生命哲学/生物哲学/生活哲学ブログ

《生命/生物、生活》を、システム的かつ体系的に、分析し総合し統合する。射程域:哲学、美術音楽詩、政治経済社会、秘教

ニッチ構築の定義2

2010年06月02日 11時32分21秒 | 生態学
2010年6月2日-1
ニッチ構築の定義2

 2.2.3節は、ニッチ建設の一つの定義と題されている。p.41(邦訳では34-35頁)に、その定義と著者が称するものがある。

  "_Niche construction_ occurs when an organism modifies the feature-factor relationship between itself and its environment by actively changing one or more of the factors in its environment, either by physically perturbing factors at its current location in space and time, or by relocating to a different space-time address, thereby exposing itself to different factors." (Odling-Smee et al. 2003: 41)。

 「ニッチ建設〔建造、構築〕は、
  一個の生物体が、
    [時間と空間におけるその現在の位置での諸要因を物理的に乱すこと]か、
     あるいは、
    [異なる時間-空間の住所に再位置することでそれ自身を異なる諸要因にさらすこと]によって、
   [その環境における諸要因の一つ以上を能動的に変えること]により、
  それ自身とその環境のあいだの特徴-要因関係性を修正するとき、
  生じる。」(20100602試訳)
    〔訳書では、one or more of the factors を「一つまたは複数の因子」(35頁)と訳したようだ。ところで、more thanやafterは境界値を含まない。例えば、「before 2000、after 1999」を、「2000年以前、1999年以後」と訳すと、両者の連言として1999年と2000年の2年分があることになる。一日単位で具体化すると、before 2000は1999年12月31日以前で、after 1999は2000年1月1日以後である。両者の連言の日は1日も無い。〕

 著者はp.41での註で、constructionは、「物理的空間における淘汰的環境または実際の運動の物理的修正を指す」と言っているから、まぎれのないようにするには、(社会構築主義というように使われる)構築ではなく、ニッチ建設とかニッチ建造と訳するのがよいだろう。しかし、魅惑的に響くのは、ニッチ構築のほうだろう。

 この定義からすると、ニッチを建設する者は、生物体であり、1生物体であっても可能であると考えているようだ。その場合、1生物体についても、そのニッチというものが定義されることになる。実際、著者は、qaulification (i) で、「ニッチ建設は、典型的には個々の生物体によって表現される」と述べている。え?、今度は、ニッチ建設とは生物体が行なう表現expressionなのか。生物体形質の表現だと言うことか?
 さて、この文は、<Aは、bがcをするとき、起きる>と述べる形式である。<Aとは、bがcをするとき、そしてそのときに限る>という体裁ではない。そこで、体裁を変更すると、
  「ニッチ建設は、一個の生物体が、それ自身とその環境のあいだの特徴-要因関係性を修正するとき、そのときに限り、生じるものである。」

 すると、そのときに生じたものはすべて、ニッチ建設と呼ぶことになる。しかし、「により」は定義に使われる限定だろう。<生物体の環境における一つ以上の諸要因を能動的に変えることにより>という限定である。能動的に変える、というところが味噌ということか。
 この変え方に、さらに限定がついている。現在位置で要因を物理的に乱すという方法によるか、あるいは生物体自身が存在位置を変えること(たとえば移動)で異なる環境要因にさらされるという方法によるか、である。
 で、qualification (i)では、「しかし自然淘汰は、個体群内で働くoperate 一つのプロセスである」、とある。個体群とは、われわれが脳内に構築する構築体である。したがって、自然淘汰という構築体を働かせているのは、人である。むろん、プロセスも構築体である。単位的存在者を繋いでいるのは、人の思考によっている。→プロセスという語の定義の問題(後述)。

  註。個体群という語によって人は、生物体のなんらかの収集体を指している。通常、同一種に属する生物体を指しているが、その場合には、われわれの思考上で、様々な種に属する生物体たちから、種同定をして(したがって、種カテゴリーが先立つ)、一つの種に属する生物体たちだけを取り出している(現実像から抽象と捨象をしている)。たとえば、洞爺湖の或る島内でのCervus nipponという種タクソンに属する生物体を、一つの個体群と称している。シカ生物体は泳いだりするから、個体群の空間的境界、あるいは生殖という関係をどれどれが結ぶかという生物体どうしの関係によって生物体たちを(排他的に)分類するのは原理的に不可能である。境界はエイヤッと脳体操的に切断するか、野外で方形区をこちらで切って、移動などの出入りのつじつまを合わせておけばよい。自然なまとまりとは、あるとすれば、<種>しか無い。
   系列lineage(狭義)や系統phylogenyは、個体群よりもさらに、構築的である。

ニッチ構築の定義1

2010年06月01日 15時01分03秒 | 生態学
2010年6月1日-1
ニッチ構築の定義1

  「生物体は、進化において二つの役割を演じる。一番目は、遺伝子を運ぶこと〔保持する carry これはあいまいな言葉やなぁ。佐倉ほか訳では「遺伝子をになう」としている〕から成る。生物体は、その環境のなかで偶然〔機会 chance〕と淘汰圧にしたがって、生存し、生殖する。……生物体はまた、環境と相互作用し、環境からエネルギーと資源を獲得し、環境に対して小生息場所と大生息場所を選好し、環境のなかで加工物を構築し、廃棄物を排出し、そして死ぬ。すべてのこれらのことをすることによって、少なくともそれ自身の局所環境とお互いの環境において存在する淘汰圧のいくらかを修正する modify。」(Odling-Smee et al. 2003: 1)〔20100601試訳〕。

