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島嶼防衛用高速滑空弾とは【2】ATACMSロケット自衛隊導入構想頓挫と中国ロシアの滑空弾

2020-06-22 20:19:18 | 先端軍事テクノロジー
■軍団用ATACMS射程248km
 防衛計画の大綱に盛り込まれた以上は計画されている2個大隊分の整備は十年以内となり、相応に開発が進んでいることが窺えます。

 南西諸島防衛を考える場合、特に中国からの軍事圧力を受けると共に沖縄本島と台湾島の中間に位置する先島諸島や尖閣諸島を防衛する際に、沖縄県を防衛警備管区とする第15旅団、その主力が置かれる沖縄本島からの長大な距離を如何に防衛するかが問題でした。しかし、自衛隊が入手し得るのは国産以外例えばアメリカ製ATACMSくらいしかないという。

 ATACMS,過去検討されました。自衛隊が保有するMLRS多連装ロケットシステムに搭載の戦術ミサイルですが、陸上自衛隊が装備するM-31ロケットが射程70kmであるのに対し、アメリカ軍が軍団支援用に用いるATACMSは射程が248kmと大きく、実は自衛隊も203mm榴弾砲後継に16防衛大綱への導入盛り込みが、かなり真剣に検討されていました。

 ATACMSはMLRSでは6発を一つのロケットコンテナに装填し、M-240発射装置ではコンテナ2基の12発分を装填しますが、ATACMSのMGM-140ロケットは直径が大きい分、227mmロケット弾6発分のコンテナに丁度1発が装てんできる構造となっており、MLRSの発射装置には同時に2発を投射可能、自衛隊の一個大隊では36発を同時射撃可能です。

 しかし、16防衛大綱当時、2005年は南西諸島を巡る周辺情勢も現在ほど緊迫しておらず、導入は実現していません。特に連立与党を組む公明党の強い意向もあったという。そしてそうこうしているうちにATACMSであるMGM-140の生産がアメリカで終了してしまいまして、自衛隊が導入できる見込みはなくなりました。一方で脅威だけは顕在化します。

 30大綱。2018年に画定した新しい防衛大綱では、新たに"2個高速滑空弾大隊"を新編する事が盛り込まれました。この30大綱はイージスアショアを運用する2個弾道ミサイル防衛部隊の新編も盛り込まれ、これらは陸上自衛隊が運用する方針であったことから、特科の春、というべき増強が盛り込まれましたが、ここに漸く島嶼防衛用の装備が開発へと進む。

 2個高速滑空弾大隊。しかし南西諸島防衛の為とはいえ2個大隊所要の高速滑空弾を敢えて国産する必要はあるのか、と思われるかもしれません。勿論、2個高速滑空弾大隊のみで整備終了となるのであれば、発射装置も多くて40基、教育所要でも一個中隊程度ですので、新しい装備体系を構築するには疑問ですが、当面の整備目標が先ず2個大隊とも考え得る。

 アバンガルド。高速滑空弾は先行者があります。ロシアがこの分野ではもっとも進んでおり、戦略核兵器の運搬手段として開発が進められているアバンンガルドが有名です。これはR-36/8K67大陸間弾道弾などに搭載、従来の弾道ミサイルは最高高度に達すると放物線を描いて降下するため、ミサイル防衛システムにより捕捉される可能性が否定できません。

 R-36を一例に出しましたが、現在は大陸間弾道弾の落下速度は速く、ミサイル迎撃システムでの迎撃は困難となっています。しかし年々技術が向上しており万全ではありません。しかし高速滑空弾は文字通り滑空することで不規則な軌道をすすみ、ミサイル防衛システムの防空覆域を回避します。なお気になる速度、アバンガルドはマッハ20を想定している。

 東風17号型。中国軍が2019年に発表した新兵器ですが、自衛隊の開発する島嶼防衛用高速滑空弾はこちらと共通点があるのかもしれません。これは台湾や沖縄と九州の一部を射程に収める高速滑空兵器で、2011年に配備が開始された東風16号型と共通する推進装置を有し、弾頭部分に滑空体を装着したもので、諸説あるが射程1000km前後と推測される。

 島嶼防衛用高速滑空弾、こうしたものが必要とされる背景には南西諸島への島嶼部侵攻を想定する際、必ず広域防空艦、日米のイージス艦に相当するミサイル駆逐艦等を随伴する事が予想されます、ここで安易に通常のロケット弾により対処しようとした場合、射程が数百km程度では落達速度も限られ、広域防空艦により迎撃され任務達成は難しい可能性も。

 広域防空艦の普及と艦対空誘導弾の長射程は世界的な趨勢ではありますが、この点についても滑空弾は極超音速にて目標へ接近する事により、迎撃が困難とさせ任務達成への障壁を引き下げられる可能性もあります。また、近年では島嶼防衛用であるとともに、近年任務範囲拡大を前に射程不足が懸念されている地対艦誘導弾の補完用としても検討の報道も。

 さて、中国からのサイバー攻撃により関心が集まった今回の事案、しかし日本以外に中国とロシアが我が国周辺では実用化を進めており、対抗措置は必要です。他方でこの種の装備は先行する基礎研究があってこその国産開発ですので、防衛装備庁の技術蓄積が充てこその実現と云え、中国軍以外にも日本の防衛に直結する命題故に関心は尽きませんよ、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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2 コメント

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高速滑空弾艦載型 (渋川雅史)
2020-06-22 22:20:51
Mk41から発射する艦載型というのはいかがでしょうか?
今更トマホークでもないし、第一国産戦術情報処理装置へのインテグレートができるかどうかも定かではない・・純国産ならこの点を心配する必要がありません。
ロケット(ブースター)直径は14~21インチ、コンポーネントはなるべく国産新アスロックと共通させて射程は500㌔というのが妥当な線ではないかと思います。
高速滑空弾艦載型追伸 (渋川雅史)
2020-06-22 22:29:32
装弾数はむらさめ型で4本、たかなみ型・あきづき型・あさひ型は4~12本、イージス艦はかえってインテグレートが難しいかもしれません。汎用DDは第一義的に対潜艦なのでアスロック装弾数12~16本は譲れないでしょうし、将来的にはESSMのみならずAAM5を元とした新艦対空誘導弾が4~8本Mk41に入るかもしれませんし・・・

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