元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

民主主義を破壊しているのは、野党である。

2019-05-31 06:28:50 | 時事ネタ
 昨年(2018年)いわゆる“モリカケ問題”が勃発し、安倍政権は批判を受けた。そして今年には厚生労働省の統計不正があった。また閣僚の失言や強行採決も相次いでいる。普通に考えれば現政権の支持率は下降してもおかしくない状況だが、実際にはそうならない。それどころか、安倍総裁4選に向けて盤石の体制が整いつつある。その理由は何かといえば、早い話が野党がだらしがないからだ。

 現政権の前は民主党が政権を担っていたのだが、これがまた評判が悪かった。もちろん、東日本大震災やリーマンショックが起きたことは不運だったが、それにもまして民主党政権が世間から見放された大きな要因は、勝手に消費税率アップを決めてしまったことだろう。

 リーマンショックなどで経済マクロが低迷している中で、あえて増税を決定したというのは、正気の沙汰とは思えない。しかも、当時の菅直人首相は党内で十分吟味することも無く、独裁的に断行してしまった。続く野田首相はまるで財務省のスポークスマンのような言動に終始した挙句、無謀な衆議院解散に打って出て“自爆”する始末。

 斯様に前政権が低レベルであれば、いくら今の政権がゴーマンに振る舞おうとも、国民の間では“それでも、民主党政権よりはマシだ”という認識が定着してしまったのは当然のことだ。

 加えて、安倍政権はアベノミクスなる経済政策を打ち出している。その内容は(特に数値の面からは)まるで物足りないシロモノではあるのだが、とにかく“経済政策を実施してきた”という体裁は整えている。何の経済政策も実行せず、それどころか経済政策の重要性さえ理解していなかったような民主党政権とは、その点でも違う。

 要するに、現政権の高支持率は、ひとえに“低劣だった民主党政権との比較”によって成り立っているようなものだ。もしも野党に政権交代するようなことがあれば、あるいは安倍首相と意見を異にする自民党内の別の者が政権の座に就けば、現状より悪くなるのではないかという懸念が横溢しているのであろう。

 ただし、このまま安倍政権が続けば経済状態は(ゆるやかに下降することはあっても)急激に悪化することは無いのかもしれないが、良くなることは決してない。したがって、少子化問題も所得格差も貧困問題もブラック企業の跳梁跋扈も解決しない。座して死を待つばかりである。

 残念ながら、現政権によるこうした“薄甘い低迷トレンド”を阻止する勢力は存在しない。あれから民主党は分裂したが、いずれの政党も旧民主党と似たような経済政策を踏襲している。つまり、財政の健全化という空疎なスローガンの連呼だ。だから“当面、消費税率は8%に据え置くべきだ”とは言うのかもしれないが、どのようにして経済を立て直してゆくのか、そのヴィジョンを提示出来ない。

 もしも安倍政権が“消費税率アップの延期”を公約に掲げて衆参ダブル選挙に打って出たら、野党に勝ち目は無い。それに対抗するには“増税延期など生ぬるい! 景気が完全に回復するまで消費税は廃止する!”ぐらいのことを言うべきだが、経済オンチばかりの無能な野党にはそんな度胸も無い。

 時として政権与党が暴走するのは、まあよくあることだ。しかしそれを牽制するはずの野党が、国民生活を無視した空理空論ばかりに終始していては、事態は好転しない。民主政治というものは国民の利益を最優先させるシステムであるはずだ。そのことを自覚しないまま“ただ政権与党を批判していれば良い”と言わんばかりの野党の態度は、まさに民主主義を貶めるものだ。

 昨今MMT(現代貨幣理論)と呼ばれる米国生まれの新しいセオリーが話題になっているが、概要を見る限りでは真っ当な考え方だと思える。野党の連中はMMTの文献を熟読して自らのスタンスを顧みて欲しいものだが、まるで55年体制の再現みたいな構図で満足しているような者達には、無理な注文だろう。
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「ドント・ウォーリー」

2019-05-27 06:27:50 | 映画の感想(た行)

 (原題:DON'T WORRY,HE WON'T GET FAR ON FOOT)良い映画だと思う。単なる難病もの(兼お涙頂戴もの)ではなく、内面の深いところまで掘り下げ、観る者に普遍的な感慨をもたらす。キャストの頑張りも相まって、鑑賞後の満足感は高い。

