元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「眠らない街 新宿鮫」

2013-06-30 06:36:03 | 映画の感想(な行)
 93年東映作品。大沢在昌による人気警察小説シリーズの映画化で、監督は滝田洋二郎。警部鮫島(真田広之)は、かつてはエリートコースを歩んでいたが、警察内部の事件に巻き込まれ、今では新宿の防犯課に左遷状態である。無鉄砲な捜査で“鮫”とアダ名され、上層部からも煙たがられている。

 ある日、改造拳銃による殺人事件を目撃した鮫島は、改造銃製造のエキスパート木津(奥田瑛二)の存在に思い当たり捜査を始めるが、それをあざ笑うかのような連続殺人が発生する。やがて彼は、恋人のロックシンガー(田中美奈子)にも犯人の手が伸びていることに気がつくのだが・・・・。

 これは失敗作だ。何より主演の真田にハードボイルド的の雰囲気が皆無なのが痛い。軽くて貫禄がなく、出てきてもちっともワクワクしない。



 確かに冒頭にヤクザの車を特殊警棒でいきなりたたき壊す場面やら、警察を内側からひっくり返すスキャンダルを主人公が握っている事実うんぬんを小出しにしたり、一匹狼ハミダシ刑事物の体裁を取っている。しかし、カッコつけているわりにはピンチになった時にやたらナサケなかったり、追跡シーンの段取りがマヌケだったりして、“おやおやこれは”という気分になってしまうのだ。派手なアクション・シーンもまったくない。

 主人公よりも敵役の奥田の方が目立っている。凶悪犯でしかもゲイ。ひそかに鮫島を“ネラって”いるところも面白い。

 ヒロイン役の田中だが、まったくダメ。全然ロックシンガーに見えない。外見だけ取り繕っても、歌い方はしっかりアイドル歌手である(爆)。当時の監督の話では“「ストリート・オブ・ファイヤー」のダイアン・レインの線を狙った”らしいが、とてもとても。

 プロットは結構よく出来ていたが、これは原作(読んでいない)によるもので、当然のことだろう。オール新宿ロケ(しかもほとんど夜間)という意欲だけは買うけどね。それにしても、この映画に出てくるのと同じ、ポケットベルに似せた改造銃が実際あったことを知って少しびっくりした私である。
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「ファインド・アウト」

2013-06-29 06:20:26 | 映画の感想(は行)

 (原題:GONE)映画の内容よりも、舞台になったオレゴン州ポートランドの描写の方が興味深い。同市は州内最大の都市であるが、広大な自然公園をも擁している。そのほとんどを温帯雨林が占めているのだが、これが神秘的なまでに鬱蒼とした森に覆われていて、まさにホラーやサスペンス映画に打って付けだ。同じ温帯雨林帯に属するワシントン州を舞台にした「トワイライト」シリーズを思い出してしまった。

 さて、映画の出来としては可もなく不可もない凡打に終わっている。主人公のジルは数年前に連続殺人犯と思われる何者かによって拉致されるが、何とか危機を脱し、疲労困憊して森の中で倒れていたところを救助される。しかし、警察がいくら調べても彼女の言い分を裏付ける物的証拠が出てこない。挙げ句の果てにジルは虚言癖があるということで、精神病院に入れられてしまう。

 退院後も一人で森の中を調べていた彼女だが、今度は大学生であるジルの妹が行方不明になる。自分を誘拐した者がまた凶行に及ぼうとしていることを確信した彼女は、独力で捜索を始めるが、ジルを危険人物と見なす警察からも同時にマークされることになる。

 ヒッチコック作品等でおなじみの“追われながら事件を解決する話”であるが、どうにも段取りがよろしくない。どこから手に入れたのか知らないが、主人公が拳銃を振り回して“強制捜査”に乗り出すあたりから観ていて脱力する。さらに、彼女が“聞き込み”の途中でさまざまな作り話をデッチあげるのにも愉快になれない。これは“ひょっとしたらジルには本当に虚言癖があるのではないか”という疑念を観客に持たせる意図があったのかもしれないが、どう見てもそれまでのプロセスではそんな暗示は無く、取って付けたような印象がある。

