電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

大島真寿美『ピエタ』を読む

2011年07月16日 06時01分13秒 | 読書
大島真寿美著『ピエタ』(ポプラ社刊)を読みました。物語の冒頭は、こんなふうに始まります。

きのう、ヴィヴァルディ先生が亡くなったと、アンナ・マリーアが泣きながらわたしのところへ来た。アンナ・マリーアはいつもの威厳をなくして、すっかり錯乱しているし、ヴィヴァルディ先生が亡くなったのはこのヴェネツィアではなく遠くウィーン(そんな遠いところ、わたしは行ったことがない)だというし、先生の妹さんからもたらされたという逝去の報せはどうにも要領を得ないものらしく、アンナ・マリーアは本当のことかなのかどうかわからないけれど、と信じたくはないという顔をして、ねえ、あなたは、どう思う?とわたしにたずねたのだった。」

ここで、ヴィヴァルディ先生とは、もちろん協奏曲集「四季」の作曲家アントン・ヴィヴァルディです。ヴィヴァルディが、ヴェネツィアの聖ピエタ教会の裏で生まれ、この教会の赤毛の司祭兼聖ピエタ養育館の少女達の音楽教師として生活し、少女達のオーケストラが毎週演奏するために膨大な曲を作曲したこと、有能な少女のためにソロパートを書き、弦楽合奏や管楽器がかけあいをする形式、つまり協奏曲を発明したことなどを、以前に何度か取り上げた(*1,*2)ことがありますが、まさかそのヴィヴァルディの教え子たちの物語を読むことができるとは、思いもよりませんでした。しかも、それがかなり上質な物語であり、後に静かな余韻を残すことも、予期せぬ収穫でした。

本書は、一種のミステリー仕立てのため、あらすじを追うことは遠慮したいと思いますが、ヴィヴァルディの教え子たちが、先生の訃報をきっかけに、古い楽譜を探し始めます。そこで次第に明らかになっていくヴィヴァルディ先生の素顔は、高級娼婦クラウディアや、ゴンドラ漕ぎ舟人のロドヴィーコなどを通じ、思わぬ方向へ展開していきます。

ヴェネツィアの貿易独占に対抗してオーストリアがトリエステの港を開く上で、ヴィヴァルディがもたらした情報の重要性などの政治的背景(*3)には触れていませんが、ヴァイオリンと音楽の才能に恵まれ、ヴィヴァルディ先生の恩義に忠誠を誓うアンナ・マリーア、事務や経理に才能を発揮するエミーリア、貴族の生まれではあるが、ピエタでともに音楽を習ったヴェロニカなど、たいへん印象的な人物造型が見事です。とくに、ヴェロニカの兄カルロとエミーリアとの、若き日のカーニヴァルの恋の顛末と、後年に垣間見るカルロの家庭の幸福との対比など、時の隔たりを描いて秀逸です。

作中に出てくる l'estro armonico とは、「調和の霊感」Op.3 のことらしい。18世紀のヨーロッパでもてはやされ、一時は衰退し、後年に再び脚光を浴びたこの音楽は、独奏ヴァイオリンと弦楽合奏のための協奏曲を中心とした、多彩で魅力的なものです。なるほど、あの華やかで幸福な音楽(*4,*5)は、この物語に流れる音楽としてふさわしいものでしょう。

(*1):ヴィヴァルディは女学校音楽部の顧問の先生~「電網郊外散歩道」2005年9月
(*2):一ダースなら安くなるってもんじゃない~「電網郊外散歩道」2005年9月
(*3):西原稔『クラシックでわかる世界史』がおもしろい~「電網郊外散歩道」2009年4月
(*4):ヴィヴァルディの協奏曲集「調和の霊感」Op.3を聴く(1)~「電網郊外散歩道」2008年4月
(*5):ヴィヴァルディの協奏曲集「調和の霊感」Op.3を聴く(2)~「電網郊外散歩道」2008年4月


写真は、本書と、イタリア合奏団による演奏を収録したCDで、DENON のクレスト1000シリーズ中の一枚。型番は、COCO-70510~1 です。このCDは、演奏・録音ともに優れた全曲盤で、お値段の面でも2枚組で1,500円と、お薦めできるものだと思います。
コメント (10)