 オレゴン州ポートランドに住むジョン・キャラハンは、酒に溺れる自堕落な生活を送っていたが、ある日飲み仲間の悪友が運転する車に同乗した際に事故に遭い、下半身不随になる。車椅子生活を余儀なくされた彼は、ますます捨て鉢になり酒の量も大幅に増えてゆく。だが、冷やかし半分で覗いてみた“断酒会”のリーダーであるドニーの生き方に感化され、少しずつ前を向き始める。そして、以前から得意としていたイラスト作成を活かし、麻痺の残る手で風刺漫画を描き始めるが、これが意外な反響を呼ぶ。2010年に59歳で世を去った風刺漫画家キャラハンの伝記映画だ。

 何といってもジョンとドニーとの関係性が面白い。親に捨てられ、捨て鉢になってアル中になり、果ては事故で下半身麻痺。不幸を絵に描いたようなジョンの人生が、何不自由ない暮らしをしているが、実は性的マイノリティで、しかも難病に罹っているという複雑な立場のドニーと出会うことによってコペルニクス的転回を見せる。

 ドニーが提示する“回復までのステップ”は、ジョンをはじめとする“断酒会”のメンバーのためだけではなく、ドニー自身が生き方を顧みるプロセスでもある。時代背景は70年代後半で、ベトナム戦争の後遺症により老荘思想がアメリカに広まっていたという事実は興味深く、世俗や既存の価値観にとらわれず無理せずに生きるという教義が、2人を救っていく。ジョンが不遇な境遇を恨まずに、それどころか今まで関わってきた人々に許しを請うことによって、新しい局面を切り開こうとするくだりは感動的だ。

 ガス・ヴァン・サントの演出はジョンが描く漫画を内面描写のモチーフとするなど、凝っていながら押しつけがましくなくスムーズにドラマを進めて好印象。主演のホアキン・フェニックスは名演と言うしかなく、いつもながら出演作によって外観も変えてくる芸達者ぶりに感心するばかり。ドニー役のジョナ・ヒルのパフォーマンスも見事だ。自らの運命に対して悩み続け、それでも超然としてそれを受け容れるカリスマ的人物を上手く表現している。

 ルーニー・マーラやジャック・ブラックも良い味を出しているし、ウド・キアが元気な姿を見せているのも嬉しい。とにかく人生、何があっても“ドント・ウォーリー”という態度で、鷹揚に構えて乗り切っていきたいものだ。
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「薄化粧」

2019-05-26 06:33:27 | 映画の感想(あ行)
 85年松竹作品。間違いなく日本を代表する俳優であった緒形拳の演技者としてのピークは、この頃だと思う。構成と筋書きがいささか荒っぽいドラマなから、高い求心力を獲得しているのは彼のはたらきによるところが大きい。観て損のない力作だ。

 昭和23年、山奥の鉱山で鉱夫として働いていた坂根藤吉は、鉱山で落盤事故が発生した際に補償問題で鉱夫の代表として会社側と掛け合うも、逆に多額の裏金を会社側から渡される。それを元手に金貸しをはじめた藤吉は、未亡人のテル子に接近して懇ろな仲になる。やがて彼は邪魔になった妻子を殺害。次に藤吉は炭鉱事故で働けない仙波徳一の妻すゑとも肉体関係を結び、ついでに一人娘の弘子にまで手を出そうとする。



 かくも乱れた生活を送る藤吉だが、飲み屋のちえと一緒にいる時だけは心の安らぎを感じるのだった。しかし、何度も藤吉に逃げられた警察はプライドを賭けて追い詰めてゆく。実話を基にした西村望の小説の映画化だ。

 五社英雄の演出は相変わらず野太いが、それが古田求による(時世を頻繁に前後させるなどの)トリッキィな脚本と合っているとは言い難い。各シークエンスがブツ切りになっているような印象を受ける。しかしながら、主人公の多彩な(?)異性関係を強調させるという意味では、一定の効果はあると思う。

 緒形扮する藤吉はまさしく人間のクズであるわけだが、ちえの前では素直になる。それをタイトル通りの“薄化粧”を重要なモチーフとして説明しているあたりは、かなり得点が高い。藤吉は優しいちえに眉毛をメイクしてもらい、鏡を見る。すると、普段の自分とは違う表情がそこにはあった。もしかすると、別の人間として生きることも可能なのではないか・・・・という、切ない想いが横溢する。もちろんそんなことは不可能なのだが、そういう心理の多面性を表現しようとするのは、単なる犯罪ものとは一線を画する独自性を獲得していると思う。

 ちえを演じる藤真利子は絶品。彼女は本作で数々の賞を獲得しているが、それも頷ける。浅利香津代に川谷拓三、浅野温子、宮下順子といった脇のキャストも万全。当時の“アイドル枠(?)”で出演の松本伊代も、決して作品の足を引っ張らない。森田富士郎の撮影と佐藤勝の音楽も、実にいい仕事をしている。
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「ビューティフル・ボーイ」