 彼女を追跡している警察もさほど有能ではない。数年前の事件で実地検証を意味もなく短期間で終わらせたのをはじめ、ヒロインの証言を最初から完全否定してしまうのは、失態と言うしかない。彼女に惹かれる新米刑事も出てくるが、大した活躍もなく終わらせてしまう。

 エイトール・ダリアの演出は凡庸で、作劇にメリハリがない。ただ、主役のアマンダ・セイフライド(正式な発音はサイフリッドらしいけど)の大奮闘は、映画を駄作の範疇に入るところをかろうじて食い止めていたと思う。とにかく良く身体が動く。今回初めて気付いたのだが、彼女は小柄なのだね(日本の女の子と体格は変わらない)。

 関係ない話だが、新米刑事が先輩から“彼女が欲しければ消防士にでもなったらどうだ”と皮肉を言われるのには笑った。マッチョな消防士はアメリカではモテるらしい。対して警官はいわゆるハードな“汚れ仕事”もこなさねばならず、頻繁に映画の主人公になる割には、その“見返り”は大したことはないようだ。
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「美少女プロレス 失神10秒前」

2013-06-28 06:31:12 | 映画の感想(は行)
 84年にっかつ作品。当時のロマンポルノの一作だ。あこがれの大学生活、聖書研究会に入るはずの女主人公メグ(山本奈津子)だったが、なぜか無理矢理プロレス愛好会に入部させられてしまう。そこでの激しいシゴキに耐え、キャプテンの彩(渡辺良子)とタッグを組み、ライバル大学のチームと戦う。対する敵チームのしのぶ(小田かおる)はメグの恋がたきでもある。メグのボーイフレンドをしのぶが奪ってしまうという前歴があったのだ・・・・。

 女同士の争いを青春のエネルギーに置き換え、プロレスの形で昇華させるという構成がなかなかいい。監督は「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズや「紳士同盟」で知られた、今は亡き那須博之。

 実はこの前に同じスタッフ・キャストによる「セーラー服百合族」シリーズというのがあって(こっちの方も実に面白かったが)、その続編ともいえる作品で、舞台が高校から大学に移っている。



 本作の素晴らしいところは、成人映画にもかかわらずクライマックスがからみの場面ではないことだ。それどころかスケベなシーンがフツーの成人向け作品に比べて少なく、一般映画としても通用してしまう。それもかなり上出来の・・・・。

 ホント絵に描いたような青春根性ドラマの手順をしっかり踏まえて展開するにもかかわらず少しもクサくないどころか、感心してしまう。これは作者がヒロインたちを愛情を持って描いているからとしか考えられない。

 ラスト15分間延々と展開するのは、もちろんクライマックスのプロレスの試合の場面である。これがまあ、一般映画でもこうはいかないと思うほど力が入っていて敢闘賞ものだ(和製「カルフォルニア・ドールズ」とも言える ^^;)。本職のレスラーも一人出ているが、ほとんどのキャストがプロレスは素人であるにもかかわらず、かなりの特訓を積んだらしくグイグイと盛り上げてくれる。

 戦い終えた二人がさわやかに次なる闘いを誓い合うラストシーンまで見事に演出に弛緩もなく、青春映画の佳作とも言うべき出来映えだ。山本奈津子と小田かおるのパフォーマンスも素晴らしい。成人映画だからってバカにするのは禁物だ。こういう作品もあったのだから(^^)。
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「箱入り息子の恋」

2013-06-25 06:36:12 | 映画の感想(は行)

 欠点は山のようにあるが、憎めないシャシンである。それどころか胸を打つような卓越したシーンもあり、鑑賞後の印象は決して悪いものではない。

 主人公の健太郎は市役所勤めの35歳。いまだ独身で恋人もおらず、そもそも人付き合い自体が苦手で親しい友人もいない。出世欲なんてものは持ち合わせておらず、就職してから13年間昇進どころか異動も無い。昼食は一度家に帰って済ませ、しかも食事の前には徹底して手を洗う極度の潔癖症である。

