若い人向けに書かれたイギリス児童文学の啓蒙書です。
一般的な読書指導である「作者が言いたかったことはなんでしょう?」の一歩先にある、歴史的社会的背景などについて言及していて、興味深いです。
取り上げた作品とそこにおいて述べられた事項は以下の通りです。
マザーグース:子供の本の誕生に言及して、特に子供の本におけるナンセンスの持つ意味合い、特にそれがセンスを確立するために有効であることを指摘しています。
ロビンソン・クルーソー:イギリス、アフリカ、中南米における三角貿易(イギリスから火器、ガラスのアクセサリー、綿織物などをアフリカに輸出し、そこで黒人奴隷を買い入れて中南米の荘園に労働力として売り、そこで生産された綿花や砂糖を買い入れて、イギリスへ輸入する)に言及し、物語が歴史におよぼした影響について述べています。
クリスマス・キャロル:人々のクリスマスの楽しみ方に影響を与え、さらにクリスマスを楽しむことのできない底辺の人々(産業革命に取り残された人たち)にも目を向けているとしています。
不思議の国のアリス:時間に追われている近代の人々と、それ以前の時間感覚について述べています。
くまのプーさん:プーが良く落ち込む「穴」に、第一次世界大戦の影響を見ます。
ライオンと魔女:善と悪について考えます。
第九軍団のワシ:自分探しと異文化の衝突について考察しています。
巻末には、原書の一覧や翻訳本についての解説もついていて親切です。
さらに、もっと勉強したい人への啓蒙書の紹介もされています。
この本を読んで、久しぶりにイギリス児童文学に耽溺しようと思わされるだけでも読んだかいはあります。