ブログ仙岩

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方丈記

2022-03-16 04:56:57 | 作品
<山はくづれて、河を埋み、海は傾きて、陸地(くがち)をひたせり>。
中世の随筆家鴨長明は方丈記に約840年前の大地震の様子を克明に描写した。三か月続いた余震の記述もある。
無常観の作品は災害記録文学の側面を持つ。天変地異のもたらした惨状が、手に取るように自然の猛威や大火、飢饉など数々の経験をした長明だが、最も恐ろしいのは地震と述懐する。
<月日かさなり、年経にし後は言葉にかけて言ひ出づる人だになし>。・・・
12日福島民報「あぶくま抄」の冒頭に載っていた。
地震雷火事親父という言葉から、今も昔も一番恐ろしい天変地異で地震である。
<また、同じころかとよ。おびただしく大地震ふる事侍りき。そのさま、よのつねならず。山はくづれて・・・ひたせり。
土避けて、水湧き出で、巖割れて、谷にまろび入る。なぎさ漕ぐ船は波にただよひ、道行く馬は足の立ちどをまどはす。
ここから訳に、都のあたりは何一つとして寺の堂も塔も被害を受けなかったところはない。>
あるいは崩れ、倒れ、地面から塵や灰が立ちのぼるさまは、まるで盛んな煙が上がっていくかのようだ。・・・
関東大震災に匹敵するこの大地震を鎌倉時代初期1185年に31才で経験した長明は1212年58才の年に方丈記が成ったものである。
源平争乱期を生き、途方もない災害を経験した鴨長明が辿り着いた境地は<世にしたがへば、身くるし。したがわねば、狂せるに似たり。>
<事を知り、世を知れゝば、願わず、走らず。ただ、静かなるを望みとし、愁へ無きを楽しみとす。>
世を捨て、わが身一つの自由を遊ぼうと、好きな文学や琵琶という音楽で山の中に「方丈」の栖で余生を送ることが、好ましい安心の道だ。
やはり<ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみ浮かぶうたかたは、久しくとどまりたる例なし。世の中にある、人と栖と、またかくのごとし。>
この冒頭の名文句によって愛されてきた方丈記ならばである。写真は我が町の3.11の被害。