稲やタケノコへの被害はみてきましたが、こんどは秋の味覚である果物への被害状況をみてみます。当地で一番ポピュラーなのがクリへの食害です。私の住む集落にはクリ専業農家はありませんが、それぞれ家庭用や少量の販売用として栽培されています。
画像:クリ色々、左から3番目までが栽培種、その右は野生種(野生種:ヤマグリは小粒ですがコクがあり甘みも強くとても美味しいです。)
イノシシ被害が激しくなってくるとともに、殆ど収穫できなくなりました。滅多に人が通らない山のクリ畑などではその近くに「寝や」をつくって食っちゃ寝、食っちゃ寝という、ヒトも羨むような、優雅で怠惰な生き方をするイノシシもおります。熟して落ちてきたクリを食べ、次に落ちてくるまで近くの寝心地の良い所で一寝入り。ポトリ、ボタっとクリが落ちる音を子守唄のように聞きながら心地よく寝入っているのかもしれません。
ある日、クリを盗み食いするイノシシをとっ捕まえるため、駆除のワナを仕掛けようとクリ畑に向かいました。クリ畑に近づくと、数時間前と思われるような山道を掘り返してミミズを探したり、山芋を掘ったりした痕跡があり、イノシシの気配がムンムンしていました。
画像:イノシシの上前をはねて収穫したクリ。
餌場に通うハシリ(ケモノ道)を探そうと畑の山側を歩いていると、すぐ近くのシダの中からどどどどっとイノシシが飛び出してきました。それはそれはもう、びっくり仰天!肝を冷やしました。大きさは50キロほどと思われましたが、総身の毛を逆立てて目の前を横切り逃げて行きました。
のんびりとクリを食べて寝ている所に私が突然現れて、イノシシもさぞかし吃驚仰天したことでしょう。
日本での猛獣として恐れられているのは、クマ、イノシシでしょう。ただ、北海道のヒグマは別として、クマ(ツキノワグマ)にしてもイノシシにしても、ヒトを食ってやろうと襲ってくるわけではありません。クマの場合、ほとんどが突然の出会いによって、パニックになりヒトを襲撃するようです(実はクマのことはあまりしりません)。
Wikipediaには
『森林と人間の居住エリアとの境界付近で、出会い頭であることが多い。こうした場所に行くときは、聴覚が鋭いクマの特性を利用して、よく鳴る笛や鈴を必ず携行するなど、人間の存在をクマに知らせることが重要である[1]。また、クマは背中を見せて逃げるものを追う習性があるため、出会ってしまったときは、静かに後ずさりすべきである。 なお、熊にあったときに死んだふりをするというのは、イソップの「熊と旅人」の話の一部であり、自殺行為である。』とあります。
また、
(NPO)日本ツキノワグマ研究所の出している対処法として
『● 50メートルも離れていたら、木の影に隠れながら、音を立てずに反対側に逃げます。
● 20メートルほど先でクマと目が合い、クマがじっとしているときは刺激せず、背中を見せず、後ずさりします。
● 攻撃が避けられないときは、頸部を両手で覆い、窪地に伏せるのが良いと思われます。立ったまま頭部を攻撃されるのが頚動脈を掻かれるので、最も危険と言えます。
最近ではピクニックシートを広げて、ガサガサさせると、クマは逃げるとする報告がありますが、まだ誰も山中で試した人はいないようです。』とありました。
ツキノワグマの場合、やはりクマの方から好んでヒトを襲うことはなさそうです。クマの出没する生息域へ入るときは突然の遭遇を避けるため、鈴など音をたてて歩くのが最善のようです。
さて、イノシシはどうでしょう。
クマもそうですが、イノシシも年間何件かの人間への襲撃事件がおこっています。しかし、イノシシの場合、人間との突然の出会いなどでの時、ツキノワグマよりもかなり凶暴性は低いようです。先に書いたクリの近くの遭遇もそうですが、こんなこともありました。
