不明の毒物が暗殺未遂に用いられた事を思い出します。

 日本では1995年3月20日にオウム真理教地下鉄サリン事件が発生し、カルト教団のテロリストにより神経ガスが朝の東京、その地下鉄網で散布され大量の死傷者が出ています。警察捜査の結果、サリンは軍用とは精製度合いが非常に低い粗悪なものであったもののそれでも死者14名負傷者6300名という被害でした、ノビチョクはサリンと同じ神経剤だ。

 ノビチョク、当方はノビチョックと発音しているのですが、ロシア製の新型神経剤です、神経ガスと表現しないのはガスではなく粒状かエアゾル物質であると考えられているもので、無害な二種類程度の物質を混合して精製するバイナリー剤であるとされ、情報は少ないのですが化学兵器禁止条約に抵触しない物質を用い、また威力はきわめて強力という。

 ノビチョクはロシアがソ連時代末期に、NATOの一般的化学防護装備を透過する破壊力を持ち、各国が1980年代までに開発した化学剤検知装置では検知不可能であり、バイナリー剤の触媒は化学兵器禁止条約の枠外の物質、そして混合前の触媒は高い安全性を持つ事、という要件で開発された化学剤です。2018年までは実在を疑問視する声もありました、が。

 イギリスイングランドのソールズベリー、ショッピングセンター前にて2018年3月4日、ズイズイ酒場を出て買い物に向かう途中の二人の男女が昏倒し白目で泡を吹いており病院に搬送される事件がありました。そのうち一人はセルゲイ-スクリパリ氏、実業家ですがロシア連邦軍参謀本部情報総局大佐を務めた人物で2010年にイギリスへ亡命していました。

 ソールズベリーNHS医療当局はその日の内に二人の容体が尋常ではない毒物によるものとして緊急事態を宣言、保健当局は二人の昏倒現場付近の通行人と救急搬送に従事した救急要員や警察関係者に緊急診断を実施した結果、現場付近で交通整理に当った警察官二人が軽度の中毒症状を訴え、その後一時重篤化しますが幸いにして治療が早く回復できました。

 王立CBRN防衛センターはソールズベリーでの神経剤襲撃事件を受け陸軍第8工兵旅団CBRN防護部隊と共に事件現場付近を徹底捜索し、幾つかの残留物を発見しますが即座にノビチョク使用を結論付けませんでした。こういうのもノビチョクはその存在こそ知られていますが精製と保管はロシアのみで行われており、実戦使用された事は過去ありません。

 イギリス政府が慎重であったのは、使用された神経剤がノビチョクであると公表する事は、ロシアのみが保有する神経剤がイギリス国内に持ち込まれ、そして使用された事に他なりません、事件から8日を経て、イギリスのテリーザ-メイ首相が記者会見において、使用されたのはノビチョクであり、何らかの手段によりロシアから持ち込まれたと発表しました。

 イギリス政府はロシア政府へ釈明を求めました、ノビチョクはロシアのみが保有しておりロシア政府が関与しているかロシア政府が管理出来ずテロリストに横流しさせた以外、ノビチョクは入手できない為なのですが、ロシア政府からは確たる回答は無く、イギリス政府は報復としてロシア外交官大量国外追放を実施し、各国にも協調を呼びかけたのです。なお、これを契機にノビチョクは現在、化学兵器禁止条約の禁止対象に加えられました。

 ペルソナノングラータ、好ましからざる人物として追放されたロシア外交官はイギリスから3月14日の23名を皮切りに世界で150名の外交官が追放され、これは平時における外交官追放としては異例の規模となっています。この頃から日本へもロシア艦の親善訪問がなくなり始め、NATOはクリミア危機以来硬化させていた態度を一層硬化させています。

 ロシア国内の旅客機で発生した-ナワリヌイ氏襲撃事件。-ナワリヌイ氏に同行する側近によれば、-ナワリヌイ氏は症状を訴えるまでの間、空港でお茶を購入して飲用しただけ、という事からノビチョク混入は空港で購入されたお茶に含まれていた、と考えられています。ただ、ソールズベリーでの2018年テロ事件と違い、空港での捜査はロシアの管轄権にある。

 また、旅客機もロシア国内線であり執行管轄権はロシア当局にあり、ノビチョクが何処で混入されたのか、お茶から飲用したのか、粒子状ノビチョクを日用品に付着させ中毒症状を引き起こしたのか、現在のところ確たることは分かっていません。ただ分っているのは事態が発生されたのは旅客機内であり、神経剤は付着するなどして持ち込まれたのです。

 内政干渉すべきではない、ロシア国内線なのだから爆破しようと神経ガスを撒こうと勝手ではないか、中国のような国であればこう反応する事もあるかもしれません、しかし、政治指導者を神経剤で襲撃する事一つとっても異常事態ですし、神経剤が旅客機か、確実に空港に持ち込まれ使用されている、この一点を取っても非常事態と云わざるを得ません。