ハイドン「交響曲第95番」を聴く

2011年07月15日 06時04分11秒 | -オーケストラ
当地では、今月の11日に梅雨があけたそうで、暑い日が続きます。娘の話では、東京の夜の室内温度が30度を越しているそうですが、まだ盛夏前の当地では、このところの朝方の気温は21~22度というものです。これなどは、何よりの自然の恩恵なのかもしれません。節電を気にして悩みの元となるエアコンなどは必要がありませんし、北向きの窓を開けると、果樹園を吹き抜けてくる涼しい風が入ってきます。もちろん、太陽が照りつける日中は、30度を越す暑さに閉口してしまうのですが、朝晩が涼しいだけでも、だいぶ楽だと感じます。

こんな夜には、爽やかなハイドンの音楽を聴きたくなります。先にCDを購入して記事とした第93番第94番「驚愕」に続き、交響曲第95番です。添付のリーフレットには、次のように書かれています。

No.95 in C minor, the last of Haydn's relatively few symphonies in minor keys, is by no means a "tragic" or "fateful" work, but demonstrates what the composer had in mind when he spoke of this London symphonies as works that "reflect the mellowness of old age honorably won". Warmth of hearts is very much to the fore, particularly in the trio of the minuet, with its ingratiating dialogue between solo violin (written specifically for Salomon) and cello.

恥ずかしながら、例によって訳を試みてみると、こんなふうになるのでしょうか。

第95番ハ短調は、ハイドンには少ない短調の最後の交響曲ですが、どんな意味でも"悲劇的"あるいは"運命的"な作品ではなく、栄誉とともにかち得た晩年のまろやかさを反映した作品であることを示しています。心の暖かさが、とりわけメヌエットのトリオ部の、ザロモンのために書かれた独奏ヴァイオリンとチェロの間の愛想の良い対話に、よく現れています。

なるほど、なるほど。なんとなくわかったような、わからないような(^o^)/
でも、やっぱり自分で聴いてみるのが一番です(^o^)/

第1楽章:アレグロ・モデラート。まことに解説の通りで、出だしこそちょいと深刻そうですが、実はすぐに雰囲気が変わり、活力のある明快な音楽が展開されます。
第2楽章:アンダンテ・カンタービレ。主題と変奏曲の形式の、実に優美な、魅力的な音楽です。とりわけ弦楽パートの見事さには、感嘆してしまいます。
第3楽章:メヌエット。中間の、トリオ部のチェロ独奏が、チェロの音色の好きな当方にはたいへん印象的です。
第4楽章:フィナーレ:ヴィヴァーチェ。リズムが軽やかで、ファゴットの音が面白い。カノン風に熱気を増していき、終わりのところは、ああ、確かに大オーケストラなんだ、と感じさせる迫力があります。

楽器編成は、フルート(1)、オーボエ(2)、ファゴット(2)、ホルン(2)、トランペット(2)、ティンパニ、そして弦5部というものだそうです。突出する音が少ないという意味で「メロウな」響きは、この編成だけからはうかがうことは難しいです。もし考えられるとすれば、通常の二管編成よりもフルートが1本少ないことくらいでしょうか。

演奏は、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団。このコンビの特質によく似合う音楽だと感じます。1969年の1月、オハイオ州クリーヴランド、本拠地セヴェランス・ホールにて収録されたアナログ録音で、プロデューサーは Andrew Kazdin とのこと。公共の財産の仲間入りをするにはまだだいぶ間がある、最晩年の貴重な録音の一つといって良いでしょう。



■ジョージ・セル指揮クリーヴランド管
I=6'53" II=5'33" III=4'32" IV=3'29" total=20'27"

コメント

書店で大島真寿美『ピエタ』、陳舜臣『聊斎志異考』等を発見

2011年07月14日 06時01分30秒 | 散歩外出ドライブ
先の休日、サクランボの雨避けテントの撤去作業も完了しましたので、暑さを避けて日中は屋内ですごそうかと思っていたのですが、あまりの暑さに音をあげて、妻とドライブにでかけました。とくに目的もなかったため、まずは近隣の図書館へ。

