ハクビシンの手足を見てみます.あれ,手足はおかしいのかな?手ではなくて前足,後ろ足が正しいのではないだろうか.しかし,「猫の手も借りたい」とよくいわれるし.猫の前足は手と呼んでもよいのだろうか,どうなんだろう.
あれ?
疑問がふくらんできました.
手か足か.
それが問題である.
サル(ある類人猿)は四足歩行から,二足歩行に進化.前足を手として使えるようになりヒトになった,のではなかったか.
手と足問題は動物とヒトとを区別するとても重要な厳かな内容を秘めているのではないだろうか.
このまま,人類の歴史にかかわるようなこの大きな疑問をうっちゃっておくことはできない.これでは今晩は眠ることができそうにない.
考えずにおかりょうか.
これは右前足です.
辞書で引いてみました.
ー広辞苑「手」ー
❶人体の左右の肩から出た肢.(苦笑い)おお,人体の左右,先ず「人体の」とあるではないか.
❷人の手のように突き出ているもの.
あれ,これでは動物の前足もさすのでは?と見ていくと
①器具の把手・柄など.
②横木.
③蔓を絡ませるために立てる竹や木.
④幕などの乳を通してかけ渡す網.
⑤ほのお.
動物関連はでてきません.
❸人体の手のように働くもの.
①働く人.働き手.ひとで.
②部下.配下.
③(動詞の連用形について)そのことをする人.分担する人.
④くみ.隊.
⑤矢二筋を一組として数える語.
❹手を働かせてすること.
①持つこと.所持.所有.
②手で文字を書くこと.また,文字.
③能筆.能書.
④うでまえ.技量.
⑤てだて.手段.方法.
⑥相手に勝つわざ.策略.
⑦仕事をする力.
⑧手数.世話.
⑨(手を使ってする)器楽の演奏.また,楽曲.
⑩かかわりあうこと.交際.関係.
❺手で指すもの.
①方向.方角.側面.
②種類.
③人品.風采.
❻自分の手.
①手前.自分.
②水から手を下してすること.
❼相手から受けたきず.
❽①代金.「酒-」
②江戸時代の雑税の一.
以上.〈青文字は広辞苑より引用〉
どうやら広辞苑は「手」はヒト,人関係のみに限定しているようです.ところが「大辞林」を引くと,
「手」
①人体の肩から先の部分.手首・てのひら・指先などをさすこともある.また,動物の前足をいうこともある.(青文字は大辞林引用)とでています.どうも大辞林のほうは広辞苑より,もう少しおおらかなようです.
しかしですよ,イノシシの前足をイノシシの手といいます?また,牛や馬,シカの前足をあなた,手といいます.
まてよ,蹄系は前足を手とは呼びにくいが,指が付いている系はどうだろう?
犬には「お手」と命令して,人の手のひらに前足を乗せさせるという芸をさせるが,あれは犬の「手=前足」を乗せろというつもりで命令するのが正しいのか,それとも犬の「足=前足」を人の「手」に乗せろと命令するべきことなのか,どちらなのだろう?
だんだん疑問が広く深くなっていきます.
ここで再び広辞苑に出てもらって.お手=
「御手」②犬などに,前足をあげて人の手に触れるように命ずる言葉.(青文字は広辞苑引用)
やはり,あくまでも「前足」です.犬の「手」では決してありません.広辞苑は一貫しています.この姿勢は好きです.
さて,大辞林のほうはどうか,やはり
②犬に,前足をあげて人の手に触れるように命ずる言葉.(青文字は大辞林より引用)とあります.
比べてみますと,違いは広辞苑では「犬などに」と「など」を使い犬以外にも使うことがあるということを含ませていますが,いっぽう大辞林の方は「犬に」と犬だけに限定しています.
これは少しおかしい.
世の中には猫にだって「御手」を命令する人がいるかもしれないではないですか.猫はしらんぷりをすると私は思いますが,それでも「御手」を命令したり,懇願する人は後を絶たないかもしれないではないですか.
私はイノシシのハナ子にときどき「御手」と命令しています.(反応はなし)
これはどう考えても広辞苑の方が大人ですね.
こうして,「手」問題は思考が千千に乱れ,なかなか明確な答えが出てきません.
結論として,わたくしといたしましては,やはり人間と動物との違いを際立たせることに重きをおきたいと考える次第でして,そういう理路整然とした論拠により,大辞林よりも広辞苑を支持したいとおもうものであります.
「手」問題はこれぐらいにして(こうした緻密な考察も数日たつと忘れ,ハクビシンの手と言いだすかもしれません.が,まあ,年寄りですのでおゆるしください)ハクビシンの手じゃなかった前足を見てみます.
上が左手じゃなかった,左前足で下が右前足です.
どうです.どう見ても足の裏という感じでしょう.全身毛に覆われているのに足の裏には毛がほとんどありません.木を掴みやすく,滑りにくくなっています.
こちらは後足です.
後足の裏にもほとんど毛がありません.人間の足の裏ではかかとに当たる部分に短毛が密集しているように見えますが,これは毛ではなく皮膚がブツブツと盛り上がり濃い茶褐色をしています.
尻尾といい,足の裏の構造といい,やはり樹上生活に相当適応しているようです.
ハクビシンが寝ている姿です.
毛が生えていない足と鼻先を体の中心に,まるで包み込むようにして寝ています.
べつにふてくされて寝ているのではありません.寒いときでしたのでこういう姿勢で寝ているのであって,暑い時期は腹天で足を突き上げて寝ているかもしれませんが,夏,寝姿を見たことがないのでわかりません.