 勿論、単にノビチョクをロシア当局が管理できていない可能性もありますし、ロシア政府から距離を置く過激分子が軍の一部と結託し化学兵器貯蔵施設を勝手に使用している可能性も否定できません。しかし、空港や旅客機で神経剤使用、一歩間違えば数万の死者が出かねない事案であり、こうした事を行う国が日本の隣国に在る、こう認識すべきでしょう。

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【防衛情報】米トリポリ強襲揚陸艦動向-英26型起工とスペインイージス艦-中韓軽空母計画

2020-08-25 20:13:25 | インポート
■週報:世界の防衛,最新の論点
 今回は海軍艦艇、中でも全通飛行甲板型艦艇と水上戦闘艦に焦点を合わせてみてゆきましょう。まずは海上自衛隊増員の話題から。

 海上自衛隊の定員を2000名増員する、政府はミサイル防衛として導入が中止されたイージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムの代案として海上自衛隊イージス艦増強を進める方針を固め、この方針具現化へイージス艦運用等に必要となる人員を確保するべく海上自衛隊の定員を現在の4万3000名から数年間で4万5000名まで増員するとしています。

 2000名の増員は早ければ2021年度予算に最初の人員増加を盛り込む事とし、イージス艦の乗員確保とともに前防衛大綱から進む潜水艦22隻へ増強に伴う人員不足の解消も見込むという。勿論これだけでは人員不足は変らず、陸上自衛隊との運用統合を前進させ海上自衛隊から陸上自衛隊との相互協力により移管できる任務領域は大胆に実施する事でも補う。

 充足率予算体制の終了、今回の海上自衛隊増員とともに大きな改編が行われます。政府は自衛隊の人員について定員の人件費ではなく充足率を見込み定員以下の予算しか財務当局が認めないという現在の方針を改め、定員通りの人件費を確保する事で防衛計画の大綱に盛り込まれた防衛力整備を着実に行う方針と考えられます。増員は数年間かけ行われます。
■強襲揚陸艦トリポリ就役
 アメリカ級揚陸艦、航空母艦を除けば最大の水上戦闘艦であり世界最大の強襲揚陸艦が増強された話題です。

 強襲揚陸艦トリポリ就役、アメリカ級揚陸艦二番艦でF-35Bなど海兵航空部隊運用に特化した強襲揚陸艦です。強襲揚陸艦ボノムリシャールの火災事故があり、ほぼ全損に近い被害を受けた中でアメリカ級のトリポリ竣工は一つの僥倖といえるでしょう。アメリカ級はワスプ級強襲揚陸艦の拡大改良型ですが、最大の相違はウェルドックの有無というもの。

 アメリカ級強襲揚陸艦は航空機運用を重視し、艦載機燃料区画を充分に確保する観点から揚陸艇等を収容するウェルドックを省いています。こうした設計は初の強襲揚陸艦であるイオージマ級以来ですが、これはエセックス級空母を転用したキアサージ級強襲揚陸艦の代替という強襲揚陸艦草創期故の設計であり、続くタラワ級以来はドックを有しています。

 アメリカ級は揚陸艇の輸送力をドック型輸送揚陸艦等に依存するという前提での設計ですが、第一線で上陸作戦に当る海兵隊としては空中機動力では主力装備である両用強襲車や戦車に重装備等を揚陸できないとして、貴重な強襲揚陸艦を補助空母として取り上げられかねないとの反発もあり、三番艦からはウェルドックを有する後期型に移行する予定です。
■米強襲揚陸艦バターンの改修
 ワスプ級強襲揚陸艦バターンが改修を受けF-35B運用能力を獲得する計画が発表されました、。

 アメリカ海軍は8月、強襲揚陸艦バターンの近代化改修へ1億7700万ドルでジェネラルダイナミクス社と契約したとのこと。1億7700万ドルの契約は造船所での保守整備とともに近代化改修、そして不具合部分の修理などが含まれる。バターンはワスプ級強襲揚陸艦の一隻で全通飛行甲板を有し海兵航空部隊の母艦として機能するとともにドックも有する。

 バターンの改修は2021年12月までを予定しており、この改修によりAV-8B攻撃機に加えF-35B戦闘機の運用能力も付与されるという。ワスプ級強襲揚陸艦は全長257mで満載排水量41000t、最高速力は22ノットで航続距離は18ノットで17600kmに達し、F-35B戦闘機を最大20機、平時にはF-35Bを12機と各種ヘリコプターを最大40機搭載可能だ。

