寅さんの映画は,これまでも何度か見たことはあったのですが,第一作目を手に入れることができたので,さっそく見てみました。
いいですね,寅さんは……。
20年振りに生まれ故郷の葛飾柴又に,寅さんが戻ってきたところから始まります。ネクタイを締めた寅さんは,社会人としてしっかりと生きている自分の姿を見せようとしての姿だったのでしょうか。すでに父母も亡くなり,身内としてのたった一人の妹であるさくらの無事を確かめたかったのでしょうか。寅さんの思いを想像しながら見ていました。
一本気で,頑固で,短気で,純粋で,情にもろく,自由人である寅さんの原型としての姿を,この作品から感じ取ることが出来ました。
サクラとヒロシの結婚,そして初めて女性を好きになった寅さんの失恋がメインではありましたが,森川信演じるおいちゃん,三崎千恵子演じるおばちゃん,タコ社長,御前様等,その後の作品にも登場する人物たちが,とても存在感にあふれていました。柴又や帝釈天の風情,江戸川や河川敷,矢切りの渡しの景色等と調和するように,登場人物たちが創り出し,醸し出す,寅さんワールドが,なつかしくよみがえってきました。
寅さんのふるさとを巡ってみようと,かって家族で東京へ出かけた折に,葛飾柴又まで足を伸ばしたことがありました。映画の場面のあれこれを思い出しながら,門前町として栄えた商店街を歩き,お馴染みのだんご店でだんごを食べたり,帝釈天にお参りもしました。江戸川の近くにある寅さん記念館にも行き,寅さんがよく寝転んでいた河川敷や旅立つ時に乗船した矢切りの渡しも見てきました。
一度も来たことがないのに,どこかなつかしい空気や風情を感じ,まるで故郷に戻って来たかのような印象がありました。映画を通して見てきた世界が,しっかりと私の心の世界に息づいているような感じがしました。
映画を見終わってから,改めて寅さんの魅力について考えてみました。
惹かれるのは,自由人としての寅さんの生き方なのかなと思います。根なし草ではありますが,渡り鳥のようにその時が来れば旅に出る寅さん。旅立つ時は,失恋やら騒動があった後の辛い思いの旅立ちが多いようですが,自分の意思で自由に旅立つところにあこがれを感じます。テキヤ稼業の旅は,傷心の心を癒し,さらには新たな人々との出会いの場ともなっているようです。寅さんのもっている子どものような純粋なハートも魅力ですね。一見自分勝手のようなところもありますが,情に厚く,優しく温かいハートも魅力です。毎回新たなマドンナに恋心を抱き,悲恋という結末になっても,好きになった相手をとても大切に考える一途な優しさも,寅さんらしい好きな一面です。
山田監督の話によると,はじめにストーリーがあったわけではなく,渥美清という俳優を主役としてイメージして創り上げたものが,この寅さんの映画だということです。だからこそ,渥美さんが亡くなったことで,このシリーズは48作で終わりとなったのだと思いました。
架空の存在であるのに,今でも渥美さん演じる寅さんが本当に実在するように感じています。
改めて寅さんのシリーズの映画を,全作じっくりと見たいと思っています。
その時々の時代の空気や風俗,元気だった頃の出演者の顔も拝見しながら,寅さんワールドの魅力をじっくりと味わってみたいと思います