生命哲学/生物哲学/生活哲学ブログ

《生命/生物、生活》を、システム的かつ体系的に、分析し総合し統合する。射程域:哲学、美術音楽詩、政治経済社会、秘教

ドリーシュのエンテレヒー Hans Driesch's entelechy 走書き

2012年08月30日 13時56分09秒 | 生物哲学
2012年8月30日-3
ドリーシュのエンテレヒー Hans Driesch's entelechy 走書き

 ハンス ドリーシュのエンテレヒーは、

  「心の概念と同様に、それは物質的な物体にたいしてなんらかのはたらきかけをする非物質的ななにものかである。ドリーシュはそれをなんがあるかをいうのに、ほとんど、それが何でないかということでいいあらわそうとしている。〔略〕「それ自身が現実性からはばんでいたもの、つまりそれがこれまで押さえていたものを、解放して、現実化できるものである。〔23=『Science and Philosophy of Organism 有機体〔生物体〕の科学と哲学』、vol.2, p.180〕」
 〔略〕
 「二つの系が物理学的-数学的にあらゆる点で絶対的に同一であっても、それら二つの系が生きた系であるならば、それらは絶対的に同一の条件のもとでちがった行動をとることができます。なぜなら、生体〔organism、だろう〕の特質ぜんたいのなかにはあるきまったエンテレヒーの特殊性というものが含まれており、そしてこのエンテレヒーにかんしては、物理化学的にものや関係についての知識はまったく何も教えないからです。」〔略〕
 ドリーシュは自分のたてたエンテレヒーの概念が、物理学者たちの公理的概念と??質料、エネルギー、力など??が有意味のものになったと同様に、知用されて有意味のものになることを願った〔略〕」
   (スミス『生命観の歴史 下 現代への展開』: 467頁)。

 質料やエネルギーが有意味のものになったとは、どういう事態を言うのか? 或る理論体系内での科学的営為として、なんらかの有用な概念として交信できるということか? 質料にしろ、エネルギーにしろ、それらは門外者にわかる言葉で定義されているか? →概念操作による実在性。
 エンテレヒーは、静的なパターン(種パラメータ)[ただし動的に、つまりエネルギー(または方向性を持つエネルギー、つまり力)が使われて、維持されているのかもしれない]なのか、あるいは作用する力(構築力)なのか?
 システム的には、システムが作動して、その種の持つ、たとえば(おそらく常に起動待機状態にあって、個々の生物体に働きかける)(幾多のしかし上位観点からは統一されている)発生メカニズムが起動して、したがって(制御水準というメタ的)力(諸エネルギーの活動)が働いて、パターン(種パラメータ)を参照し、具体的な構造物体(たとえば蛋白分子)を合成する。
 蛋白分子から細胞は、いかにして? 細胞は細胞から、である。
 問題は、三次元的分子形態を指示していても、細胞かに構成される器官や組織は、どのように作られるのか、である。
 たとえば、損傷した皮膚の再生、水晶体の再生、たとえば爬虫類での四肢の再生。どのような信号とその信号が関わるメカニズムが推定されるのか。

 生物体の発生において、種システムは一定の環境的諸条件を前提としている。整わなければ、また欠如実験下で、発生途中で死亡したり、『不具合』な生物体が産出されるかもしれない。それはしかし、いわば事故である。生物体発生は、質料(物質的材料)も揃わなければならない。母体の栄養不足の場合には、小さな生物体とかが生まれるかもしれないが、それはその種に属するとわれわれは(おおよその場合、訓練を積めば(パターン認識))同定できる。
 種システムは、頑健なのである[このメカニズム的意味は後述]。たとえば体長を比率尺度で測れば、正規分布的になる。この平均値は、種システムの作動結果の(統計的)要約値である。システム的には、観測される個体変異の分布から(近似的には頻度分布など)、理想的分布を推定する。

 「ドリーシュは核を分割したことがなかったが、もしそれをやってみたらエンテレヒーも二分されることを発見したにちがいないと、かれ〔テオドール・ボベリ〕はいう。」(スミス『生命観の歴史 下 現代への展開』: 468頁)。

 可能だとして、どう分割するかによって異なるかもしれない。問題は発生制御のメカニズムまたは(そのメカニズムを持つ)システムの推定である。理論構築!。細胞分裂時のどの段階で分割するか? 『物理的』に物体を分割するには、たとえばDNA分子のどこかでの結合力を無化すること(切断)になろう。
 どういう考え方(の筋道)で、エンテレヒーも二分されると言ったのか?
 