 ワスプ級強襲揚陸艦は、同型艦のボノムリシャールが火災事故により長期修理若しくは除籍の可能性がある、バターンの定期整備は当初予定通りとされるが、艦隊の強襲揚陸艦可動数確保の観点から計画に若干の変更もあるのか。なお、バターンは9.11同時多発テロ直後に竣工、第二次大戦の激戦地であり過酷な歴史を持つフィリピンのバターン半島に因む。
■沿海域戦闘艦セントルイス竣工
 掃海艇と哨戒艦と高速輸送艦を一つにしたというような沿海域戦闘艦がまた一隻増強されました。

 アメリカ海軍は最新の沿海域戦闘艦セントルイスを8月8日に受領しました。セントルイスはフリーダム級の10番艦でLCS-19, 沿海域戦闘艦は奇数番号がフリーダム級、偶数番号が三胴構造のインディペンデンス級です。沿海域戦闘艦は満載排水量3290tの小型ながら11万5000馬力という強力なエンジンを搭載することで45ノットの快足を誇ります。

 インディペンデンス級沿海域戦闘艦は57mm艦砲とSEA-RAM個艦防空ミサイル及び25mm機関砲を搭載し艦内の多目的区画にはストライカー装甲車一個中隊を搭載でき格納庫にはMH-60多用途ヘリコプター2機を搭載可能ですが、固有武装がテロ対策などを意識した為に貧弱過ぎ、近年は重武装の中国艦に対抗するべくミサイルの追加が行われました。
■英26型グラスゴー起工
 写真の23型フリゲイトの後継となります将来フリゲイトの起工という話題です。

 イギリス26型フリゲイト一番艦グラスゴー起工。GCS計画としてイギリス海軍は満載排水量5600tの次世代水上戦闘艦計画を進めていますが、このほど一番艦のブロック建造が開始されたとのこと。最終的に8隻が建造される見込みです。26型GCS計画はイギリス海軍がグローバル運用を念頭に進めたもので、特筆すべきはその多用途性能にあります。

 26型フリゲイトは速力を26ノットと水上戦闘艦としては低く抑えられていますが、艦砲を従来の114mm砲から127mm艦砲とした上でストームシャドウ巡航ミサイル24発を搭載するVLSを採用し、また固有の乗員は118名ですが更に加えて72名の海兵隊員が同乗可能という、パワープロジェクション、所謂戦力投射を相応に重視した設計となっています。
■スペインイージス艦F-110型
 日米に続いて第三のイージス艦運用国であるスペインの将来イージス艦計画に興味深い発表が。

 スペイン海軍の将来イージス艦計画F-110型ミサイルフリゲイトはステルス塔型マストを採用するとのこと。F-110型フリゲイトはスペインの造船名門であるナバンティア社が建造する。アルバロデバサン級イージス艦のF-100型計画に続くもので5隻の量産を計画しています。満載排水量は6600tと現在のアルバロデバサン級よりも若干大型化する見込み。

 F-110型のステルス塔型マストはスペインの防衛産業インドラ社が担当、最新のイージスシステム用SPY-7(V)レーダーを搭載すると共にRigel i110複合電子戦装置とRegulus i110電波標定装置、Prisma 25 X広帯域レーダ装置等を一体化、一体化し塔型マストに搭載する事でアンテナの複雑な形状が及ぼすレーダー反射面積RCSを局限化し、生存性を高める。

 アンテナマストのステルス塔型化による事業規模は1億5000万ユーロに達するとの事で、この費用に電子機器は含まれません。アルバロデバサン級5隻に加えてF-110型フリゲイト5隻を量産する事でスペイン海軍のイージス艦は10隻体制となります、これによりスペイン海軍の水上戦闘艦艇は哨戒艇等小型艦を除きイージス艦で統一される事となります。
■豪アンザック級ソナー更新
 自衛隊観艦式へも参加しました豪州海軍アンザック級、レーダーを更新したばかりですが更なる改良が。

 オーストラリア海軍アンザック級フリゲイト8隻のソナー更新計画が行われるとのこと。SEA-1408として実施されるこの計画はタレスオーストラリア社が実施するもので、現装備のスフェリオンBソナーを元にブロードバンドソナー先進環境解析機能を付与する。これは既存ソナーによる音響情報に新しい解析機能を付与することで探知能力の延伸を期する。

 SEA-1408による近代化改修はソナー情報を戦闘情報処理システム9LVと連接させるものであり、これにより対潜戦闘能力を強化すると共に艦が装備する対魚雷装備の強化も行い、潜水艦攻撃からの生存性向上も目指す。アンザック級フリゲイトはドイツMEKO社製汎用フリゲイトのオーストラリア版、しかし今も対空レーダー更新など改良が続けられている。
■中国075型強襲揚陸艦出航
 中国艦の写真が手元に少ないのですが着実にその規模と能力は拡大しています。

