ブログ仙岩

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大石邦子「春を告げて」

2018-04-11 08:24:54 | エッセイ
ハイみんぽう4月号、大石邦子エッセイ「春を告げて」より、・・・家の庭は深い雪に形さえ分からなくなったが、白木蓮の大木は凛として大空に聳え、枝先には無数の蕾が銀色に光る。

私は、春を待つ蕾に必死に頑張っているであろう受験生の姿が重なって声援を送りたくなる。「頑張れ必ず春は来るのだから」なんだか自分に言い聞かせているような気もするが、上を向いて咲く真っ白な白木蓮の花が咲くころは、受験生も新たな一歩を踏み出しているだろう。

人はすべてが思い通りになるとは限らない。失敗したっていい。躓いたっていい。逃げずに、またそこから立ち上がる勇気が青春ではないか。思い出す言葉に、今は亡き出光興産の創業者出光佐三さんの言葉である。勤め始めた一介の元女子職員の入院時、信じられなかった。出光さんは私の手を握り締めて言われた。

「僕もね、若いとき、出光はいつ自殺するかって噂されるほど苦しい時期があった。でも精神的なものはごまかしも効くが、クーちゃんは体だからね。だけど、苦しみは逃げなければ、いつか必ず懐かしさにかわるときがくる。必ず来るよ。僕は今、あの頃の苦しみがとても懐かしい。僕を育ててくれたんだよ。苦しみがね」

あの言葉を、私は生涯忘れない。出光さんは大家族主義で、社員はみな家族、私の子供を守り抜いた経済人。人は命さえあれば、生きられるように創られているのだということも。白木蓮です。紫木蓮より早く咲き、横に咲くこぶしとは少し違う。