誰にも恩師と呼びたい人が居るだろう。私にも幾人かそう呼びたい人が居られる。
人様ざまと思うが、私には小学校の担任だったI先生が真っ先に思い浮かぶ。I先生なくして今の自分はないと思っている。ちょっと変わった子供だったらしい私は、I先生によってこの子にはこの子の良さがあると認められて、伸び伸び生き生きと学校生活を送ることが出来た。
懐かしい校舎は建て替えられ、今は同窓生の頭の中だけに残っている。どんな学校どんな時代だったか。思い出す校長のエピソードを書いてみよう。
父はその学校の校医をしていたのだが、何だか父兄会で話をしたことがあるらしい。父兄会と言っても殆どはお母さん方で、父は話をする前に所在なげに六年生の父兄の方を眺めていたらしい。そうしたら校長のK先生が、こちらの方が景色がよいですよと新入生の父兄の方を見てニッコリされたらしい。なるほどと粋な計らいに恐れ入ったと、母に話し、母が又面白そうに私に話してくれたのを憶えている、その時私がそれを何処まで理解できたかは不明だが。
戦後は終わったと白書の出たあの頃、何かが残っていて何かが生まれつつあった。どこでどうボタンを掛け違えたか、ただ単に懐かしいのとは違う忘れてきたものを恩師の横顔と共に思い出す。