うつ病を伴う拒食ならびに過食が、主に少女に発生している理由として、ヴィクトリア朝時代に起源を求めて、やせていることが上流階級の条件であったためであるとしています。
確かに、現在のいわゆるクラスカーストを初めとする階層化において、特に女性の場合はスレンダーであることが一つの条件になっていて、「痩せなくては」という強迫観念に多くの若い女性が取りつかれているように思えます。
男の場合は痩せていることは必ずしもカースト上位に位置する条件ではなく、体育系(あるいはガテン系)のマッチョな男性もまた有利でした。
しかし、最近は本格的なマッチョよりも細マッチョの方が評価されるようになり、全体に痩せている方が有利な点は女性に近づいているので、男性でも摂食障害が増加するかもしれません。
筆者は、摂食障害はうつ病を覆い隠す作用があり、それが破たんした時にうつ病が現れるとしています。
また、拒食に伴ううつ病は、1970年代(第二次産業から大三次産業への変換時期)以降に特徴的となった差異化強迫(肥満化した人々から不断に区別しようとしている)という生き方の破たんした姿だとしています。
一方、過食に伴ううつ病は、1990年代(バブル崩壊によるリストラや就職氷河期)以降に特徴的な孤立恐怖(痩せた人びとの基準から自らがはじき出される)の極限にみられる症状であり、過食によって糊塗しえなかったものが露呈した姿だとしています。
そして、「2000年代以降の日本における摂食障害は、新自由主義の呪縛から放たれない限りは、差異化強迫と孤立恐怖の拡大―深化を通じて、不可避にその数を増加していくでしょうという」という非常にペシミスティックなしめくくりになっています。
全体として、新自由主義と摂食障害の関係がもう一つ明確に述べられていないのが残念です。
また、筆者はリーマンショックで新自由主義が崩壊したとしていますが、現実にはアベノミクスなどで復活しつつありますので、若い世代がおかれているこの「階層社会」現象(その階層化は、たんに貧富の差だけではなく、美醜や体型などの外見上の問題だったり、コミニュケーション能力の優劣だったりします)はますます深刻になりつつあるので、さらに悲観的にならざるを得ない気がします。