電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『草原の風』(中巻)を読む

2013年08月28日 06時00分34秒 | -宮城谷昌光
挙兵した劉エン(糸寅)と劉秀の兄弟に、一族から加わる者も出て、漢王室の再興を願う動きがいよいよ具体化し始めます。宮城谷昌光著『草原の風』(中巻)は、大激動の幕開けです。

王莽政権打倒のためとはいえ、略奪を繰り返す賊たちと組んだことが正しかったのか。彼らの最大の弱点は、次代の国家像を持っていないことです。しかし、彼らの中にも優れた者はいることが次第に明らかになってきます。劉秀の戦術眼はけっこう的確で、状況判断も適切なのですが、殿軍をつとめることとなった時には官軍の前に敗北し、姉を死なせてしまいます。そんな戦いの中でも、陰麗華から贈られた護身符を持っているせいか劉秀は無事で、しだいに名を上げていきます。例えば薬売りに変装して敵情を視察し、動向をつかんだ劉秀は、賊の中でもこれはと目星をつけていた馬武の隊とともに官軍の輜重隊を急襲し、補給物資を入手します。さらに劉エンらは厳尤将軍の率いる五万の官軍の背後に回ってこれを襲い、大勝を得ます。

ここまでは、腐敗する王莽政権政権に反旗を翻した劉エンらのペースですが、賊将間で仲間割れと主導権争いの内部抗争が始まっていました。劉エンの不在時に、劉玄を皇帝に立てることが決定されますが、劉秀は兄が災厄を免れることができると喜びます。蔡陽は、官民を殺害しない劉秀が将であると聞き、開城降伏を申し出ますが、そんなケースばかりではなくて、昆陽の城では十万の官軍に包囲される前にからくも脱出し、周辺の豪族を説いて官軍の本営を襲い、これを大破します。

このあたりまでは、波風はあってもほぼ上り坂の展開ですが、ここからの中巻は全く風向きが変わります。賊に担がれた劉玄は皇帝となり更始帝と呼ばれます。敵も多い劉エンは刺殺されてしまい、劉秀は事態を素早く判断し、更始帝に恭順を誓うために急行して、死中に活を拾います。そして、戦に明け暮れていた生活に、謹慎という形でひとときの休息が与えられたのを幸いに、陰麗華を新婦に迎えます。この間に、都では王莽が殺され、ついに政権は革命軍の側に移ります。

しかしながら更始帝は劉秀に北方の討伐を命じます。それは、まるで龍を空に、虎を野に放ったようなものでした。北方を順調に帰服させつつあった時に、思いがけない大事件が起こり、劉秀らは窮地に立たされてしまいます。それは、王郎という占い師が、漢の成帝の子・劉子輿を騙り、決起したためでした。



激動の中巻は、一気に読ませる面白さがあります。一難去ってまた一難、でも報復や粛清を行わない劉秀のすがすがしさは格別です。

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