電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平原作の映画「小川の辺」を観る

2011年07月08日 06時05分52秒 | -藤沢周平
少し前に、藤沢周平原作の映画「小川の辺」の山形県先行上映を観ました。サクランボ作業が一段落した頃合いに、妻と二人で出かけてきたものです。先に原作『闇の穴』を読んでおり、感想というか、紹介も記事にしております(*1)し、前々から楽しみにしていた(*2)ものです。

藩の失政を痛烈に批判して脱藩した佐久間森衛に対し、藩主は探索者を差し向けますが、先任者は佐久間の所在は突き止めたものの、病を得て帰藩します。卓越した剣の技倆を見込まれて次の討手に選ばれたのは、戌井朔之助でした。朔之助の妹・田鶴は佐久間森衛に嫁いでいるため、佐久間と朔之助は義理の兄弟であり、また互いに剣の腕を認め合った友でもありました。田鶴は勝気な上に小太刀をよくし、夫とともに歯向かってくるだろうと予想されます。兄妹で斬り合う場面になったとしても、主命ならば拒むわけにはいかず、父は妹を斬れと言います。そして、母はそんな夫を激しく批難します。なるほど、田鶴さんはこの母親似なのだなと、思わず納得する場面です。

旅立ちの前夜、戌井に仕える若党の新蔵が同行を願い出ます。幼い日には、兄弟同然に育った新蔵は、田鶴と相思の関係だったのですが、身分違いのために、思いを抑えていたのでした。そして、海坂藩から行徳に向かう旅が、丹念に描かれます。この自然描写は、テレビ映画にはできないものです。月山を舞台に撮影された、文字通りの大自然の風景。ひたすら歩き続ける主従の会話と回想が、これまでの三人の関係を、少しずつ描き出します。

そしてたどり着いた行徳の宿で、新蔵はついに田鶴を発見しますが、朔之助にはまだ見つからないと報告します。それは、田鶴が外出して不在となる時間帯を探りだし、兄妹が対決して田鶴が斬られることを防ごうという配慮でした。そして、・・・・・・



江戸時代の奥州路を舞台とした、一種のロードムービーでしょうか。途中、季節の風景の美しさは、まさに映画の醍醐味でしょう。静かな、力強い映画です。



一点だけ注文をつけるとすれば、夫を斬られたすぐ後に新蔵と並んで兄を見つめる田鶴の姿に、いささか割り切れない気もします。少なくとも、はじめは顔をそむけているが、新蔵に促され、もう二度と会うことのない兄を見送るくらいかな、と思いました。

(*1):藤沢周平『闇の穴』を読む~「電網郊外散歩道」2009年8月
(*2):サクランボの収穫が終わったら映画「小川の辺」を観よう~「電網郊外散歩道」2011年6月

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