 そんな一人息子を見かねた両親は、本人の承諾を得ないまま見合いをセッティングする。その相手は有名企業の社長の娘の奈穂子で、ルックスもとても良いのだが、実は彼女は目が見えないのだ。

 どうして奈穂子が健太郎と会う気になったのか、その理由である健太郎の“小さな親切”が序盤で示されるのだが、残念ながら説得力は無い。視覚障害者で、しかも若くて可愛い彼女はこの程度の心遣いはしょっちゅう受けているはずで、彼の行為だけが特別アピール度が高いわけでもないだろう。

 さらに、見合いの席で奈穂子の父親は風采の上がらない健太郎を罵倒してしまうのだ。この会社社長は“(プロフィールが書かれた)紙切れ一枚あれば、オレはそいつの人間性を判断出来る”とまで豪語するが、ならばどうして見合いを許可したのか分からない。だいたい、こんな頑迷で威圧的な人物が見合い相手の親だったら、誰だってその場を立ち去りたくなるはずだ。

 それでも奈穂子の母親の計らいで何とかデートにこぎつける健太郎だが、数回会っただけで何と奈穂子は彼をホテルに誘うのだ。そもそも彼女は仕事をしておらず、一人で外出することもあまりない文字通りの“箱入り娘”のはずだが、いきなりの大胆な行動には観ているこちらも面食らうばかりである。さらに終盤には周囲の迷惑も考えない健太郎の“大暴走”を見せられるに及び、この監督(市井昌秀)には物語を整理する気も無いのかと、暗澹たる気持ちになった。

 しかし、それでもこの映画は捨てがたい。自分の殻に閉じこもっていた野郎の前に全てを投げ打つに値する魅力的な対象が現れ、なりふり構わず奮闘努力するという、青春映画の王道をシッカリとキープしているのだ。また手を繋いでのデート、メガネを掛けたままのぎこちないキスなど、チャーミングな場面も散見される。

 そして圧巻は吉野家での二人のやりとりだ。庶民的なファーストフード店のカウンターが、ラブストーリーの極上の舞台装置になるというこの仕掛けには舌を巻いた。

 主役の二人を演じる星野源と夏帆は好調で、当たりの柔らかいキャラクターが十分に活かされている。健太郎の両親には平泉成と森山良子、奈穂子の父母には大杉漣と黒木瞳という濃い面々を配していて、それぞれがケレンの効いた芝居も披露するのだが、ほとんど鼻に付かないのも有り難い。そして健太郎の同僚に扮した穂のかが意外な好演。主役は無理でも、味のあるバイプレーヤーとしての道は開けている。高田漣による音楽も捨てがたく、一見の価値はある映画かと思う。
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Harbethのスピーカーを試聴した。

2013-06-24 06:00:18 | プア・オーディオへの招待
 英国Harbeth社のスピーカーを聴いてみた。同社は77年に発足し、BBCのモニタースピーカーなどを長年にわたり供給するなど、実績を作ってきたブランドだ。その製品はオーディオ・フェアで何度も接しているが、今回メインに聴けたのは新型のMonitor30.1Monitor20.1である。

 型番が表すとおり、業務用を意識して作られた製品なのだと思う。しかしMonitor30.1は木目仕上げがあり、対してMonitor20.1は見た目は実用一点張りのハイグロス・グレー仕上げのみと、なぜかエクステリアに一貫性が無いのが気になったが、結局この違和感が最後まで尾を引くことになった。

 なお駆動していたアンプとCDプレーヤーは仏YBAのセカンド・ブランドであるAudio Refinement OvertureのIntegreとCD1、DENONPMA-2000REDCD-1650RETRIODETRV-88SERTRV-CDSEと、3セットも用意してくれたのは有り難い。



