何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

おもしろきこともなき世を

2015-09-15 19:18:18 | 
判官贔屓という言葉があるが、大体において私にもそのきらいはあり、勝てば官軍の好き放題よりは、二本松少年隊や桑名藩の辛酸に心痛め、小栗忠順や河井 継之助の新政府ならば、かくのごとき世にはならなかっただろうと思ってきたので、長州の志士について特に思い入れはなかったのだが、違う視点を与えてくれたのが、「花見るひまの」(諸田玲子)だ。

七つの短編からなる「花見ぬひまの」は、本の帯に「幕末の嵐の中で、赤穂浪士討ち入りの陰で、女たちは命を燃やしたー」とあり、作者自身もあとがきで「本書はすべて恋の話」と書いているので、主眼は恋なのだろうが、全編に登場するのが尼さんなので、その恋は時代背景以上に複雑だ。だが、私が感じ入ったのは恋バナでは、ない。

それぞれ独立した七編だが、高杉晋作と望東尼を書いている冒頭の「おもしろきこともなき」と最後の「心なりけり」を読み、これまでと少しばかり違う印象をもったのだ。
幕末維新といえば、尊王攘夷派であれ佐幕派であれ荒々しい益荒男だけが大手を振って歩いている印象があったが、福岡藩士の妻であり後に尼となった望東尼は、得意の和歌で勤王の志士を精神的に支援していただけでなく、物理的にも追っ手に追われる志士に隠れ家として自分の山荘を提供していたというから驚きだった。
この時代に、『今は内戦をしている時ではない』『開国前に日本を統一すべし』という明確な考えを持ち、そのために活動する(女性)勤王家である、望東尼。
この望東尼に匿ってもらう数々の尊王派の志士のなかに、高杉晋作もいた。
望東尼と高杉晋作は隠れ家で政を対等に議論する。
『今は戦をしている時ではない、ひとつになって異国に備えよと平野(國臣)さんも言うておられました。
 戦を仕掛けたのはまちごうていた、ということですたい。けど長州征伐はもっと悪い。
 とんでもないことです。同じ国のなかで戦うなんて・・・・・。
 長州には何としても、生き残ってもらわんとなりません。』
話は政だけでなく、歌人としても知られる望東尼の和歌にも及ぶ、その時紹介されたのが、この歌だ。

おもしろきこともなき世と思ひしは 花見ぬひまの心なりけり

この二人が山荘(隠れ家)で会ったのは一度きりだが、この後に今度は望東尼が高杉晋作に助けられる。
尊皇派への弾圧が厳しくなり望東尼は捕縛され姫島に島流しの身となるが、これを救い出すのが、既に胸の病に冒され病床についていた高杉晋作なのだ。
姫島から脱出したばかりで疲労困憊の高齢の望東尼と胸を患う高杉晋作は枕を並べて療養しながら、やはり政や歌を語り合う。
そこで生まれたのが、高杉晋作辞世の句として有名な、この句である。

おもしろきこともなき世を面白く 住みなすものは 心なりけり

この辞世の句には諸説あるようで、「おもしろきこともなき世をおもしろく」を晋作がつくり、下の句を望東尼が付け加えたという説もあるようだが、「花見ぬひまの」では高杉晋作の最期を見舞った折に、二人が昔を懐かしみ「おもしろきこともなき世と思ひしは 花見ぬひまの心なりけり」を捩って作られた歌だとしている。

庭いじりの愉しみを知る者としては望東尼の「花見ぬひまの」にも心惹かれるが、高杉晋作の辞世の句は「花見ぬひまの」を昇華させた感があり、更に惹かれる。
そして、あの時代に、男性と対等かそれ以上に政に取り組んだ女性がいたことと、そのような女性に同志として対等に向き合った志士がいたことを教えてくれた「花見ぬひまに」、こういう機会でなければ手に取ることがなかっただろう方向性、読んで良かった。

命がけで政に対峙した望東尼がこの世を去ってから、およそ150年。

<女性議員比率 日本9・5%で113位 なお先進国で最低水準> 産経新聞2015.3.5 16:09配信より一部引用
世界の国会議員らが参加する列国議会同盟(IPU、本部ジュネーブ)は5日、各国の議会に占める女性の割合調査を公表し、日本は今年1月1日現在で190カ国中113位だった。依然として先進国の中で最低水準が続くが、昨年1月1日現在の127位からは順位を上げた。

日本国の象徴である天皇家においては、男児がおられない長男御一家は立場を追われる危うさであり、男児を産めなかった皇太子妃は病になるまで追いつめられ、一粒種のお姫様は女児という理由で存在がないものとされている。

150年前から退化しての、最低水準は続いている。


ところで、大震災や大水害、度重なる噴火と、まったくもって「おもしろきこともなき世」である。現時点では、勿論それを「面白く」と往かぬのは当然だが、少しでも違う視点で希望を見つけて頂けるように、そして自戒の念も込めて、この歌を今一度書き記したい。

おもしろきこともなき世を面白く 住みなすものは 心なりけり



追記
一方的なこのブログでも、ワンコ生活&庭いじり&野菜作り、常念岳への想い、読書の愉しみ、そして応援したい色々などを書いていると、自ずと繋がりを感じることもあり、その中からヒントを頂ける日々に感謝している毎日です。