現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

高岡 健「総論:メランコリーの彼岸へ」うつ病論 双極Ⅱ型とその周辺所収

2020-12-15 14:38:36 | 参考文献

 従来普遍的と思われていたメランコリー(単極)うつ病が、単にある時代(日本では主に戦後の高度成長期)に固有の特殊型にすぎなくて、新しい時代(バブル経済崩壊後の1990年代以降)には、新しい相貌を伴った(躁)うつ病が表れていると述べています。
 そして、新しい(躁)うつ病の特徴として、軽症化、混合状態、非定型化をあげています。
 軽症化は、従来入院を必要としていたうつ病が、外来治療だけで対応が可能になったことをさし、その原因として企業などの旧来の共同体(学校や地域などもそれに含まれるでしょう)が個人の保護機能を放棄した(バブル崩壊後のリストラや、就職氷河期、非正規雇用、学校や自治会やPTA活動の形骸化などが、それにあたると思われます)ために、自己関係づけが困難になり、その結果として浮遊化した自己意識が行き場を求める過程で生じたものとしています。
 そのため、個々の障害は軽症化していますが、発症する人の数は飛躍的に増大したと思われます。
 双極Ⅱ型において典型的な躁うつ混合状態は、過去にさかのぼっても存在していたのですが、メランコリー(単極)うつ病が全盛の時代にはその陰に隠れてあまり議論されなかっただけだとしています。
 そして、情動労働(肉体と頭脳だけでなく感情を使う労働のこと)が多い現代では、もともと共同体への帰属意識が低く、個人は自分と直接的に向かい合わざるを得ないので、その葛藤が躁うつ状態の交代や混合を生み出しているとしています。
 非定型化は、会社や家などへの適応をしなくなった個人が、特定の他者との関わりを自己に引き寄せたり、世界との関わりを自己に引き寄せたりして、発症するうつ病だとしています。
 簡潔にそれぞれの歴史なども踏まえてまとめられてますが、文章や用語が難しく(上記ではかなり易しく書き直したつもりです)専門家以外は非常に読みにくい文章になっています。
 これらの障害が、被害者および加害者のどちらか及び双方に関係するいろいろな子どもたちや若い世代における社会問題(いじめ、不登校、引きこもり、セクハラやパワハラなどのハラスメント、ストーカー、拒食、過食、睡眠障害、自傷、自殺、薬物依存など)は、単に自己責任が問われるべきものではなく、社会全体のゆがみがそこに現れていると見るべきでしょう。
 それは、企業や学校や地域社会などを強化して、かつてのように個人を強力に組織化してその見返りとして保護機能を発揮すればよいというような単純なものではありません。
 新しい時代には、それに見合った新しい組織と個人の関係や、個人同士の関係を構築しなければならないでしょう。

うつ病論―双極2型障害とその周辺 (メンタルヘルス・ライブラリー)
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批評社
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グーニーズ

2020-12-14 17:21:22 | 映画

 1985年公開のアメリカ映画です。

 主人公を含むグーニーズというチームの少年たちと、主人公の兄やそのガールフレンドなどが、海賊の宝を巡って、強盗団と争います。

 海賊の伝説や家の立ち退き問題や主人公の奇妙なファースト・キスなどを絡めて、痛快な冒険物語を展開します。

 シンディ・ローパーのコミカルな主題歌も、世界中でヒットしました。

 日本の児童文学にも、こんなぶっとんだ面白い作品があれば、子どもたちの読書離れ(大人の方がもっと深刻ですが)を防げるでしょう。

 それにしても、このころのスピルバーグ印(監督だけでなくこの映画のように製作者としても)の映画は、無双状態でした。

 

 

 

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チューリッヒ・バレエ「くるみ割り人形とねずみの王様」

2020-12-12 15:57:20 | 演劇

 有名なバレエ「くるみ割り人形」は、ホフマンの童話「くるみ割り人形とねずみの王様」を、プティバがバレエ用の作品として書き直したものです。
 この作品は、クリスティアン・シュプックがホフマンの原作に忠実に振り付けをしたものなので、より児童文学の要素が強くなっていて、児童文学者にとっては興味深いものになっています。
 全体に、ストーリーを重視した演劇的な演出になっていて、童話的な舞台美術や衣装も伴って、私のようなバレエの門外漢にも楽しめる物になっています。
 さらに、音楽はそれ自体がチャイコフスキーのバレエ音楽の古典として有名ですし、エマーソン、レイク&パーマーなどによるロック・ミュージックとしても、私たちの世代にはなじみ深いものです。 
 もともとファンタジーや童話は、バレエダンサーたちの超人的な動きと親和性が高いようで、普通の芝居として演劇化するよりもバレエにした方が、作品世界を伝えるのに適しているのかもしれません。
 出演しているダンサーたちのパフォーマンスはどれも魅力的なのですが、特に主人公のドロッセルマイヤー役のドミニク・スラウコフスキーの悪魔的な演技や動きは一見の価値があります。

