眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

風の音

2024-04-13 | 
恐竜の化石って何処にあるの?
 少年が尋ね
  僕は煙草を深呼吸する様に深く吸った
   井戸の底に眠っているんだよ
    井戸の底?
     そう、
      そこで鳥の化石が眠っているんだ

      哀しみの向こう側で汽笛が鳴った
       乗車した君を見つめ
        発車する夜行電車を眺めた
         君は君である可能性を示唆し
          僕は僕である地獄に徘徊した
           月明かりがとてもとても綺麗だった

           風の音を忘れたのかい?

           黒猫のハルシオンが皮肉に髭を伸ばした
            あくびする彼を尻目に
             僕はギターの弦を交換する作業に埋没する
              ランプの灯りの下の手作業は事の外難しい
               ぱちん、と
                余った弦をニッパーで切った

                風の音を忘れたの?

               少女が優しく微笑んだ
              僕らは草原に立ち尽くしていた
             誰かがその影を白黒のフィルムに刻印したのかもしれない
            影の中の陰影は
           まるで生と死の境界線の様だった
          僕と少女の日常が切り取られ
         白い冷蔵庫の扉に展示された
        磨耗してゆく白線を流し
       生きるという事に途方に暮れた深夜
      やはり今日も夜行列車は走ったのだ
     君と僕の記憶を乗せ
    風の音を聴いていた昨日と今日と未来
   汽笛が鳴った

  ねえ、ハルシオン。
 風の音は何処から聴こえてくるの?

黒猫は静かに煙草を揉み消して
 それから面白そうに僕を眺めた
  
  あんたさ、
   あんた本当に忘れちまったのかい?
    風はただ流れるんだ
     そこには何処も此処もないんだよ。
      それを考察するのは無意味だよ。

      それに
       風の音が全体何の事なのか本当に忘れちまったのかい?

        本当に忘れたの?

         少女が哀しそうに呟いた

          ねえ、風の音は何処から聴こえてくるんだい?

           井戸の底よ。

            井戸?

             そう。記憶の井戸の底。
              そこに鳥の化石が眠っているわ。
                
               鳥の化石?

                忘れたの?
                 あなたの友達の記憶たちを。

                 草原に強い風が吹いた
                  きっと嵐になる

                 ハルシオンが忠告した
                あんたは
               あんた自身のレ・ゾンデートルを失った
              もはや
             あんたはあんた自身であったあんた自身では無い
            消去されたんだよ
           あの螺旋状の記憶の断層に於いて
          
          夜が繰り返される
         幾度となく
        眠れない夜が訪れる
       深夜
      僕は夢を見たんだ
     あの黒テントの夢
    飛べない鳥達の化石
   ねえ
  見たんだ

 風の強い日には想い出すだろう
あの物語と
 物語の終焉を
  終わりが在る事は救いだよ
   魂が昇華され
    全てが白紙のノートに分別される
     君はそう云って煙草を吹かせた
      ねえ
       見たんだ
        永遠の羅列を
         風の歌を
          容赦なく照りつける蛍光ライトの下
           井戸の底の鳥の化石たち
            僕の大切な友達
             
             ねえ
              見たんだ














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4 コメント

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sherbetさんへ (sepia)
2014-11-03 09:52:31
かんじんなもの 大切なものは目に見えないのかも知れませんね。 原風景だったり、経験を超えたものだったり・・・たぶんそれぞれの想像力だったりするんでしょうね。

わたしも以前に 「風の楽章」 「風の洗礼」・・風をテーマにした絵を描いてました。

赤ちゃんが、はじめてこの世界を見えたように・・見れたらどんなにいいかと思います。
でも一方で 目の前に広がる風景や情景だって それぞれ見る人の内面で構築していくのかも知れませんね。

見えないものを見ることの難しさを・・・何かの瞬間に気付かせてくれる あのブレイクの詩にある
  「一刻(ひととき)のうちに久遠を」・・なんでしょか?
sepiaさんへ (sherbet24)
2014-11-03 22:28:50
かんじんなもの 大切なものは目に見えないのかも知れません。僕らが知覚の扉を開くのにはまだ時間がかかる様な気がしています。
sepiaさんの絵や貴女との会話にはそのヒントが隠されている様な気がします。
だから僕はsepiaさんの作品やsepiaさんとの会話をとてもとても大切に想っています。
世界は哀しく儚い美しさに包まれている雨の日の午後のようですね。

W・ブレイクの詩にこういう一節があります。

「美わしき悦びに満てる真の魂は穢れること無し」

この言葉をsepiaさんに贈りたいと想います。
高校生の頃、長崎の石畳の坂を上りながら大切に口ずさんだ僕の宝物の言葉です。
sepiaさん、いつもたくさんの優しさをありがとうございます。


sherbetさんへ (sepia)
2014-11-05 12:04:38
w・ブレイクの詩をありがとうございます。

   真の魂は滅びることなく・・・

ホントですね。
すべてのものに息づく根底にある静けさを・・・
そして、あらゆる瞬間が喜びと感じられますように!!

    サンキャッチャーの朝陽を受けて
         present moment
sepiaさんへ (sherbet24)
2014-11-07 22:48:53
精神の静けさに埋没したくて音もない世界でお酒を舐めています。
深い青の静けさの世界。
水の中から世界を眺めています。
昔、誰もいない美術館で飽きもせず絵を眺めていました。
静かな空間。
静けさ。
ただそれだけを・・・。

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