(© FUSOSHA Publishing Inc. 提供 北栄町役場大栄庁舎とコナン )
① ""名探偵コナンに会える街で国境を超えた「三兆円事件」が発生! 壮絶なジョーク合戦の結末は…? ""
ハーバービジネスオンライン
2019/02/07 08:31
鳥取県のある町が3兆円を請求され、そして大量のハンバーガーが振る舞われるという“謎の事件”が発生した。と書くと訳が分からないかもしれないが、それはそっくりそのまま事実なのだ。
◆「名探偵コナンに会えるまち」にまさかの「3兆円請求」!
今回の「事件」が起きたのは鳥取県中部の北栄町。
鳥取県北栄町は旧大栄町と旧北条町が合併して2005年に発足、2018年9月現在の人口は15,166人。人気漫画「名探偵コナン」の原作者である青山剛昌氏の出身地であることから、旧大栄町時代から「名探偵コナンに会えるまち」として地域活性化を図ってきた。
名探偵コナンは1994年の原作漫画連載開始・1996年のアニメ放映開始以来、主人公「江戸川コナン」(工藤新一)と謎多き大規模犯罪組織「黒の組織」が繰り広げる複雑な心理戦や駆け引きが読者の心を掴み、日本のみならず、アジア各国を始めとする世界各地で絶大な人気を誇っている。もはや、説明不要の国民的漫画・アニメ作品だ。
旧大栄町では地域活性化の一環として、1999年12月に開通した橋を「コナン大橋」と命名、町内各地にブロンズ像や案内看板の設置を進めるようになった。平成の大合併による北栄町の発足後も、2007年3月に「青山剛昌ふるさと館」を道の駅登録全国第1号「道の駅 大栄」の隣接地に開設、2013年にはJR由良駅に愛称「コナン駅」を付与して駅舎に観光案内所を移設するなど大規模リニューアルを実施、2017年3月には複合観光施設「コナンの家」「米花商店街」を新たに開設するなど、北栄町の「コナンタウン化」は一層進むこととなった。
2018年8月15日には、青山剛昌ふるさと館の来館者数が100万人を突破。「コナンタウン」は鳥取県内有数の観光地として国内外のコナンファンからも知られる存在となった。
◆コナンタウンを舞台に起きた「国境を超えた事件」
「名探偵コナンもびっくり!」な今回の事件の発端は、8月21日(現地時間8月20日)に米国で誰もが知る人気司会者・コメディアンの「コナン・オブライエン氏」(Conan O’Brien氏)(以下、オブライエン氏)が自身の番組内で「名探偵コナン」と「コナンタウン(=北栄町)」を紹介したことに始まる。
名探偵コナンの原作漫画連載開始1年前(1993年)から活動を開始していたオブライエン氏は、日本でのコナン人気に嫉妬し、「頭脳明晰でスーツを着ている姿がそっくりだ」などとしてコナンタウンに対し「賠償金3兆円」(日本円)を請求。その後もSNS(Twitter・Facebook)などを通じて「クリーニング店に『AMERICAN CONAN’S FLUFF’N FOLD』とオブライエン氏の名前を冠すこと」「コナンタウンへの鍵」「コナンタウンに設置された名探偵コナン像の髪型をオブライエン氏と同じ髪型に変更すること」を要求した。
突如として賠償金を請求されたコナンタウン(北栄町)の動きは早かった。
北栄町はFacebook上で「ラシュモア山のリンカーン大統領の横に松本昭夫北栄町長の顔を作ること」「ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに松本昭夫北栄町長(MAYOR MATSUMOTO)の星を作ること」「北栄町の全人口に相当する15,000個のハンバーガー」を要求し、偽物の3兆円小切手を準備するなど、応戦に出たのだ。
その後も壮絶な「対決の応酬」は続き、司会者「コナン・オブライエン」と鳥取県の小さな街「北栄町」が繰り広げる複雑な心理戦や駆け引きは日に日に激化し続けた。日米間で生じた事件の平和的解決は「喫緊の課題」となり、駐日アメリカ大使のビル・ハガティ氏までもが動いた。同氏が8月31日に調停役を申し出、9月4日には米国農務省とともに米国産牛肉の提供を示唆するツイートも行うまでに至ったのだ。
そして、ついに渦中のコナン・オブライエン氏が9月6日に「緊急来日」し、北栄町に直接乗り込むことが決まったのだ。
◆配られたのは鳥取和牛でもアメリカン・ビーフでもなく、まさかの!?
