雨も小ぶりになってきた。
永遠に店を開けないようなので、蕎麦屋をあとにして、子豚とまたサイクリングを始めた。
季節によってはゲンジボタルが翔ぶ川の近くを通り、猫峠が見えてきた。
昔通った時、ゲンジボタルは橋の上をただようていた。
蛍に筋肉があるわけではないが、腹が横線に割れており、その腹割り線二つ分が光るものが雄、一つ分光れば雌だったか。
雄は小さく、どこまでも飛び回り、雌は川辺の草場でじっとその時が来るのを待っているのだ。
一つの魂がもう一つの魂に吸い寄せられるように闇の中をただようていた。
はなればなれであった魂が集う、墓場のようであったが、墓はなく、野ざらしのままの魂。
点滅する魂。
もうすぐこの世からいなくなる夜にだけ気づく魂。
魂は、夜の虫の腹の中にも収まっていたのだ。
などと、思いつつ、いつも、夜にしか通らないので、どこをどう通ったかもよくわからないまま、いつのまにかたどりつく、猫峠の曲がりくねった坂を登ろうかと覚悟を決め、走りに速度をつけていった。
民家が疎らにあった。
集会場の光が見えた。
そこからの帰りの人が歩いていたが、人の目に光は見えなかった。
子豚のように。
真夏の手前の夜、橋の上にでもこぼしてきたのだろうか。
しばらく走っていると、暗闇の中、二つの小さな光を見つけた。
蛍火のように漂うことなく、じっとそこで待っていたように青白く光る光。
野生の子鹿の目の中の、夜にだけそこにあると気づく、魂のようなもの。
我に返ったように、子豚の目を覗き込もうにも、前籠の中の塊は、真っ暗で何も見えないのだった。