       
 可能態    →  実現態
 或るイデア  →(或る構造の)物体
 或る概念   →或る物体
 或る(類の)船  →或る(具体的な)船[特定のテセウス号]
 形相的同一性 → 質料構造的同一性  × 質料個体的同一性
 構造(関係体)→機能的過程の作動

 システムは生物体に具備されている参照項(ゲノム〔『遺伝子』総体〕物体など)にもとづいて、メカニズムを起動(作動開始などの時間的制御、というより、時間的ではなく環境『条件』的制御。
 『条件』としたのは、生物種によってどのような種類の環境入力に応答するかは異なるからである。なお、認識的には、Haefner 1970のエビに関する実験から、隠れた環境条件が存在する可能性がある。これは、実践的または経験的に解明するほかない。


[D]
Driesch, H. 1907 (1979). Science and Philosophy of the Organism Volume I. viii+329pp. AMS Press. [B991007, $103.95/2+30.80/5]

Driesch, H. 1908 (1979). Science and Philosophy of the Organism Volume II. xvi+381pp. AMS Press. [B991007, $103.95/2+30.80/5]

Driesch, H. 1922. Geschichte des Vitalismus. x+213pp. Johann Ambrosius Barth. [PT19860506]

ドリーシュ,ハンス.1914.(米本昌平訳,2007.1)生気論の歴史と理論.xviii+363pp.書籍工房早山.[ISBN:4-88611-504-7; y2,940][The History and Theory of Vitalisms]
[ 伊勢田哲治氏による言及がある。
 米本昌平先生および書籍工房早山さんへの手紙
http://tiseda.sakura.ne.jp/works/yonemoto.html


ドリーシュ,H.1928.(長島 壤,1931)人間と世界像.270+5pp.畝傍書房.[Der Mensch und die Welt.] [1円50銭, B910731]
 
[S]
スミス,C.U.M. 1976.(八杉龍一訳,1981)生命観の歴史 上:古代からデカルトへ.xx+306pp.岩波書店.[2300円][B19820812]

スミス,C.U.M. 1976.(八杉龍一訳,1981)生命観の歴史 下:現代への展開.x+307-532+9 pp.岩波書店.[2300円][B19820812]




生命学備忘録2012年8月22日

2012年08月22日 21時48分21秒 | 生物哲学
2012年8月22日-7
生命学備忘録2012年8月22日

 黒谷明美 2004.6『絵でわかる生命のしくみ』は、生命の三つの特徴として、

  1. まわりとやりとりのできる境界をもつ
  2. (まわりから)取り込んだもので必要なものをつくり、いらないものは外にだす(そうして、自分を成長させ、維持していける)〔括弧内の語は図1.1による〕
  3. 自分と同じようなものをつくり出す

を、挙げている(2-3頁)。ウイルスは、生命の特徴の3だけを満たすと述べている(4頁)。

 細胞。
 ウイルスちゃんも生きものの仲間にしたい。
 外界に対して、個体的な作用または活動をする。

 個体の内と外を画定する境界がある。
  しかし、それは認識上の話であるだけかもしれない。たとえば、人がその境界が認識できなくても、その個体(とは言えないかもしれないが)にとっては、自分と環境は区別しているかもしれない。

 膜といった境界があって、代謝が可能である。代謝活動がなくても、生きている場合があるのではないか? たとえば100年間眠っていた種子は、死んでいたのではなかろう。代謝活動をしなかっただけである。(もっとも、ほんちょっとはどこかでしていたかも?)。凍結保存した精子は、死んでいるのか? それが復活するのか? ミトコンドリアはエネルギー産生(消費)しているのか?

 或る生物体が実際に生殖するかどうかは、生きていることとは何の関係も無い。生殖可能性もまた、関係が無い[種システムとしては別の話。種システムは、生殖メカニズムを備えている。ウイルスでさえも。自分の身体を構築するのに、寄生先という環境から構成物質を調達する。その際、宿主の細胞システム(したがってたとえば複製メカニズム)を利用する。]。

 生きているかどうかを構成物の空間構造的に判定する。つまり、構成物の機能できるかどうかを、構成物が機能されていないかどうかで判定する。
 ウイルスでは、DNA配列の一部が切断されたとき、修復はされるのだろうか?

