この教えは、特にチームとして戦っている私たちにあてはまることです。
大会で勝利を勝ち取ろうという場合、そこにはライバルの存在があります。
競い合っているそのライバルチームへの対応の仕方を示す教えです。
リレー種目を重視しているときによくあることなのですが、ライバルチームが引継ぎなどで失格をしてしまうというような場合があります。
このようなときにも、決して声を大にして喜ぶようなことをしてはいけないということを教えています。
その理由は、周囲にはあたかも相手の失格を喜んでいるように映るからです。
ほとんどの場合、自分たちの順位が上がったことを喜んでいるのだとは思いますが、他者からはそのように見えません。
これはそのチームの「品格」の問題であるといえます。
このことに関連して、私が今後も決して忘れないことがあります。
2011年の東日本大震災の後、交通関係の遮断や学校の点検などでしばらく練習ができない状況が続いていた時のことです。
愛知県豊川高校の深田先生からお電話があり、豊川高校での練習を勧めて頂きました。
実際には交通面の問題から実現はしませんでしたが、このように声をかけていただいたということに対して感謝の気持ちを忘れることは決してありません。
このことを当時の生徒全員に伝え、「敵に塩を送る」という諺を例に挙げ、ライバルを尊重することの意味を教えたことを覚えています。
私が繰り返し読んだ本のひとつに英国最高の文学賞である、ブッカ—賞を受賞した『日の名残り』(カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳)があります。
この本のなかで「品格」とはどういうものかが問われており、それはプロフェッショナルな仕事をすることである、としています。
プロフェッショナルな仕事とは、どのような状況に置かれても取り乱すことなく、与えられた仕事を最後まで責任をもって果たすことです。
これは自分の仕事に対して精通していることはもちろん、周囲を見渡すことができる心の余裕がなければできないことです。
上杉謙信が武田信玄に塩を送ったという諺は、そのような人間の器の大きさをも示しています。
競技生活を続けていくうえでライバルの存在というのは、自分を高めるためにも貴重な存在です。
私たちはライバルを尊重できる品格あるチームを目指していきたいと考えています。
竹村知洋