 中国海軍の075型強襲揚陸艦が八月から出動公試を開始した、中国国内のインターネットユーザーが075型強襲揚陸艦が出航する複数の写真を投稿しているもようです。中国ではインターネット検閲が特に政権批判などに対し厳しい一方、最新戦闘機や新型戦車等の国威発揚に資すると判断された情報はインターネット検閲の対象とならない不思議がある。

 075型強襲揚陸艦はアメリカ海軍のワスプ級強襲揚陸艦を意識し全通飛行甲板構造とウェルドックを備えた艦艇で満載排水量は3万5000tを越えるものと目されている。中国では水陸両用戦部隊である海軍歩兵が2010年と比較し三倍に増強されており、東南アジア諸国の離島奪取作戦に資するだろう。なおアメリカの様なSTOVL戦闘機は開発されていない。
■韓国2030年代軽空母建造
 韓国海軍が新たな国防計画を発表しましたが、ここに興味深い軽空母の計画が記されていました。

 韓国海軍は2030年代を目処にF-35B戦闘機を搭載する軽空母の建造を計画している、韓国国防省が発表した2025年までの中期国防計画に盛り込まれました。F-35Bは短距離離着陸と垂直着陸が可能な世界唯一の第五世代戦闘機で、米英などが採用しています。韓国軍は未だF-35Bの導入を発表していませんし、F-35A戦闘機の導入を開始したばかりです。

 軽空母は満載排水量で三万トン程度を想定しているとされ、日本の海上自衛隊が運用するヘリコプター搭載護衛艦いずも型よりも一割程度大きくなる可能性もあります。韓国海軍は過去にも軽空母の導入計画を発表していますが実現していません。なお、新しい国防中期計画にはこの他、大型潜水艦取得が盛り込まれ、原子力潜水艦を希望する声もあります。

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【映画講評】日本沈没2020(2020)【3】世界と日本,戦後二十八年と戦後七十五年の巨大変容

2020-08-24 20:16:16 | 映画
■二〇二〇年代の"日本沈没論"
 日本沈没、この作品が広く受け入れられ幾度も映像化の機会に恵まれるのは膨大な検証を背景とした描写から成る世界観と説得力に在るように思う。

 日本沈没。ある意味で高度経済成長の最中に第二次世界大戦の歴史を省みず延々と拡大してゆく日本、日本経済だけではなく世界におけるポテンシャルという意味での日本、ここへの警鐘というものも含めていたのかもしれません。いそぎすぎるな、ゆっくり、ゆっくり。大阪万博に際して豪州がこう伝えた、と作中で豪州首相が思い浮かべる描写もあった。

 エコノミックアニマル、とも作中で揶揄されている日本、これは日本沈没が災害パニックにとどまらず、一つの文明論として小松左京氏が試みた命題であるのは、災害により日本プレートが日本海溝に沈む、ここが動機付けであって、主題は脱出する、しかし一億一千万の膨大な日本国民を受け入れられる地域が物理的にない、という部分に収斂しています。

 世界へ脱出する日本国民ですが、当時中国は文化大革命からの経済後退から避難先とできず、先ず沿岸部に農民に限定して受け入れる希望、つまり中国政府としては日本からの難民により農業を高度化させたい、という要望を示す一方、当時日本では中国に文化大革命や第二次世界大戦から逃げ帰った記憶から、中国への脱出を希望しない、という流れも。

 オーストラリアやカナダにヨーロッパ、アジア太平洋地域ではハワイやグアムとニューカレドニア、という、脱出希望先では観光で探訪したことのある地域が大半を占める、こうした描写もありまして、そして日本沈没執筆当時はまだ、フィリピンとの戦後講和条約が未締結、インドネシアとの戦後処理の問題も今とは比較にならない程で、ここも描かれる。

 2020年代に日本沈没を描く難しさというのは、1960年代に、つまり我々が現在から2001年のアメリカ本土同時多発テロを思い返すくらいの、若しくは2003年イラク戦争開戦の頃の記憶と同じくらいに第二次世界大戦の記憶が鮮やかな1960年代に執筆した日本沈没の世界観と2020年代、戦後75年を経て日本の平和政策が理解されている時点との違いです。

 日本沈没2020の作中には原作に登場する人物が全く出てこないとの側聞を、前回に非常に残念である旨を示しましたが、1960年代に日本から世界に脱出する、それも日本の対外拡張時代の記憶を残す時代に一億の人口が移動する難しさと、2020年代にこれを再現する意味とでは随分と違う印象があります、また受け入れる国の生産能力も随分と違うでしょう。

 作品世界の比較は簡単ではありませんが、抜本的な再構築が必要となります。そして原作当時は東西冷戦の真っ只中でしたので、日本を救出するという事は西太平洋地域の戦略的プレゼンスが当然影響するのですね。アメリカがプレゼンスを失えばソ連太平洋艦隊は直接朝鮮半島を含め西太平洋沿岸地域を拠点と出来る、このパワーバランスの問題もあった。