 まず聴いたのがMonitor30.1である。高さが46cmもあるミドルサイズで、低域ユニットも口径が20cmのものを採用しているせいか、鳴りっぷりは良い。音場は奥に広がるタイプで、高い解像度と共に聴感上のレンジが大きい緻密な展開を見せる。

 しかし、聴いていくうちに釈然としないものを感じるようになった。情報量と質感を十分確保して明るい音色で聴かせようという方法論のスピーカーを求めるならば、別にHarbethの製品でなければならない必然性は無い。同じ英国のブランドならば、B&WとかMONITOR AUDIO、あるいはKEFのRシリーズといった選択肢がある。もちろん、それぞれサウンドのカラーは違うが、アプローチの仕方には共通するものがある。

 個人的にHarbethのスピーカーでまず思い出すのが、HL-COMPACT7 ES3である。いかにも伝統的な英国のモデルらしい陰影に富んだ彫りの深い音作りで、丹念に細部まで練り込んだ音像の掴み出し方や整然と設えた音場の造型などに感心したものだ。ところが、このMonitor30.1にはそのような美点は見つからなかった。

 次にMonitor20.1のパフォーマンスをチェックしてみた。高さが30cmで低域ユニットは口径11cmというコンパクト・サイズ。スタジオ等でのニアフィールドでのサウンドチェック用にも使えるらしく、その点はMonitor30.1よりも業務用としての性格が強いという。

 面白いことに、HL-COMPACT7 ES3が持っていたHarbethの魅力は、モニター用途のMonitor20.1の方に反映している。解像度をキープしながらも、中低域のエッジは丸くて滑らかだ。そのためか鳴り方にはコクがあり、使用するソースによっては艶や色気の表現も可能になってくる。これは面白いモデルだと思った。



 しかし、Monitor20.1は出力音圧レベルが84dB以下という低能率。加えて低域の量を稼ぐバスレフダクト(低音が放出される穴のこと)がない密閉型だ。つまり十分な音圧を得ようとするならば、高出力・高駆動力のアンプで音量を上げてドライヴしなければならない。それに音場は広いとはいえ小型モデルなので、管弦楽曲などの再生には不満が残る。 

 それによく考えると、モニター的な鳴り方のMonitor30.1がバスレフ型で木目仕上げという民生用を意識した意匠なのに対し、いくらかHarbethらしい楽しい音を出すMonitor20.1が素っ気ない色合いで一般家庭に置くには不似合いな外観というのは、ちょっとおかしい。

 さらに言えば、Monitor30.1は専用のスピーカースタンドを併用しなければ真価を発揮しないのだが、この置き台がいかにも頼りない。HL-COMPACT7 ES3のようなスリムなモデルならば華奢なスタンドも気にならないが、質量感のあるミドルサイズのスピーカーを載せるとなると、見た目が良いとは言い難い。

 結果として、この2機種は個人的な購入対象にはなり得なかった。もしもHarbethのスピーカーを選ぶとすれば、HL-COMPACT7 ES3およびその流れを組むテイストの製品になるだろう。

 最後に、今回初めて聴けたAudio Refinement Overtureのアンプ類について述べてみる。本家YBAにも通じる中域の艶やかさがキュートな印象を与えるが、情報量としてはこれよりずっと安いDENONのアンプ類に完敗だ。デザインは小粋だが、仕上げや質感は安っぽい。また三点支持で安定性に欠けるのも愉快になれない。やはり中級クラスまでのアンプは、クォリティにおいて国内ブランドに軍配が上がるようだ。
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「ポルノグラフィックな関係」

2013-06-23 06:40:28 | 映画の感想(は行)
 (原題:Une Liaison Pornographique)99年作品。何と切なく抑制の利いた大人のドラマになっていることか。中盤以降の展開には“うんうん、そうなんだよな”と心の中で納得しまくりだった。ラストの処理なんて泣きたくなる(さすがフランス映画だ)。

 パリのカフェで知り合った中年男女。互いの名も知らず語り合い、やがてホテルに向かう。どこに住んでいるのか、どういう人生を送っていたのか、そんなことは関知せずに、ただ肉体だけの関係と割り切り逢瀬を重ねる。しかし、やがて二人の間に恋愛めいた感情が通い始める。