 進化とは、その生物体の環境下において、生物体自身の振る舞い、生物体どうしの相互作用的振る舞い、生物体とその環境との相互作用、それらの総合的結果の或る側面を、われわれが取り出して言うものである。そうであるならば、「役割 role」といった、全体が先立つような言い方はおかしい。進化の舞台、という言い方ならばよいかもしれない。その場合も、生物体を含む物体自身とそれらの相互作用の結果である(太陽から地球へのエネルギーはほとんど一方向的だが)。お互いが舞台となっている。要は、進化という概念を祭り上げて、そのなかのものとか一部を構成するといったような、生物体という主体を埋没させるような言い方あるいは捉え方は、本質を捉えられなくなるかもしれない。

  "This second role for phenotypes in evolution ..."
  「進化における表現型のための〔に対する〕、この二番目の役割は、……」〔とも取れるが、〕
  「表現型が進化に果たす、この2つめの役割は、……」(佐倉ほか訳 1頁)。

 「for」をどう解釈すればよいのか? しかしそもそも、環境のなかで様々なことを生物体が行なったり、環境と相互作用したりすることが、そのまま役割と捉えることはできない。すぐ後で、生態系エンジニアリングという概念を持ち出すことから考えると、生態系のなかでの役割といいたいのだろうか。
 ともあれ、著者が「ニッチ構築」と呼ぶのは、二番目の役割であり、それは生物体と環境との関係に関わることになるだろう。きちんとした言葉で定義を明瞭にしてもらたいものだ。中尾(162頁)が指摘するように、ニッチ構築とは生態系エンジニアリングと本質的に同じだと言っている。おやおや、ニッチ構築とは役割を指すのではなく、生物体が行なうなんらかの行為なのか?

  "Jones et al. 〔1994, 1997〕describe organisms that choose or perturb their own habitats as "ecosystem engineers," where "ecosystem engineering" is essentially the same as "niche construction." Jones et al. claim that when organisms invest in ecosystem engineering they not only constribute to energy and matter flows and trophic patterns in their ecosystems but in part also _control_ them. The propose that organisms achieve their control via an extra web of connectance in ecosystems, which they call an "ecological web," and which is established by the interactions of diverse species of engineering organis,s (Jones et al. 1997)." (Odling-Smee et al. 2003: 6).

  「そこでは、「生態系工作」は「ニッチ構築」と本質的に同一である」(試訳)。

 whereは何を指しているのだろうか。Jonesらが書いている論文では、ということなのか。わが英語力の不足。

 また、著者はニッチ構築の「結果」として、生態系エンジニアリングを挙げている(中尾 2008: 162頁)らしい。今度は、何かの結果である。生態系を制御することは、ニッチ構築の結果なのであり、ニッチ構築は生物体による生態系制御の結果であると、時間軸で述べたということなのだろうか。

 (ナタナエル、君に情熱を教えよう。悲痛な日々を送るより、情熱に溢れた楽しい日々を創ることだ。)


中尾央.2008.[書評]Odling-Smee, F. J., Laland, K. N. and Feldman, M. W. Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. Princeton University Press, 2003. (邦訳:『ニッチ構築:忘れられていた進化過程』佐倉・山下・徳永訳,共立出版,2007年.). 科学哲学科学史研究 (2): 162-164.

Odling-Smee, F.J., Laland, K.N. & Feldman, M.W. 2003. Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. xii+472pp. Princeton University Press.

Odling-Smee, F.J., Laland, K.N. & Feldman, M.W. 2003.(佐倉 統・山下篤子・徳永幸彦訳,2007.9) ニッチ構築:忘れられていた進化過程.viii+400pp.共立出版.[R20080404r, y5,040]

共同体についての、ニッチ集成的見方と分散集成的見方

2010年05月31日 00時36分14秒 | 生態学
2010年5月31日-1
共同体についての、ニッチ集成的見方と分散集成的見方

 〔〕内は、注釈である。assemblyは、組み立てという意味が近いし、わかりやすいと思うが、漢字二文字と短くて済む、集成としたい。集合としないのは、数学での集合 setと紛らわしいからである。Hubbellの文においても、種とはその種に属する生物体のことである。
 共同体〔群集〕をどう捉えるかは、様々な対立点がある。一つは平衡と非平衡である[論じられている時間と空間のスケールはどれくらいかに留意せよ]。
  ニッチ集成〔組み立て〕的見方 niche-assembly perspective

  分散集成的見方 niche-assembly perspective
は、そのことと関連する。

 ニッチ集成的見方とは、
  「群集〔共同体〕は相互作用する種〔=なんらかの種に属する生物体〕の集まり〔収集体〕であって、種の在ー不在や相対個体数が、それぞれの種の生態的ニッチや機能に基づく「集合規則〔集成規則〕[assembly rules]から導き出される。この見解によれば、相互作用の平衡において群集中の種は共存することができる。……ニッチ集合する群集では、有限な資源に対する種間競争やその他の生物的相互作用にって、群集中に存在する種と存在しない種が決定され、構成種が制限される。」(Hubbell 2001; 訳書 23頁)。

 分散集成的見方とは、
  「群集は、歴史やランダムな分散によって偶然集まった種からなる開放的で非平衡な集団であるとされる。種は入れ替わり、種の在ー不在はランダムな分散と確率論的な局所的絶滅によって決まる。」(Hubbell 2001; 訳書 23頁)。

文献
Hubbell, S.P. 2001. The Unified Neutral Theory of Biodiversity and Biogeography. xiv+375pp. Princeton University Press. [Hubbell, Stephen P. (平尾聡秀・島谷健一郎・村上正志訳 2009.4)『群集生態学:生物多様性学と生物地理学の統一中立理論』.327pp.文一総合出版.]

