電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『香乱記(四)』を読む

2014年02月18日 06時02分32秒 | -宮城谷昌光
新潮文庫で、宮城谷昌光著『香乱記(四)』を再読しました。この巻は、欺かれ滅んでいく姿が描かれる悲劇的な内容だけに、なかなか重いものがあります。出張先に携帯し、車中や空き時間に読みましたので、田横らが甘受する運命を悲しみながら、ページを追うこととなりました。

「東方の旗」
叛将の田都に勝ったのは良かったが、斉王の田市は田横らに刺客を差し向けます。田栄は即墨で田市を討ち、田横は博陽を奪回します。盗賊あがりとはいえ、独立自尊の誇りと大きな勢力を持つ膨越と協力することとなります。趙から陳余の使者が訪れ、田横は陳余に趙を取らせ、膨越に魏を取らせて斉と三国同盟を結び、項羽と戦う、という戦略構想を描き、陳余を助けて信都へ攻め上ります。

「馬上の影」
陳余と張耳の対立、項羽と劉邦の抗争などの中で、兄の斉王・田栄が楡伯に殺されます。こうなると、三兄弟が王になるという許負の予言は、むしろ不吉な色合いを帯びてきます。季桐が田横から去る理由が、はじめはよくわからなかったのですが、何度も読み返してようやくわかったような気がします。政治的には、斉王が次々に死去する運命を引き寄せた(きっかけを作った)のは、欺かれたとはいえ、やはり季桐が捕えられてしまったことでしたし、周囲の風当たりも強かったのではないか。また、同姓の者は結婚できないという当時の不文律を思うとき、蘭が田横の正妻となり、自分は決してその地位に上ることはないという立場を甘受できない、ということもあったのでしょう。

「斉の復興」
奇襲で項羽を脅かした田横でしたが、ついに項羽を倒すことができず、逆に危地に踏み込んでしまいます。ちょうどそこへ、劉邦が膨城を奪ったという知らせが入ったために楚軍は攻撃を中止し、田横はようやく宰相として斉の復興に取り組むことができました。静かな斉の地から項羽と劉邦の争いを見ると、なんともはや、粗暴と欺瞞の応酬です。

「不屈の人」
最後の章は、せっかくですのであらすじは省略しましょう。悲劇の終幕は、黒いベールの貴婦人が登場することで、静かに閉じられます。私は死を美化する物語を好まないけれど、最後まで慕いつづけた季桐の姿に、田横の最期の見事さが輝いて映ります。

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