駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

我が儘爺さんの贈りもの

2020年09月06日 | 小験

           

 

 Kさんが亡くなった。享年87歳、がんを二つ乗り越え殆ど惚けていなかったから大往生だったと言えると思う。「先生に診て貰って家で逝くだ」と言ってくれていたが、最後は肺炎で病院で亡くなった。私や看護師にはとっては普通の爺さんだったが、奥様には暴君と言ってよいほど我が儘で、グラタンが食いたい鮨が食いたいと注文が多く召使い扱いだった。ところが奥さんは、何でもはいはいと二十四時間尽くして、たまに街へ出るのと孫や曾孫に会うのを楽しみに文句の一つも言わずどんな料理も作りあれこれ面倒を見られた。

 私しか出来ないと尽くされて後に残されると、しばしば残された方もがっくりきて衰えたり惚けたりするので奥さん大丈夫だろうかと心配しながら見守っていたのだが、亡くなる前夜家族で見舞うことができ、枕元から「何も思い残すことはない」というメモが出てきたので私は大丈夫と穏やかな顔を見せられた。まだ分からないが、楽しみを見付け自分のための余生を生きて行けそうに見えてちょっと安心している。

コメント
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