(中性子星合体によって放出された物質の中で生成された重元素が電磁波を吸収し、さらに再び放射している様子。中性子星合体で生じるキロノバ放射には、様々な重元素による電磁波の吸収と放射が入り混じっている。)

① ""核融合科学と天文学の協力で解き明かす、宇宙の重元素の起源""
2019年2月21日
金やレアアース元素といった重元素の起源として、中性子星同士の合体が近年注目されています。2017年8月には、中性子星同士の合体に起因する重力波と共に、「キロノバ」と呼ばれる爆発現象に伴う電磁波がすばる望遠鏡などの光学望遠鏡で初めて捉えられ、世界的に大きな話題となりました。このときに観測されたキロノバの光を理論予測と比較した結果から、中性子星合体で多くの重元素が生成されたと考えられました。
中性子星同士の合体で生成された重元素の種類や量を詳しく知るためには、元素が吸収・再放射する光の波長や強さといった元素の固有情報である「原子過程データ」を使った分析が必要です。ところが、重元素については世界基準で広く使用されている原子過程データが極めて少ないのです。
核融合科学研究所は、高精度な原子過程データを計算によって構築する国際共同研究を進めています。核融合科学が計算対象としてきた元素は中性子星合体で生成される重元素とは異なるものの、計算手法を応用することは可能です。研究チームは、原子過程データに関する実験データや先行研究が最も豊富な重元素の一つ「ネオジム」に注目しました。重元素の場合、電子配置の組み合わせが多様なことから、原子過程データの計算に膨大な時間を費やします。
研究チームは、計算コードを拡張したり、電子配置の組み合わせの選び方を工夫したりして、計算量を減らす方法を考案しました。その結果、比較的短い計算時間でネオジムの原子過程データを求めることに成功しました。このデータは実験データとよく一致し、また格段によい精度を示していました。今回考案した計算手法を用いることで、世界最高精度の原子過程データを得ることができたのです。
研究チームは、今回得られた原子過程データを用い、中性子星合体で生成されたネオジムによる光の吸収・再放射のシミュレーションを国立天文台の大型計算機を使って行いました。その結果、定量的に見積もった誤差は十分に小さく、キロノバからの光の分析には十分に信頼性の高い計算手法であることが確認できました。今後は同様の計算手法を用いて、他の重元素についても精度の高い原子過程データを構築することで、中性子星同士の合体で生成される重元素について詳しい分析が可能になります。
本研究は、核融合科学研究所の加藤太治准教授、リトアニアのビリニュス大学のガイガラス・ゲディミナス教授、東北大学(前国立天文台)の田中雅臣准教授らによる研究チームによって進められました。
この研究成果は、2019年2月1日付けの米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント・シリーズ』オンライン版に掲載されました。