<MRJ>米西部に着陸 国産旅客機で半世紀ぶり 毎日新聞 9月29日(木)10時4分配信より一部引用
◇ワシントン州モーゼスレークの「グラント郡国際空港」に
国産初の小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」が28日夕(日本時間29日午前)、試験飛行の拠点となるワシントン州モーゼスレークの「グラント郡国際空港」に着陸した。新型の国産旅客機が米国に飛来するのは、国産初のプロペラ機「YS11」(官民出資の日本航空機製造が開発)がデモ飛行した1966年9月以来、半世紀ぶり。米国への移送は8月下旬に空調システムの不具合で2度中断しており、3度目で実現にこぎ着けた。
昨年11月、MRJによる国産旅客機の初飛行成功を喜び「祝号外 飛べニッポン号」を書いて以来、実は密かに心配していたのは、この間何度も不具合が発生し、アメリカへの試験飛行が延期されていたからだが、それが遂に成功した。
旅客機として運航するためには、まだ幾つもの関門があるが、又ひとつ大きな第一歩を踏み出したことに、胸弾む思いである。
太平洋を横断した飛行機の感動のあとに、川をわたる話ではスケールが違いすぎるが、太平洋であれ川であれ、目の前のそれを越えることが新たな一歩に繋がるという点においては、同様の意味合いを持つのかもしれない。
このように感じたのは、最近読んだ二冊の本はジャンルがまったく違っているにもかかわらず、目次の次に挟み込まれている地図に同じ川が載っており、その川を越えていく心理が書かれていたからだ。
「あきない世傳 金と銀2」(高田郁)
「ブラック・ジャックは遠かった」(久坂部羊)
京の都では、一大決心をする心持を、「清水の舞台から飛び降りたつもりで」と表現するが、所変わって浪速・ナニワでは、その心持を「川を渡るつもりで」と表現できるのかもしれない。
「あきない世傳 金と銀2」は、浪速は天満で呉服屋を営む五鈴屋を舞台に、女衆の幸が健気に逞しく生きていくという話。
シリーズ第二弾となる本書では、嫁にも逃げられ、いよいよ阿呆ぽんたんぶりを遺憾なく発揮する総領息子のせいで、暖簾が傷つき身代が傾いてしまった五鈴屋を、いかに立て直すかというのが読みどころだが、浪速商人(あきんど)特有のしきたりや空気もしっかり描かれており、特に天満で商売する者が、大川にかかる天満橋や天神橋を渡り、高麗橋通りや船場に足を踏み入れることに感じる憧れと恐れが、よく描かれている。
とは云え、川向こうの土地・船場が(江戸時代の)商人に与える重圧を、どれほど掴めたかは心許ない。
だが、1955年生まれの久坂部氏が川の向こうに感じた重圧ならば、理解しやすい。
「ブラック・ジャック(BJ)は遠かった」は、久坂部氏が自身の浪人時代と阪大医学部時代を面白おかしく書いた青春期だが、そこで越えるのに厄介な存在として描かれているのが、「あきない世傳2」で登場する大川の支流である土佐堀川だ。
久坂部氏が通った予備校は土佐堀川の袂にあり、この川の向こうに志望校の阪大医学部があったため、久坂部氏にとって、土佐堀川を渡るというのは人生の第一歩を意味したのだろう、「BJは遠かった」の第一話「狭くて広かった土佐堀川」には、川の向こうに感じる重圧を切々と記している。 (『 』「BJは遠かった」より引用)
『雨の日など、一人になりたくて、よく予備校の屋上に上った。トタン屋根にあたる雨音を聞きながら、眼下の土佐堀川をじっと眺める。灰色に煙った水面の向こうに、医学部の建物がぼんやり見渡せた。翌年の三月、私は無事にこの川を渡れるだろうか。さほどの川幅もないが、心理的にはとてつもなく広い川だった。目の前の灰色の風景が自分の人生そのもののように思え、たまらなく切ない気持ちになったのを今も覚えている』
『土佐堀川は、私にとっては狭くて広い試練の川だった。苦労はしたけれど、この川を越えたことが、私の人生の転機になったのかもしれない。』
偶然続けて読んだ両作品に、偶然同じ川が描かれていて、両作品の主人公がともに「川」を渡ることに心理的圧迫を感じるという共通点を持っていたのは偶然のことだが、両作品は私にとって「意外性」という共通点もある。
浪速の川を渡って思いがけない人生を生きていく「あきない世傳2」の幸と、ナニワの川をわたり「白い巨塔」に辿り着いた「ブラック・ジャックは遠かった」の久坂部氏の物語については、又つづく。
追記
こんなニュースを見つけてしまった。
<MRJ>初納入延期を検討…19年以降の可能性 毎日新聞 10月1日(土)11時42分配信
三菱航空機が開発中のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」について、2018年半ばに予定している初納入の延期を検討していることが1日明らかになった。一部部品の設計変更などが要因で、納入は19年以降にずれ込む可能性もある。延期が決まれば今回で5度目となり、受注活動への影響が懸念される。
太平洋を渡ってもなお、越えねばならない「川」が待ち受けているが、いつか必ず世界を翔ける日が来ると信じて、応援している。
「あきない世傳 金と銀1」参照 「売っての幸せが織りなす金銀」 「ご体裁 加之」 「柔軟性が導くトロイとマヤ」