クルミわりとネズミの王さま (岩波少年文庫)
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岩波書店
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バールミーキ「ラーマーヤナ」講談社版少年少女世界文学全集41巻所収

2020-12-11 14:06:41 | 参考文献

 紀元前に書かれたインドの国民的叙情詩です。

 ラーマ王子とサルのハヌマットを中心にした、今のスリランカの島に住むラーバナという魔王を退治する冒険譚です。

 原作は、二万四千の詩句で書かれた大長編ですが、そのあらすじを子どもたちにもわかるような形で抄訳しています。

 民衆の間で語り継がれる間に、こうしたお話のご多分にもれず、残酷なシーンや性的なシーンが増えていったようですが、ここではそれらは割愛されています。

 それでも、現在の基準に照らし合わせれば、残酷なシーンや差別的なシーンは残っているのですが、それらを差し引いても、力を合わせて悪魔や怪物を退治していくストーリーは、現代の子どもたち(特に男の子)にはアピールするでしょう。

 登場する悪魔や怪物たちはかなりキャラがたっている(子供のころにも読んだのですが、ストーリーはすっかり忘れてしまったのに、腹がすくと敵を片っ端から食べてしまうクンバルカナや姿が見えないインドラジット(名前もカッコイイ)などの悪魔たちのことは覚えていました)ので、ここでの世界観を借りたRPGなどを作れば、かなり商品性があると思います(もしかすると、インドではすでにあるかもしれません)。

 

 

 

難を言えば、サルのハヌマットがまるで西遊記の孫悟空のように無敵なので、主役のラーマ王子が霞んでしまう点でしょう。

現実に、今では、庶民の間では、ラーマ王子よりもハヌマットの方が人気があるようです。

 

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沢木耕太郎「若き実力者たち」

2020-12-09 17:45:57 | 参考文献

 昭和47年に月刊エコノミストに連載され、翌年に単行本化された、作者が25才の時のデビュー作です。

 当時、各界で若手として注目されて人物を12人選んで、それを一ヶ月かけて取材し原稿に書き、それを一年間続けるという、駆け出しルポライター(当時の言葉)としては、破格の扱いでした。

 しかも、ベテランの編集者がそのバックについていて、内容も文章も厳しくチェックしてくれるという、まるで有給の養成学校のようなもので、いかに作者が期待されていたかがわかります。

 ご存知のように、作者は端正な風貌の持ち主で、若い頃は男女を問わずモテていたようなので、そのこともこの無名の書き手にはプラスに働いたかも知れません。

 しかし、そうしたこともルポライターとしての実力のうちで、取材対象と打ち解けられることなどで、より深くその人物を描けたのでしょう。

 対象に取り上げられた人物は、以下の通りです。

巨象の復活 尾崎将司

廃墟の錬金術師 唐十郎

疾駆する野牛 河野洋平

過ぎ去った日々でなく 秋田明大

華麗なる独歩行 安達瞳子

面白がる精神 畑正憲(その記事を参照してください)

神童 天才 凡人 中原誠

錨のない船 黒田征太郎

望郷 純情 奮闘 山田洋次

人魚は死んだ 堀江謙一

十二人目の助六 市川海老蔵

沈黙と焔の祭司 小澤征爾

 十二人の中には、さらに一段と飛躍した人物(小沢征爾、尾崎将司、中原誠、山田洋次など)もいれば、表舞台からは姿を消した人(秋田明大など)も、亡くなった方(安達瞳子など)もいます。

 しかし、取材時からの50年近い歳月は、作者も含めて、誰にも平等に経過したのです。

 

 

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椎名誠「きんもくせい」岳物語所収

2020-12-08 18:27:22 | 作品論

 自分の息子を素材にした連作短編集の第一編です。
 視点は作者自身にあり、子どもとその周辺は出てきてきますが、あくまでも私小説的なタッチで描かれています。
 この短編でも、息子と、保育園での友達とその兄の巻き起こす事件(子どもらしいいたずらです)は描かれていますが、実際にはその兄弟の母親(離婚したシングルマザーで、きんもくせいの香りのする、小柄で細おもての、眼鼻だちのはっきりした美人)への淡い想い(本人よりも妻の方が、はっきりとその気持ちに気づいています)が描かれています。
 家庭生活や父親であることにまだ足が地につかない頃の若い父親の様子が飾らすに書かれているので、そうした時期を過ごした経験のある男性読者(私にも身に覚えがあります)には好感をもって読まれることでしょう。
 女性読者、特に若い母親たちには許しがたいかもしれませんが、作者は若い頃からけっこうもてていたようなので、彼の妻はこの作品でもこうした問題をうまくさばいています。