大串隆之・近藤倫生・難波利幸(編).2009.8.生物間ネットワークを紐とく.xvi+328pp.京都大学学術出版会.[ISBN: 9784876983452][シリーズ群集生態学3]

ニッチ構築関連文献/Niche Construction References

2010年05月30日 13時44分27秒 | 生態学
2010年5月30日-3
ニッチ構築関連文献/Niche Construction References

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Caswell, H. 1976. Community structure: a neutral model analysis. Ecological Monographs 46: 327-354.

Chase, J.M. & Leibold, M.A. 2003.7. Ecological Niches: Linking Classic and Contemporary Approaches. ix+212pp. University of Chicago Press.

Chesson, P. 1991. A need for niches? Trends in Ecology and Evolution 6: 26-28.

Chesson, P. 2000. Mechanisms of maintenance of species diversity. 31: 343-366.

?Chesson, P. 2008. Quantifying and testing species coexistence mechanisms. In Valladares, F., Camacho, A., Elosegui, A., Estrada, M., Gracia, C., Senar, J.C., & Gili, J.M. (eds.), "Unity in Diversity: Reflections on Ecology after the Legacy of Ramon Margalef ": pp.119-164.

Day, R.L., Laland, K.N. & Odling-Smee, J. 2003. Rethinking adaptation: the niche-construction perspective. Perspectives in Biology and Medicine 46: 80-95.

Dickins, T.E. 2005. On the aims of evolutionary theory: a review of Odling-Smee, J.J., Laland, K.N. and Feldman, M.W. (2003) Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. New Jersey: Princeton University Press. Evolutionary Psychology 3: 79-84. [Rh20090725]

Gautham, N. 2004.6. [Review of] Niche Construction - The Neglected Process in Evolution. Current Science 86: 1561-1562.

Griffiths, P. E. 2005. Review of 'Niche Construction'. Biology and Philosophy 20: 11-20. [Rh20090727]

Higashi, M. 1993. An extension of niche theory for complex interactions. In Kawanabe, H., Cohen, J. E. & Iwasaki, K. (eds.) (ed.), "Mutualism and Community Organization: Behavioural, Theoretical, and Food-web Approaches", pp.311-322. Oxford University Press, New York.

Hubbell, S.P. 2001. The Unified Neutral Theory of Biodiversity and Biogeography. xiv+375pp. Princeton University Press. [Hubbell, Stephen P. (平尾聡秀・島谷健一郎・村上正志訳 2009.4)『群集生態学:生物多様性学と生物地理学の統一中立理論』.327pp.文一総合出版.]

Hubbell, S.P. 2006. Neutral theory and the evolution of ecological equivalence. Ecology 87: 1387-1398.

Hull, D.L. 2004. [Review of] Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. Perspectives in Biology and Medicine 47: 314-316. [Rh20090723]

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?Mikkelson, G.M. 2005.3. Niche-based vs. neutral models of ecological communities. Biology and Philosophy 20: 557-566. [A review of Chase & Leibold, "Ecological Niches"]

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中尾 央. 2008. [書評]Odling-Smee, F. J., Laland, K. N. and Feldman, M. W. Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. Princeton University Press, 2003. (邦訳:『ニッチ構築:忘れられていた進化過程』佐倉・山下・徳永訳,共立出版,2007年.). 科学哲学科学史研究 (2): 162-164.

Riede, F. 200*. Niche Construction. In Platt, E.J. (ed.), "Semiotics Encyclopedia Online ": E.J. Pratt Library - Victoria University.

Schoener, T.W. 1989. The ecological niche. In Cherrett, J.M. (ed.), "Ecological concepts: the contribution of ecology to an understanding of the natural world", pp.79-113. Blackwell Scientific Publications.

Sinha, S. 2004. [Review of] Niche Construction - The Neglected Process in Evolution. Current Science 86: 1561-1562. [Rh20090723]

Smith, B. & Varzi, A.C. 1999. The niche. Nous 33: 198-222.

Vandermeer, J. 2004. The importance of a constructivist view. Science 303: 472-474. [Rh20090723]

ニッチと生活史段階

2010年05月30日 11時51分11秒 | 生態学
2010年5月30日-3
ニッチと生活史段階

 蝶と呼んでもよい仮想的昆虫を考える。その種に属する雌の成虫個体は、わたしがテキトーに耕して植えたキャベツ1個に卵を7つ産みつけた。卵は、孵化して1齢幼虫と(分類される成長段階の幼虫に)なり、キャベツを食って、また近年にない温暖な気候のおかげで健やかに大きくなった。最終段階の7齢幼虫にまで成長した5個体は、大きくなったので、_Homo sapiens_に属する生物体の眼に止まり(正しくは脳の認識活動的状態が変化して)、排除されるかに見えたが、その人体は可愛らしいと思ったからか、そのままにしていた。もうキャベツはほとんど食われて、こいつらは共倒れするだろう、親は卵を産み過ぎや、と思っていたら、あら不思議、まもなく、幼虫たちはすべて蛹になり、そして羽化して成体になった(7齢幼虫以降の死亡率はゼロ)。そして、それらは、天高く飛んでいって、見失いそうになる、という手前で、ヒヨドリのような大きさの鳥にすべて食べられてしまった。おしまい。