図書館はさすがにぬる~い冷房で、すぐに退散。次に何げなく入った行きつけの書店は、快適に冷房が効いておりました。ここでは、じっくりと品定めできました。偶然に、大島真寿美著『ピエタ』(ポプラ社)を発見。これは、あちこちのブログで話題になっていたもので、作曲家ヴィヴァルディの弟子たちのお話です。さっそく購入して来ました。あわせて、中公文庫で、陳舜臣著『聊斎志異考』も追加購入。

夕方になってから、少し風も出てきて涼しくなりましたので、伸び放題の草刈りを少々。自走式草刈機のエンジン音に驚き、果樹園に残ったサクランボをついばむムクドリたちが、一斉に飛び立ちます。雨避けテントの中は、野鳥たちには手も足もでない領域でしたので、テントを撤去した今は、実割れのないサクランボをついばむ絶好のチャンスなのでしょう。人間の目では見逃した完熟果実が、探せばあちこちにあるのですから、鳥たちにはたしかに楽園です。
コメント

ストレートな言葉の力

2011年07月13日 06時05分43秒 | Weblog
3.11の大震災の後、大停電が続きました。ガソリン不足で、長時間ガソリンスタンドに行列ができたりもしました。電気が復旧し、テレビの映像に見る津波被害の惨状に息を飲み、原発事故の対応を、固唾を飲んで見守りました。そんな中で開催された春の選抜高校野球。職場でも、こんな時でも高校野球をやるのかね、という疑問の声もありました。ふだんスポーツには縁の薄い私ですが、スポーツの持つ活力や、多くの人々の気持ちを一つにする力などから、開催する意味はあるんじゃないか、などと話しておりました。

そんな中での、選手宣誓!

私たちは16年前、阪神淡路大震災の年に生まれました。今、東日本大震災で、多くの尊い命が奪われ、私たちの心は悲しみでいっぱいです。被災地ではすべての方々が一丸となり、仲間とともに頑張っておられます。人は仲間に支えられることで大きな困難を乗り越えることができると信じています。私たちに今できること。それはこの大会を精いっぱい元気を出して戦うことです。がんばろう、日本。生かされている命に感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います。

新聞でこの文章を読んだとき、もう、直球ど真ん中、思わず感動してしまいました。阪神淡路大震災の年に生まれた高校生が、被災地を思いやり、困難を乗り越えようと呼びかける、そのストレートな言葉と表現にうたれました。言葉の力は、すごいものだなあと感じました。

一方で、被災地の復興を担当する大臣の発言や態度が問題になり、辞任されたとのこと。たしかに、テレビ等で報道された問題シーンは、宮城県民の代表である県知事との会談というよりは、知事を恫喝しているように見えてしかたがない。被災地の人たちが怒るのは無理もないと思えます。

今更ながらに、高校野球の選手宣誓の言葉が光ります。これから、各地で夏の高校野球の地方予選が行われます。山形県の開会式は、15日の金曜日だそうです。若者の言葉が、きらきらと光ることでしょう。

コメント

ジャングルのトラ?

2011年07月12日 06時02分50秒 | アホ猫やんちゃ猫
庭木の茂みに、なにやら怪しい動きが。さては、動物園から逃げ出したライオンか、はたまたジャングルから「どこでもドア」でワープしてきたトラか?さっそく緊急出動して周囲の観衆の安全を確保するとともに、物珍しさに集まった日曜カメラマンを押しとどめ、危機管理の対応を急ぎました(^o^)/

おっかなびっくり庭木の下をのぞくと、いるいる!たしかに猛獣です!近隣の生態系の頂点に立つ、向こうっ気の強さでは天下一品の猛獣が(^o^)/





「えっ、なあに?このものものしい騒ぎは?」



いや、ごめんごめん。てっきり動物園から逃げ出した猛獣だと思ったものだから(^o^)/

「え~っ!なんですって?あたしが猛獣ですって?んまあ!失礼な!レディに向かって、それはあんまりというもんだわ!せっかく涼しいところを見つけて涼んでいるのに、なによ、ネコ迷惑な!」

怒ったアホ猫は、ぷいと横を向いてしまいました。こうなると、しばらく機嫌が治りません。夕方涼しくなって、ハンティングに出かけるまでは、そっとしておきましょう(^o^)/
どうせ、裏の畑で獲物を見つけると狂喜乱舞、ご機嫌で帰還するのですから(^o^)/

