「私にとって六月と言えば、枇杷の収穫です。
10年前に亡くなった父が裏山から持ち帰った野生の苗が、
庭先で大きくなって実をつけてます。
鳥が見つけて半分は食べてしまうので残念ですが」
という話をして、出席をとる。
「あなたにとって、6月と言えば?」
A君が「梅雨」と返事したあと、誰かが「ちゅゆ」と、真似した。
何人かが笑って だんだん誇張されて、騒がしくなった。
そして、B君が「ちゃんと言え、日本語を話せ!」と続けた。
A君は不自然な笑顔で、黙って言われるままで・・・
どうしようか迷った。
何人かの学生にとっては和やかな空気だ、このクラスのスタイルなのか。
でも <いじる>交流が、私はどうにも気にくわない。
そのへんに私の<鱗>があるらしい。
以前にも何度が似たような会話を経験して、まあいいかと見逃してきた。
今日、意思表示をしなければ、私も認めてることになり
次にも遭遇すると考えて 決めた。
「それ、おかしいよ。 梅雨と言う日本語を理解したくせに、日本語を話せって、ひどくない?」
「ハイ、スイマセン」
笑い声や雑談が一瞬で消えた・・・
「・・・・」
「ハイ、スイマセン」
「私は不愉快」
「ハイ、スイマセン」
見せたことのない不機嫌な表情で、
聞かせたことのない厳しい語調で 訴えたから驚かせたと思う。
お笑い芸人が相方を馬鹿にするのを、大人も子供も笑って楽しんでいるんだもの
B君がクラスメイトのうけをねらったことも想像できる。
A君がどんな気持ちでいるか考えてと、小さな子供なら諭すところだが
二十歳前の学生は、わかっているからこそ反発する。
長くなると「勝手に言ってろ」と拒否されるので、さっと引く。
B君だけじゃなかったのに、申しわけなかったと反省していたら
ありがたいことに、プリントをC君が配ってくれた時、数が不足した。
B君が「足りんよ~」と手を挙げてC君に伝えた。
「B君、プリントの番号は8ですか?それとも9?」と確認中に
Dさんが「8のプリントをください」と取りに来た。
「あれ、B君のじゃなかったの、・・優しい」
「アリッス」
「優しい~」「優しい~」「優しい~」とやんちゃなメンバーが私の声色でいう。
彼らも、B君に何か声をかけたかったのだと想像した。
「アリッス」
A君、困ったら我慢しないで相談においで。
このメッセージが彼に伝わりますように。