 朝鮮半島。戦後処理と言いますと韓国との問題ですが、韓国の場合は日本本土が消滅することで甚大な影響を被ります、日本沈没の原作発表は日韓国交正常化から五年後でした、朝鮮戦争休戦からがちょうど20年という時代です。つまり、朝鮮半島情勢はきわめて深刻な時代であり、実際に原作では韓国は日本政府の沈没発表と同時に戒厳令を出したのです。

 韓国戒厳令、これは日本本土が消滅することは、韓国にとって重要な後方拠点、国連軍と在韓米軍の巨大な戦略兵站基地が消滅することを意味しますので、韓国軍の兵站線はグアム島などマリアナ諸島まで後退、九州とマリアナ諸島では韓国から根本的に距離が違います。実際、日本沈没第二部、谷甲州完結編では北朝鮮だけで韓国は国として出てきません。

 日本沈没第二部では中国は経済発展に失敗したらしい。考えてみますと今でこそ中国は世界第二位の経済大国となっていますが、鄧小平時代荒の改革開放が、最も技術協力を行った日本とアメリカの関係が喪失するのです。原作では農民を中心に希望していた為、日本人技術者を招き入れて技術大国を目指すという選択肢が無かったのですね。この影響です。

 在比米軍は残るが在日米軍の根拠地が喪失する、沖縄本土復帰が1972年ですので日本沈没の原作発表はその翌年ということですが、ただ、日本沈没の原作執筆にかんする知識の論拠が1960年代から1970年代にかけて、ということで、日本沈没の年度についてはX年、というような方式で当然ぼかされているのですが、まあ、そんな時代であったわけですね。

 2020、日本沈没2020という視点でみますと、日本とフィリピンの問題やインドネシアの問題は根本から戦後問題は、なにしろ1940年代の命題を1960年代に回顧するのと2020年代に回顧するのは60年の開きがありますので、1960年代に欧州で独仏がモロッコ事件のことを回顧するくらい開きがある、といえるでしょう。文明論の根本が違う、ということ。

 1960年代、日本沈没が執筆された時代は1960年、アフリカの年、百花繚乱の如くアフリカが独立国へと若返った瞬間から間もない、しかしローデシアの動乱や中東緊張の影響、米ソ対立に距離を置こうとする第三世界、こうしたものとの複雑な地政学の蠢動があったのですが、2020年代にはアフリカの開発がかなり進みまして60年で状況は一新している。

 アフリカ問題は作中でモザンビーク、当時は南アと周辺国が互いに領土主張する係争地域でしたが、アフリカ諸国は当時の南アフリカがアパルトヘイトと拡張主義を示す中で、このモザンビークに日本難民を大量に入植させることで緩衝地帯を構築しようと、もちかける。日本代表に持ちかけるところで、作中では日本でまさに中央構造線地震が起きますが。

 南米では日本軍が進駐してくると勘違いして、勝ち組、勝ち組というのは1940年代に日本の敗戦を受け入れられない日系移民一世が、実は日本は負けていないのだ勝ったのだ、と主張する動きですが、さすがにこうしたものはなく、そして1960年代には重要視されていたアマゾン開発がアマゾン保護、現政権では開発、と二転三転したのが現在であるのです。

 植民地主義の残滓のこる1960年代は東西冷戦下であり世界が第三極をどのように構成するか、中立か離隔かをもさくしていた、そんな時代へ日本人が脱出することを真剣に描写したのが小松左京氏の努力というものでしたが、日本沈没2020は、ここを省きますと単なる災害パニック日本中大地震2020でたいへん!、という部分に留まるのが、難しいのです。

 日本沈没が数多の災害小説の中にあって燦然と輝くのは、十全の災害パニックが、災害発生の直接的影響、地震ならば救助が来るまで、映画の地震列島やアメリカ映画の大地震などがそうだ、火山ならば火砕流や溶岩流から逃げるまで、ダンテスピークやボルケーノがこれにあたる、ここで逃げ切った助かったで終わっているのですが、日本沈没は違う。

 しかし、1973年版の映画日本沈没は、ここまで踏み込めなかった、いや、続日本沈没、として東宝が続編を企画していまして、ここでもう少し踏み込んだ内容が盛り込まれたのかもしれませんが、1973年に東宝が制作を発表しての地実際の撮影には進まずたちきえとなっています。映像としてまとめるには、国際政治の朝夕効果予測は難しいのかもしれない。

 日本沈没2020をこの視点から見ますと、まあ新型コロナウィルスCOVID-19は予測できなかったでしょうが、米中対立というものは日本沈没により失われる在日米軍施設によるアメリカポテンシャルの後退として描かなければ不自然でしょう。しかしなにより、日本沈没により生じる多大な津波被害と火山性降下物の被害は、中国本土を直撃するのですね。