 方針。生命活動(したがってその形態)には、様々な種類と程度がある。
 段階分けをする。

 
[K]
*黒谷明美.2004.6.絵でわかる生命のしくみ.163pp.講談社.[2000円+][OCL460]


無機学と有機学の方法

2012年08月22日 21時20分32秒 | 生物哲学
2012年8月22日-6
無機学と有機学の方法

  「近代の自然科学の方法によっては本質的には死んだものしか理解できない、生きた有機界をその生成のプロセスにおいても理解しうる方法を求め、それによって自然と精神の間に新の橋を架けた人こそ、自然科学者としてのゲーテだという確信が彼のうちに生まれる。〔略〕1886年、25歳のシュタイナーによって『ゲーテ世界観の認識論要綱』が出版される。この著書は無機界の自然認識と有機界の自然認識の間には決定的な相違があることを、つまり無機学の方法はあらゆる総体をシステムとして把握しようとするのに対し、有機学の方法は個々の生物の発展を原型からの生きた発展としてとらえようとすることを明らかにした。」(上松佑二 1985.8.『ルドルフ・シュタイナー』12頁右欄)。

  無機学の方法 総体をシステムとして把握する。
  有機学の方法 個々の生物の発展を原型からの生きた発展としてとらえようとする

  静的なシステム ←→ 生成のプロセス
ということなのか?
 個々の生物体システムを、展開するシステムとして捉えればよいのでは?


[A]
上松佑二.1985.8.ルドルフ・シュタイナー[新装版].179pp.PARCO出版局.[3,200円][OCL702.34][あげまつ]



創発と下向因果連関

2012年08月11日 01時01分11秒 | 生物哲学
2012年8月11日-2
創発と下向因果連関

鍵語:創発、下向因果連関、淘汰的システム、ドナルド キャンベル Donald Campbell。

 下記に、Blitz, D. "Emergent Evolution" (1992) の「(c) Supervenience and Downward Causation : Donald Campbell and Roger Sperry」の一部を訳出する。

******* はじまり

 それからCampbellは、創発と下向因果連関という二つの原理を加えた。それらは、彼が純粋な還元主義に同意しないことを印すものである。創発は有機的準位 organic level で作動し、それは無機物には還元され得ないと、彼は考える。すなわち、『生物進化は、宇宙の諸区分を曲がりくねりつつ探査するなかで、淘汰的な諸システムとして作動しながら、諸法則に出会う。そのような諸法則は、物理学と無機化学の諸法則によって記述されることはないし、また、物理学と有機化学の現在の近似的結果を将来置き換えたものによって記述されることもないだろう。』(1974: 180)。〔略〕 
下向因果連関は一つの制約的要因であり、より低い準位の現象の広がり prevalence と分布に影響する。すなわち、『自然淘汰が編制のより高い準位で生と死を通じて作動するところでは、その高準位の淘汰的システムの諸法則は、より低い準位の事象〔出来事〕と物質の分布を部分的に決定する。』(1974: 180)。そのように定式化されたので、下向因果連関は、生物学的システムにだけ適用された。
 Campbellの付随性 supervenience という創発主義的概念は、『付随性と法則律的通約不可能性 Supervenience and Nomological Incomensurability』(1978)と『心理的付随性 Psychological Supervenience』といった記事におけるJaegwon Kimによる用語のきわめて異なった使い方とは混同されてはならない。〔略〕 Kimの理論では、付随する性質とは通常は心的な性質であって、通常は物理的な性質である付随される性質とともに変異する。付随されるまたはより下の準位の質は、付随するまたはより高い準位の性質を統御するのであるが、それは創発的というよりは付帯現象的 epiphenomenal と記述されるほうが良かっただろう。

[Blitz 1992: 160-161。試訳 20120811。]

******* おわり/


創発と還元主義

2012年08月11日 00時00分56秒 | 生物哲学
2012年8月11日-1
創発と還元主義

鍵語:創発、還元主義、構成的還元主義、説明的還元主義、理論還元主義、エルンスト マイア Ernst Mayr。

 下記に、Blitz, D. "Emergent Evolution" (1992) の「(d) The Autonomy of Biology: Ernst Mayr」の一部を訳出する。

******* はじまり

 Mayrは自身の生物学の哲学では創発を採用したけれども、還元主義のいくつかの形態には反対しなかった。『生物学思想の成長 Growth of BIological Thought』(1982)では、構成的還元主義 constitutive reductionism、説明的還元主義、そして理論還元主義を三つの明確な型として彼は考察した。有機体〔生物体〕の構成要素は物質的であり、無機的化合物の構成要素と同じ本性だと、構成的還元主義は主張した。Mayrはこの型の還元主義を受け入れ、その、有機物と無機物との間の区別は、物質の問題ではなくてむしろ編制 organization の問題だという見解を受け入れた。
 説明的還元主義は、生物学的存在者は、その基本的構成要素(有機体の場合には高分子)に分析されない限りは理解できないと主張した。Mayrは、或る主要な場合で、つまり、CrickとWatsonの遺伝子をその基礎であるDNAへと分析するという場合で、このアプローチ〔接近〕が成功であったと認めた。しかし、Mayrは『生物学のすべては分子生物学である』(1982: 60)というもっと進んだ主張は退けた。より高い準位のシステムは自律的単位であるという事実、そして或る程度それなりに、より低い準位のシステムからは独立しているという事実を、それは無視しているからであった。そのうえ、説明的還元主義は、進化の歴史的次元を十分に考慮することはしない。そのことは、説明的還元主義の生物における適用への二番目の制限である。
 Mayrは、最初の二つの型の還元主義にはいくらかの信用を与えたのに対して、生物学は物理的および化学的諸理論の特殊な事例だと示すことができるという『理論還元主義的』主張は退けた。
[Blitz 1992: 162-163。試訳 20120810。]