コメント (4)

日曜朝の地震で、バシュメットの番組が中断

2011年07月11日 06時02分34秒 | クラシック音楽
よく晴れて気温がどんどん上昇していた日曜の朝9時57分頃、地震が来ました。当地の震度は2~3くらいで、特に被害らしい被害はありませんでしたが、実は、NHK-FM で、ヴィオラ奏者ユーリ・バシュメットの特集をしていたのでした。放送の予定は、

名演奏ライブラリー -世界的なビオラ奏者ユーリ・バシュメットの芸術-
                         諸石幸生

「ビオラ・ソナタ ニ短調」グリンカ作曲(18分29秒)
  ビオラ:ユーリ・バシュメット、ピアノ:ミハイル・ムンチャン
「アルペジオーネ・ソナタ イ短調」シューベルト作曲(25分43秒)
  ビオラ:ユーリ・バシュメット、ピアノ:ミハイル・ムンチャン
「バイオリンとビオラのための協奏交響曲 変ホ長調k.364」
  モーツァルト作曲、(30分28秒)
  バイオリン:アンネ・ゾフィー・ムター、ビオラ:ユーリ・バシュメット
  管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
「弦楽セレナード ハ長調 作品48」チャイコフスキー作曲(29分04秒)
  ビオラ:ユーリ・バシュメット、弦楽:モスクワ・ソロイスツ
「おとぎの絵本 作品113から 第1曲」シューマン作曲(3分40秒)
  ビオラ:ユーリ・バシュメット、ピアノ:ミハイル・ムンチャン

というものです。

グリンカのヴィオラ・ソナタなんて、はじめて聴くものですし、ヴィオラで演奏されるシューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」も、大変に貴重です。たいへん気持ちよく聴きながら、MD に録音していましたが、モーツァルトの協奏交響曲の途中で地震がやってきて、地震速報に切り替わってしまいました。被災地では、津波を警戒して緊張が走るところでしょうし、相手が地震では誰に文句をいうこともできず、仕方がありません(^o^)/

そして、夜はテレビの「N響アワー」です。今夜は、プロコフィエフの協奏曲の特集。プロコフィエフは、当方お気に入りの作曲家の一人だけに、ひそかに楽しみにしておりました。
先々週までは、民放テレビの「JIN~仁~完結編」を観ていましたが、こんどはN響アワーに戻っています。

ピアノ協奏曲 第2番 ト短調 作品16    ( プロコフィエフ作曲 )
ピアノ: アレクサンダー・ガヴリリュク
[ 収録: 2011年6月3日, NHKホール ]
 
バイオリン協奏曲 第2番 ト短調 作品63 から   ( プロコフィエフ作曲 )
バイオリン: 神尾 真由子
[ 収録: 2011年6月8日, サントリーホール ]
管弦楽 : NHK交響楽団
指 揮 : ウラディーミル・アシュケナージ

CDでは何度も楽しんでいるピアノ協奏曲第2番のダイナミックな演奏を、映像としてははじめて堪能。こんどは地震が来ないように祈りながら、番組を観ました。(^o^;)>poripori
コメント (2)

東川篤哉『謎解きはディナーの後で』を読む

2011年07月10日 06時05分24秒 | 読書
久々に出かけた書店で、たまたま平積みになっていたのが、東川篤哉著『謎解きはディナーの後で』でした。さらりと読み始め、さらりと読み終えました。毎回かならず人が死ぬ設定になっているのがちょいと惜しいと感じられるくらいに、むしろお嬢様と執事とスノッブ上司の関係が可笑しい。

でも、育ちというのはおのずと現れるもので、同僚の間で、「あの人、お嬢様なんだよね~」という噂が出ないのも不思議です。どうも、このお嬢様も執事も、ほんとのハイソサエティではないみたい。言葉遣いからして、やけに下々の語法が頻出します。また、スノッブ上司のなんとかモータースのお屋敷や財力と(心の中で)比較していたり、ノーブレス・オブリージェとはやや距離があるようで、どうも内心もホントのお嬢様とは言い難いみたい。

まあ、時代劇に出てくる、町方の暮らしぶりにやけに興味を示す若殿やお嬢様と同様に、庶民の願望の中にあるお嬢様像なのだろうと思います(^o^)/

コメント (4)

