(原題:THE KILLER)2023年11月よりNetflixから配信。第80回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門出品作であり、どういう出来映えなのかと興味を持って鑑賞に臨んだのだが、どうもパッとしない内容だ。監督のデイヴィッド・フィンチャーはたまに良い仕事をすることがあるものの、概ねあまり信用しておらず、今回も同様だった。
自称“凄腕の暗殺者”と嘯く主人公の男は、その日もパリで用意周到に“仕事”を済ませるはずだったが、何と失敗してしまう。たちまち彼は窮地に陥り、世界中を逃げ回りながらこの一件に絡んでいる連中を次々と片付けていく。アレクシス・ノレントによる同名グラフィックノベルの映画化だ。
この主人公は“仕事”に取りかかる前にやたら能書きを並べるようで、殺し屋としてのモットーやスタイルを蕩々と述べるのだが、それでいて素人臭いミスでターゲットを逃してしまうという、まるで見かけ倒しの輩である。ならばそのキザったらしい風体を逆手にとってコメディ路線に転化すれば面白いと思ったのだが、映画はこの主人公を徹頭徹尾クールに描こうとする。
彼は各地で“仕事”を済ませるのだが、その段取りがじれったく、インパクトの強さやサスペンスなどは全然醸し出されていない。だいたい、別に複雑怪奇なストーリーでもないはずなのに、どういうわけか故意に複雑に撮られているのだからやり切れない。中盤からは筋書きを追うのを諦めて、もっぱらワールドワイドにロケされた風景を楽しむことにしたほどだ。
撮影監督にエリック・メッサーシュミットという手練れを起用しているおかげで、陰影の深い映像には一目置きたい。音楽は「ソーシャル・ネットワーク」(2010年)以降のフィンチャー作品に欠かせないトレント・レズナー&アッティカス・ロスが担当しており、あまり前には出ないものの、的確な仕事を示していると思う。
主演はマイケル・ファスベンダーなので、外見だけはサマになっている。ティルダ・スウィントンも敵役として出ていて、硬質な雰囲気は捨てがたい。しかし、他の出演者はどうも影が薄い。シナリオを手掛けたのはアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーだが、彼はキャリアが長い割には質の高い仕事は見当たらない。このあたりの人選も、作品の出来映えに影を落としているのかもしれない。