今回のイベントで初めて試聴したブランドに、ドイツの
MUSIKELECTRONIC GEITHAIN社のスピーカーがある。近年日本に製品が入ってくるようになったメーカーだが、歴史と実績はあり、本国のスタジオや放送局のモニタースピーカーのトップシェアを占めているという。
ハッキリ言って、実際聴いた感じはそれほどのインパクトはない。バランスの良い整った音だが、大向こうを唸らせるようなテイストは希薄だ。しかし私が驚いたのは、同社のスピーカーがNHKのスタジオモニターの座を最後まで我が国の
FOSTEXの製品と争ったという係員の説明である。
MUSIKELECTRONIC GEITHAIN社のスピーカーとFOSTEXのスピーカーとは音色が全然違う。両者が似ているのは、音の出方がフラットで情報量を確保しているという点のみ。音像の温度感や音のツヤなど、いわゆる“音色”として捉えられるファクターに関してはまったくの別物だ。この事実を突きつけられると、モニタースピーカーとは一体何なのだという疑問がわいてくる。
いくら聴感上での周波数バランスや情報量をチェックするための機器とはいえ、メーカーごとにこうも音色が違うのでは、出来上がる音楽ソフトの音質は使われるモニタースピーカーによって大きく異なってくることは想像に難くない。一部に“モニタースピーカーの音こそがマスターテープに近い生のサウンドだ!”という物言いをするオーディオマニアがいるが、それは間違いであることが分かる。そのソフトがレコーディングされた際に使われたモニタースピーカー(および他の機材)を使わない限り、生のサウンドなんか出るはずがないのだ。
モニター用と呼ばれるスピーカーも、民生用のスピーカーも、ユーザーにとっては“選択条件は一緒”なのである。業務用だから優れているとか、民生用だから劣っているとか、そういう先入観は禁物だ。聴いて気に入った物を、財布の中身と相談して買えばいいだけの話である。頭ごなしの決めつけはオカルトでしかない。
英国
TANNOY社の新しいフラッグシップ機
Kingdom Royalも聴いてみた。柔らかくて艶のある、まさにTANNOYサウンドそのものである。クラシック系のソフトをまったりと奏でるために特化した製品で、このスピーカーでロックをガンガン鳴らす者はまずいないだろう。同じように米国
JBL社のスタジオモニターの新製品
4365から出てくるジャズのサウンドは楽しい。このスピーカーでクラシック中心に聴こうというユーザーは、かなりの少数派だろう。
オールマイティに鳴らせるスピーカーもあれば、特定ジャンルを特定のテイストで楽しむためだけの製品も存在する。多様性を許容することこそオーディオの楽しみがあるのだと思う。四角四面のカテゴライズは無粋と言うしかない。
さて、今回ちょっとショックを受けたこともある。それは、フランスの
FOCAL社のスピーカーの普及品クラスである700シリーズと800シリーズの音を聴けたことだ。このブランドは今までハイエンド機しか試聴したことがなかったが、この安価なセグメントの製品にもしっかりと独特の音色が反映されていることが分かった。私がサブ・システムで使っているスピーカーは英国
B&W社の
685だが、価格帯がちょうどFOCALのこのクラスと競合する。685を買う前はFOCALのこれらのスピーカーを試聴することが出来ずに購入候補から外したのだが、今になって聴いてみると、明らかに685よりも色気のある楽しい音を出す(大笑)。
まあ、今さら買い換えるわけにはいかないのだが、出来るだけたくさんの機器に接することこそが、良いオーディオ製品を手に入れる上での必須事項であることを痛感してしまった。
最後に紹介したいのが、米国
Olive Media Products社のネットワークオーディオプレーヤー&サーバー
OLIVE 3HDである。CDドライヴと500GBのハードディスクを内蔵し、音楽CDの再生やリッピングをはじめLAN経由での音楽再生にも対応した、オールインワンタイプのネットワークオーディオ機器である。
インターネットに接続することを前提に作られており、リッピング時にはネット上のデータベースから楽曲情報を取得。読み込んだ楽曲は音楽ジャンルごとに分類される。CDドライヴで再生した際の音よりもハードディスクにコピーした後のサウンドの方が優れているらしく、もちろん一度リッピングしてしまえばディスクを入れ替える必要もない。
同じような用途の機器は他のメーカーからも出ているが、おそらくこのような形が今後の主流になっていくのであろう。ネットワークオーディオは音質向上のメソッドの点でまだまだ分からない点が多く、スタンダードになるシステムのスタイルはいまだ確定していないと思うが、いずれは誰もが使える形に練り上げられていくと予想する。今後の推移に注目したい。
(この項おわり)