******* おわり/


内井惣七氏による還元(?)についての論議

2012年07月20日 22時08分22秒 | 生物哲学
2012年7月20日-6
内井惣七氏による還元(?)についての論議

 2000年6月7日(水曜日)の当時では、「還元主義についてのノート」と題された三つの部分からなる論文が、電網上にあった。『哲学研究』569号への掲載は予定となっていたものが掲載され、内井惣七「道徳起源論から進化倫理学へ」が完結したようである。奥田太郎「内井惣七「道徳起源論から進化倫理学へ」に対する8つの質問」の引用にあるように、電網から入手できる。
 古い理論(たとえば熱力学)が新しい理論(たとえば気体分子運動論)に還元されたとする場合があるが、内井惣七氏は文字通りの還元は否定し、「新理論が道具立てや枠組みを拡張して、古い理論の成果を改変して取り込んだ」と見なす。そして、

  「文字通りの還元は否定しても、気体分子運動論や分子生物学でとられた「還元主義的アプローチ」は実り豊かであったことを認め、いわば方法論上の還元主義の意義は否定するどころか、一般に支持する旨を表明したし(Uchii 1999A, sect.10)、新旧の理論のある種の連続性を認めることも表明した(Uchii 1999B, last sect.)。」(内井惣七.[Last modified November 16, 1999].還元主義についてのノート)。

 さて、
  「ダーウィンの道徳起源論にヒントを得た進化倫理学の文脈で問題にされた還元と還元主義は、ダーウィンのもともとの議論に注意していただけば明らかなように、進化の文脈の中での還元であり、「これこれの素材をもとに始まった自然淘汰の過程が、しかじかの特徴を持つ道徳性を生み出した」という、自然淘汰のダイナミズムを介した還元にほかならない。」(内井惣七.[Last modified November 16, 1999].還元主義についてのノート)。
と言う。
 ダイナミックな還元とか、「この「還元」は、いわば(自然淘汰や合理的選択の過程を要する)ダイナミックな還元であり、論理や概念分析だけで確立できる話ではない。「還元」の意味が「理論の還元」の場合とは違うのである。」というところで、分からなくなるが、

  「わたしが論敵と見なした立場が、「道徳的なものは非道徳的なものにいかなる仕方でも還元できない」という反還元主義だったからである。これを論破し、逆の主張をおこなうからには、この文脈では「還元主義」を名のるほかはない。」(内井惣七.[Last modified November 16, 1999].還元主義についてのノート)。

と言うのである。自然淘汰は、新奇性を産み出すには、十分ではないと思う、そのことは、進化速度の測定で反確証できるとと思うが、機会があれば検討したい。

 →evolutionary epistemology [BungeDic1: 85]。
 →evolutionary psychology [BungeDic1: 85]。
 →evolutionism [BungeDic1: 85-86]。

[U]
内井惣七.1998, 1999, 2000.道徳起源論から進化倫理学へ.哲学研究 (566), (567), (569号) [
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/Ev.Ethics1.html
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/Ev.Ethics2.html
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/ev.ethics2-2.html
から入手可能]

内井惣七.1990.理論の還元は可能か.『現代哲学のフロンティア』(神野慧一郎編) 勁草書房、1990。

内井惣七.1998d.道徳起源論から進化倫理学へ、第一部.『哲学研究』566号、1998.
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/Ev.Ethics1.html

内井惣七.1999a.道徳起源論から進化倫理学へ、第二部.『哲学研究』567号、1999.
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/Ev.Ethics2.html

内井惣七.1999d.徳起源論から進化倫理学へ、第二部続.『哲学研究』569号、予定.
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/ev.ethics2-2.html

Uchii, Soshichi. 1999A. Theory Reduction: the case of the kinetic theory of gases.
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/reduction1.html

Uchii, Soshichi. 1999B. A Semantic View on Reduction.
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/th.reduction.html

内井惣七.[Last modified November 16, 1999].還元主義についてのノート.
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~suchii/red.note.html


