電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

鈴木秀美指揮の山響第214回定期でボッケリーニ、シューベルト、ハイドンを聴く

2011年07月24日 06時01分58秒 | -オーケストラ
果樹園の草刈りを済ませ、土曜の夜、山形交響楽団第214回定期演奏会に出かけました。今回は、鈴木秀美さんがチェロ独奏と指揮の両方を受け持ち、ボッケリーニの「チェロ協奏曲第7番ト長調」とシューベルトの「交響曲第1番ニ長調」、そしてハイドンの「交響曲第100番ト長調"軍隊"」というプログラムです。氏は、昨年春にも山響を指揮しているのですが、残念ながら仕事の都合で聴けませんでした。今年はなんとしても聴きたいと、念願のプログラムでした。

開演前に、会場の山形テルサのホワイエで、チャリティ演奏会が開かれました。犬伏亜里(1st-Vn)さん、館野ヤンネ(2nd-Vn)さん、成田寛(Vla)さん、小川和久(Vc)さんのカルテットに、この6月に入団したばかりという、沖縄出身のクラリネット奏者・川上一道さんが加わり、モーツァルトのクラリネット五重奏曲の第1楽章と第2楽章です。川上さん、ふつうのクラリネットではなく、それよりも半音四個分だけ低い音が出るバセットクラリネットを使って、モーツァルトが譜面で指定したとおりの演奏です。低いドの音まで出ますので、音色の対比がより鮮明になります。なんという幸せ!チャリティですので、演奏終了後、募金に応じ、ホールに入りました。

開演前のプレトークがおもしろかった。黄緑色のガウンのような上着を着た鈴木秀美さんのお話は、ユーモアがあり、同時に学識の深さを感じさせます。チェロにエンドピンを使うようになったのは、時代がだいぶ後のことだそうで、弦も20世紀初頭までガットを使っていたそうです。そういえば、ナイロンが発明されたのは、1940年代だったでしょうか。それまでは、たしかに羊の腸と馬のしっぽの毛で音を出していたわけです。優れたチェロ奏者だったボッケリーニのこと、シューベルトがハイドンを研究していたこと、ハイドンが訪れたことのないパリで、年間にハイドンの曲は170回以上も演奏されていたのに、同じ年、モーツァルトの曲は7回しか演奏されていなかったことなど、同時代におけるハイドンの評価の高さを指摘したところなども、たいへん興味深いエピソードです。

最初の曲目、ボッケリーニのチェロ協奏曲における楽器配置はいわゆる対向配置で、中央に独奏チェロ、ステージ左から順に、第1ヴァイオリン(6)、ヴィオラ(2)、チェロ(2)、第2ヴァイオリン(6)、その奥にコントラバス(1)となっています。コンサートマスター(ミストレス)は、犬伏亜里さん。ステージ上に、何本もマイクが立っているのが目につきます。今回の演奏会も、録音が音楽配信されるのでしょうか。なんとも驚くべき時代です。
第1楽章:アレグロ。独奏チェロの音が、たいへん明るく澄んでいます。軽やかで、繊細な音です。編成を減らした山響の弦楽セクションの響きも、同様の方向性を感じます。終わりの音が非常に澄んでおり、消えていく音に、余韻が残ります。うーん、初めての鈴木秀美さんの印象は、「響きのグルメ」だなぁ!しかも、飽食系ではなくて、純粋・透明系!
第2楽章:アダージョ。チェロが持続する音を奏し始まりますが、重たくない哀感です。ヴァイオリン部と独奏チェロだけの、静かな、しかし濃密な音楽には、魅了されました。
第3楽章:アレグロ。強弱の対比を生かした、軽やかで生き生きした音楽が展開され、カデンツァもすごい。やっぱり、音の消え方を重視しているように感じました。
それほど多く聴き馴染んだ曲ではありませんが、プログラムを見たら、「今日の演奏は、鈴木秀美氏により用意された、オリジナルの楽譜による演奏」とのことです。な~るほど。

