佐伯泰英作「居眠り磐音江戸双紙」の最新刊が発刊されました。ただし今回は,帰着準備号と銘打った特別号で,既刊37巻の続編ではありません。内容的には,①歌川広重「名所江戸百景」で振り返る「居眠り磐音江戸双紙」 ②橋の上「居眠り磐音江戸双紙」青春編 ③1巻~37巻までのストーリーダイジェスト ,磐音がいる江戸の旅,磐音シリーズ刊行10周年を迎えての著者インタビュー,「居眠り磐音江戸双紙」年表 等の構成となっています。
私が佐伯泰英の作品で最初に読んだものは,10月に最新刊(シリーズの第15巻)が発刊された吉原裏同心シリーズでした。主人公:神守幹次郎と年上女房である:汀女との温かい夫婦の絆,また吉原という環境の中に身を置きながらもそこで真摯に裏同心役を務める主人公の姿にとても魅力を感じ読み始めました。次号の発売が待ち切れず,同じ作者の書いた他の作品でもいいから読もうと思って手にしたのが,この磐音のシリーズでした。第1巻を読んだだけですっかり主人公磐音に魅せられ,以来このシリーズの大ファンになってしまいました。
今回発刊された②の青春時代の磐音を描いた短編を読みながら,第1巻に描かれていた許嫁である奈緒に対する磐音の思いがよみがえってくるような気がしました。親しい友とのつらい別れはもちろんですが,愛する奈緒との悲しい別れ,それでも再会を信じて愛する人を探し続ける磐音の一途な思いが切々と思い出されます。
今回の最新刊のタイトルが『橋の上』となったわけは,①を見てわかりました。磐音の運命を決めるような出来事が数多く橋の上で起こっていたのです。奈緒の無事を祈っている時におこんと初めて会話を交わしたのも,奈緒との今生の別れとなったのも,橋の上の出来事でした。
江戸を追われるように去った磐音は,その人柄を理解し慕う親しい人々の住む江戸に,次号で戻ることになるのだと思います。おこんと息子と手を携え橋を渡ることで,江戸への帰着となるのでしょう。時の権力者である田沼との戦いを軸に,新たな物語がどう展開していくか,とても楽しみです。38巻は,年が明けてから発刊されるようです。
これまでの37巻を通して,主人公:磐音を初め登場人物の一人一人に,まるで家族のような親密な思いを抱くようになりました。特に義父と義母であった佐々木玲圓・おえいの死は,まるで身内の者が亡くなったような喪失感と悲しみを味わう出来事でした。磐音の子:空也が誕生した時には我が子が産まれた時のような喜びを感じました。主人公の人生を我が事と重ねるように生きてきたような感じがしたからなのかもしれません。
佐伯泰英の描くシリーズものは,他にもたくさんあり,それぞれに人間味にあふれた魅力的な主人公が登場し,活躍します。時代小説を好むところに年齢的なものも感じますが,どの主人公も私の心の内に親しい存在として生き続けています。