 勿論逃げ切ってセーフ、という単純な作品とするのでしたら、そこまで考える必要はありません、例えば日本沈没の大変動に外国人観光客が巻き込まれ、観光客の視点から描く日本沈没見聞録、というような構図ならば別なのですが、小松左京の世界観というのは此処まで単純ではありません、また上海や天津等沿岸都市が日本からの津波影響を確実に被る。

 2020年の時点で日本沈没を描く難しさ、これは何しろ執筆時代が大きく違う為に背景が根本から異なっているという部分です。唯一の救いは日本の地形や標高はそれ程違っていないという部分ですが、国際政治の一例を見ても相当違うのですね。そして地学研究も相当進みました。反映する必要はあるのかと問われると、日本沈没、作品の特殊性から必要に。

 地学の修士論文に匹敵すると称賛された日本沈没の科学検証、当時は日本が日本海溝に沈没するという作品に現実味を持たせるために小松左京氏はかなり広い分野から研究者や理論研究を独自に行い、実際に起こり得るという説得力を持たせています、それゆえに多くの作品同時並行で執筆した訳ではありますが膨大な執筆時間を要しているのですけれども。

 SFは娯楽なのだから最新の研究を反映させる必要はないのでは、と反論されるならば、これを行わないのであれば日本沈没という作品に拘らずとも良いのではないか、となります。そして日本沈没の執筆時点では今ほど巨大火山噴火による地球への気候変動の影響というものが研究が進んでいませんでした。しかし今日ではこの部分を意識しなければ片手落ち。

 カルデラ噴火と地球氷河期。火山噴火は日本沈没執筆当時には日本国内の火山規模が今ほど認識されていませんでしたが、今日ではこの部分を描かねばなりません、特に日本のカルデラ噴火は威力が大きい。日本に複数存在する巨大火山が噴火した場合は氷河期が到来する 世界を描いた“死都日本”“日本沈没第二部”という先行作があるのですから、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】観艦式2009-守る!この海と未来-【17】艦隊は東京湾へ向う(2009.10.23)

2020-08-23 20:12:57 | 海上自衛隊 催事
■ちはや艦内旅行と艦隊
 全ての展示を完了した観艦式参加部隊は一路帰港へ東京湾へと向かいます。

 あぶくま、まきなみ、ぶんご、続航し上空を2機のSHー60哨戒ヘリコプターが飛行して行きます。こうした変化ある構図は、毛布に寝転がる、退屈な、周りの情景は凄いのだが、時間を過ごす方々にはおもしろい出来事のようで艦尾周辺にもわずかに混雑が戻ってきた。

 あぶくま、まきなみ、ぶんご、上空を接近するSH-60K。SH-60K哨戒ヘリコプターはSH-60J哨戒ヘリコプターの改良型なのですが胴体が大型に再設計され、ヘルファイア空対艦ミサイルの運用能力が付与、かなりの能力向上となりました、機内の天井も高く立って歩ける。

 SH-60K哨戒ヘリコプター、2機編隊で。そういえばアメリカ製P-2Vネプチューン対潜哨戒機を川崎重工が改良型のP-2J対潜哨戒機として再設計した際にも天井を高くしていました、小柄という我が国民身体ですが、やっぱり窮屈姿勢連続はいやなのかもしれませんね。

 SH-60Kは32号機。SH-60Kといえば2002年度予算から調達が開始された新しい航空機、という印象なのですが機体にかかれた32号機という番号をみますと、もうここまで量産が進んだのか、と驚かされました。もしかして飛ばし番号なのでは、とか訝ってみたくなる。

 SH-60Kの31号機が続く。いや32号機は飛ばし機番ではないです、はい。前型のSH-60J哨戒ヘリコプターは92機が量産されています。ただ2020年代今日はSH-60Kの改良型も開発が進められているとともにMQ-8無人ヘリコプター配備計画が進められているところ。

 ちはや後部甲板に広がる風景と右舷てんりゅう左舷こんごう。後部甲板は飛行甲板となっていますが、広がるのは太平洋ではなく毛布の海、観艦式は八時間から九時間を洋上にいまして、こうして毛布の上で寝ころび過ごすというのも一つの時間の過ごしかたなのかも。

 くらま、水平線上に浮かびその奥に試験艦くりはま。時間は有効に活用したいといいますか、次の観艦式は三年後ですので、撮影できるモノは全て撮影しておこう、というのが当方の流儀でもあります。270度全部、周辺の艦艇を撮れるものは撮れるだけ撮影して行こう。