続いてシューベルトの交響曲第1番です。作曲者16歳の時の作品だそうですが、現代ならばさしずめ早熟な高校生の作品ということになるでしょう。
楽器編成は、Fl(1),Ob(2),Cl(2),Fg(2),Hrn(2),Tp(2),Timp.,弦楽5部となります。もちろん、ホルンとトランペットはバルブのないナチュラル・ホルンにナチュラル・トランペットですし、ティンパニもバロック・ティンパニです。フルートも、黒い色から判断して、もしかすると木製?指揮者として登場の鈴木秀美さんも、黒い上着です。
第1楽章:アダージョ~アレグロ・ヴィヴァーチェ。始まりこそ重厚な雰囲気ですが、音は重たくなく、柔らかいものです。特徴的な主題が提示されると、これが様々に変奏されて再び回帰するソナタ形式なのでしょうか。終わりの音に細心の注意を払っているようで、ホールに消えていく音が、実にいい感じです。
第2楽章:アンダンテ。舞曲のような軽やかさを持った緩徐楽章です。途中のフェルマータを充分に伸ばして、全休止時の響きを楽しんでいる風です。鈴木秀美さん、やっぱり「響きのグルメ」です!
第3楽章:メヌエット、アレグレット、トリオ。ホルンのお二人が、楽章の間になにやらごそごそやっていましたが、ホルンの管を交換しているのでしょうか。フルートとオーボエにファゴットが掛け合うところなど、森の中の小鳥の風情です。若いシューベルト君の楽しい音楽です。
第4楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ。沸き立つような軽やかで華麗なフィナーレです。若々しさと活力にあふれた音楽になっています。現代であれば、高校の吹奏楽部のリーダーが、自分で曲も作ってしまうようなものなのでしょう。たしかにハイドン風なところもある、なかなか素敵な音楽です。

ここで、15分の休憩です。



後半の曲目は、ハイドンの交響曲第100番「軍隊」です。
解説のパンフレットによれば、2007年に校訂された、ベーレンライター版のスコアによるものだそうで、楽器編成としては、シューベルトと同じFl(1), Ob(2), Cl(2), Fg(2), Hrn(2), Tp(2), Timp., 弦楽5部に、大太鼓とシンバルとトライアングルが各1ずつ加わります。おもしろいことに、トライアングルの三角形が上向きでなく、下向きの逆三角形につり下げられています。このあたりも、「響きのグルメ」鈴木氏になにか意図があったのでしょうか。

第1楽章:アダージョ~アレグロ。最初はゆっくりと始まり、途中FlとObが、速度を上げる転換役を果たします。ホルン奏者は右手を朝顔の中に入れず、右手のみを使って楽器を保持しており、左手はたずなを持つように膝の上に。なるほど、ラッパ手の乗馬スタイルですね。たしかに、音色は明るく開放的です。全休止の後に、再び始まる音楽は、たいへん集中したものです。この楽章では、クラリネット、大太鼓、シンバル、トライアングルはお休み。
第2楽章:アレグレット。いろいろなパートが、順に出番がめぐってきて、まるで音楽教室の楽器紹介のコーナーみたいです。この楽章で、大太鼓とシンバル、トライアングルが参加するところは、ロンドンの聴衆にもウケそうです。トライアングルのcresc.なんて、大ウケしそう。大太鼓も、ただ単にドスンドスンと打つだけでなく、バチだか張り扇だかで(^o^;)ちゃんとリズムを刻んでいるところが、いかにも軍楽ふうです。また、Tpによる軍楽ラッパとTimp.の連打は突撃の合図でしょうか。私は平和愛好者ですが(^o^)、これはおもしろい!
第4楽章:実に見事なフィナーレ。明るくクリアーで、響きが透明、リズムは精妙に。ふわっと柔らかでありながら、メリハリがあります。還暦を迎えた老作曲家の作品とは、とても思えません。活力に満ちた音楽は、大太鼓、シンバル、トライアングルの鳴り物も加わり、量感ある進撃です。

会場の大きな拍手に応え、アンコールがありました。鈴木秀美さんが、再びチェロを持参して現れ、ハイドンの交響曲第13番の第2楽章を、オーケストラの弦楽セクションの一部とともに演奏します。私はもちろん初めての曲で、完全にチェロ協奏曲のスタイルです。ハイドンは、何かいいことがあったチェリストを祝うためか、それとも新しいチェロ奏者のお披露目のためか、何らかの意図を持ってこの音楽を書いたのでしょう。そのへんの事情はわかりませんが、実にステキな音楽でした。

終演後、鈴木秀美さんとオーケストラ・リベラ・クラシカの演奏で、C.P.E.バッハのチェロ協奏曲イ短調や、ハイドンの交響曲第12番を収録したCDを購入、ご本人からサインしてもらいました。なんともミーハーな話ですが、たいへん嬉しいです!

今日も、楽しくいい演奏会でした。浮世の義理と冠婚葬祭は仕方がありませんが、定期演奏会には今後もできる限り参加したいものです。当地に山形交響楽団、山形弦楽四重奏団があり、家族の健康が許す限り、楽しみと幸せは続きます。ありがたいことです。

【追記】
らびおさんのブログのコメント中で指摘があり、アンコールに演奏されたのは、第13番の第2楽章だそうです。訂正しました(^o^;)>poripori

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