伊坂幸太郎『週末のフール』を読む

2011年07月09日 06時05分37秒 | 読書
前の職場の同僚だった日曜劇作家の推薦で読み始めた伊坂幸太郎作品、『死神の精度』『モダンタイムズ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『重力ピエロ』に続き、『週末のフール』を読みました。読み始めるまで、てっきり『週末のプール』だとばかり思っていたのは、実はナイショです(^o^;)>poripori

私たちの日常とは少し違う、ややねじれた日常を描くことに巧みな(と感じられる)この作家が、三年後に小惑星が地球に衝突し、恐竜が死滅したときと同じような破局が予想される時の日常を描き出そうとしているのでしょう。

第1話:「週末のフール」
第2話:「太陽のシール」
第3話:「籠城のビール」
第4話:「冬眠のガール」
第5話:「鋼鉄のウール」
第6話:「天体のヨール」
第7話:「演劇のオール」
第8話:「深海のポール」

韻を踏んだタイトルの物語で描かれるのは、いささかエキセントリックではあるけれど、まぎれもない日常性です。映画で描かれるような、生々しいパニック場面ではなくて、それでも日常を営む人たちが、互いに関わりを持つようになっていく、そのあたりの描き方が、冷たくなくていいですね~。

眼前の破局的状況に、人々がどう対処したかを知っているだけに、パニック映画のように、危機に際し暴動や殺戮が頻発する状況を自明のことのように想定するものには、同意しかねます。偶発的な事件は起こっても、全体としては、やっぱり日常性の方が強いのでは?という考えに傾いてしまいます。もっとも、ミステリーには殺人事件が必須であるように、それでは映画は始まらないのでしょうが(^o^;)>poripori
そのへんが、小説というもののよさ、でしょうか。
コメント (4)

藤沢周平原作の映画「小川の辺」を観る

2011年07月08日 06時05分52秒 | -藤沢周平
少し前に、藤沢周平原作の映画「小川の辺」の山形県先行上映を観ました。サクランボ作業が一段落した頃合いに、妻と二人で出かけてきたものです。先に原作『闇の穴』を読んでおり、感想というか、紹介も記事にしております(*1)し、前々から楽しみにしていた(*2)ものです。

藩の失政を痛烈に批判して脱藩した佐久間森衛に対し、藩主は探索者を差し向けますが、先任者は佐久間の所在は突き止めたものの、病を得て帰藩します。卓越した剣の技倆を見込まれて次の討手に選ばれたのは、戌井朔之助でした。朔之助の妹・田鶴は佐久間森衛に嫁いでいるため、佐久間と朔之助は義理の兄弟であり、また互いに剣の腕を認め合った友でもありました。田鶴は勝気な上に小太刀をよくし、夫とともに歯向かってくるだろうと予想されます。兄妹で斬り合う場面になったとしても、主命ならば拒むわけにはいかず、父は妹を斬れと言います。そして、母はそんな夫を激しく批難します。なるほど、田鶴さんはこの母親似なのだなと、思わず納得する場面です。

旅立ちの前夜、戌井に仕える若党の新蔵が同行を願い出ます。幼い日には、兄弟同然に育った新蔵は、田鶴と相思の関係だったのですが、身分違いのために、思いを抑えていたのでした。そして、海坂藩から行徳に向かう旅が、丹念に描かれます。この自然描写は、テレビ映画にはできないものです。月山を舞台に撮影された、文字通りの大自然の風景。ひたすら歩き続ける主従の会話と回想が、これまでの三人の関係を、少しずつ描き出します。

そしてたどり着いた行徳の宿で、新蔵はついに田鶴を発見しますが、朔之助にはまだ見つからないと報告します。それは、田鶴が外出して不在となる時間帯を探りだし、兄妹が対決して田鶴が斬られることを防ごうという配慮でした。そして、・・・・・・



江戸時代の奥州路を舞台とした、一種のロードムービーでしょうか。途中、季節の風景の美しさは、まさに映画の醍醐味でしょう。静かな、力強い映画です。



一点だけ注文をつけるとすれば、夫を斬られたすぐ後に新蔵と並んで兄を見つめる田鶴の姿に、いささか割り切れない気もします。少なくとも、はじめは顔をそむけているが、新蔵に促され、もう二度と会うことのない兄を見送るくらいかな、と思いました。