Bunge辞典:organicism 有機体主義、organism 有機体、organization 編制

2012年07月17日 23時59分36秒 | 生物哲学
2012年7月17日-16
Bunge辞典:organicism 有機体主義、organism 有機体、organization 編制

organicism 有機体主義 [BungeDic1: 203]
 【a 生物学】↑【生命】と↑【心】は有機体的過程であるというテーゼ〔定立〕。↑【機械論】と↑【生気論】との中間の立場。
 【b 社会的研究】社会は一つの有機体であるという見解。いくつかの反動的なイデオロギーの構成要素。
 【c 存在論】あらゆるものは、宇宙も含めて、一つの↑【有機体】であるという教義。いくつかの魔術的世界観の一部。

 
organism 有機体 [BungeDic1: 203]
 生きている存在。↑【生命】。

 
organization 編制〔編成、組織〕 [BungeDic1: 203]
 ↑【構造】、〔organization→削除?。BungeDic2を照合せよ〕構築様式 architecture。同一の構成要素を持つ二つの全体またはシステムは、異なるように編制される(構造化される)かもしれない。例:異性体、一遺伝子中のヌクレオチド、一文中の語、政府閣僚。



生物学における還元主義

2012年07月17日 14時56分40秒 | 生物哲学
2012年7月17日-14
生物学における還元主義

Reductionism in Biology
First published Tue May 27, 2008; substantive revision Mon Apr 30, 2012
http://plato.stanford.edu/entries/reduction-biology/

というかなりの長文が電網上に掲載されている。


 文献欄に、
[B]
Bechtel, William. 2008. Mental Mechanisms: Philosophical Perspectives on Cognitive Neuroscience. University of California, San Diego, Routledge. [目次は、
http://mechanism.ucsd.edu/~bill/research/mentalmechanisms.htm

があった。



W.M. Wheeler『創発的進化と社会の発達』の訳[創発について、水の例]

2012年07月17日 14時46分49秒 | 生物哲学
2012年7月17日-13
W.M. Wheeler『創発的進化と社会の発達』の訳[創発について、水の例]

  「今や『創発 emergence』は、これ以降の頁では、この言葉の通常の、また昆虫学での含意のような、すでに存在しているけれども隠れた何かが顕現するしたり覆いを外す、ということを意味しない。Eddy夫人の改宗におけるような奇跡的変化も意味しない。しかし、多数の要素の特異的な相互作用または編制 organization を意味する。要素は、非有機的、有機的、あるいは心的のいずれでもよいが、要素の単なる和、または『合力 resultant』とは区別される一全体 a whole を構成する。古典的な例は、もちろん、H2Oといった化合物 chemical compound である。そこでは、水素と酸素は一定の条件と一定の割合のもとで、液状の創発体 liquid emergent、つまり水、を形成するように結合する。水は、水の気体的な構成要素のどちらとも大変異なった振る舞い(諸性質)を示す。この意味で、『創発 emergence』は、『創発性〔突発性、非常性〕 emergency』という後成的な epigenetic 意味を獲得する。G.H. Lewes (1875)は、このような化学的振る舞いを指定するするために、この言葉〔語〕を使った最初の人であるが、たぶん、この意味を意図していたであろう[註1]。

 註1。『一塊のもの a mass の性質が、その分子の性質とは異なる方法は、多く存在する。主要な方法は、いくつかの性質が、合成者 resultantsではなく、創発者 emergentsであるという方法である。』
」(Wheeler, W.M. 1928. pp.14-15)。

[W]
Wheeler, W.M. 1928. Emergent Evolution and the Development of Societies. 80pp. W. W. Norton & Company, Inc., New York.


スマッツ『全体論と進化』へのW.M. Wheeler (1928) の言及

2012年07月17日 14時01分16秒 | 生物哲学
2012年7月17日-12
スマッツ『全体論と進化』へのW.M. Wheeler (1928) の言及

 William Morton Wheeler (1928) の『Emergent Evolution and the Development of Societies』で、Smutsの『Holism and Evolution』に言及しているところがある。65-68頁である。

