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万葉文化館で思ったこと

2012年12月10日 | 美術館を訪ねて
奈良県立万葉文化館は、『万葉集』を中心とした古代文化を総合的に紹介する文化施設として、2001年に明日香村にオープンしました。

施設の建設中に日本最古の貨幣・「富本銭」の鋳造施設をはじめ金・銀・銅・鉄・ガラス工房と思われる遺構やるつぼ、金属製品などの遺物、7,500点以上の木簡、大量の土器類が出土した飛鳥池工房の遺跡が発見され、古代史研究に大きな波紋を投げかけたことでも知られています。
ただ、残念ながら現在みられる工房遺跡はレプリカで、大部分の本物の遺跡は再び埋め戻され、その上に館の建物が建てられました。

万葉集に関する文献・資料の蒐集もさることながら、万葉文化館はオープンに際して『万葉集』の歌をもとに154名の日本画家が一点ずつ競作した「万葉日本画」のコレクションも有名です。

その上、毎年4~5回開かれるいろいろな日本画の企画展も魅力で、展示が変わる度に訪れていました。
展覧会のテーマもユニークで、基本的に日本画であることだけで別に万葉にとらわれず、幅広い画家の作品を紹介していて、私たちもいい勉強になりました。
前にも書きましたが、最近では田中一村安濃光雅(日本画家ではありませんが)の展覧会が印象に残っています。それ以外でも、ここで初めて知った日本画家のすぐれた作品も多く、いつも訪れるのが楽しみでした。

それが、今年度から大幅に縮小されてしまいました。

それに伴って品ぞろえの良かった館内のショップも縮小され、受付嬢も減員され、寂しくなりました。施設の周辺で営業していたレストランなども閉店が相次ぎ、さびれています。

まあ、無理もないのです。

地の利が悪いせいなのか、来館者が少ないのはいつも気がかりでした。近くに飛鳥寺や橘寺、飛鳥坐神社などもありハイキングコースに入っているのではと思うのですが、いつ行っても観客は少なく空いているのです。
人気のあるはずの「安濃光雅」展や「田中一村」展でさえ、車椅子で快適にゆったり鑑賞できたのですから。
それで私たちも以前から「危ないね、予算大丈夫かな」と危惧していました。

その予感は現実となって、すでに昨年はじめに展覧会を縮小するような主旨の予告がホームページに掲載されていました。

でも、昨年度は引き続き展覧会がそれまでと同じペースで開催されたので、ひょっとして継続されるのではと淡い期待を抱いていたのですが、今年の4月以降は「松村公嗣 -四季のきらめき-」と「金森義泰の世界」展が開催された後、外部の画家の展覧会はなくなりました。本当にがっかりでした。そのかわりに、オープン時に蒐集した所蔵画をテーマごとに展示することになったようです。

今回はその新企画の第二弾で、「冬の万葉日本画 天 -万葉の心にふれる-」と題して、「天」という言葉にちなんだ歌を中心に「歌木簡」(レプリカ)や「万葉集」の写本・版本、写真と所蔵している万葉日本画を展示していました。
なかなか面白かったですが、展示された絵のほうは正直言って玉石混交といったところです。

以下、今回の展示でとくに印象に残った作品をご紹介します。すべてショップで買った絵葉書をスキャンしたものです。

↓北田克己 「初月(みかづき)」


↓今野忠一 「富士」


↓千住 博 「ウォーターフォール」


↓木下育應 「野地爽晨」


↓平松礼二 「路-湖愁」


↓井上 稔 「斑鳩夕景」


いい作品でしょう?本当に眼の保養になりますよ。
あと、片岡球子の「富士山」もインパクトがありました。

でもこうした良作の展示も多いのに、相変わらず観客は少なく、寂しかったです。

ところが、見終わって展覧会場からミュージアムショップに戻ってきたら、大勢のハイカーがたむろしていてびっくり。
数十人規模なので、団体で見に来てくれたのかとちょっと期待したのも束の間のこと。
みなさん、折からの冷たい雨を避けてトイレ休憩に来たようで展覧会はパスでした。私たちがショップで絵葉書を買っていたとき居合わせた人たちも殆ど見るだけという感じでした。

ちょうど昼時だったのでカフェだけは人が群がっていましたが、これはこれでいつもの客数を知っている私たちは、食材が足りるのかと余計な心配をしてみたり。(笑)

他人事ながら売り上げアップを期待した私たちですが、ちょっとがっかりでした。出口の臨時売店?でお菓子も買ってから帰途につきました。

万葉文化館には今後も、今年のように回数を減らしてでも展覧会は継続してほしいのですが、前回や今回の様子を見ているとそれすら心配ですね。

大阪市の橋下市長をはじめとして、今公共施設の予算カットが流行になっていますが、安易な予算削減で施設を廃墟にしてしまうのではなく、長いスパンで文化を育てていく観点が絶対に必要ですね。同時に館側としても、せっかくの充実した展示施設や設備ですから、それらをもっと活用して、不断に来館者を増やす努力を重ねてほしいです。

今後もささやかですが応援していきたいと思います。みなさんも明日香を訪れた際にはぜひ足をお運びください。


コメント
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