電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『草原の風』上巻を読む

2013年08月22日 06時07分20秒 | -宮城谷昌光
中央公論新社刊の単行本で、宮城谷昌光著『草原の風』上巻を読みました。正確に言うと初読ではなく、三読くらいかと思います。上巻は、後漢の名君・光武帝の若い時代を描く、気持ちの良い物語です。

劉邦の末裔である蔡陽の劉氏の末弟・劉秀は、父の死後、家計の苦しさから叔父のもとに引き取られます。劉秀は実直な働き手で、農作業に創意工夫を加え、働く者に親しまれ、豊かな実りをもたらしますが、兄の劉エン(糸ヘンに寅)は弟をこき使うばかりでした。叔父は、なんとかして劉秀の身が立つようにと、留学と官位の途を探ります。そこへ、新野の豪族の陰氏より招かれ、なぜ自分が?と不思議に思います。

実は、陰氏の子供たちは、息子は侯に、娘は皇后になるという予言を得ていたのでした。母は娘に、ひそかに将来の夫を選ばせますが、娘・陰麗華は劉秀を指差します。常安への留学から帰る際には、ぜひもう一度立ち寄ってほしいという招きを、劉秀は不思議に思いながらも受諾します。

常安での留学生活は、経済的には決して豊かとは言えませんが、多くの知己を得て、充実したものと言ってよいでしょう。はじめて家を離れ、学生生活を送った自分自身の若い時代を思い出し、感慨深いものがあります。

留学後に叔父の家を出ることを勝手に決め、さらにキュウ(イに及)を従者にと願ったために叔父の不興を買い、経済的援助を得られなくなりますが、陰氏の息子・陰識の家庭教師をしたり、友人と宅配業を始めたり、さらには薬を作って売るなどして稼ぎ、なんとか学業をやり通します。このあたりは立派です。

劉氏の宗家である劉祉のもとで田畑と家を借り、農業に精を出している頃、中央政府から唐突に宗家に命じられた無理な納税額を、およそ九分の一に減額する段取りをしますが、このときには学生時代の宅配業の人脈が力を発揮しました。宗家は破産を免れ、劉秀は声望を高めますが、中央政府の無茶苦茶はついに地方の反乱を呼び起こします。そしてその中には、兄の劉エンの姿もありました。いずれ連座し攻められるのであればと、劉秀も兄とともに決起します。



ふむふむ。経済的に自立した学生生活が送れればそれは理想的ですが、実験に追われる理系学生には無理な話です。アルバイトが面白くなり、ドロップアウトしていった同期生も少なくなかったようで、このあたり、実際にはなかなか難しいところでしょう。中巻は、劉秀らの苦難と激動の転戦編。

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