  「1925年以降に現われた、創発についての研究のなかで最も洗練されたものは、スマッツ将軍の_全体論と進化_についての1926年の本である。これは、より注目に値するもので、著者は、他の思索者によるこの論題への貢献についてよくは知らないようである。専門家ではない人による誠実な仕事によくあるように、それは大変示唆的である。しかし、『全体論』を、自然界における『努力〔?、nisus〕』、『内的駆動力〔inner driving force〕』、または『作用的要因〔operative factor〕』とする彼の捉え方には、重大な疑問がある。J. M. Robertson (1926) が書評で述べるように、『スマッツ将軍 General Smuts は、宇宙的および生物的過程を名づけるのに『機構 mechanism』と『機械的 mechanical』という不幸な用語を使うといった、近代科学の思考における堕落した言葉遣いのいくつかに対して、正しく戦っている。しかし、彼自身の哲学は結局は、Whittaker氏が正当にも宣言したように、『名称を実体化する』ことは古代哲学の多くの破滅のもとであるという次第になっている。わたしが思うに、スマッツ将軍は、『全体 whole』、『一全体 a whole』、そして『唯一の全体 the whole』によって意味されることは何かという問題に取り組んでいない。彼の本のなかでは、それらは、ヘーゲル Hegel がシェリング Schelling の或る概念について述べたように、『銃で追い払われた shot out of a gun』。多くの研究者にとっては、それらの語は、宇宙的目的の関与〔係累、影響 implications〕を示唆する。スマッツ将軍は、『聖なる出来事 divine events』または統御している〔神の〕摂理を、把握する〔theizeは、seizeの誤植? 盗む thieve?〕とか夢見ることをしない。ところが、彼はもっと混乱するようなことを行なう。つまり、『全体 whole』を『全体_論_Holism』へと実体化して、それを一原理、一力(否、宇宙における支配力)として実際に捉えて述べるのである。専門的哲学者である Hoernle' (1926) は、スマッツ将軍の本をもっと好意的に評している。すなわち、『スマッツ将軍は、全体論を哲学よりも科学への貢献だと考えている。科学者たちは、自分の特殊分野に熱中し、自然界の包括的調査には概して従事しない。したがってまた、進化の過程とその外延が同じである全体という概念を一般化することも無い。それゆえ、科学の理論において、全体論は新しいことであり、科学者たちがそれを受け入れる用意があるならば、科学的思考を再定位することを意味するだろう。おそらく、A. N. ホワイトヘッド Whiteheadの有機体についての新理論は、同様の再定位での独立した一つの試みだと、判明するかもしれない。哲学者たちは、自分たちの番になって、全体論における一定の独創性を認めるに違いない。正に、全体論の要約的特徴において、進化を完成へと向かう一連の段階として進化を説明することにおいて、全体論はおなじみの道筋を走っている。しかし、自分の哲学を進化にもとづくものにしようと努めている思索者のうちで、AlexanderとLloyd Morganにように、幾人かは、全体よりは段階 stagesという言葉で考えてきた。他の者は、James Wardのように、全体を認めたが、宇宙 the universe を霊たちの社会として分析して、彼らの全体をすべて霊的なものとした。さらに他の者は、Pringle-Pattisonのように、進化を神の自己啓示 self-revelationとして扱った。明瞭なことだが、これらの人々とは異なって、全体論は広く受け入れられている事実についての新奇な説明であり、宇宙進化の特徴についての新しい読解である。〔略〕』
 〔続く。次の段落は因果性と説明に触れている。〕」
(Wheeler, W.M. 1928. Emergent Evolution and the Development of Societies, pp.65-68.)

  なお
 2011年9月21日-1 W. M. Wheeler 1928『創発的進化と社会の発達』試訳1
http://pub.ne.jp/1trinity7/?entry_id=3901999
も参照されたい。

 
[W]
Wheeler, W.M. 1928. Emergent Evolution and the Development of Societies. 80pp. W. W. Norton & Company, Inc., New York.




結晶的生命体

2012年07月15日 11時19分41秒 | 生物哲学
2012年7月15日-1
結晶的生命体


 昨日、
平山令明.2012.4.結晶とはなにか:自然が作る対称性の不思議.222pp.講談社[ブルーバックス].[OC 459.9][860円+税]
をささっと読んだ。

 幸いなことに、タンパク質の多くは結晶になっても、元のタンパク質の働きを維持するということである。

  「タンパク質の結晶はふつうこのようにたくさんの水を含んでいます。むしろ、水の中にタンパク質が浮いている、と言ったほうがよいかもしれません。したがって、タンパク質の多くは結晶になっても、元のタンパク質の働きを維持しています。〔略〕当初、懐疑的な生物学者は、結晶になってしまったら、タンパク質は生きている状態とは全く違ってしまうのではないかと疑っていました。しかし、幸いにもそういう疑いはほとんど無用であり、それどころか生命科学の大発展は結晶中のタンパク質やDNAの構造研究によって成し遂げられたのでした。」(平山令明 2012.4: 208-209頁)。

