現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

伊東潤「比丘尼殺し」巨鯨の海所収

2018-02-04 10:04:10 | 参考文献
 そろそろ鯨漁の描写だけでは話がもたなくなったのか、売春婦の連続殺人のために密偵が太地に潜入する推理仕立ての物語です。
 しかし、これも殺人の動機は運命論で片づけられ、探偵小説としての仕掛けは稚拙で、最後に犯人のモノローグで説明するという小説としてはかなり程度の低い物でした。

巨鯨の海
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光文社
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童話工房ふろむ編「スノードームにさ・し・す・せ・そ」

2018-02-03 08:40:58 | 参考文献
 児童文学同人「ふろむ」のメンバーが共作で出している「おはなしトランク」というシリーズの二冊目です。
 文章だけでなく、表紙、扉絵、もくじ絵、本文挿絵も、同人が手分けして担当しています。
 「おもちゃがいっぱい」という共通テーマで、十人の同人が一作ずつ掲載しています。
 こういった同人誌が母体になって出版する試みは、皿海達哉の同人「牛」が「プールのジョン」などの本を出していますが、エンターテインメント以外の商業出版がだんだん難しくなっている現状での新しい試みとして、各同人誌が検討してもいいかもしれません。
 「おはなしトランク」の最初の本である「キッチンくまかか」は増刷になったとのことですから、ある程度子どもたちに読まれたという手ごたえは得られたのではないでしょうか(一般的に、児童文学の同人誌は子どもの読者にはほとんど読まれないことが多いです)。
 ただ、どうも出版に際して書き手側の負担金があったようなので、一種の自費出版であるようです。
 機会があれば、各人の印税の設定や発行部数を確認して、この試みの採算性についても検討したいと思います。
 もともと同人誌の発行においても自己負担金(例えば1ページ1000円とか)があるので、それと比較してどうかということも考えなければならないでしょう。
 また、編集作業の分担が、出版社と同人誌側でどのようになっているかも考慮する必要があります。
 もし総合的に書き手にとってメリットがあるのならば、新しい出版の形態として一般化していくかもしれません。


スノードームにさ・し・す・せ・そ (おはなしトランク おもちゃがいっぱい)
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国土社

 
 
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高岡 健「新自由主義化の拒食と過食」うつ病論 双極Ⅱ型障害とその周辺所収

2018-02-02 08:29:00 | 参考文献
 うつ病を伴う拒食ならびに過食が、主に少女に発生している理由として、ヴィクトリア朝時代に起源を求めて、やせていることが上流階級の条件であったためであるとしています。
 確かに、現在のいわゆるクラスカーストを初めとする階層化において、特に女性の場合はスレンダーであることが一つの条件になっていて、「痩せなくては」という強迫観念に多くの若い女性が取りつかれているように思えます。
 男の場合は痩せていることは必ずしもカースト上位に位置する条件ではなく、体育系(あるいはガテン系)のマッチョな男性もまた有利でした。
 しかし、最近は本格的なマッチョよりも細マッチョの方が評価されるようになり、全体に痩せている方が有利な点は女性に近づいているので、男性でも摂食障害が増加するかもしれません。
 筆者は、摂食障害はうつ病を覆い隠す作用があり、それが破たんした時にうつ病が現れるとしています。
 また、拒食に伴ううつ病は、1970年代(第二次産業から大三次産業への変換時期)以降に特徴的となった差異化強迫(肥満化した人々から不断に区別しようとしている)という生き方の破たんした姿だとしています。
 一方、過食に伴ううつ病は、1990年代(バブル崩壊によるリストラや就職氷河期)以降に特徴的な孤立恐怖(痩せた人びとの基準から自らがはじき出される)の極限にみられる症状であり、過食によって糊塗しえなかったものが露呈した姿だとしています。
 そして、「2000年代以降の日本における摂食障害は、新自由主義の呪縛から放たれない限りは、差異化強迫と孤立恐怖の拡大―深化を通じて、不可避にその数を増加していくでしょうという」という非常にペシミスティックなしめくくりになっています。
 全体として、新自由主義と摂食障害の関係がもう一つ明確に述べられていないのが残念です。
 また、筆者はリーマンショックで新自由主義が崩壊したとしていますが、現実にはアベノミクスなどで復活しつつありますので、若い世代がおかれているこの「階層社会」現象(その階層化は、たんに貧富の差だけではなく、美醜や体型などの外見上の問題だったり、コミニュケーション能力の優劣だったりします)はますます深刻になりつつあるので、さらに悲観的にならざるを得ない気がします。