 二人が別々にインタビューを受け、相手に対する思いを打ち明けるという、いわばドキュメンタリー・タッチで進むが、このあたりのリアリティには感心する。何しろ、同じように行動しているにもかかわらず、微妙に心情にズレがあるのだ。これがまた凡百の映画のように“頭の中で考えただけ”というレベルを遙かに超え、作者が本当にこういう場を経験したかのごとく(笑)きめ細かいところまでカバーしてくる。

 ただセックスのみを目的とした割り切った男女関係(フーゾクを除く)など存在しないのではないか。そんな、考えてみればアタリマエの命題を、いいトシしたオッサンとオバサンを素材にここまで訴求力のある作品に仕上げた監督フレデリック・フォンテーヌの力量は大したものだ。

 主演のナタリー・バイとセルジ・ロペスのパフォーマンスは素晴らしい。特にナタリー・バイは第56回ヴェネツィア国際映画祭で主演女優賞に輝いている。80分という尺も良く、そして冬のパリの点描はステキだ。
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「はじまりのみち」

2013-06-22 07:15:38 | 映画の感想(は行)

 木下惠介監督の諸作が劇中に挿入されるが、これが無駄に長い。作者が木下作品に強い思い入れを持っていることは理解出来るが、ヨソの映画を必要以上に引用することは作劇のバランスを崩すことになり、また私のような性格の悪い(笑)観客にしてみれば“そんなに出来映えに自信が無いのか”と思ってしまう。しかしそのことを除けば、これは主人公の映画への愛着と親子愛が丁寧に描かれた良い映画だと言える。

 昭和19年に作られた木下惠介の「陸軍」は、政府から“戦意高揚映画にしてはラストが女々しい”と非難され、木下の次回作も製作中止になってしまう。嫌気がさした彼は映画会社に辞めることを告げ、実家の浜松に戻る。そこでは脳溢血で倒れた母が療養中であったが、戦局の悪化に伴い浜松も安全ではなくなり、彼は兄と共に母をリヤカーに乗せて山向こうの疎開先に赴くことになる。

 この出来事自体は実話だが、当然のことながら映画化にあたっては脚色が成されている。一種のロードムービーなのだが、道中で殊更大きなトラブルに巻き込まれることもないのに(まあ、雨中で苦労する場面はあるが ^^;)退屈させないのは、人物の配置が巧みだからだ。

 その代表が、彼らと行動を共にする若い便利屋だ。切羽詰まった木下とその兄とは対照的に、便利屋は実に楽天的。この時期、十分に身体が動ける者ならば誰でも赤紙を受け取っても不思議では無く、便利屋だって例外ではない。仕事が終わって家に帰ったら、召集令状が届いているかもしれないのだ。

 しかし、彼はたとえそんなことになっても“それも運命さ”と受け流し、定めに従うのかもしれない。ただし、そんな彼でも自分の親兄弟を想う気持ちは人一倍ある。そのことを、自分が以前観た「陸軍」の終盤の場面に重ね合わせてしみじみと語る場面は、切ない感動を呼ぶ。また、それが映画に対して木下自身の映画に対する迷いと、それを踏み越えて一歩前に進む決意をも照射しており、このあたりの作劇は上手い。

 発作により口をきくこともままならない母親が、息子達を見守り応援している様子をちゃんと表現していることも感心した。木下に扮する加瀬亮と、その兄を演じるユースケ・サンタマリアとの演技のコンビネーションも素晴らしい。

 しっかりと家族を守る気概を見せる兄が、好きなことを仕事にすることが出来た弟を羨みながらも、年長者としての自分の役割を果たしていく。その構図を違和感なく描出している。母親役の田中裕子は貫禄というしかなく、ラスト近くにやっとセリフを述べるあたりの気持ちの高ぶりも遺憾なく表現する。そして便利屋役の濱田岳は抜群のコメディ・リリーフだ。彼がいなかったら、良質ではあるが生真面目なだけの映画になっていたかもしれない。