 水平線上に広がる艦隊と大空。自衛隊観艦式らしい情景、といえるのでしょうか。しかし周りの方々はなぜにこの凄い情景を撮影しないのか、と思っていますと電池切れが多い。いや、人間の電池が切れたのではなく、デジカメの電池やCFカードがいっぱい、だとか。

 水平線上に広がる艦隊と大空。2006年観艦式の頃はフィルムの銀塩カメラが多数現役でしたが2009年となるとデジカメが優勢、2012年は銀塩カメラをほとんど見かけず、2015年観艦式、くらま艦上では全てデジタルカメラで、2019年観艦式は、台風で中止でした、ね。

 あぶくま、ぶんご、そして浦賀水道に入り奥に、おおすみ、まきなみ。こうして艦隊を撮影していて気づいたのですが、この乗っている潜水艦救難艦ちはや、艦内旅行をまだすませていないのですね。艦内旅行、海軍用語です。せっかくですから旅行をしなければ、ね。

 DSRV深海救難艇,艦内旅行を進める。昔はレスキューチェンバーという釣鐘状の救難装置を母艦からかく座潜水艦の救助に充てていたのですが、ハッチが水平でなければ接続できず、障害物が乗っていた場合も救助できない、しかしDSRVならば1000m以上まで可能だ。

 ちはや艦内の食堂、薬物乱用防止のポスターがなぜか目立つ。食堂は休憩室として提供されていました、アイスクリームなどのほか艦内ではマグカップやタオルにTシャツといった自衛隊グッズや識別帽なども、なども、なども。売られていたはずですが売り切れだ。

 ちはや艦内の通路、軍艦らしい情景を探して。先行して建造された潜水艦救難母艦ちよだ、は自衛隊潜水艦の外洋作戦能力が太平洋の隅々まで達しておらず、魚雷補給能力や乗員80名宿泊など母艦能力が付与されていましたがいまや潜水艦は大きく、母艦能力は省かれた。

 ちはや艦内の減圧室。多数の水中処分員やスタンキーフードのような簡易脱出器具を用いてかく座潜水艦から乗員が脱出した場合は強烈な水圧が急激変化することで血液酸素濃度など致命的な潜水病に陥る危険があり、艦では充分な減圧室を準備して危険に備えている。

 水平線上に、ぶんご、あぶくま、あしがら、おおすみ、はたかぜ、遠く。水平線に艦隊が広がる様子は勇壮ですが、ここで艦内旅行が終了した、のではなくこれから艦橋構造物へと上る最中のスナップです。艦のもっとも高い場所、観艦式を艦橋から撮影する方も多い。

 ちはや舷側通路を行く、高い上部構造物と白波を眼下に。印象的な一枚でして、後日もう少しこの風景を撮影しておけば良かったという、この瞬間は日常で今は非日常、太平洋を航行している艦隊の一員という風景。実際にはもう浦賀水道に入っているのですけれども。

 ちはや艦橋、操艦している情景と手前の見学者の列。観艦式は自衛隊の能力の一端を主権者樽国民に広く公開するという目的があるのですが、この過密海域を事故無く航行するというだけでもすごい技量です。横須賀鎮守府開府の頃、即ち明治時代はもっと静かでした。

 こんごう、いよいよ横須賀へ、奥に補給艦ましゅう、タンカーと貨物船が続く。東京湾は人口密集地であり工業集積地であり軍港もあり造船もあるとともに漁業も盛ん、ヨットから遊覧船まで運行していまして困ったことに航行や操舵の特性が違い、動きが読みにくい。

 艦橋からタンカーそして浦賀水道を窓越しに眺める。星条旗、アメリカ軍機関紙には、横須賀は世界一の船舶が密集する東京湾に位置し、世界一入港が難しい、とも。アメリカならば鹿島灘沿岸に軍港を造ると表現されています。ただ、津波の危険を無視している。

 いかづち先頭に、あすか、てんりゅう、こんごう、後ろから眺める。そろそろ横須賀も近づいてきました頃合いです。2009年といえば原油高がものすごい時代であり、これだけの艦艇を集めることもそれだけ多くの燃料を要しますので難しい、広報重視の姿勢の現れ。

 ちはやマストを見上げる。艦橋のトップに到達。登頂成功を記念して日の丸でも上げたいところですが、既に自衛艦旗があがっている。さてこの折りに前の方から識別帽が飛んでくる椿事がありました、みてみれば第12旅団、と。落とし物を管理する隊員さん首傾げた。

 くらま、ぶんご、まきなみ、はたかぜ、おおすみ、浦賀水道の単縦陣とともに、隊員さんがこの12旅団って何処の部隊でしょう、と聞かれましたので、司令部は榛名山の麓は群馬県榛東村で北関東信越地方の部隊です、と。するとまさか群馬から飛んできたのか、と。

