現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

ホビット 竜に奪われた王国

2017-08-21 10:24:13 | 映画
 ホビット三部作の第二部です。
 第一部の記事でも述べましたが、原作が指輪物語と違って短いので、ここでも原作にはない戦闘シーンや、エルフとドワーフの恋愛関係(原作を読んだことのある方ならば、この設定がいかに馬鹿げているかご存知のことだと思います)などが大幅に追加されていて、原作とはまったく別物になっていました。
 特に気になったのが、悪役であるオークを、エルフがかたっぱしから殺しまくることです。
 エルフが金髪碧眼の白人そのものなので、大げさに言えば、人種差別やジュノサイドにもつながるものを感じて、無邪気に楽しむことはできませんでした。
 また、CGが良く出来すぎていて、主人公たちがあまりに簡単に障害をクリアしてしまうので、スリルは全く感じられませんでした。

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椋鳩十「マヤの一生」「戦争と平和」子ども文学館11所収

2017-08-21 10:20:42 | 参考文献
 動物児童文学の第一人者が、戦後に書いた戦争(反戦)児童文学です。
 いつもの野生動物ではなく、作者の家で戦中に飼われていた愛犬のマヤ(他にネコのペルとニワトリのピピも登場します)の一生を描いています。
 作者の優れた観察眼がここでも発揮されていて、犬やネコを飼ったことのある読者なら、「そうそう」とうなづくであろうシーンがたくさん出てきます。
 前半は、子犬の時にもらわれてきた熊野犬のマヤが、家族の一員として迎えられ、他の動物たちとも仲良く暮らしていく様子が、ほほえましいエピソードとともに描かれています。
 特に、一番かわいがってくれた作者の次男との交流は、一度でも動物と心を通わせた経験のある人ならたまらない魅力を持っています。
 後半では、戦争が始まり、作者の住む田舎にも食糧危機や空襲などで、影を落としてきます。
 そんな戦中の生活(食糧難への対応、人々に極度の耐乏生活を説きながら陰で自分たちだけは不正をして贅沢をしている権力者、むやみに威張っている軍人、盲目的に戦争協力している村の人々、無邪気に軍人になることを夢見ている自分の幼い子どもたち、荒れる心を抑えられない自分など)を、極端に他人を非難したり、自分たちだけを美化したりせずに、淡々と描いていきます。
 ついに、くだらない理由(耐乏生活の中で犬を飼っているのはぜいたくだ、空襲の時に犬が吠えるとそのあたりが爆撃されるなど)で犬を供出(広場に集めて棒で殴り殺す)する命令が出ます。
 作者は、なんのかんのと言いのがれをして、マヤを守ろうとしています。
 そんな一家を、周囲の人は「非国民」と呼んで差別し、子どもたちもいじめられます。
 そして、とうとう村で最後の一匹になったマヤは、作者が留守の時に無理やり連れて行かれてしまいます。
 一緒に行った子どもたちの前で、マヤは大男に棒で頭を殴られて倒れてしまいます。
 子どもたちはショックで熱を出して、寝込んでしまいます。
 でも、マヤはその場所では死なずに、懸命に家まで戻ってきて、一番愛していた(愛してくれていた)次男のげたに頭をのせるようにして冷たくなっていました。
 物語ですから脚色や擬人化(作者の他の作品でもそれは感じられます)もあるでしょうが、一家とマヤの交流が、抑えた筆致ながら鮮やかに描かれています。
 原爆や空襲などのショッキングなシーンはありませんが、それだからこそ、普通の家族の生活にも否応なく襲い掛かってくる戦争というものを静かに糾弾しています。
 こういった作品ならば、現代の子どもたちにも、戦争の残酷さを伝え続けることができるのではないでしょうか。

「戦争と平和」子ども文学館 (11)
クリエーター情報なし
日本図書センター
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