紙魚子の小部屋 パート1

節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物のあれこれ、家族漫才を、ほぼ毎日書いています。

ふくのゆのけいちゃん

2007-05-01 22:29:13 | 読書
 「ふくの湯」という銭湯のちいさな娘が「けいちゃん」で、「ふくのゆのけいちゃん」(福音館書店)は秋山とも子さんの絵本のタイトルである。静かに真剣に、でもなごやかに取材されたと思われる、丁寧に愛情をもって描かれた「銭湯の一日」なのである。

 表紙の絵は「ふくの湯」の玄関シャッターをあげるお母さんと、大きなャXターをもつけいちゃん。ページを開いてタイトルの下の絵は、こどもの日の『しょうぶ湯』のャXターを貼るお母さんと、セロテープをカットし指に付けて、お母さんに渡す手伝いをするけいちゃんのツーショットになる。(このあと、店の前のお聡怩烽モたりでするのである)

 つまり今日は銭湯にとってはスペシャルな5月5日であり、けいちゃんはお母さんのお手伝いをすることで、お母さんのそばにいたいということを、これだけで伝えてしまっている。

 しかも次のページがいきなりの町の鳥瞰図になるので、必死に「ふくのゆ」や「けいちゃん」を探す事になるのだ。必死に探す事で、一気に絵本の世界になだれ込んでしまうのだ。

 おまけに鳥瞰図というものは、作者の遊び心に溢れている。子どもに読んであげる時には、「さて、鯉のぼりはいくつあるでしょうか?」とか、「猫は何匹いるでしょうか?」と突然の「なぞなぞ大会」が開催されたりするのだ。もちろん店先の小さな鯉のぼりや、屋根でひそかに佇む猫も探し出し、数えねばならない。小さな絵なのに、不思議に犬と猫の区別はちゃんとつくのだ。

 まずはペンキ屋さんがやってきてお風呂場の壁の絵を描き替える。途中で牛乳屋さんがやってきたり、廃材屋さんが風呂の焚き付けを持って来たりする。その間、お母さんは休むヒマなく、脱衣所の聡怐A自宅の聡怐A朝食の片づけ、洗濯と大忙しなのだが、けいちゃんがまとわりついて、はかどらない模様。

 しかし彼女は「ペンキ屋さん、何してるかな?」とけいちゃんの興味を切り替える「敏腕な母親」なのだった。風呂を焚き、番台に座り、合間に家事をし、銭湯終了後は、お風呂聡怩オて、やっとお父さんと一息入れるのは12時過ぎ、という過酷さ。
 が、働き詰めのお母さんには悲壮感もストレスも微塵も感じられない。きっと彼女は、仕事をする中で、ストレスを発散しているに違いない。

 銭湯にとっては特別な「しょうぶ湯」でも、とくにドラマチックなことが起きる訳ではない。淡々と描かれるお風呂屋さんの日常的な一日だったりする。もちろん『しょうぶ湯』にわくわくと集まるお客さんたちのおしゃべりや、それぞれの入浴シーン!?も楽しい。こちらも屋根を取っ払っての大きめ鳥瞰図となる。

 銭湯の舞台裏まで、余す事なく丁寧に描き込まれたほのぼのした絵柄が、大人も子どもも、何度でも読みたくなる秘密かもしれない。元気に骨惜しみなく働く「けいちゃんのお母さん」に向けた、作者の尊敬と愛情溢れる絵本でもあるのだ。