 くらま以下5隻の単縦陣から少し後方に、あしがら、さざなみ、ゆうべつ。艦隊の雄大な景色とともに、しかし識別帽が群馬から飛んできたりはしないでしょう、周りとともに爆笑、しかしそれならば先行する艦上から飛来したのか、観艦式に一つ不思議が生まれた。

 くらま以下8隻が浦賀水道に長く単縦陣を構成している。さてさて、この第12旅団識別帽、その後の顛末はさすがに伝え聞きません。もし観艦式2009にて潜水艦救難艦ちはや艦上で第12旅団識別帽の行方をご存じの方いましたらばコメント欄までご一報いただければ幸い。

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【土曜詳報】キャンプ富士日米友好祭二〇一六(5)日米軽装甲車と中型戦術車(2016-05-07)

2020-08-22 20:02:37 | 在日米軍
■LAV-25に中多とハンヴィー
 キャンプ富士では自衛隊とアメリカ海兵隊の各種車輛と航空機が並ぶ故に対比が興味深いのですね。

 中距離多目的誘導弾とハンヴィー、ハンヴィーというのは高機動多目的車両の略称で1985年より原型のM-998大量生産が開始されました。M-998は非装甲のソフトスキン車ですが、一応は5kgの対戦車地雷が爆発した場合でも横転するだけで粉々にならない設計ではある。

 M-1114装甲ハンヴィーとTUSK市街地生存性向上キット。ハンヴィーは厳しい第一線で警戒任務などに多用されるようになりますと、せめてAK小銃の7.62mm弾には耐える程度の防弾がほしいということで装甲型が開発、しかし軽装甲機動車七割程度の高い値段に。

 LAV-25を見上げる。LAV-25は水陸機動団はもちろん自衛隊全般に資する是非ともライセンス生産し導入すべき装備と思う、最大の理由は車幅が2.5mで一般車両とともに大型車として活躍できる、これがストライカー装甲車ですと車幅が2.72mあり、簡単に走れない。

 LAV-25を真正面より。車幅2.5mのLAV-25は大型トラックや高機動車と伍して一般道を縦横無尽に走れますが、ストライカー装甲車は2.72mあり、走る度に道路管理者へ輸送経路と走行時間と運行車数を印紙を貼付け届け出が要る、一般車通行禁止とすれば別ですが。

 LAV-25の機関砲塔、LAV-25の自衛隊に提案する際の難点は操縦手と砲手に車長の3名が必要ですが普通科隊員は6名しか乗れません、ストライカーは9名、小銃班は班長と副班長に小銃手3名と機銃手と対戦車手の7名。しかし、班長が車長を兼ねるならば、別だ。

 LAV-25原型の波きり板展開の様子を。ストライカー装甲車はもちろん87式偵察警戒車も96式装輪装甲車も水上浮行はできません、しかし、LAV-25は9.6km/hで水上航行できるのですね、自衛隊の73式装甲車と同じ、水上で波が車上に乗り水没しないようにするもの。

 LAV-25原型の波きり板を正面から。水陸両用といいますとAAV-7両用強襲車を思い浮かべますが、基本的に揚陸艦から海岸までの最後の数百mとか淀川や木曽川のような河川を渡る際のもので、外洋航行は想定していません、もっとも護岸や防波堤は越えられません。

 LAV-25の推進装置、水上を9.6km/hで、つまり一分間に160m進むというのは心強い。ただ日本の場合は水陸両用車両は船舶免許が必要となり車検に加え船舶検査、航行灯や救命浮環設置など面倒なことが多い、LAV-25馬力は車故300hp、2級船舶免許は必要なのかな。

 87式偵察警戒車は偵察教導隊のもの。さてLAV-25,1983年より運用開始の古参ですがLAV-25-SLEPとして1995年より延命改修が行われています、LAV-25原型というのはこちら。そして現在はLAV-25A2として暗視装置とエンジンを交換し増加装甲を装着したもの。

 LAV-25原型の波きり板、この便利な車両は後継にイタリアのイヴェコスーパーAVなどが検討されていますが巨大であり、LAV-25は2021年よりLAV-25A3として再度のエンジン換装と操縦装置の一新をおこない、2035年までは現役に。まだまだLAV-25の旅は続く。

 MTVRトラックにつり上げられるM-1161グロウラー、ちからもちだ。MTVRは後継型中型戦術車両の略称で7tトラック、アメリカのオシコシ社により開発されたもの、陸軍は自衛隊のようなキャブオーバー型を重視しますが海兵隊は何故かボンネット型車両を好む。

 MTVRにつり上げられるM-1161を角度を変えて。MTVRトラックは基本型のMk23標準トラックとウインチ付Mk25,Mk27車体延長型カーゴトラックとそのウインチ付のMk28,Mk29ダンプトラックとそのウインチ付Mk30,そしてレッカー車型Mk36、などなどが揃います。

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