現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

津村記久子「コップと意志力」ポースケ所収

2018-09-03 09:30:31 | 参考文献
 一切自炊をしない(炊事道具も持っていない)一人暮らしの若い女性が、過去の恋人にストーカー行為を受ける話です。
 連作短編の舞台である「喫茶・食事 ハタナカ」は、ラストシーンにしか出てきません。
 どうもこの短編集は、「喫茶・食事 ハタナカ」が出ない作品の方が不出来なようです。
 それは働くシーンが具体的に書かれていないために、津村の一番の魅力がなくなっているためだと思います。
 津村が会社を辞めて専業作家になった場合に一番恐れていたことが、現実になりつつあるようです。
 数少ないリアルに会社生活が描ける作家(児童文学の世界では皆無と言ってもいいです)が失われていくのは、非常にさびしいです。

ポースケ
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中央公論新社
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辻原登「午後四時までのアンナ」父、断章所収

2018-09-02 09:04:34 | 参考文献
 舞台は、和歌山県新宮です。
 辻原は和歌山の出身なので、繰り返し郷土が舞台に現れます。
 新宮に現れた謎の美女が、取り壊される直前の旅館で行われた古いニュース映画の映写会に参加します。
 美女は謎のまま、三時四十八分の名古屋行の特急で去っていきます。
 彼女は、新宮の人たちのいろいろな想像力を掻き立てますが、最後まで謎のままです。
 謎の美女やそれをめぐる人々の様子も面白いのですが、映写会で上映されたニュース映画やディック・ミネ主演のちょんまげミュージカル映画「鴛鴦(おしどり)歌合戦」の生き生きとした描写が圧巻です。
 こういった著者の博識ぶりは本を読むときの楽しみですが、どうも最近の児童文学の世界では著者の知識の厚みがなく物足りないことが多いようです。

父、断章
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新潮社
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津村記久子「歩いて二分」ポースケ所収

2018-09-01 09:13:19 | 参考文献
 短編集の舞台である「食事・喫茶 ハタナカ」から、歩いて二分の所に住んでいる早番のパートの女性の話です。
 彼女は賢い女性なのですが、前に勤めていた会社で、上司である役員からひどいパワハラを受けて、精神を病んでいます(自分自身の見立てでは、睡眠相前進症候群と何かの鬱病としていますが、症状としては睡眠障害、外出恐怖症、対人恐怖症などです)。
 彼女を取り巻く人物たち(店主のヨシカやお客、近隣の人々など)の適度な距離感を持った温かさが、作品の読み味を良くしています。
 ひょんなことから、ラストで難波から奈良まで一人で帰らなくてはならなくなった主人公には、明るい兆しが見られ、読者はホッとさせられます。

ポースケ
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中央公論新社
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