西山朋佳女流三冠のプロ棋士編入試験がいよいよ大詰めになって参りました。先に3勝出来れば合格、先に3敗してしまえば不合格というプロ棋士編入試験ですが、12月17日に行われたプロ棋士編入試験の第4局は、西山朋佳女流三冠が試験官の宮嶋健太四段を95手で破り、2勝2敗のタイへ持ち込みました。これで、年明けの最終局で決着することになります。
ここまでの経過を振り返りますと、9月10日に行われた第1局(試験官 高橋佑二郎四段)では、132手で西山朋佳女流三冠が激戦を制し、まず1勝目をあげました。しかし、10月2日の第2局(試験官 山川泰煕四段)、11月8日の第3局(試験官 上野裕寿四段)ともに完敗を喫してカド番に追い込まれます。負ければ終わりの第4局で、前述のように西山朋佳女流三冠が踏みとどまって、編入試験は越年することになりました。
このblogでは何度もご紹介していますが、このプロ棋士編入試験、女流棋士にはなかなか高いハードルとなっています。ちなみに、過去の受験者のうち男性4名は全て合格していますが、女性で最初の受験者だった里見香奈女流五冠(当時)は1勝もできずに3連敗で不合格となっています。
この編入試験に何か「不公平」な仕組みがある訳ではけしてありませんが、試験官をつとめる四段棋士のメンタリティには「異なる想い」が隠れている気がしてなりません。
というのは、過去の男性受験者は、プロ棋士を目指して奨励会で三段リーグに在籍していたが、年齢制限のためにプロ棋士になるのを断念した人が3名、残り1名は奨励会参加前にプロを諦めてアマチュア棋士を続けていた人。すなわち、将棋で食べていきたかったけど、それが許されずに、別の仕事に就いていた方々です。その方々が、ラストチャンスとも言える「プロ棋士編入試験」の受験資格を得て、人生を賭けて臨んでいる姿と対峙しなければならないのが試験官。彼らは、少し前まで三段リーグで同じ境遇だった棋士ばかりですから、心情的には複雑な想いで対局に臨んでいるはず。もちろん「手抜き」をすることは絶対ありませんが、「闘志」という点では「平均レベル」という感じでしょう。
一方の女流棋士との対局では、今回の西山朋佳女流三冠にしても、前回の里見香奈女流五冠にしても、すでにトップ女流棋士として活躍している方であり、試験官である四段棋士よりも何倍も稼いでいるスターです。例え編入試験に不合格となっても、女流棋士として活躍の場が用意されている相手に対して、「絶対に負けられない」という激しい「闘志」が湧くのは、むしろ当然なのではないかと思います。
(なお里見さんも西山さんも過去に三段リーグを経験しており、試験官としても共に戦った仲間という意識はあると思いますが、それでも「女流棋士」の地位が保全されている方々と自分たちとは別、という気持ちが強いのだと思います)
逆の見方をすれば、それだけ女流棋士からすれば、このプロ棋士編入試験のハードルは極めて高いということになります。前回の里見香奈女流五冠(当時)が1勝もできずに不合格となった背景には、こうした事情があったとワタクシは考えております。
そんな厳しいハードルを前にして、今回の西山朋佳女流三冠は、とにもかくにも2勝2敗のタイまで漕ぎつけたのです。これだけでも大変な偉業だと思いますが、ここまで来たら、ぜひに女性初の「プロ棋士」誕生の瞬間を見てみたいと思います。
世の中のジェンダー問題とは一線を画すと言われている将棋界(ルール上は男女の差を設けていない完全競争の世界)ですが、その実は「見えないジェンダーの壁が存在する世界」とワタクシは考えています。
ここで、「女性初のプロ棋士」が誕生する意義は大変大きいと思います。
第5局(試験官 柵木幹太四段)は年明けに行われます。日程はまだ決まっていないようですが、将棋界だけの話題ではなく、ジェンダー問題を象徴する対局になると思います。
注目いたしましょう!