 T4 バクテリオファージについては、下記の記事がある。
 有坂文雄.T4ファージの微細構造と感染のメカニズム.
  「ファージ尾部の分子集合には22個の遺伝子が関与している。分子集合の順序は大変秩序だっていて、その順序は蛋白質間相互作用によって規定されている(図4)。」
  「DNAの注入には大腸菌外膜の電気化学ポテンシャルが必要であるという報告がある。即ち、DNAは大腸菌が生きていないと取り込まれない。T5ファージなど、他のファージの実験結果も併せて考えると、DNAはファージが注入するというよりも、大腸菌の側で引っ張り込んでいる、というのが実際の状況である。
進入したDNAは宿主の複製・転写・翻訳装置を借りて増殖し、頭部、尻尾、尾繊維が形成され、これらが合体して感染性のあるファージができあがる。1匹の大腸菌から約100個のファージが構築され、溶菌によって菌体外に放出される。」
  「現在、基盤を構成する20種の蛋白質のうち6種の蛋白質の立体構造が明らかにされている。中には封入体を形成してしまったり、プロテアーゼで壊されやすいものもあり、精製法も工夫しながら結晶化を進めている。」(有坂文雄.T4ファージの微細構造と感染のメカニズム.)
http://jhfsp.jsf.or.jp/frontier-science/newsletter/017/nl-04.html

 生命形態を、下記のように分類してみよう。
  a. 鉱物的結晶
  b. (DNAまたはRNA+蛋白質)的結晶

 →生物体の定義。
 →鉱物的結晶の成長。

  「らせんという操作は、物を隙間なくコンパクトに畳み込む上で非常に能率的な方法です。」(平山令明 2012.4: 117頁)。

 空間距離的に近接していれば、分子間で様々な結合作用が起きることになる。



[H]
平山令明.2012.4.結晶とはなにか:自然が作る対称性の不思議.222pp.講談社[ブルーバックス].[OC 459.9][860円+税]



Bunge哲学辞典:action 作用、agency、agent/patient 作用者/受動者〔動作主/被動者〕

2012年07月12日 16時32分23秒 | 生物哲学
Bunge哲学辞典:action 作用、agency *、agent/patient 作用者/受動者〔動作主/被動者〕

action 作用 [BungeDic1, p.9]
 a. 一般的(存在論的)概念 一つの物が他の一つの物にすること。可能な定式化は、物xが物yに振るう〔及ぼす〕作用 actionは、xが存在するもとでのyの歴史とxが存在しないもとでのyの歴史との間の、集合理論的な差に等しい。
 b. 人間の作用〔行為〕とは、人間がすること何でもである。同義語:↑実践 praxis。社会生活の究極の源。人間の一部の作用は意図的である。すなわち、それらの作用には↑計画 planを設計 design〔立案〕することが先立つ。行為理論 action theory =↑実践学〔行動学〕 praxiology

agency 作用 [BungeDic1, p.11]
 人間の↑作用〔働き〕 action。しばしば(社会的)構造に対置されるが、実は構造とは、前の人間的作用とその作用への制約の結果 outcomeである。実際、われわれはすべて、明確な(しかし変化しつつある)構造を持った、前もって存在する社会へと生まれ、自分たちの社会的行動を通してその社会をなんらかの程度に改めるかもしれない。たとえば、人一人だけの加入または脱退は、家族の構造に相違を生じる。

agent/patient 作用者〔動作主,作動者〕〕/受動者〔被動者〕 [BungeDic1, p.11-12]
 ↑作用 actionの関係項。xがyに作用すれば、その場合xは作用者 agentと呼ばれ、yは受動者 patientと呼ばれる。しかし、受動者は、その過程を開始した作用者に対して反作用するかもしれない。この場合、両方の存在者は、↑相互作用 interact しており、実践的目的を除いて、作用者/受動者の区別は消え失せる。

interaction 相互作用 [BungeDic1, p.142]
 二つの具体物が相互作用するのは、各々が他に作用するとき、そしてそのときに限る。性質も考えも、それ単独で相互作用することはできない。それらは関係づけられることができるだけである。力学的相互作用は、作用と反作用の等価原理を満たす。この原理は、電気力学、生物学、または社会科学においては、妥当ではない。これらすべての分野は、光吸収、化学結合 chemical combination、感染、植民地化といったような、等価な反作用を伴わない作用を研究する。

interactionism 相互作用主義 [BungeDic1, p.142-143]


 


この世界についての試論1

2012年02月18日 14時43分26秒 | 生物哲学
2012年2月18日-1
この世界についての試論1

 0. 物体だけが、この世界、つまりわれわれが意識している世界、を構成する[唯物論的仮定]。
   composition (this world) : (material) things

 1. 時間は、実在する物体ではない。われわれの意識(とそれに繋がる心的システム)による構築体である。
   The time is one of our constructs, not a real things.

