(英題:Red Cliff )まるでテレビゲームみたいな映画である。登場人物全員がステレオタイプのキャラクター設定。深い内面描写などまったく存在しない。どうして彼らは戦乱の世に自らの立ち位置を定めたのか、何を理想としていかなる思想信条を持っているのか、またそれに至った経緯は何かetc.それらについて全然触れられていない。
行き当たりばったりに活劇場面が展開し、皆が型どおりのセリフを吐くのみ。史実(とされているもの)に基づく原作・三国志の筋書きを漫然と流しているだけである。時代劇を面白く見せるには、歴史に対する骨太な解釈と確固としたコンセプトが必要だが、本作には見事なほどそれが欠けている。
それを象徴するのが冒頭の“歴史背景のレクチャー”をはじめとする御親切な説明の数々。主要登場人物には“どこの何某”というテロップが付くし、しかも同じキャラクターについて劇中で何回も出てくる。もちろんそれは最初から映画に表示されていたものではなく、日本の配給側が勝手に挿入しているのであるが、困ったことにあまり違和感がない。
言うなれば映画自体が“誰某がこういう行動をして、結果こうなりました”といった平板な粗筋だけを追っているので、そんな“ト書き”めいたアタッチメントを山のように実装しても、粗筋の補足的素材として片付けられるのだ。これが真に面白い史劇でそんなことをすると“観客をバカにしているのか!”と罵倒されること間違いなしだが、本作はレベルの低い御説明がふさわしい“その程度”のシロモノなのである。
アクションシーンはさすがジョン・ウー監督だけあって良くできている。この題材では得意の“横っ飛びで二丁拳銃”は使えないが(爆)、伝統的な剣戟スタイルと昨今のクンフー映画のテイストを上手く盛り込み、退屈させない。敵軍を自陣に誘い込むための策略も面白く、手を変え品を変え順次撃破してゆくプロセスも(幾分マンガチックだが)楽しませてくれる。これでキャストが弱体気味だったら浮ついたシャシンになったところだが、トニー・レオンに金城武、チャン・フォンイー、チャン・チェン、ヴィッキー・チャオといった有名どころを揃えているため、何とか場を持たせることに成功している。岩代太郎の音楽も悪くはない。
しかし、カネをかけた割にはヘンに安っぽい映像と、くだんの説明的テロップの釣瓶打ちにより、画面いっぱいにB級臭さが横溢しているのは確か。続編は2009年のGWになるそうだが、よっぽど思い切った展開が予想されない限り、観に行く気になるかは分からない。