ヤマハSR400の特徴のひとつであるキックスタートは、たんにエンジンをかける行為というだけでなく、SRに乗るためのある種の儀式のようなものだ。「オレに乗るなら、まずキックしてみな」とバイクが乗り手を試すのである。
でもこのSRは2010年モデルで、キャブレターがインジェクションになったおかげで、わたしのような体力の衰えた人間でも簡単にかけられるようになった。
デコンプレバーを引いてキックレバーをゆっくりと押し下げ、インジケーターに上死点を表示させたら、一度レバーをもどして勢いよく踏みこむ。するとビッグシングルとは思えないほど、あっけなくエンジンはかかる。
このSRは1万キロほど走った中古車なので、エンジンの角がいい感じにとれてスムースに回る。排気音はよく消音されており(すこし物足りないけど)、これなら近所迷惑にはなるまい。しずかだけど、シングル独特の鼓動感だけがうまく残っている。
走り出すと気持ちよく加速し、すぐに車の流れにのれる。初期整備でオイル類とタイヤを新品にしてあるので、各部の操作と挙動もすごく軽やかだ。
カーブでスロットルを開けると、たった27馬力だけど必要にして十分なトルクが車体を押し出し、自分の描いたラインをきれいにトレースしてくれる。ハンドリングはきわめてニュートラルだ。
第一印象としては全体的にマイルドな乗り味で、ヘンな形容だが「まるい」感じだ。
ゆっくり走っていてもなぜかたのしい。だいたい65キロ/時くらいで、「ふふふ」と顔がゆるんでしまう。
若いころから一度は乗ってみたいと思っていたSRが、ようやくいまわたしの元にやってきた。やっとSRに乗れる年齢になったのかなとも思う。
SRさん、フツツカ者ですが、どうか、あなたのすばらしい景色を見せてください。