 2. 空間もまた、われわれによる構築体である。時間と空間という概念の枠組みによって、われわれは観測し測定する。

 3. したがって、ものごとは相対的である。

 4. したがってまた、対象の実在性の種類と程度も相対的である。認識者の観測システムとその諸前提に、観測結果は依存する。しかしおそらく幸いなことに、人々の間での認識上の共通性があるゆえに、間主観性的客観性(厳密には共通性)は存在し得る。たとえば、推論妥当性について合意できたり、物体の存在や物体の性質について、(場合によっては、一定の訓練を受け入れた(つまり自己洗脳したりした)結果として)合意できたりする。
 [たとえば暗黒物質(「暗黒」という言葉は不明という意味からのようであるが、その性質からすれば光物質と呼ぶべきだろう)という種類に属する物体が、われわれの身体の構成物であるならば、放射能の正体というものも再考せざるを得ないだろう。これは生物体の機能と関係するかもしれない。機能を、物体システム間相互作用として捉える場合、暗黒物質の振る舞いによって説明できるかもしれない。対象の構成を明らかにすることは、システム的接近 systemic approachの第一歩であるが、宇宙のおよそ96%が正体不明であることは、物質的説明としては、(分布が一様的だとして)地球や人体システムの構成物の約96%を見落としている、あるいは隠れたままということになる(ただし、作用としてはほとんど無関係ということはあり得る)。現在の科学的観測装置によっては不明の存在者が、(質量で測って)大部分なのである。]
 [実在性の程度や、たとえば超光速が観測されるかどうかもまた、観測者(そしてまた何によって測定するか)システムに相対的である。]

 5. 対象の存在や(観測される)諸性質を説明する場合、とりわけシステムとして説明する場合は、その部分を構成する諸物体システム、つまり下位システム間の関係、つまり構造を明らかにすることが要〔かなめ〕である。むしろ、下位システム間の諸関係を、構造と呼ぶことにする。
 これはむろん、対象についてなんらかの抽象と捨象をして、一定範囲のことがら(だけ)を問題にすることになる。われわれの認識は限定的である。(対象についての直観 intuitionということがあり得るとすれば、それは(作用的に)非限定的かもしれない。)
 システムの構成、構造、そして環境(システムの様々な種類と程度の作動諸条件と捉えることができる。

 6. 環境とはつねに、ある主体にとっての環境である。主体を特定して、その環境を特定できる。
 環境を、環境諸要因 environmental factorsまたは諸条件 consitionsの総体 totalityだと分析してもよい。また、環境とは、或るシステムの様々な種類と程度の作動諸条件と捉えることができる。[環境 environment]

 7. なんらかの理論を構築したり、言明を一般化するためには、対象とするシステムの分類が先立つ。われわれの概念的営為に関する限りは、役立つ分類体系が要である。[分類 classification]
 様々の存在者または対象を、分類することは、物理的タクソン taxonや生物的タクソンを設けることが便利である。これらのカテゴリーは、われわれの構築体である。同定カテゴリーであるためには、一定であることが必要である。

 8. しかし命名者が或るタクソンを設定する際には、人々間での交信の都合もあって、或るタクソンに属する物体(生物体を含む)について観測される諸性質で定められる[タクソンの定義]〔これを定義と呼ぶことには、実は大きな問題がある。たとえば生物体を、それがどの種類に属するかを決定する、つまり同定[属員性 membershipという、分類カテゴリーと物体との関係性の決定]する場合は、瞬間的なまたは静的諸性質によっている。しかし、生物体の場合は、それらは現象的側面であり、本質的規定であるとは限らない。このことは種システムの問題(の理解)と関わるので、後述する。〕。

 9. このようにタクソン的分類をすれば、対象は様々な種類に属する諸物体ということになる。そうすると、諸物体の振る舞いを、タクソン的存在者たちの間の相互作用として捉えることができよう。

 10. ではまず、或る物体システムの境界または他の物体システムとの接面 interfaceの決定という問題である。人体の場合は、皮膚面で画定できる。ただし微細に見れば、微細な穴、たとえば汗腺が開いていたり、たとえば消化器系の口のように、開いたり閉じたりする(栄養摂取での物体の運動場所としては、また発生的にはと言ってよいのか、口から肛門までの管は、システム外部である。ただし毒物が通過すれば、そのシステムに『感受性』に応じて作用する(むしろ様々な空間規模と制御水準での物体間相互作用)。
 皮膚面という認識は、人の眼(正しくは視覚システム)の空間分解能(と時間分解能)に依存している。したがって、空間尺度 spatial scale においても、観測されるものごとは相対的である。