ロヴロ・フォン・マタチッチのベートーヴェン交響曲全集を聞く。
ミラノRAI交響楽団との放送録音で、マタチッチ初出の全集録音である。
モノラルのライヴ録音にしては音質がいい。
ちょっと弦楽器の音の線が細いが、盛り上がるときは全体の音も厚い。
モノラル特有の彫りの浅さもある。
だが各楽器の音が綺麗に聞き取れる美点はある。
英雄、運命は名演。田園もハッとする美しさがある。
同時代のジョルジュ・ジョルジェスクを思い出させる清冽な演奏。
7番も迫力がある。
非凡な全集である。
歌うところはよく歌い豪放なところは勢いよく鳴らす。
第九は凄絶。
時々音が割れるが、比較的モノラルのライヴ録音としては
よく録れている。
ジョルジュ・ジョルジェスクの録音が同じ62年で鮮烈なステレオ録音
だったのと比較すると、62年でモノラルなのは惜しい気がする。
イタリアの歌心とマタチッチの豪放さが聞き取れる全集ではあるが
歴史的音源として聞くのが吉である。
だが思い入れを強くして聞くと、62年モノラルの音質が
気にならない圧倒的な歌心に包み込まれる瞬間が何度も訪れる。
マタチッチのファン必聴の人類のお宝である。
巨体からこの世のものと思えない心を洗う清冽な音
朝家を出て鎌倉江の島フリーパスで相模大野~藤沢まで行き、江ノ電で鎌倉まで行く。
江ノ電はレトロな車両で民家の狭い間を縫ってゆっくり走る、鉄道好きには堪らない路線。
鎌倉高校の辺りで海が視界に広がる。サーフィンをやっている人が無数に点在する。
鎌倉駅東口のイワタ珈琲店で念願の800円のホットケーキ食べブレンド飲む。
ホットケーキ木の切り株のように大きい2段重ねの逸品。
そのあと江ノ電の駅ナカのコトノイチで鎌倉コロッケ・ビッグ200円を食べて昼食は終わり。
鶴岡八幡宮のほうへ歩いて行き、神奈川近代美術館(鎌倉館)閉館を名残惜しんで回顧展を見る。
日本の著名画家を中心とした所蔵品展示だった。香月泰男の戦後の暗いタッチの絵があった。
香月泰男は戦前の明るいタッチのモダンな写実画が好きなのだが、シベリア抑留で画風が変わった。
過去の神奈川近代美術館の企画展を振り返るコーナーがあちこちにあった。
展覧会目録がいくつか出血値下げで売られていた。葉山館のほうでやった村山知義展の目録に目が行く。
イリヤ・カバコフ展のポスターが祝祭的で陽気でよかった。
私が鎌倉の近代美術館で見た企画展はドイツ表現派展が一番最初で、そのほかエゴン・シーㇾとウィーン世紀末展、シャガール展、カレル・チャペック兄弟とチェコ・アヴァンギャルド展が印象深い。
来るたびに近代美術館のパーラーでヨーグルト・ムースを頼んで食べていたので記念に今日もヨーグルト・ムースを名残惜しんで食べた。神奈川近代美術館は草のぼうぼう生えた池が見えて、鷺のような鳥が
飛んできたりして、結構のどかないい空間だったのに。
鶴岡八幡宮の隣ということもあって行き易く、何度か足を運んで若き日に目の保養をした場所である。
こういう素敵な立地の美術館を閉館するのはまことに残念である。老婦人が池をしみじみ眺めた後で、かつての思い出の人に話しかけるようにそれでは帰りますと独り言を言って去って行った。
坂を上がって別館の所蔵展も見て、静かに鎌倉を後にした。本当は公文堂書店という思い出の古本屋さんも寄りたかったのだが、数えきれない収蔵品を見て、過去の企画展を回顧して、少し疲れてしまった。
江ノ電で相変わらずサーフィンしている人影を横目に人家の間を縫って走る面白さを確かめて、お土産に半月ゴーフルで有名な花鎌倉半月五郎本店という菓子店の二つ星というお菓子を買って、帰途に就く。電車を乗り継いでようやく帰宅した。鎌倉近代美術館ともお別れである。
食べ歩き美術館とも語り合い名残惜しんで出る月を待つ
ウラジミール・アシュケナージのショパンピアノ独奏曲全集を聞いている。
ニキタ・マガロフの独奏曲全集が力まないで深さを聞かせる渋い演奏だったので
最近ショパンづいている。
このピアニストはワルシャワのショパンコンクールで2位だった実績もあり、実力派である。
アシュケナージは技巧に冴えがあり、ショパン演奏のスタンダードと言える。
日本人がショパンと聞いて思い浮かべる音はアシュケナージが弾いているショパンである。
アシュケナージの演奏はひじょうに精度が高い。
アシュケナージは安心感のある演奏家だと評されている。
ショパン自身が考えていたより強く弾き過ぎという意見もあるがこれも解釈である。
アシュケナージが放つマグナム弾は聞き手の的を外さない。
前奏曲やバラードは力強く弾くが、ノクターンやエチュードでは控えめに弾く。
この弾き分けの妙がツボにはまっている。
聞き手を飽きさせない工夫が随所に盛られている。
癖のない演奏だが、微妙に装飾やアクセントを加えて弾く。
ニキタ・マガロフの老境の渋い指使いが素晴らしいが、
アシュケナージの技巧に裏打ちされた禁欲的な演奏の微細な揺れも悪くない。
ポロネーズはスケール感のある気宇壮大な演奏を聞かせてくれる。
躍動感のあるポロネーズを堪能できる。アシュケナージは頼れる引率者だ。
安定感はあるが決して通俗的な音に走らないところがよい。
質量ともに聴き応えのある独奏曲全集だと言える。
ニキタ・マガロフとウラジミール・アシュケナージの
独奏曲全集で秋の憂愁を乗り切るのだ。
のしかかる秋の愁いを追い払い独奏曲でここは乗り切る
クラ友からメールを頂いた。
最近はユーチューブでピアノ曲を聞いているという。
アルフレッド・ブレンデルのベートーヴェン
ピアノソナタ3種類聞き比べとか面白いという。
旧盤は伝統への反抗で、晩年のは伝統への回帰だという。
私はアルフレッド・ブレンデルには苦手意識があるけど、
ユーチューブで検索して聞いてみようと思う。
それからサムソン・フランソワのインタビューとか
即興演奏とか芸術家風で興味深いという。
ブログではミチョランマ登頂記が
涙ぐましくてなかなか面白いという。読んでみよう。
私はロヴロ・フォン・マタチッチ新譜発売の話
アンセルメの大箱3箱聞いて充実している話、
ミトロプーロス、コンドラシン、シェルヘンのマーラー選集を聞き比べている話をする。
今日は有田潤の文法書をひと夏掛けて完読できたのでよかった。
またゼウクシスとパラシウスという二人の画家の話で終了である。
接続法はamet,ameret,amaverit,amavissetを覚えて終わりである。
音楽が時空を越えて演奏の軌跡をひとにそっと手渡す