 

 

 

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素敵なウソの恋まじない

2020-12-04 17:43:44 | 映画

 老人の恋を描いたイギリスの映画です。
 へたをすればいやらしくなったりウェットになったりしがちな題材ですが、題名通りにユーモラスにシャイな主人公の恋の行方を描いています。
 日本でもこんなに高齢化が進んでいるのですから、こういった題材の映画や文学がもっと描かれてもいいのではないでしょうか?
 特に映画では、平日などは老人の観客が多いのですから、興業的にもある程度の数字は見込めると思います。
 また、このような作品は一種のメルヘンなので、児童文学と親和性が高く、児童文学作家がもっと描いていい題材だと思われます。
 現に、この映画の原作は、「チャーリーとチョコレート工場」のロアルド・ダールです。
 この作品では、ダスティン・ホフマンを初めとした老優たちが見事な演技を披露しています。
 日本でも、かつてのスターたちが、こういった老人映画でまたいい演技を見せてくれると楽しいのですが。

 
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マダガスカル

2020-12-04 17:42:10 | 映画

 2005年公開の、人気アニメーション・シリーズの第一作です。
 ニューヨークのセントラル・パークの動物園で暮らす仲良し四人組(シマウマ、ライオン、カバ、キリン)が、主人公のシマウマが野生の王国にあこがれて脱走したことをきっかけにおこすドタバタ・コメディです。
 動物愛護団体の働きかけで、ケニアの自然保護区へ送られることになった四人組ですが、一緒に乗っていたペンギン四人組が南極へ行こうとシージャックしたはずみで荷箱が海に落ちて、同じ野生の王国でも、リス猿などのユニークな動物が暮らすので有名なマダガスカル島に流れ着きます。
 しかし、都会育ちの四人組は、そこでの暮らしは向いていなくて、みんなで故郷ニューヨークへ帰ろうとします。
 ストーリー自体は、肉食獣のライオンが野生に目覚めてみんなを食べようとすることへの葛藤が中心ですが、BEASTARS(その記事を参照してください)と比べると非常に他愛のないもので、都会暮らしに戻れば元通りになれます。
 この作品の最大な成功要因は、四人組を根っからのニューヨーカーに設定したことでしょう。
 みんな(特に女性であるカバ)おしゃれでノリがよく、どこか軽薄なところも魅力になっています。
 また、全編に流れる音楽やダンスもなかなかカッコ良くて、ノリノリです。
 本筋とは関係ないのですが、日本語吹き替え版のシマウマ役は柳沢慎吾が務めているのですが、シマウマの顔が出っ歯な所や軽薄なノリは、まるで最初から企画されたかのようにピッタリはまっています。





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庄野潤三「小えびの群れ」絵合わせ所収

2020-12-02 14:22:38 | 参考文献

「新潮」昭和45年1月号に掲載されて、この作品を表題とする短編集に収められています。

 この作品の構成は、以下の通りです。

一 中学二年の良二が、科学雑誌の付録の抵抗測定器(?)や小えびの卵孵化セット(?)で遊んでいる話。

二 小えびを塩水につけて孵化させる話。

三 良二に庭の椎ノ木の枯れ枝を取らせる話。

四 良二が、母の誕生日に櫨の木を贈った話。

五 小えびの話の続きと、良二が笛で「おしばな」という曲を吹いた話。

 この作品に限らず、作者の三人の子ども(他に和子と明夫)の中で、一番下の良二のエピソードが圧倒的に多いです。

 上の二人の子どもたちが大きくなって、作者との距離ができたということもありますが、良二が一番おっとりとしていて、作者に対して素直だったという理由もあるでしょう。

 この関係は、良二が成人して家族を持つようになってからも続きます。

 また、良二の妻になる女性や子どもたちも、作者のお気に入りだったようで、作品に頻出します。

 

 

 

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庄野潤三「さまよい歩く二人」絵合わせ所収

2020-12-01 17:31:18 | 参考文献

 「文芸」昭和45年3月号に掲載されて、短編集「小えびの群れ」に収められました。

 この短編の構成は、以下の通りです。

一 中学一年の良二と、会社に勤めたばかりの和子が、展覧会を見に行った話。

二 二人が、展覧会の後で動物園(おそらく上野動物園)へ行った話。

三 動物園の話の続きと、グリム童話「水牛の革の長靴」について

四 「水牛の革の長靴」の続きと、グリム童話「金の毛が三本はえているおに」について

五 「水牛の革の長靴」の続きと、まとめとして展覧会で二人が見た肖像画のお婆さんと、二つの童話に出てきたお婆さんたちについて。

この作品でも、作者の家族の話と、童話を融合させて短編にまとめています。

特に、お婆さんをキーワードにして、両者を有機的に結び付けることに成功しています。

 

 

 

 

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