 原恵一監督としては初めての実写映画となったが、数々のアニメーション映画の秀作をモノにした彼の力量はここでも発揮されている。もういちど木下作品を観てみたくなる、生誕100年の記念映画にふさわしい良作だ。
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「Sweet Sweet Ghost」

2013-06-21 06:32:47 | 映画の感想(英数)
 2000年作品。舞台になる長崎県の島の風景が素晴らしく、主人公の男子高校生役の俳優も悪くなく、永島敏行や村上淳など脇のキャスティングにも凝っているのに、映画自体は全然面白くならないのは、ひとえに監督の無能さゆえだろう。

 長崎県佐世保の沖合いに浮かぶ島に住む、高校生の剛と拓郎はポン友同士。剛の叔父は変わり者で、廃屋になったアパートに忍び込み心霊写真を撮ることに一所懸命。当然、剛もそれに付き合わされる。一方の拓郎は離婚寸前の両親のことで悩んでいる。やがて二人は東京からの転校生・英世に心惹かれるようになる。だが、彼女は人には知られたくない秘密を持っていた。



 ハッキリ言って、どうでもいいような話だ(終盤近くの暗転など、取って付けたようである)。加えて演出のテンポが悪く、場面場面にすきま風が吹きまくっている。画面の切り取り方にも自己満足的な雰囲気が見え隠れするのも愉快になれない。

 監督の芳田秀明はその後あまり名前も聞かなくなったが、日本映画にはこういう徒花みたいなシャシンが時折作られるのも事実。プロデューサーはもっとシッカリしてほしい。なお、ヒロイン役の中島ちあきの演技はヒドく、ルックスも冴えない。彼女も今ではほとんど“消えた”ようだが、まあ当然だろう。
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「リアル 完全なる首長竜の日」

2013-06-17 06:15:59 | 映画の感想(ら行)

 馬鹿臭い映画だ。先日観た「オブリビオン」は序盤で早々にネタが割れるが、この作品はほとんどファーストシーンで“仕掛け”が分かってしまう。もちろん、ネタがバレたことを承知であとは“語り口”によって映画を引っ張っていくというやり方もあるが、本作は効果的な工夫がまったく見当たらず、鑑賞後の徒労感は実に大きい。

 漫画家の淳美は1年前に自殺未遂を引き起こして以来、昏睡状態に陥っている。幼馴染で恋人の浩市は何とか彼女を目覚めさせようと、患者と意思の疎通が可能となる特殊な医療システムにより、淳美の脳内にサイコダイビングを試みる。

 冒頭近く、精神病棟で浩市が医者からこのシステムの概要を聞く場面があるが、この医者の芝居がかった口調と何とも実体感の無い病院の様子を見て“ハハア、これはやっぱりアレだろう”と思っていると、実際にその通りに話が進んでいくのだから呆れる。

 浩市は淳美の意識の中で彼女とコンタクトを取ることに成功するが、淳美は当分目覚める気は無いらしい。そして何かというと“小学生の頃に描いた首長竜の絵を探してきて”と頼むばかり。仕方なく彼はその絵を見つけ出そうとするが、その過程で謎めいた少年の姿がたびたび出現する。この少年は二人の子供時代に何かトラウマになるような事件の当事者であったことがやがて明らかになるが、その真相とやらは拍子抜けするほど在り来たりだ。しかも、首長竜うんぬんはその事件と強引に結びつけられたような子供じみた(まあ、実際に子供なのだが ^^;)モチーフでしかないのだから脱力する。

 題材である“内面世界の描写”というのは映画作家ならば誰しも気負って作りたくなるはずだが、ここでは悲しいほどインパクトが無い。小手先の映像ギミックを散りばめれば観客は驚くだろうという、随分とナメた姿勢しか窺えないのだ。少なくともクリストファー・ノーラン監督の「インセプション」の足元にも及ばない。