 
うつ病論―双極2型障害とその周辺 (メンタルヘルス・ライブラリー)
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批評社
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原 結子「こうもりの飛ぶ空」日本児童文学2014年3・4月号所収

2018-02-01 16:17:15 | 作品論
 コウモリを捕まえて教室で飼おうとする、クラスの中心的な男の子に反発する、五年生の女の子の揺れ動く心を描いた掌編です。
 掌編なので短いお話ですが、一瞬のシーンをうまくとらえています。
 ただ、子どもたちの風俗や心理がやや古く感じられました。
 作者の子ども時代が舞台なのでしょうか。
 もっとも、少女小説では古い風俗や心理も読者に受け入れられる傾向がありますから、これも許容範囲かもしれません。

日本児童文学 2014年 04月号 [雑誌]
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小峰書店
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安藤美紀夫「いちじく」でんでんむしの競馬所収

2018-02-01 16:15:38 | 作品論
 三年生の男の子で大ぐらいのガキと、父親が戦地で重営倉に入れられている噂があってみんなに「ジューエーソー」と呼ばれているタマエ(母親がカフェーの女給をしているせいか少しませていて、男の子たちにキッスのしかたを教えています)が、苦労して(ガキは投げ縄を、タマエは手作りのはしごを用意しています)みんなを出し抜いて小学校の校庭のいちじくを食べますが、まだ熟していなかったのでかぶれてしまいます。
 たわいない子どもたちの遊びの中に、貧困や戦争が暗い影を落としているのを、作者は深刻にならずにユーモアの中に描き出しています。

でんでんむしの競馬 (少年少女創作文学)
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偕成社
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ジオストーム

2018-02-01 16:01:23 | 映画
 異常気象に対応するために開発された気象コントロール衛星群が暴走して、世界中を襲う巨大な嵐、ジオストームが発生する危機と、それを防ごうとする兄弟(兄は衛星群の開発リーダーだったがアメリカ政府の上層部に刃向って首になり、弟はその後を無難にこなして、国務次官補にまで出世したエリート)の活躍を描いています。
 ストーリーのご都合主義(こうした大事件が、個人的なたくらみで簡単に発生して、それをまた個人的な活躍や技能で簡単に解決してしまいます)なのと、人間ドラマが安っぽい(すべてを兄弟愛、親子愛、男女の愛情に収れんさせてしまいます)のを目をつぶれば、やはりハリウッド映画はお金をかけているだけあってCGの表現が素晴らしく、見ていてスカッとします(題材が大惨事なので大勢の人が死んでいくのですが、ほとんど現実感がないので深刻な気分にはなりません)。
 また、リベラル派の多いハリウッド製作の映画らしく、反トランプのエピソード(異常気象に対して世界が協力するというスタンスで、アメリカのパリ条約脱退をさりげなく批判しています。民主党大会の会場で民主党の大統領が襲われますが、主人公側の女性SP(弟の恋人)の大活躍で生き残り、最後はいいもの役を演じます。ラストで兄と現在の衛星群の責任者の女性科学者をスペースシャトルで救出するのはメキシコ人の技術者で、「メキシコに感謝しろ」というセリフをはかせていますなど)が盛りだくさんです。

ジオストーム
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Rambling RECORDS
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