(米ドル/円チャート)
1分足 19/02/19 20:45
110.76 、▲0.16
① ""COLUMN-ドル円は我慢の時、投資家は細かい逆張り戦略を=植野大作氏 ""
2019/02/19 16:20
植野大作 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト
[東京 19日] -
年明け後のドル円相場は急落後に反発、明確な方向感を欠く展開になっている。1月3日早朝、ニューヨーク市場の終値確定後の値洗いを終えて持ち込まれた本邦外国為替証拠金(FX)取引による強制ロスカットの連鎖が起きると、クロス円も巻き込んだ下げが加速、ドル円も一時104円87銭と昨年3月以来の安値圏まで差し込んだ。
日本の正月休み中で、米国株式市場が引けた後の早朝という薄商いの時間帯だったため、損失限定注文による売り圧力を通常の値幅で吸収できなかったとみられるが、非常に特殊な需給消化が数分程度で一巡すると間もなく反発を開始。今月14日には一時111円13銭と、わずか6週間で6円以上も上昇する場面があった。
1日発表された1月米雇用統計が強かったことで米国経済に対する過度の悲観が後退する中、米政府機関の再閉鎖を回避するために必要な暫定予算が成立、米中通商交渉について前向きな報道が相次いだことも追い風となり、ドル円相場に失地回復を促した。
ただ、14日発表の12月米小売売上高が予想外の前月比マイナス、しかも9年ぶりの大幅な落ち込みとなって市場に衝撃が走った。米国経済の腰の強さに対する疑心暗鬼が台頭したことで、ドル円の快進撃にもブレーキがかかり、本稿を執筆している19日の東京市場では1ドル=110円台半ばで取引されている。
この先しばらくドル円相場は下値の堅さと上値の重さが共存し、方向感の出にくい往来が続きそうだ。昨年のドル円相場は値幅9円99銭と変動相場制移行後の最小記録を樹立したが、当面は大同小異の展開が続くだろう。
★ <過度の悲観も楽観も許さない米政治状況>
まず政治面では、米国議会が提出した超党派合意の予算案にトランプ大統領が署名したことで、政府機関の一部閉鎖が再発するリスクは後退した。現在進行中の米中通商協議についても、従来3月1日とされていた対中関税率25%への引き上げ猶予期限がさらに60日間延長される可能性が浮上しており、🌀 米中貿易戦争再発への懸念も緩和している。
🌀 植野氏もさすがと言うか、やっぱりと言うか""米中貿易戦争""という言葉を使って
います。
ただ、米中通商交渉の結果は確認するまで分からない。また、現在は効力停止となっている米連邦政府の債務上限が3月1日の期限を過ぎても引き上げ等の対応措置がないまま放置された場合、夏場から秋口にかけて米国債のデフォルト懸念が再燃するリスクが指摘されている。
来年の今頃には米大統領選および連邦議会選の予備選挙が始まるため、トランプ大統領や議会側も「ワシントン発」の株安ショックや政策不況に突入するリスクを慎重に回避すると思われる。だが、トランプ米大統領の言動を予測することは第三者には困難だ。この先どのような展開になるのか、読み切るのは容易ではない。
この先も米財政政策や米中通商交渉に関しては、市場心理を好転させたり悪化させたりするニュースが錯綜するだろう。両方首尾よく解決した場合は「株高・円安」に、決裂した場合は「株安・円高」と、上下どちら側にも相場を動かす可能性を秘めている。過度の悲観も楽観も許さない状況が続き、ドル円相場をどちらかワンサイドに動かすテーマにはならないのではないか。
★ <政府閉鎖の影響で米景気判断難しく>
「政治ネタ」に由来する方向感がつかみにくくなる中、当面のドル円相場は地道な経済指標の観察結果に基づくファンダメンタルズ由来の方向を模索することも難しい局面を迎えそうだ。
12月米小売売上高の大幅な落ち込みは、米クリスマス商戦の好調を伝えていた業界データで楽観論が広がっていただけに、失望も大きかった。ただ、その前に発表された1月雇用統計は非常に良好な結果だったほか、年末年始に大幅に下落した株価が反発しておおむね急落前の水準に戻りつつあり、このままズルズルと消費が落ち込むとは考えにくい。「米国経済失速の予兆とみるのは早計」との指摘が大半だ。
今後発表される年末年始の米国経済指標には、12月22日から1月25日まで35日間も続いた政府機関の一部閉鎖や、1月末に米国北東部から中西部を襲った大寒波などによる「ノイズ」が混入してくるため、一時的な景気下押しとその反動が一巡するまで、景気の基調判断が非常に難しくなる。
★ <「欲求不満をため込む」相場展開に>
結果的に、米国の金融政策は当面、「忍耐強い様子見モード」での運用が続くだろう。現在、米国の政策金利は先進国最高の水準で推移している一方、日銀による異例の低金利政策は出口が全く見えなくなっている。米国と日本の政策金利差は十分に開いた状態のまま、拡大も縮小もしない状況がしばらく続きそうだ。
米国で金利先高観が後退する中、ドルの上値が目立って軽くなるとは思えないが、世界一の安全資産である米短期国債の利回りが日本の20年国債の6倍近くのレベルで高止まりしているうちは、ドルの下値が極端に柔らかくなるとも思えない。
現在、日本では超低金利政策の長期化が金融機関の死活問題になりつつあり、国内金利だけで十分な期間収益を稼ぎ出すのが難しくなる投資家の苦悩が一段と深まっている。ドルの値段がある程度まで下がれば、押し目買い興味の湧出も観測されるだろう。
これまで幾度も主張してきた通り、筆者はドル円相場のすう勢を判断する際の軸足を日米両国の金融政策格差に置いている。為替を決める最も重要な要素である金利差が動かなくなるなら、ドル円相場もあまり動かなくなるとみるのが自然な考え方になる。
当面のドル円相場は、1ドル=110円00銭を中心に上下数円、大きく見てもプラスマイナス5円程度の値幅で、極端なドル高も円高も進み難い展開が続くのではなかろうか。為替相場の予測は「上がる」、「下がる」、「横ばい」という3つのパターンから選ぶしかないが、当面は「ドル円=おおむね横ばい」の実現確率が最も高いとみられる。
この先しばらく国内外のドル円トレード愛好者は「上がったら売る、下がったら買う」が基本の細かい逆張り戦略を余儀なくされるとみられ、欲求不満をため込む展開が続くだろう。ファンダメンタルズに由来する「骨太の方向感」がドル円相場に現れるまで、辛抱強く待つ必要がありそうだ。
*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。
*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。
(編集:下郡美紀)
※ 植野大作氏の見解には、いつも学ぶ事が多いです。