日経新聞の「私の履歴書」、1956年から続いている名物コーナーです。過去に掲載されたメンバーも日本の各界を代表する凄い顔ぶれで、基本的には飛びぬけた才能を輝かした人しか選ばれません。
しかしながら、経済界や政界の「私の履歴書」は大抵面白くありません。この世界で功成り名を遂げた人というのは、自慢話が大好きな上に、失敗話は一切出てきません。また、読者が一番聞きたい「不祥事の裏側」や「スキャンダル」にも触れることがありません。過去の記憶をすべて綺麗なものに置き換えてしまうんですよね、権力者の習性として。
その点、潔く過去を赤裸々に語ってくれるのが、昭和の名女優たちです。有馬稲子さん、佐久間良子さん、浅丘ルリ子さんら。有馬さんは市川崑監督とのドロドロ不倫地獄を赤裸々に語った上で、妊娠・堕胎というショッキングな事実を明らかにしました。佐久間さんも独身時代の、既婚者鶴田浩二さんとの愛人関係を吐露、また浅丘さんも小林旭さんとの恋愛・破局を悲しいエピソードとして明らかにされました。
昭和の時代、経済的に自立している数少ない女性だった彼女たちが、自らの責任で、自由に人を愛し、傷ついた様を赤裸々に語ることは、今の時代を生きる女性たちに、大きな教訓と勇気を与える内容だったのではないかと感じています。彼女たちは自分の生き方に誇りをもっていて、何も後悔していませんよ、と伝えたかったのだと思います。それにしても、凄い勇気です。
ちなみに、私が選ぶ歴代最高傑作は、何と言っても、江夏豊さんの「私の履歴書」です。高校までの母子家庭の境遇、突然のドラフト指名、村山への想い、王・長嶋との対決、野村監督とクローザー革命、そして江夏の21球。この人の凄いところは、こうした栄光に加えて、自らの覚醒剤事件を謝罪する下りや、最近になって実の父親が誰かを知ることになり、今までの葛藤と許す気持ちを語るところ。涙無くして読めません。
ぜひ一度お読み下さい。日経電子版で、ときどき無料開放していますよ。