 では、これらの発生段階について、ニッチはいくつあるのか? 卵、幼虫、蛹、成体の4つのニッチをその種はもつのか。卵と幼虫、幼虫と蛹、そして蛹と成体、そしてこれらのどれか二つは、形態も行動もかなり異なる(いや、卵と蛹は動かない点や食べない点などでよく似ている。しかし次の発生段階に進むときの積算温度値は異なっているだろう)。食う物もまったく異なる(共通するのは暖かいという環境要因である温度を「食っている」ことかもしれない)。1生物体はいくつかのニッチを渡り歩くのか? ニッチを資源利用と概念として同一視するのか、資源利用はニッチの一つの指標とするのか。

 ニッチの、種にもとづく(実は生物体(の性質)にもとづく)定義も、生物体にもとづく定義も、、、。

生態系は平衡か非平衡か1/空きニッチ

2010年05月30日 00時58分54秒 | 生態学
2010年5月30日-1
生態系は平衡か非平衡か1/空きニッチ

 Woodley (2007, 2008)は、生態系は平衡から遠く離れてはいないという見解である。一方、Rhodeは、Nonequiribrium Ecologyという著作があるように、非平衡だという見解を取る。
 Woodleyの主張の「生態系は事実、型にはまったように〔決まったように routinely〕、飽和状態になる」を支持する説得性のある理由は、Rhode (2008b) がまとめたところによれば、

  a) 生態系への侵入への抵抗性と、生態系内の機能的な多様性は、相関する。これはKennnedy et al. (2002)が示した。
  b) Hubbell (2001) の生物地理学と生物多様性についての確率論的な中立理論は、種数パターンの予測に成功してきた。このモデルの鍵となっている前提の一つは、共同体は()生物的飽和の状態で存在できるである。どうやって、そのことは非平衡生態学と調和できるだろうか?

である。これらの議論〔論証〕は、次に示すように、説得性のあるものではないと、Rhode (2008b) は言う。

ニッチ概念の分類2

2010年05月29日 18時45分05秒 | 生態学
2010年5月29日-3
ニッチ概念の分類2

分類基準
 さて、本題。分類作業は、分類基準によって異なる結果となる。
 Whittakerほか(1973)は、おそらく、それまでに提案されたニッチ概念をうまくまとめようとしたようで、定めた基準を単純に適用していない。複合的、あるいはむしろ錯綜的である。
  (a) は機能的概念だとしている。
  (b) は生息場所的または場所的ニッチ概念だとしている。
 ここには、機能的か非機能的か、生息場所的か非生息場所的かという二つの基準がある。したがって、或る概念が、
  1. 機能的で生息場所的
  2. 機能的で非生息場所的
  3. 非機能的で生息場所的
  4. 非機能的で非生息場所的
という分類カテゴリーが生成される(分割表)。
 同定すれば、
  (c) は、1。
  (a) は、2。役割という語の(メカニズム参照的)解釈次第で、1。
  (b) は、3。もしかして、共同体内要因と共同体間要因の解釈次第で、 1。
 結局、4というカテゴリーに納まる概念は、Whittakerほか 1973の分類においては、無い。なぜ、無いのか。

 (b)では、「或る種がどう分布するかという関係」という文言がある。関係だとしているが、両者の性質から構成されるものなのか、両者の性質の間の関係なのかが、あるいは両方を場合に応じて使い分けるのかが、不明である。
 また、「(b) では「ニッチ」は「生息場所」と同義となる」というのも、問題の焦点(の一つ)である。

 次に、異なる視点からの分類基準を検討しよう。それは、何についてのものかという、定義がもとづく主体(主語)の問題である。

ニッチ概念の分類1

2010年05月29日 18時16分07秒 | 生態学
2010年5月29日-2
ニッチ概念の分類1

 議論が混迷している(と思える)場合は、概念が多義的であることが多い。まず、ニッチ概念を分類しよう。もとより、概念の分類は、その定義項の何によって分類するかで異なる。ここでは、出発点として、Whittaker, Levin, & Root (1973)を取り上げよう。

  「混乱は,異なる概念に対して「ニッチ」という同一の語を使うことから来ている.われわれは,この語について3つの意味を区別する.すなわち,
  (a) 与えられた共同体内における或る種の位置[position]または役割としてのニッチ.これはニッチの機能的概念である.
  (b) 或る範囲の諸環境と諸共同体に対して,或る種がどう分布するかという関係.これは,生息場所としてのニッチ,または場所的ニッチ概念である.
  (c) これら両方の合成概念としてのニッチ.ゆえに,共同体内要因と共同体間要因の両方によって定義される.これらのうち,(b) では「ニッチ」は「生息場所」と同義となる. (c) は,さしあたり「生息場所+ニッチ」と呼ぼう.」(Whittaker, Levin & Root 1973: 321)。

 aでもbでも、community 共同体〔群聚、群集〕

 [大辞泉によれば、ぐんしゅう(群集・群聚)は、
   1. 人が多く群がり集まること。また、その集まった人々。
   2. 社会学で、多数の人々が共通の関心のもとに、一時的に集合した非組織的な集団。
   3. 一定の地域に集まり有機的なつながりをもって生活する生物すべての集合体。
   4. 植物の群落を分類する単位。特定の種類が集まり、一定の相観をもつもの。群叢(ぐんそう)。
 と4つの意味があげられている。なお、3での集合体という語は大辞泉には無い。プログレッシブ和英中辞典では、集合体はan aggregateとなっている。]