(*1):藤沢周平『闇の穴』を読む~「電網郊外散歩道」2009年8月
(*2):サクランボの収穫が終わったら映画「小川の辺」を観よう~「電網郊外散歩道」2011年6月

コメント (12)

デスクトップ扇風機

2011年07月07日 06時04分59秒 | 手帳文具書斎
夏場、自宅の机上で愛用しているものに、クリップ型の扇風機があります。カバー面の直径が20cm程度のものですが、これをデスクに固定し、首ふり設定にしておくと、けっこう涼しい。ついでにデスクトップPC本体にも風を当てると、冷却効果もあるでしょうか(^o^)/

冷房を使わずに部屋全体の温度を左右できるのは、窓を開放することですが、部分的な涼しさは、デスクトップ扇風機でもけっこう実用的です。震災と原発事故に伴う節電要請に応えるという意味だけでなく、北窓を背にして座る当方には、よほどのことがなければエアコンいらずで、日常的な便利さがあります。

デスクトップ扇風機、意外に重宝する書斎の小道具です。

コメント

コレルリ「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ集Op.5」選集を聴く

2011年07月06日 06時05分36秒 | -室内楽
このところ、通勤の音楽で聴いていたのが、コレルリの「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ集Op.5」です。といっても全曲集ではなくて、後半の第7番~第12番までの6曲を集めた選集です。第7番から第9番までが4楽章、第10番と第11番が5楽章からなり、第12番「ラ・フォリア」は単一楽章の音楽です。

バロック音楽の中でも、ヴィヴァルディには、若い娘たちに似合う陽気な華やかさがありますが、コレルリの音楽には、もう少し別なものを感じます。激しさを内に持った若者が波乱の中で年齢を重ね、一見すると古典的でストイックな音楽を展開している、そんな情景です。

寺神戸亮のバロック・ヴァイオリンは、奏法のせいもあってか、伸びやかで澄んだ音が楽しめます。ルシア・スヴァルツのバロック・チェロも、現代楽器のような押し出しの強さはありませんが、低音部をしっかり支え、ヴァイオリンと対比されます。通奏低音は、第10番と第11番はオルガンで、他はチェンバロです。この威圧的でないオルガンの音も、実にいいのですね。

特に第12番「ラ・フォリア」は、イベリア半島に起源を持つ舞曲「フォリア」の主題をベースに、これを様々に変奏するもので、ニ短調という調性もあって、一種独特の緊張感を感じさせます。たぶん、ヴァイオリン学習者が一定の段階に達したとき、挑戦する曲として愛奏されているのではなかろうかと推測しています。たしかに、数百年にわたって引き継がれてきた、魅力を感じさせる音楽です。

CDは DENON のクレスト1000シリーズのうちの一枚で、COCO-70459 という型番のもの。バロック・ヴァイオリンが寺神戸亮、バロック・チェロがルシア・スヴァルツ、通奏低音にチェンバロまたはオルガンを採用し、シーベ・ヘンストラが演奏しています。1994年、オランダのデン・ハーグ、旧カトリック教会でのデジタル録音で、響きがたいへんに自然で魅力的です。

通勤の音楽として、カーステレオで聴いた後に、自宅のパソコンに取り込み、Ubuntu-Linux から USB オーディオプロセッサを経由し、ミニコンポで鳴らしております。早朝に、コーヒーを飲みながら、音量を絞って小型スピーカで聴くコレルリの音楽は、なかなか良いものです。
コメント

対向車がライトを消し忘れているとき

2011年07月05日 06時01分28秒 | Weblog
朝の通勤路で、対向車がライトを消し忘れているときがあります。都会の道路と違い、ほとんどが片側一車線、対面通行ですので、やけに目につきます。おそらく、遠方から通っている人で、トンネルを抜けてもライトを消すのを忘れてしまい、そのままになってしまっているのでしょう。そのまま車を降りてしまい、暗くなるまで気がつかずにいて、すっかりバッテリー上がりにならないとも限りません(*)。早朝出発の長距離通勤を余儀なくされている人が、そんな目に遭ったら、なんともお気の毒です。ここはひとつ、武士は相身互い身で(^o^)、ピカピカとパッシング。すると、これに気づいた人が、「やあ、ありがとう」風に手をあげて挨拶していきます。ちょいと朝から気分良く、通勤の音楽も一段と爽やかに聞こえます(^o^)/。