現在、栽培している温州みかんは、イノシシの縁で購入したものです。ミカンへの食害がひどくなり私に駆除の依頼がきました。被害状況を見て回って驚きました。ミカン畑一面が食い散らかしたミカンの皮で真黄色に染まっているのです。中には背伸びして寄りかかってミカンを食べるものですから枝が折れている木もあります。被害にあっている耕作者が「ミカンの収穫をしてくれているアルバイトの人から、こればあやられて、来年もミカンを作るがかよ?と聞かれた」と話すほどの被害でした。朝、大きなイノシシが6頭、ミカンの木によりかかって食べているところへ遭遇したこともあるそうです。
これがたまるか!と早速ワナを仕掛けるためミカン畑の周りの林の中を見て回りました。いつも通っているケモノ道を探してワナを仕掛けるためです。ミカン畑の下の端に、すでにミカンを伐採してなにも作っていない畑がありました。何と其処にはイノシシの寝屋がつくられていました。近くのススキや木の枝を噛み切って集め、直径3メートル厚さ40~50センチほどのベッドを作っています。そのベッドには穴のようなものがありました。この穴は出入り口のようでどうやら子育て中のようです。産まれてから小さいうちのウリ坊は体温調節がうまくできないためベッドに潜り込んで寝ているようです。ウリ坊はよく団子状態になって寝ます。
その寝屋は、もぬけの殻でしたが、私が見つける直前までそこにいたという気配がありました。
それから数日後、反対側の山の斜面を歩いていたときのことです。どこにワナを仕掛けようかと探しながらケモノ道を辿っていました。すると、すぐ近くの私の左横のシダ薮から大きなイノシシが飛び出して、どっどどっと駆け下りて行きました。度肝を抜かれながら「こりゃあ太い、100キロを越えているのでは」と思いましたが、タテガミや前身の毛をたてていましたので普段よりも大きく見えます。80キロ前後だったかもしれません。
後日、このイノシシと思われる大型のイノシシをワナで括りましたがワイヤーを切って逃げられていました。
また、ある日、山奥に仕掛けた箱ワナにウリ坊が2匹入ったことがあります。箱ワナに近づくと、わきの薮の中でガサガサと大きな音がし、母親と思われるイノシシが山に駆け上がって逃げました。
このようにイノシシは近くで遭遇しても向うから襲ってくることはありませんでした。こうした経験や知人の猟師の話などからみても、イノシシが好んで人間を襲うことはまず考えられません。イノシシの人的被害のニュースなどをよく見てみると、どうやら手負いのイノシシの場合とかハンティングで猟犬に追われたものが人里に降りてきて、パニックになっているときに人間と遭遇し、襲ったということが多いようです。パニックになっていると動くものなら見境無く攻撃してくると思われます。
イノシシにとって人間は最も恐ろしい天敵でしょうから、彼らの人間に対する恐怖はいかほどのものか想像がつくような気がします。
秋はイノシシにとってもやはり「実りの秋」であり、ヤマグリやドングリ類、山芋、ワラビ根、葛葉葛の根などが食べごろになります。山中でこれらを食べて満足してくれていればいいのですが、彼らはより食べごたえのある、美味しい味覚をもとめて田畑にやってきます。クリはヤマグリよりも栽培種は大きくて、食べごたえがあります。柿、ミカン、梨、モモなど果物なら何でもこいです。渋柿でも背が届けば食べてしまいます。
いまではクリを収穫しようと思えば、クリの木に実がついているうちに竹竿などでたたき落として収穫するのが確実です。毎日栗拾いに行ければそこそこは収穫できますが、クリ専業ではないのでたまに行くことになります。そうするとほとんどがイノシシの胃袋の中か、そこらあたりに落ちている「うんこ」になっています。
イノシシのクリの食べ方は見事なものです。さすが渋皮までは剥ぐことはできませんが、鬼皮はきれいに剥いで食べています。どうやって鬼皮を剥いているのだろうと、ハナ子(「アカメの国」にハナ子のページがあります)にクリを与えた時観察してみました。クリをまるまる口に入れ、バリッと噛み砕いてから舌と歯で鬼皮と実を分けて食べています。落ち着いて食べると、きれいに鬼皮と実を口の中で分けますが、あわてて食べると吐き出した鬼皮に実がたっぷり残っていることもあります。そうしたときは後からきれいに食べ直します。
画像:イノシシのクリ食べ跡。