1982(昭和57)年のことである。
新宿区立戸塚第2小学校と同幼稚園からわずか13メートルの距離にある高田馬場1ー27ー1、サンフラワービル1階にベニヤ板で仕切られた個室の小窓越しに男性客が裸の女性の演技を見るのぞき見劇場「アトリエボックス」が1月14日から営業を始めた。前年の12月28日、新宿保健所は、興行場としての営業許可申請書を受理し、1月4日、5日に添付図面の差しかえなどを命じて申請書類を完備させ、1月14日、区長は関係法令上やむを得ないものと最終決断し、営業許可をおろした。
これより3日前の1月11日、区立四谷第5小学校と同幼稚園(現在は廃校となったので吉本興業(株)東京本部に賃貸)から70メートルしか触れてない新宿5丁目17ー6、花園ビル地下1階にあるのぞき見劇場「アートサロン・キーホール」の営業を衛生部は許可をした。
管理人はこの問題で山本克忠新宿区長に質問をしている。(区議会議事録より)
○36番(長谷川順一君)昭和57年第1回定例会に当たり、私は、日本共産党区議会議員団を代表して、区長並びに教育委員会に質問いたします。
まず初めに区長の基本方針についてであります。
(略)
しかし、3月6日の区政の基本方針説明を開いた区民は、その期待を裏切られ、肩すかしを食った感じで受けとめているのではないでしょうか。
何となれば、戸塚第2小学校PTAが、西新宿の場外馬券場反対の運動以来という1万名を上回る署名を集め、のぞき見劇場の営業中止を要望しているのに、区長は「明るい地域壊境づくりの推進」として「青少年に悪影響を及ぼす情報の一掃を目指し」としか述べていません。情報の一掃ももちろん大切なことでありますが、なぜ現在社会問題となっているのぞき見劇場という施設の一掃する決意を区民の前に明らかにしないのでありますか。
(略)
次に、戸塚第2小学校に隣接して営巣しているのぞき見劇場についてお伺いします。
昨年10月、広島市に初めてのぞき見劇場なるものが出現しました。1月6日、広島市はのぞき見劇場が興行場法による輿行場の定義に該当するかどうか、厚生省環境衛生局に疑義の照会をいたしました。1月14日、厚生省は広島市と全国地方自治体の衛生主管部長に対し、もちろん新宿区の衛生部長に対してもでありますが、のぞき見劇場は輿行場に該当する旨の回答と通知を出したのであります。広島市はもちろん、渋谷、下谷、新宿など全国ののぞき見劇場は営巣すべて中止しました。その後新たにのぞき見劇場が保健所から正式に営業許可を受け、堂々と商売を始めたのは、1月11日の「アートサロン・キーホール」が全国第1号であり、1月14日の「アトリエボックス」が第2号なのであります。広島市も渋谷区もいまだに営業許可を出してはいないのであます。
山本区長は、2月16日、総理大臣、厚生大臣などに対して、区行政のみではいかんともしがたい点が多くと興行場法など関係諸法令の改正を要望いたしました。トルコ風呂、旅館、パチンコ店などの許可条件にある学校などから100メートルないし200メートルの距離制限が輿行場にはありません。だから彼らは法の盲点をついたのだ。法律の不備だ。行政の限界だ、と区長や衛生部当局は盛ん言い訳を言っておりますが、本当にそうでしょうか。確かに法の不備な点もありますが、現行法令でも相当な規制が可能なのであります。行政の限界ぎりぎりのところまで頭を使い、身体を張って新宿区は努力したのでしょうか。事実はそれとは全く逆な重大を問題点があるのに、営業許可をおろしたのであ少ます。
既存建物の中に床面積100平方メートルを超える興業場をつくる場合は、その建物の用途変更の手続を建築主事に申請しなければならないことが建築基準法で定められております。「アトリエボックス」が12月28日、新宿保健所に提出された書類と添付図面によると、床面積は何と99・89平米であります。わずかに0・11平米、新聞紙半ページ大の面積を小さくしているのであります。新宿保健所は、床面横が正確なものであったかどうか実測したのでしょうか。まず初めに区長にお尋ねいたします。
2月13日、区議会保険衛生委員会が現地視察をした際、衛生部はなぜこのことを報告しなかったのでしょうか。もし報告されていたのならば、私はスケールを持っていき、床面積をはかったことでありましよう。
われわれ共産党区議団が派遣したのぞき見劇場調査団は、一昨日の夜現地調査の結果、次のような驚くべき信じがたい事実が判明したのであります。
「アトリエボックス」の実際の床面積は106・245平方メートルあるものを、用途変更手続を逃れるペく床面積を小さくする偽装工作をやっていたのであります。舞台の上に1平米の突出部分をつくり、通路部分のピルの壁から45センチベニヤ板をり出して新しい壁をつくり、5・355平方メートル、両方合わせて6・355平方メートルの床面積を減らして99・89平方メートルにして、100平方メートル未満にして法の網をクリアする工作をしてあったのであります。
