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「抜き差しならぬ人間関係のしがらみと、一瞬の気の緩みが死につながる暗黒街にうごめく男たちの凄絶な世界を描く時代長編」
先般来、近くの書店にて買い求めた数冊。
つまり、お気に入りの池波正太郎小説群。
「谷中・首ふり坂」、「剣法一羽流」、「殺しの掟」、「闇は知っている」。
これらをすべて読破した。
もっとも、「谷中・首ふり坂」は既に読み終えてブログにアップ。
ついに「闇は知っている」も完読。
この物語以外は、すべて短編集である。
思わず・・・この「闇は知っている」は逸品と感じ入った。
本編を読みはじめて、気のついたことがある。
“まてよ、この筋書き知っている”どこかで、読んでいる。
時代劇専門チャンネルでドラマ化された作品を見たのか。
う~ん、思い出せない。
すべて読み終えてから、パッと思い出した。
「剣法一羽流」の中の1編・・・“闇討ち十五郎”の短編を長編にした筋立てである・・・と。
もっとも、筋立ての基本部分以外は改編されており、短編の域を大きく脱した瞠目すべき作品に生まれ変わっている。
長編では、主人公の名前が小杉十五郎から山崎小五郎に。
主人公を育てた真方寺の和尚の名前も隆心から隆浄に。
ところが、短編の和尚の名前・隆心は、長編の主人公が小坊主で居た頃の名前であり、長編の和尚の名前・隆浄は、短編の主人公が真方寺の小坊主の頃の名前である。
作者が、短編を長編にする際に和尚と小坊主の名前を取り違えたのか、敢えてそうしたのか分からない。
長編が先に書かれて、短編が後から書かれたものか・・・分からない。
また、主人公に剣を教える殺し屋稼業の剣客・山口平馬も、長編では杉山弥兵衛の名前に替わっている。
さらにその弥兵衛を剣の師匠とも、父とも思うようになる主人公・山崎小五郎の心の内の描写が、これ以上にないほど特筆すべきものである。
十万五千石の筒井藩の跡目相続争いをベースにした物語。
主人公である真方寺の小坊主隆心(後の山崎小五郎)は、和尚の隆浄から他の小坊主とは違う特別の扱いを受けながら育てられた。
その隆心は捨て子であった。
17歳になった隆心が、あることを切っ掛けに庄屋の後家・お吉(短編では“おしの”)から誘われる羽目に・・・。
寺の中に居続けた隆心にとっては、思いもよらない快楽の世界に足を踏み入れる。
しかし、止むにやまれず寺を脱走し、お吉を殺害する主人公・隆心(後の山崎小五郎)。
長い放浪の旅をする中で、闇の世界に堕ちていった。
その折りに剣客浪人・杉山弥兵衛に出会い、剣を習ううちに侍へと変貌する。
剣のスジから侍の血が流れているのかも・・・。
その後、山崎小五郎を名乗るようになる。
以後、池波小説の闇の世界によく登場する「羽沢の嘉兵衛」、「芝の治助」、「五名の清右衛門」などがでてくる。
短編では「赤大黒の甚七」が登場。
小五郎がこれらの闇の世界の人々と関わる。
そして、主人公・小五郎の命運は・・・。
本編の終盤、捨て子であった小五郎の素性も分かる。
一人の若者が、女を切っ掛けに闇の世界にまで堕落し、殺し屋になっていく怖さがある。
人生のちょっとしたボタンのかけ違いで、どうにもならない人間関係の狭間に翻弄される。
どこの世界でも、どの時代でも起こり得る人生の機微。
池波小説では、それらの人間模様が詳細に描写されており、その流れの渦中にまんまと引き込まれてしまう。
最後に解説の佐藤隆介氏の言葉を借りるなら・・・。
「ウイークエンドの夜を充実させるのに、これ以上面白い本はないとお勧めする。ただし、その結果あなたが池波正太郎の小説中毒にかかったとしても、私は知らない」
池波文学とは、まさにその言葉の通りと思いつつ、今では「黒白」のページを再度めくりつつある。(夫)
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