と種という語が出ている。
 すでに、communityという語もまた、多義的である。共同体を生態学者が実際に使用するところから言える(あるいは操作的に考えられた)指示対象で言えば、共同体とは或る空間を研究者が任意に定めて(多くの場合、研究者の都合で)、そこにいる(理想的にはすべての)生物体について種類を同定し(ここでいくつかのタクソン的偏りが不可避となる)、その結果が、或る空間における共同体の構成または組成として表現されるもの(構築体)である。
 たとえば、種名を列挙し、各種に属する生物体の個体数を目録として表示したものである。しかしそれだけではつまらんと思えば、<そこにいる>生物体たちの振る舞いを調べて、諸関係を示したくなる(かもしれない)。
 すると、「地球暦10年10月10日10時10分10秒(という或る特定の時点)から11分11秒に間に、北緯11度11分11秒東経11度11分11秒の高度11.11mの地球地点(という或る特定の場所)において、生物体a1(種タクソンAに属する)と生物体a2(種タクソンAに属する。a2はa1から産出されたことが前の観測でわかっている。つまり、a1とa2は親子関係)と生物体b1(種タクソンBに属する)との間で空間的包含という作用関係があった。つまり、a1とa2は、b1の中に存在するという変化が観測された。」といった観測文を作ることができる。具体的には、a1とa2はアブラムシ生物体を、b1はナミテントウ生物体を想像されたい。この場合、親子関係にある2個のアブラムシ生物体を、1個のナミテントウ生物体が体内に収めた(食ったと解釈してよいだろう)ことになる。

  〔科学的営為においては一般的命題をつくりたいので、重力によってほぼ地球表面に縛りつけられている生物体数はあまりにも多いので、種カテゴリーでまとめて記述したい。ものごとは一例報告から始まるわけだし、一足飛びに、一例観測で種的一般仮説をつくろう。〕
 
  〔関係となると、相対的なので、たとえば運動は相互の位置関係の変化であるから、地球が太陽の周りを回っている、と、太陽は地球の周りを回っているも同じ。太陽中心説と地球中心説は、その核心は宗教的信念の違いであろう(歴史という構築体を参照)。観測者の位置の違いではなく、絶対という価値的位置の問題、かな?〕

 ニッチの話に戻ろう。Whittakerほか(1973)の(a)とは、
  「(a) 与えられた共同体内における或る種の位置[position]または役割としてのニッチ.これはニッチの機能的概念である.」
 positionとはたとえば地理的位置とった物理的なものではなく、役割とあるように、われわれが共同体を、どう捉えて何とするかの中身に依存する。そしてまた問題は、その共同体(これも空間を指定しなければ定まらない。諸関係はいかに空間を広げても、地球大にしても、特に重要な太陽からのエネルギーは、まさに地球外からやってくる)を構成するものとして、当の種(正しく表現するならば、当の種に属するn個の生物体)が含まれていることである。役割や役割の重要性もまた、どう考えるのか。
 という具合に、あらゆるものは他のあらゆるものに繋がっている Everything is connected to everything elseので、頭の体操をしていわば強力機械でスッキリと切断しよう(つまり分析力を最大に稼働しよう)。すると、われわれの構築力のおかげで、いくつかのものは他のいくつかのものに繋がっている Something is connected to something elseという、当たって砕ければなんとかなりそうな気がしてくる有り難い事態が出現するかもしれない。(当たらなければ、は必要条件だが、砕ければ、は滅亡条件である。)
  〔またもや、必要な迂回をしてしまった〕

文献
Whittaker, R.H., Levin, & Root, 1973. Niche, habitat, and ecotope. American Naturalist 107: 321-338.

ニッチと生息場所/タクソン

2010年05月27日 16時14分26秒 | 生態学
2010年5月27日-3
ニッチと生息場所/タクソン

 Bennett (2010: 12-13)を、分析するために試訳する。

  「6. 種、ニッチ、生息場所

 環境という概念は、なんら特定の生活形life formに言及せずとも使うことができるが、「生息場所」という用語は典型的には、生き物と密接に関係する世界の側面〔様相aspects〕に言及して使われる。よって、生息場所についての意味論を説明する試みの前に、種と生物体の本性natureを、まず検討しよう。特に、それら〔諸種と諸生物体〕と環境諸条件との相互作用を統御するgovern諸特徴に焦点を当てつつ検討しよう。
 最も確立されたアプローチは、ニッチ理論[Hutchinson 1957; Vandermeer 1972]である。そこでは、或る種のニッチは、環境諸パラメータの空間における超容積hyper-volumeとしてモデル化される。これは、或る種が生存する(または繁栄する)ことのできる可能的条件の空間を表わす。ニッチを特徴づけるために使われるパラメータは、捕食や時間的行動パターンといった複雑な要因を含むかもしれない。しかし、多くの有意義なパラメータは、なんらかの物理的測定(たとえば温度)の許容し得る範囲によって表わされ得る、環境の性質に関係している。われわれの枠組み内では、このようなパラメータで表わされるニッチは、述語の連言として表わされ得る。そしてそれは、(例の粒度問題〔granularity issues〕はうっちゃっとくとして)地理的領域の各点で評価することができる。