「幸が阪急電車に乗ったなら」 「毬毬を包み込むナニワ文化圏」
◇ワシントン州モーゼスレークの「グラント郡国際空港」に
国産初の小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」が28日夕(日本時間29日午前)、試験飛行の拠点となるワシントン州モーゼスレークの「グラント郡国際空港」に着陸した。新型の国産旅客機が米国に飛来するのは、国産初のプロペラ機「YS11」(官民出資の日本航空機製造が開発)がデモ飛行した1966年9月以来、半世紀ぶり。米国への移送は8月下旬に空調システムの不具合で2度中断しており、3度目で実現にこぎ着けた。
昨年11月、MRJによる国産旅客機の初飛行成功を喜び「祝号外 飛べニッポン号」を書いて以来、実は密かに心配していたのは、この間何度も不具合が発生し、アメリカへの試験飛行が延期されていたからだが、それが遂に成功した。
旅客機として運航するためには、まだ幾つもの関門があるが、又ひとつ大きな第一歩を踏み出したことに、胸弾む思いである。
太平洋を横断した飛行機の感動のあとに、川をわたる話ではスケールが違いすぎるが、太平洋であれ川であれ、目の前のそれを越えることが新たな一歩に繋がるという点においては、同様の意味合いを持つのかもしれない。
このように感じたのは、最近読んだ二冊の本はジャンルがまったく違っているにもかかわらず、目次の次に挟み込まれている地図に同じ川が載っており、その川を越えていく心理が書かれていたからだ。
「あきない世傳 金と銀2」(高田郁)
「ブラック・ジャックは遠かった」(久坂部羊)
京の都では、一大決心をする心持を、「清水の舞台から飛び降りたつもりで」と表現するが、所変わって浪速・ナニワでは、その心持を「川を渡るつもりで」と表現できるのかもしれない。
「あきない世傳 金と銀2」は、浪速は天満で呉服屋を営む五鈴屋を舞台に、女衆の幸が健気に逞しく生きていくという話。
シリーズ第二弾となる本書では、嫁にも逃げられ、いよいよ阿呆ぽんたんぶりを遺憾なく発揮する総領息子のせいで、暖簾が傷つき身代が傾いてしまった五鈴屋を、いかに立て直すかというのが読みどころだが、浪速商人(あきんど)特有のしきたりや空気もしっかり描かれており、特に天満で商売する者が、大川にかかる天満橋や天神橋を渡り、高麗橋通りや船場に足を踏み入れることに感じる憧れと恐れが、よく描かれている。
とは云え、川向こうの土地・船場が(江戸時代の)商人に与える重圧を、どれほど掴めたかは心許ない。
だが、1955年生まれの久坂部氏が川の向こうに感じた重圧ならば、理解しやすい。
「ブラック・ジャック(BJ)は遠かった」は、久坂部氏が自身の浪人時代と阪大医学部時代を面白おかしく書いた青春期だが、そこで越えるのに厄介な存在として描かれているのが、「あきない世傳2」で登場する大川の支流である土佐堀川だ。
久坂部氏が通った予備校は土佐堀川の袂にあり、この川の向こうに志望校の阪大医学部があったため、久坂部氏にとって、土佐堀川を渡るというのは人生の第一歩を意味したのだろう、「BJは遠かった」の第一話「狭くて広かった土佐堀川」には、川の向こうに感じる重圧を切々と記している。 (『 』「BJは遠かった」より引用)
『雨の日など、一人になりたくて、よく予備校の屋上に上った。トタン屋根にあたる雨音を聞きながら、眼下の土佐堀川をじっと眺める。灰色に煙った水面の向こうに、医学部の建物がぼんやり見渡せた。翌年の三月、私は無事にこの川を渡れるだろうか。さほどの川幅もないが、心理的にはとてつもなく広い川だった。目の前の灰色の風景が自分の人生そのもののように思え、たまらなく切ない気持ちになったのを今も覚えている』
『土佐堀川は、私にとっては狭くて広い試練の川だった。苦労はしたけれど、この川を越えたことが、私の人生の転機になったのかもしれない。』
偶然続けて読んだ両作品に、偶然同じ川が描かれていて、両作品の主人公がともに「川」を渡ることに心理的圧迫を感じるという共通点を持っていたのは偶然のことだが、両作品は私にとって「意外性」という共通点もある。
浪速の川を渡って思いがけない人生を生きていく「あきない世傳2」の幸と、ナニワの川をわたり「白い巨塔」に辿り着いた「ブラック・ジャックは遠かった」の久坂部氏の物語については、又つづく。
追記
こんなニュースを見つけてしまった。
<MRJ>初納入延期を検討…19年以降の可能性 毎日新聞 10月1日(土)11時42分配信
三菱航空機が開発中のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」について、2018年半ばに予定している初納入の延期を検討していることが1日明らかになった。一部部品の設計変更などが要因で、納入は19年以降にずれ込む可能性もある。延期が決まれば今回で5度目となり、受注活動への影響が懸念される。
太平洋を渡ってもなお、越えねばならない「川」が待ち受けているが、いつか必ず世界を翔ける日が来ると信じて、応援している。
「あきない世傳 金と銀1」参照 「売っての幸せが織りなす金銀」 「ご体裁 加之」 「柔軟性が導くトロイとマヤ」
「幸が阪急電車に乗ったなら」 「毬毬を包み込むナニワ文化圏」