長く町中で内科医をしているとどうしても、残念というか、無念というか、予後不良の患者さんを診ることになる。中には運良く病気が早い段階で見つかり、助かる人も居るのだが誰もがそう上手くゆくわけではない。中には伏兵が居て、脳梗塞で二時間以内に専門病院に送ることができ、後遺症が軽微で済んだ患者さんに結腸癌の肝臓転移が見つかったり、運良く大豆粒ほどの肺癌が見つかり、無事手術できたのに二年後脳梗塞で半身不随になったりされた患者さん達も居られる。
残念でならないのは触診で見付けた結腸癌が幸い転移がなく四年目に入りもうすぐ五年ですねと二人で喜んでいた患者さんが輪禍で亡くなられてしまったことだ。歩行中に脇の衝突事故に巻き込まれたとのことで、砂を噛む思いだ。
無事これ名馬という言葉がとてもよく分かる。ただ無事というのは安全に安全にと、おどおど暮らして得られるものではなさそうだ。飛び交う矢の中を、襲いかかる歩兵を交わして縦横無尽に駆け抜け、そして無事なのだ。勿論、縦横無尽でなくとも、それなりに自分なりに通り抜ければ名馬なのだろう。
生き生きと楽しく生き抜いてゆくことの素晴らしさ有り難さを、前線の臨床医は噛みしめる。