そうそう、ただいまの通勤の音楽は、コレルリの「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ」です。寺神戸亮のバロック・ヴァイオリン他を楽しんでおります。

(*):昔はよくやったものでした。最近は、オートライトというのでしょうか、周囲の照度で自動的に点灯・消灯する機能があるようです。我が愛車 Nissan TIIDA Latio も、この機能のおかげで、最近はバッテリー上がりの失敗がありません(^o^)/

コメント (2)

久々に書店に出かけ、本と音楽CDを購入する

2011年07月04日 06時01分12秒 | 散歩外出ドライブ
過日、ちょいと酒席がありまして、予定時刻までの空き時間に、某書店に出かけました。ぐるりと店内を見回して新刊の平積みの中から探し出したのが、2010年の本屋大賞第一位という帯のついた、東川篤哉著『謎解きはディナーの後で』です。ついでに、ごくわずかになってしまったクラシック音楽CD売り場で、マルタ・アルゲリッチ(Pf)とクラウディオ・アバド指揮ベルリンフィルによる、ラヴェルのピアノ協奏曲と「夜のガスパール」「ソナチネ」「高雅にして感傷的なワルツ」「水の戯れ」を収めたCD(グラモフォンUCCG-5116)を1枚だけ購入してきました。1967年の録音ですから、今から40年以上も前の、アルゲリッチもアバドも若かった時代のものです。ちょいと懐かしく嬉しい発見でした。こういうお買い物は、通販で簡単に注文して届くものとは違った「お宝」感というか、ありがた味があります。残り物に福あり。こんな発見も、なかなかいいものです。

そうそう、昨日のN響アワー、ローター・ツァグロゼクさんの指揮で、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」がとても良かった。「ジュピター」を聴いたのは久しぶりでしたが、やっぱりいい曲ですね~。西村・黒崎コンビも、いい感じです。
コメント (2)

うちわと扇子、扇風機、帽子

2011年07月03日 06時05分26秒 | Weblog
暑い季節がやってきて、室内で暑さを防ぐにはどうするか、いろいろ考えなければならない時期になりました。当地で室内の暑さを防ぐには、窓を開放して涼風を入れるのが一番です。田舎の有り難味で、果樹園を吹き抜けてくる北風は、ぐっと涼しく感じます。夕方など、短パンをはいていると、膝のあたりが寒く感じられるほどです。ただし、風がパタッと止まる時がありますので、そんな時にはうちわや扇風機がありがたいものです。エアコンのスイッチを入れるのは、そうですね、盆地特有のフェーン現象で、体温よりも気温が上がる時でしょうか。さすがに身の危険を感じます(^o^)/

外出時には、さすがに扇風機を持参するわけにもいかず、帽子と扇子が必須です。クラシックな帽子に扇子を持って歩く姿は、いかにも中年おじんですが、実際にそういう年齢になってしまっているのですから、熱中症帽子、もとい、防止のためには、見栄よりも実質です(^o^)/

コメント

最近、書店に行ってない~サクランボ収穫作業が終わったら

2011年07月02日 06時03分55秒 | 散歩外出ドライブ
週末農業が多忙なために、最近、とんと書店にごぶさたしています。シーズン外には、時間ができるとちょっと書店をのぞいてこようと出かけるのですが、ここしばらくは果樹園の管理と収穫で手一杯で、とても新刊書を眺めたりするゆとりもありませんでした。

さて、サクランボ収穫作業が一段落したら、映画「小川の辺」はもちろんのこととして、やってみたいこと、行ってみたいところは?

(1) 書店めぐり
(2) 藤沢周平記念館「用心棒日月抄」企画展
(3) 山形弦楽四重奏団定期演奏会 7月17日
(4) 山形交響楽団定期演奏会 7月23日・24日
(5) 何かその他におもしろい映画はやっているのかな?
(6) そうそう、そろそろ耳鼻科に行かなければ。

こんなところでしょうか。音楽CDもあまり購入していませんしね~。

コメント (2)