 主人公達が現実世界で命の危険に迫られ、一方内面世界ではトラウマの実体化である首長竜に追いかけられるというクライマックス場面は盛り上がってしかるべきだが、これが最低。サスペンス皆無で、しかも首長竜のSFXの造型があまりにも稚拙。こんな調子で脳天気なラストを提示してもらっても、観ているこちらは困るのだ。

 驚くべきは、本作の監督が黒沢清であること。廃墟などのロケーションに“クロサワ印”が見受けられるものの、あとはいつもの彼らしいニューロティックな持ち味がまったく出ていない。この映画はオリジナル脚本ではなく(原作は乾緑郎による小説)、また常連である役所広司が出ていないことを考え合わせても、この生気の無い演出には落胆するばかりだ。

 主演の佐藤健と綾瀬はるかは熱演だが、話自体がショボいのでその頑張りも徒労に終わっている。中谷美紀やオダギリジョー、染谷将太といった脇の面子も大した仕事はさせてもらっていない。
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REVOLVERのスピーカーを聴いてみた。

2013-06-16 05:58:17 | プア・オーディオへの招待
 イギリス南西部のプリマス発祥のオーディオメーカー、REVOLVER社のスピーカーを聴いてみた。日本では製品を置いてある店は少ないが、70年代後半の発足から現在まで幅広い価格帯のスピーカーおよびアナログプレーヤーを提供し、本国では評価の高いブランドだという。

 今回聴いたのはトールボーイ型のMusic Series 5で、駆動していたアンプはコントロールアンプにROTELのRC-1580とパワーアンプの同RB-1592という組み合わせだ。



 私はREVOLVER社のスピーカーに接したのは初めてだったのだが、これはかなり良い音だと思う。パッと聴いた感じはフワリとした美音調ながら、その背景には高い解像度とメリハリの良さがある。高音はストレスが無く伸びきり、低域も意外と腰が強い。

 ROTELのアンプでドライヴしていたせいもあるだろうが、音は暖色系で聴きやすい。音場は上下方向に広く、見通しが良い。ヒステリックな部分も見当たらず、長時間でのリスニングでも疲労感は少なそうだ。

 特筆すべきは指向性が全然シビアではないこと。先日聴いたFALの製品ほどではないが、リスニングポジションは相当広い。試聴したショップ店長の話がとても面白く、既存オーディオ機器や大手メーカーに対する批判がポンポン飛び出したが、その中の“指向性の厳しいスピーカーなんてのは不良品だ!”というセリフは私もある程度同意したい。

 だいたい、音楽を聴くのに部屋の特定ポイントで身じろぎもせずシステムに向かい合うというのは、ナンセンスだ。そんな求道者みたいな姿勢をリスナーに要求する製品およびそれを手掛けるメーカーは、消費者をナメていると思う。



 指向性がシビアなスピーカーの代表選手として独ELAC社のモデルが挙げられるが、案の定、店長氏はELACのスピーカーを舌鋒鋭く批判する。いわく“あれはそもそも高域ユニットがボロく、低音ユニットもそれに合わせて作っているから当然ボロい。結果として明後日の方向にしか音が飛んでいかない欠陥品の出来上がりだ”とのこと。まあ、私はELACのスピーカーは評価しているが(コンパクト型のみ。フロアスタンディング型は全然ダメ)、指向性の厳しさだけは如何ともし難いと思う。

 Music Series 5は定価が30万円で、実売が25万円ほどだ。そんなに高くなく、繋ぐアンプを選ぶような特定帯域での強調感もない。ちなみに、ROTELの一番安価なアンプであるRA-05SE(定価8万5千円)でドライヴしてみても、特に聴き辛くなるようなこともなく、スムーズに鳴ってくれた。

 実家のメイン・システムで使っている、とうの昔に飽きが来てしまったDIATONEのスピーカーをいつか更改しようと思いながら随分年月が経ってしまったが(笑)、最近ようやく“実行”に移そうかという気になってきた。おそらくMusic Series 5は有力候補になるだろう。もちろん、他にも評判の良い製品は数多くあるので、試聴を重ねてじっくりと選びたい。
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