電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『徒然ノ冬~居眠り磐音江戸双紙(43)』を読む

2013年07月28日 06時03分02秒 | -佐伯泰英
いつの頃からか、主人公のはずの坂崎磐音が無敵に強すぎるのに加え、おこんとの仲も盤石で物語にならないと踏んだのでしょうか、作者は周辺の若者たちの人間的な成長を意識して描くようになっています。その一人、元雑賀衆の女忍・霧子が、豊後関前藩の養嗣子として英明さをうかがわせる福坂俊次への襲撃事件で負傷し、毒矢によって生死の境をさまよっている状況から物語は始まります。

第1章:「修太郎の迷い」。若狭小浜藩の江戸藩邸から船で小梅村の尚武館坂崎道場に戻った霧子でしたが、依然として意識が回復しません。他人の夢の中に入り込んで戦うことさえできるスーパー磐音クンが、霧子の意識の中に入り込んで、ちょいと揺り動かせば目覚めるような気もするのですが、そこはやっぱり若い利次郎の出番を作る必要がありまして(^o^)/
竹村武左衛門の長男・修太郎は、本シリーズには珍しい「落ちこぼれエピソード」かと思いましたが、ちゃんと向き・不向きを考慮した展開が用意されておりました。

第2章:「万来見舞客」。尚武館の東西戦には、速水左近もPTAの立場で見学に来ており、加えていろいろな重要人物も顔を見せております。奥の接待はおこんさんですから、粗相があるはずもなく、密談もごく自然に行えるのでしょう。表向きは直心影流の奥義秘伝公開にびっくりしているところですが、実は背後の政治的な場の設定に、作者の苦労がうかがえます。霧子さんの回復は、目出度いことです。

第3章:「師走奔走」。師匠というのは大変です。弟子のために東奔西走しなくてはなりません。利次郎・霧子に加え、竹村修太郎の研修志願の一件もあります。さらに、遠く出羽国山形では、奈緒が幼児を三人もかかえて難儀をしている模様です。それにしても利次郎クン、もう27歳にもなっているのですか。なんだかそんな年齢には思えませんね~(^o^)/

第4章:「大つごもり」。竹村修太郎は、鵜飼百助のもとで研ぎ師の修行をすることになり、利次郎と霧子は相思相愛の度を深めますが、松平辰平と筑前博多の豪商・箱崎屋の末娘お杏との仲はどうなるのか。遠距離文通の中身までは明らかにされておりませんが、このへんのじれったいやりとりは、作者の不得意とする分野なのでしょう(^o^)/
磐音と利次郎は、旧藩主・福坂実高に拝謁、物産事業で景気がいいようで、ポンと五百両も謝礼を出してくれました。1両を10万円とすると、500両は5000万円に相当します。なんだか出来すぎた話ですが、それを言うならもともとこの物語が出来杉君のお話ですしね~(^o^)/
帰路の強盗事件なんて、ほんの付け足し、原稿用紙の枚数稼ぎのようなものか(^o^)/

第5章:「極意披露」。年が明けて天明4年。田沼意知が斬られる事件まで、あと3ヶ月となりました。どうりで、佐野善左衛門がチョコチョコ登場するわけです。そして小梅村の尚武館坂崎道場では、五百両で増築の話が進みます。新年の具足開きの際には、若狭小浜藩主・酒井忠貫がお忍びで姿を見せ、速水左近と同席します。磐音と辰平による直心影流の奥義披露は、静かな、力強い感動を呼び起こします。そして、出羽国山形の奈緒からは、近況を綴る礼状が届きます。事件政変を準備する静けさと見ましたが、さてどうか。

この長い長~い物語も、あと二年で田沼意次が失脚することになりますので、どういう結末になるのかが興味深いところです。

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