6.1 「潜在的生息場所」の形式的指定 Formal Specification of 'Potential Habitat'

 種sに対する環境的ニッチの制約は、地理点の述語 Niche_pred s(p) によって特定されると仮定しよう(また、捕食といった他の要因は無視する)。すると、4.3節での定義を使えば、種が潜在的に住むことができるだろう地理的領域は、
   potential_habitat(s) = tsspp-p (Niche_pred-s(p))。
   〔-pや-sは、-の直前の文字にかかる、pやsの下つき文字であることの代用である〕

 これを、種sの_生息場所_を形式的に規定する一つの可能なやり方だとみなすことができる。この様態 modeの指定によれば、一つの生息場所は、(5.4節での意味での)_総括的環境_の一つの型である〔a habitat is a type of _global environment_〕。そこでは、定義する述語は、種のニッチ・パタラメータの諸制約から導き出される。しかし、「生息場所」は、様態 modeの多義性によって深く影響されていること、を理解しなければならない。というわけで、これは、生息場所を定義することの、いくつかの自然的に相関する、しかし論理的には別個のやり方なのである。」

 次の節は、「6.2 生息場所の様態 mode」である。

[B]
Bennett, B. 2010. Foundations for an ontology of environment and habitat. 21pp. www.comp.leeds.ac.uk/qsr/pub/fois-10.pdf.

ニッチ(生態的地位)/Hull

2010年05月27日 15時53分16秒 | 生態学
2010年5月27日-2
ニッチ(生態的地位)/Hull

Hull, D. 1978. A matter of individuality. Philosophy of Science 45: 335-360. [p. 200により引用]

"An ecological niche is a relation between a particular species and key environment variables. A different species in conjunction with the same environmental variables could define quite a different niche. "

  「一つの生態〔学〕的ニッチは、特定種と鍵的環境変数のあいだの一つの関係である。同一の環境変数と結びついている異なる種は、かなり異なるニッチの範囲を定めることができるだろう。」(試訳)

 種は物の総称か構築体であり、鍵となる環境変数は構築体である。この両者の関係となると、、、。ここでの種とは、種に属する生物体のいくつかを指すのか。生物体の振る舞いまたは恒常的性質と、生物体が存在している周囲の環境変数との関係なのだろうか。
 しかし趣旨は、両者(種生物体とその環境の諸条件)が特定の時と所、あるいは大雑把にすればかなり幅広い時と所、において適合しているかどうか、を問題とするということだろう。これは一見もっともに見えるが、実践的には難儀なことになる。たとえば、

環境/存在論から見て

2010年05月25日 14時40分18秒 | 生態学
2010年5月25日-3
環境/存在論から見て

  「環境と生息場所という概念は、物理的世界の性質に関係して解釈される。よって、これらの用語の意味を説明するどんな満足のいく存在論もまた、空間、時間、物質、物理的対象という概念に言及するだろう。」(Bennett 2010: 4)。
 空間について。ユークリッド距離を与える原始的関数。開集合と閉集合という標準的な位相概念を、通常的に定義する。地球に対して固定された参照枠によって特徴づけられる空間。ここでは、地球の回転とその運動は無視する。
 ……(中略)……

環境 environment
 「直接的環境 immediate:或る特定の主体subjectの外的表面に直接衝突することによって、その主体に影響する要因。
  影響的環境 affective:所与の主体に相対的に同定される、対象の収集体、および/または、物質substanceの質。〔collection of objects and/or quantities of substanceは、collection of ((objects) and/or (quantities of substance))だとすると、「所与の主体に相対的に同定される、対象、および/または、物質substanceの質の収集体」となるが、『物および構築体の収集体』てことはないだろうから、やはり最初の訳が妥当か。〕
  局所的環境 local:主体に近位の物理的領域(これは、近位性の程度が特定されない限り、漠然としているvague。或る生物体の局所環境は、一日に動くことができる範囲に関係づけることができるだろう)。〔そら、えら甘いでぇ。一日の行動圏behavioural rangeや家圏home range 〔だれやろ、home rangeを行動圏て訳したのは? →また、概念の定義と『操作的定義』と実際の調査という標本抽出。全数調査はあり得ない。精確には、全数調査はあり得ても、全体調査はあり得ない〕 を考えてみておくれやん。概念的定義はできずに、指標を提案できるだけやん。ま、操作的定義のほうが、まぎれがなくていいけど、それすら難しいもん。主体はどんなタクソンに属するんやろん? 数種に属するそれぞれ複数の生物体について、それぞれの局所的環境を例示してもらえません? 〔脚韻を踏んでみよう。ただし、日本語では中頭韻を踏むのが、由緒正しい〕〕
  全括的〔全覆的〕環境 glabal:或る総体性totality〔=最大領域〕の領域内で可能な直接的環境、の範囲を決定する物理的環境、によって特徴づけられる物理的総体性。」(Bennett 2010: 9)。
 ここで主体とは典型的には、生きている生物体である(9頁)。
 と、12頁まで記述が続く。
 12頁からの第6節は、「種、ニッチ、生息場所」である。

Bennett, B. 2010. Foundations for an ontology of environment and habitat. 21pp. www.comp.leeds.ac.uk/qsr/pub/fois-10.pdf.