一方、新宿5丁目の「キーホール」は、約160から170平米の地下1階フロアのうち93・73平方メートルを用途に供する床面積として2月6日四谷保健所に正式な申請をしたのであります。区建築部は昨年12月中旬の事前協議の段階から、ここは100平米以上の床面積であるのだから用途変更の手続き申請者にとらせるように四谷保健所に通告していたのであります。しかるに、四谷保健所は2月12日、建築違反物件であることを知っている立場にいながら営業許可をおろし、同日付で建築部に建築指導の要請書を送付するという、われわれには全く理解に苦しむ処理を行ったのであります。1月23日、「キーホール」はお客がふえたからと50・00平方メートルの床面積増設の変更届けを出しました。これで合計床面積は143・73平方メートルとなり、だれが見ても作為的な分割申請であり、当然用途変更が必要であったことを承知の上で四谷保健所はそれを受理してしまったのであります。きょう現在四谷保健所は建築部にその旨の通知書を送付しておりません。
山本区長はこの2件の偽装工作の事実、にせの許可申請届であったこの事夷をどのように戸塚第2小学校の学校関係者を初め区民に説明をするのでしょうか。新宿区は教育環境を守ると言っていますが、どんな指導をしてきたのですか。保健所に申請が出されたら、興行場として許可せざるを得ないが、それ以前に何としても営業させないための消防機関と建築行政機関の行政指導と住民運動を背景にいまだに営業させていない広島市の姿勢と全く対称的なのが新宿区なのであります。新宿区の姿勢は昭和38年のヌードスタジオの行政実例などからも、また今回の厚生省回答からも、小学校の真ん前であっても許可せざるを得ないのだ、それよりも許可申請させることにょって刺激的な看板を出させないとか環境監視員がいつでも立ち入ることによって内容をチェックすることができると考えて対応した指導では、営業許可をとらせるための工作を示唆したと疑わざるを得ないのであります。
昭和44年の厚生省通達及び都衛生局通知によって、輿行場等、これらの施設は特に消防法及び建築基準法にも適合しなければ営業許可をさし控えることとし、そのために建築行政機関と保健所との相互通知などの日常行政実務に組み込まれていたのです。「アトリエボックス」、「キーホール」の両申請者に保健所から渡された注意書にも、「許可申請は受け付けたが、建築基準法に適合しなければ営業許可は受けられず、又は施設の使用ができません。」とはっきり示されており、用途変更のこと、さらにその手続をとれば都建築安全条例の劇場としての厳しい規制があることを当人たちも先刻承知のことであります。新宿区は興行場法を改正しなくても法令、通達で決められた行政実務で正確に執行していたならば営巣許可を与えずに済んだのであります。
行政手続に重大な瑕疵があった2件の営業許可は直ちに取り消すべきであります。さもなくば施設の使用を禁止させるべきであります。区長の明快を答弁を求めます。
大宮市などではモーテル・ブームに歯どめをかけ、生活壊境、教育環境を守ろうとしてこの種の建物を建てる場合には、あらかじめ市長の同意を得なければならないとした規制条例を制定して成功したのであります。
しかもモーテル規制条例の制定は世論も高めたため、国に影響を与え、昭和47年風俗営業等取締法が改正され、法令上からモーテルはこれらの市では規制されたのであります。
こうした先進的な経験に学び、新宿区でも壌境保全条例をつくるならば、のぞき見凱場もノーパン喫茶なども規制していけると考えます。壌境保全条例、または指導要綱を制定する意思がわありかどうか、区長にお尋ねいたします。
児童、生徒の教育に直接責任を持つ教育委員会は、私のいまの質問を踏まえ、いまどのようを決意と考えをお持ちなのか、お伺いたします。
(略)
以上で私の区長と教育委員会に対する質問を終わります。(拍手)
ここで管理人が指摘したいことが「建築行政機関と保健所との相互通知」「法令、通達で決められた行政実務で正確に執行」である。即ち、縦割りにそれぞれの行政範囲が明確となっている所管課の責任である。縦割り行政が正しく機能しなった事例である。
○区長(山本克忠君) 長谷川議員の御質問にお答えをいたします。
まず、冒頭ののぞき見劇場のくだりでございますけれども、それは後ほどその順序に従ってお答えをいたします。
いろいろ御意見のところは伺いました。何かその中に私に対する非常に鋭い批判もあったようでございまして、のぞき劇場そのものに対して私どもが手をこまねいてあるがままに過としておるというようを御意見もあったわけでございますけれども、私自身この間題につきましては、長谷川議員の御指摘を待つまでもなく、私自身がふんせんやる方ない、そういう気持ちでおります。特に今日の法体系でおきますと、どうもやはり法の網をくぐってあらゆる弄策を講ずるということがございまして、それがややもすると役所の方の裏をかくというようなこともございまして、その点でまことに遺憾なことだというように思います。
私自身この間題につきましての穣極的な気持ちは、最初この間題が起きた際に、戸塚第2小学校の前ののぞき劇場については私は許可はすべきでない、場合によっては、相手方から合法に従って届け出たんだから、それに対する行政不服審査をなりあるいは栽判ざたということがあって、もし私が不幸にしてその法廷の中で一敗地にまみれるようなことがあっても、私は区民はそれで納得するんじゃないか、こういう意見も言ったわけでございます。
頑固で有名だった山本区長だが、行政の長として素直に間違いを認め、法廷で敗訴となっても悪徳業者と闘う姿勢を示したことには心から評価したい。
それに比べ、現区長の中山弘子氏は悪徳ゼネコン新日本建設(株)と闘う姿勢は全く感じられない。東京都建築安全条例の「安全認定」の申請変更届けを不受理にしても闘っていれば「たぬきの森」は守られていたのである。(続く)