電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

門井慶喜『家康、江戸を建てる』を読む

2018年12月09日 06時05分10秒 | 読書
祥伝社文庫で、門井慶喜著『家康、江戸を建てる』を読みました。以前、単行本が出た時には注目したのですが、入手する前に忘れてしまったようで、この度、文庫本として発売されたのを機に、読んでみようと手にしたものです。
構成は次のとおり。

第1話:「流れを変える」
第2話:「金貨を延べる」
第3話:「飲み水を引く」
第4話:「石垣を積む」
第5話:「天守を起こす」

ここで、第1話:「流れを変える」は、利根川東遷の話(*1)です。秀吉の小田原攻めの際に、秀吉は家康に、北条氏の旧領である関東八カ国を与える代わりに、現在の所領、駿河、遠江、三河、甲斐、信濃を差し出すように命じます。
これを承諾した家康は、江戸・千代田の地に住まい、伊奈忠次の案により利根川の流れを変えて、水浸しの江戸の地を干そうとします。
このあたりは、現在から昔を推測した傾向があり、始めからそのような雄大な意図を持っていたかどうかは疑問なのですが、家康個人に結びつけることによって、お話としては面白くなった面があるでしょう。

第2話:「金貨を延べる」は、後藤庄三郎と小判の話。家康が秀吉に願って、貨幣鋳造役の後藤家から名代が到着しますが、関東があまりに田舎なので、橋本庄三郎という職人を置いてさっさと京に帰ってしまいます。庄三郎はようやく実力を発揮できるようになり、十両の大判ではなく、使い勝手の良い一両の小判の鋳造を始めます。いろいろあって、関ヶ原の決着がついた直後に、京都に高札を立てた庄三郎の行動は、なかなか読ませる場面です。

第3話:「飲み水を引く」。湿地は多いが良質の飲料水は乏しかった江戸に、上水道を引く話です。江戸の水道インフラの整備が後の百万都市の基礎になったことを思えば、溢れる水を制御する工夫は、たんなる水力学上の意義にとどまらないでしょう。

第4話・第5話も面白いのだけれど、城や天守の話はいまひとつピンときません。やっぱり多くの人々の生活に直結する土地や貨幣経済や上水道の話のほうが興味深いです。さらに言えば、下水道の代わりに整備された人肥リサイクルのしくみは、徳川の誰の時代に、どなたが考案したものか?そんな方向に興味が向かいます。「天守は不要」、同感。まあ、理想的には城自体が不要な方が望ましいのですが(^o^)/

(*1):利根川の東遷、荒川の西遷〜東京の川と橋

【追記】
なんでも、NHK の正月時代劇でこの作品を取り上げるのだそうです。調べてみたら、そのとおりでした。放送予定は1月2日と3日の21:00〜22:13、2夜連続。お正月が楽しみになりました。
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