一方の「喧嘩をふっかけられた」北栄町はというと……「コナンの来日」に沸き立っていた。
コナン・オブライエン氏が来町する9月6日13時30分からは、「コナン駅」の愛称が付けられたJR由良駅前の広場で「米国の象徴的食べ物」であるハンバーガー1,000個が振る舞われることが決定。天候に恵まれなかったこともあり、準備作業を早くから進めていたイベントスタッフやハンバーガースタッフからはどれだけの参加者が集まるのかと先行きを危惧する声も聞かれたが、その心配は杞憂に終わった。
地元在住の子供連れや学生らに加えて、時おり思い出したように毎時1~2本ほどやってくる短い列車から下車した地元客、騒ぎを聞きつけた観光客らもその輪に加わって駅前広場に長蛇の列が生まれ、当初の予定時刻の15分前となる13時15分頃から「米国を食らう」べくハンバーガーの調理・配布が開始された。
しかし、このハンバーガーにはある秘密があった。
実はこのハンバーガー、鳥取和牛でもアメリカン・ビーフでなく「豪州産」牛肉使用のオージービーフバーガーなのである。
調理スタッフの着ている服には「オージー・ビーフで元気!」の文字、オージー・ビーフ大使・牛肉大使を称するカントリーファッションのおじさん(アンドリュー・コックスMLA豪州食肉家畜生産者事業団駐日代表)やスタッフにより、熱烈なオージービーフアピールが行われた。
どうやら、後日確認したところ、何故かオージー・ビーフ生産者団体による「オージー・ビーフ祭り」の一環として、ハンバーガー1,000個の配布が行われたようである。
◆世界中の「コナンファン」を前にしたジョーク合戦の結末は……?!
オーストラリア生まれの「おいしいハンバーガー」で和やかな雰囲気に包まれた由良駅前であるが、ここでまたもや新たな「事件」が発生した。オブライエン氏が予定時刻の13時30分になっても一向に到着しないのである。
オブライエン氏は誤って北栄町に近い「鳥取砂丘コナン空港」でなく、遠く離れた「米子鬼太郎空港」に向かっていたのである。鳥取空港も米子空港も鳥取県内にあり、日本の有名漫画・アニメキャラクターの名前を冠しているため、間違えるのも無理はないかもしれない。
結局、オブライエン氏は20分遅れで由良駅前に「無事到着」となった。
到着するやいなや、世界各地から訪れた熱狂的なコナンファン(オブライエン氏のほう)やコナンファン(名探偵ファンのほう)、そしてコナン(多くは名探偵のほう)に因んだコスプレイヤーらが押し寄せ、駅前広場には大きな人だかりが生まれた。由良駅の1日の利用客(乗客数)は約500人前後だというから、これはまさに「大事件」だ。
オブライエン氏は、国内外メディアの取材やファンへの握手、記念撮影、サインに応えたのち、由良駅の正面玄関前に立った。
14時からは、松本昭夫北栄町長とオブライエン氏による記念式典が開催された。
松本昭夫北栄町長は、オブライエン氏について「日本でいえばタモリとか明石家さんまとかそういうような方、影響力のある立派な方」と紹介をしたうえで「北栄町一日町長」と「北栄町観光大使」への就任を依頼。オブライエン氏もこれを快諾した。
続けて、1,000個振る舞われることとなったオージー・ビーフのハンバーガーに対しても、「(アメリカンビーフは)やはりTPPで離脱したらなかなか難しくなるんじゃないかな?」「鳥取県の和牛は去年日本一になりまして、ちょっと心苦しいところがある」とジャパニーズジョーク(?)を交えながら、オージー・ビーフについてもアピールした。
オブライエン氏も、「私は6000マイル、約1万kmも離れたところからここまでやってきましたが、町長はここに来るまでたったの25mです」「私達が会うことになったのは、実物の、オリジナルのコナンであることは私だということを認め合うためです」「これまでみなさんは偽物の神(=名探偵コナン)を信じていたんです」「まあそれは許します」「私からの親善の印として、また町長のご提案により、今日は1,000個のハンバーガーを持ってまいりました!もともと2,000個あったんですけれども、飛行機での時間が長かったのでみんなで食べてしまいました」「そして、偽物の3兆円の小切手をまた現金化できるのを楽しみにしています」と本場のアメリカンジョークを披露。北栄町観光大使就任決定に対する御礼と名探偵コナン、北栄町民への御礼を述べ、会場を沸き立たせた。
その後、オブライエン氏は松本昭夫北栄町長とともに名探偵コナンでお馴染みの「真実はいつもひとつ」ポーズでの記念撮影を行い、名探偵コナンに扮した地元こども園年長組の子供たちとの交流も行った。
今回の「本物のコナン」を巡って勃発した事件は、こうして幕を下ろしたのである。
「コナンタウン」として世界中に知名度を高めたかった北栄町、日本での知名度を高めてGoogle検索での順位を高めたそうであったオブライエン氏、何故かハンバーガーを大盤振る舞いすることとなったオーストラリアのオージー・ビーフ生産者団体、そして世界中から駆け付けたコナン・オブライエン氏のファン、名探偵コナンのファン、地元の北栄町民たち…決して交わることのなかった「世界各地の人々」が1つになったことはまるで「具沢山のハンバーガー」そのものであり、そして出来立てのハンバーガーのような「おいしい」結果となって、事態は「丸く」収まった。
「真実はいつも1つ」であるが、コナンは1人ではなかった。そして、おいしいイベントに街を訪れた人々が1つとなった1日であった。
しかしこのハンバーガー、結局どうして「オージー・ビーフ」だったのだろう…。
<取材・文・撮影/淡川雄太(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」
※ 日本の漫画・アニメの文化的、経済的な影響力に今更ながらビックリした出来事
でした。