ニッチや環境の存在論やメレオロジー

2010年05月21日 23時45分52秒 | 生態学
2010年5月21日-4
ニッチや環境の存在論やメレオロジー〔部分論〕

 「科学は、諸プロセスを理解するためのアプローチであり、したがって科学の言語の多くはプロセス用語〔術語〕として類別され得る。」とPennington (2006)は述べ、下記はその接近段階を箇条書きにしたものである(原著を改変した)。
  1. 人は、時間と空間(時間のカテゴリーと空間のカテゴリー)における存在者(存在者カテゴリー)を観測する。
  2. 人は、存在者を統御する関連プロセスについて理論的推測をする(理論カテゴリー)。
  3. 変化が観測できるのは、機会に恵まれたoppotunisticときかもしれないし、あるいは実験的操作によって制御されるときかもしれない。
  4. これらのカテゴリーは、一つのカテゴリーを他のカテゴリーの文脈へと位置づける観測(観測カテゴリー)中に、組み合わせられる。

 図2に、ニッチ理論の例がある。

    プロセス                 観測

  非生物的相互作用    ニッチ理論      生態系
  生物的相互作用      /|\       生物地理学
              / | \      進化生態学
             /   |   \ 
  種        空間 -  -| -  - 時間   スケーリング
  生起〔出現〕   \ 存在者と諸性質  /    分類学
             \   |   /      
              \ | /      野外研究
  生起を予測        実験作業      モデル構築
  分析を変更                  シミュレーション


 おそらく、Smith & Varzi (1999)の"The Niche"というオントロジーを適用したという論文以来、ontologyが生態学や環境関連で出てくるようになったようだ。環境存在論の本(河野哲也ほか )がある。


◇ 文献 ◇

Bennett, B. 2010. Foundations for an ontology of environment and habitat.

河野哲也・染谷昌義・齋藤暢人・三嶋博之・溝口理一郎・関博紀・倉田剛・加地大介・柏端達也.2008.6.環境のオントロジー.304pp.春秋社.

Pennington, D. 2006. Representing the dimensions of an ecological niche. 10pp.

Smith, B. & Varzi, A.C. 1999. The niche. Nous, 33: 198?222.

ニッチ概念の検討2/ニッチの定義

2010年05月21日 10時09分09秒 | 生態学
2010年5月21日-1
ニッチ概念の検討2/ニッチの定義

 Mahner & Bunge (1997: 181;訳書 229頁)の定義5.7は、ニッチを適応性に関連して、生物体について定義している。それによれば、或る生物体のニッチとは、

  或る生物体のニッチ =def その生物体について法則率的に可能な(つまりそれが属するタクソンについて特異的な)、(その生物体の)環境との結合関係のうちで、その生物体に対して正の生命価値を持つ結合関係である。(マーナ・ブーンゲ『生物哲学の基礎』: 229頁、の表現を改変)。

 Mahner & Bunge (1997)は、適応性adaptednessと適合性aptednessを分けて考えている。これは進化をどう捉えるかということと関連するが、この(一つの)利点は、逆説的に進化をきちんと捉えることができることである。
 この定義を採用すると、生物体のニッチは、生息場所habitatといった物を指示することにはならない(訳書 229頁)。ところが生態学者が生息場所という語で何を指示しているかもまた、多義的だったりする。その理由(あるいは原因)は、結局われわれは科学的営為において、なんらかの種類と程度において、一般的な命題を主張するからである。個別事例は、一般命題の一つの事例であり、そのように同定されることで、個別事例は或る概念体系において位置づけられ、意味を獲得する(人が獲得させる)。

 実際に、2010年5月21日のScience電子版にクレイグ・ペイターさんらによる論文が掲載されるという、やや?、あるいは、かなり?の「人工生命」についてニッチ概念を適用してみよう。しかし、その前にシステム的見地からの検討をしよう。環境もまた、システムを(外部的に!、ここが大問題)構成するからである。

生態系「集成規則」

2010年05月19日 16時38分07秒 | 生態学
2010年5月19日-3
生態系「集成規則」ecosystem "assembly rules"

 ecosystem "assembly rules"は、生態系「集成規則」または、生態系「組み立て規則」と訳されよう。

 Lekevicius〔cは正しくは、cの上にv〕 (2009: 170右欄)によれば、ロシアでは、「全体論的(システム的)アプローチ」がいまでも流布しているとのことである。その生態学と進化生物学におけるロシア流パラダイムの核心は、
  「生態系だけが、生きている」、あるいは、
  「生命は、生態系(=栄養循環)の形でのみ、 無期限に存在できる」
と言う。そのパラダイムを代表する者(たとえば、Zavarazin 2000やLekevicius 2002)は、空きニッチを使っている。ただし、空きニッチという用語をときには、生態的自由免許 ecological free licenseという用語で置き換えたりする。

 Lekevicius (2002 :78) [Lekevicius 2009: 170rにより引用]によれば、生態系「集成規則」は、次のように定式化される。

  「生命出現のそもそもの瞬間以来、生態系と栄養循環が形成されるような、きわめて単純なメカニズムがあったはずである。なんらかの生物体の代謝の最終産物は、廃棄物となった。それはつまり、何者にも使われないが、潜在的に使用可能な資源である。このような空きニッチは、これらの資源を開拓することができるような生物体の進化を誘発した。その最終的結果は、廃棄物食者〔デトリタス食者〕の代謝の最終産物が、生産者にとっての主要な材料となったことである。同様に、生態的ピラミッドが形成されたはずである。すなわち、生産者は草食者の進化を誘発したし、草食者は一次捕食者の進化を誘発した、などなど、とつづき、ついには進化は、最上位に大型捕食者を持つ(知っての通りの)ピラミッドを産出したのである。」(Lekevicius 2009: 170r)。

 メカニズムを想定することは良いことだと思う。しかし、物語またはシナリオは、理論と呼ぶわけにいかない。大型捕食者がいない地域については、どう説明するのか? 絶滅したとすれば、なぜ生態系も縮退しなかった(たとえばピラミッドの構成数の縮小)のか、という問題に答えなければならない。しかしそもそも、潜在的に使用可能な資源があることは、生物体の進化を誘発する必要条件であっても、十分条件ではない。それに、「誘発する provoke」必要条件ではない場合もあるかもしれない。単なる可能性を、必然性にまで誇張してはならない。「因果性を証言している」なんて、とんでもない。

 ましかし、そういうわけで(上記の生態系「集成規則」)、空きニッチは多様化を刺激するだけでなく、その方向も決定するのだ、と言う。
  「この考えは、進化理論の要石として見ることができる。なぜなら、空きニッチのデータにもとづいて、多様化の結果を説明し、また少なくとも部分的に予測することは、それほど難しくないからである。」(Lekevicius 2009: 170r)。

 「生物体が出現する前には、なんらかの空きニッチまたは適応帯が存在した事実に注意されたい」と表の説明(Lekevicius 2009: 171)にある。生物体がいなければ、空きニッチも適応帯も、それらが生物体に関係する概念である限り、考えることが不可能である。空きニッチを実際に定義したり、或る環境が種〔に属する生物体〕で飽和していることを定めることは困難だということではなかったのか。


□ 文献 vacant niche/ref

*Herbold, B. & Moyle, P.B. 1986. Introduced species and vacant niches. American Naturalist 128: 751-760.

*Lekevicius, E. 2002. The Origin of Ecosystems by Means of Natural Selection. Institute of Ecology.

Lekevicius, E. 2009. Vacant niches in nature, ecology, and evolutionary theory: a mini-review. Ekologija 55: 165-174.

Rohde, K. 2008a. Vacant niches and the possible operation of natural laws in ecosystems. Rivista di Biologia / Biology Forum 101(1):13-28.

Rohde, K. 2008b. Natural laws, vacant niches and superorganisms. A response to Woodley. Rivista di Biologia / Biology Forum 101(3):340-346.

Woodley, M.A. 2006. Ecosystems as superorganisms: The neglected evolutionary implications. Frontier Perspectives 15: 31-34.

Woodley, M.A. 2007. On the possible operation of natural laws in ecosystems. Rivista di Biologia / Biology Forum 100(3):475-486.

Woodley, M.A. 2008. A response to Rhode: natural laws, vacant niches and superorganisms. Rivista di Biologia / Biology Forum 101(2):172-181.

ニッチ概念の検討1/空きニッチの定義

2010年05月19日 00時04分16秒 | 生態学
2010年5月19日-1
ニッチ概念の検討1/空きニッチの定義

 以下では、『種』をタクソンとして考えている。したがって、或る種とは、その種(つまり或る特定の分類カテゴリー。測定尺度は、名義またはカテゴリー尺度である)に属する生物体(の一部)のことである。ただし、以下での定義の著者たちは、そのように(深く)考えていないかもしれない。
 Elton流の、或る種の共同体のなかでの(たとえば食物連鎖における)位置という定義は、種または生物体にもとづく定義である。ただし共同体どうしを比較した場合は、つまり種を抽象的な空間配置において、欠落していると捉えることができる。この場合は、進化的時間スケールにまで、(あればの話だが)理論の射程は及ぶ。

 空きニッチという言い方は、もちろん生物体にもとづいた定義ではない。ニッチを環境の性質と考える場合に、空きニッチは可能になる。すなわち、資源が利用しつくされていないときである(これは、ニッチを資源利用と同一視しているか、資源利用をニッチの指標と考えていることになる。→もう少し議論を詰めるべし)。
 このように捉えた場合にも、幾多の問題があるが、先に進むために、棚上げする。まず、定義を調べてみよう。なお、これらの定義はさしあたり、Lekevicius (2009: 165)によっている。


 Lawton (1984)による定義:
  空きニッチ =def 或る領域にいるどの種も良く適応していない、進化的に新奇な環境条件の一揃い。

 Rhode (2005)による定義:
  空きニッチ =def 生態系または生息場所において、或る特定の時点で存在するよりも、より多くの種が存在できるであろう可能性。
   (多くの可能性が、そこに存在する種によって使われていないから。)

 Moodley (2006: 30)による定義:
  空きニッチ =def 資源勾配の一定の領域に沿っての、種の不在。
   (空きニッチは、共同体水準〔levelという語だが、創発性または制御階層でのレヴェルではないだろう。ゆえに、あいまいに水準と訳しておく〕において、或る種の形質を固定する潜在性を持ち、そして、周囲の生態とのより大きな統合を有利とする方向に、或る種の進化的軌跡に影響を与える。)〔進化的時間スケールになると、とたんに構築概念たちを錯綜させるんだねぇ。〕

Lawton 1984
Lekevicius 2009
Moodley 2006
Rhode 2005