2019-05-25 06:36:23 | 映画の感想(は行)
 (原題:BEAUTIFUL BOY )薬物依存症を扱っているわりには妙に小綺麗だ。もちろん、ヘヴィなネタを“軽く”描いてはいけないという決まりは無いのだが、そうすることによって何か別の興趣が醸し出されるわけでもない。主題の捉え方をもっと煮詰める必要があったと思われる。

 優等生でスポーツ万能であったニック・シェフは、ふとしたきっかけでドラッグに手を出し、アッという間に中毒になってしまう。父親は何とか更正させようと施設に入れるが、勝手に抜け出したり、一度は回復するもののすぐに再発したり、まったく上手くいかない。ついには薬物の過剰摂取により重篤な事態に陥ってしまう。ニックの父親であるデイヴィッド・シェフによる実録小説の映画化だ。



 まず、ニックがドラッグに走った理由が具体的に示されていないので、その時点で鑑賞意欲が減退した。アメリカの若い層の間にはドラッグが蔓延していることは分かるが、どうしてニックがそれに関わるのか、まずはそこをテンション上げて描くべきだろう。

 ニックの置かれた背景をあえて考えてみると、父親の影響が大きいのかもしれない。デイヴィッドはフリーの音楽ライターで、取材対象を考慮すればドラッグとは近い距離にいたと思われる。加えて、過保護だ。ニックが小さい頃から存分に甘やかしていたフシがある。それでいて、ニック以外の“家族”には辛く当たる。ニックはデイヴィッドの元妻との間に出来た子供だが、元妻も現在の妻もニックを心配しているにも関わらず、彼は2人に冷淡な態度で接する。ただし“これではニックは拗ねるだろうな”ということは窺われるが、そのことが成績優秀なニックが薬物に走る理由にはならない。

 ニックに扮しているのがティモシー・シャラメだというのも、あまりよろしくない(笑)。美少年タイプの彼のイメージを覆すほどの度胸は作り手には無かったようで、腕の注射跡こそ痛々しいものの、描かれ方が表面的でリアリティが欠如している。麻薬中毒を題材にした凄惨な映画は過去にいくつもあるが(「レクイエム・フォー・ドリーム」や「クリスチーネ・F」など)、本作はそれらの足元にも及ばないと言って良いだろう。

 フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンの演出は薄味で、頻繁に時制を前後させるのも効果が上がっているとは思えない。デイヴィッド役のスティーヴ・カレルをはじめモーラ・ティアニー、エイミー・ライアン、ケイトリン・デヴァーといった各キャストは熱演だが、映画自体が要領を得ないので“ご苦労さんでした”としか言いようがない。
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「サイレント・ボイス 愛を虹にのせて」

2019-05-24 06:32:21 | 映画の感想(さ行)
 (原題:Amazing Grace and Chuck )87年作品。呆れるほどの御都合主義に貫かれた映画だ。しかし、観終わると感動してしまう。なぜなら、ここで描かれる“理想”の形は、正しいからだ。もちろん、あるべき姿ばかりを真正面から映しても芸が無い。だが、確信犯的にそれに徹してしまうと、本作のように時として大きなうねりになって観る者に届くのだ。これだから映画は面白い。

 モンタナ州リビングストンに住む少年チャックは、リトルリーグで活躍するピッチャーだった。ある日、チャックは仲間と近くにある核ミサイルのサイロを見学する。そこで核兵器の恐ろしさを実感した彼は、リーグ決勝戦の日に“核兵器が地上から無くなるまで、好きな野球をやめる”と宣言した。このことは新聞に載るが、プロバスケットのスター選手アメイジングはチャックの意見に賛同。彼も核廃絶の日までプレイをしない決心をする。



 空軍予備パイロットであるチャックの父親は、息子にバカことは辞めろと言うが、チャックの決心は固い。やがて彼の主張は世界に広まって、有名スポーツ選出が次々とプレイ辞退を申し出る。大統領も無視出来ず、チャックをホワイトハウスに呼んで説得するが不調に終わる。一方、軍需産業の黒幕ジェフリーズは、このムーヴメントを潰すべく暗躍し始める。

 まず、いくらファンタジー仕立てでも説得力の無い筋立ては如何なものかと誰しも思うだろう。核兵器を廃絶するとして、その具体的な処理はどうするのか。テロリストに核が渡ったらどう対処するのか。核兵器が無くなることによって、却って戦争のハードルが低くなるのではないかetc.しかし、マイク・ニューウェルの演出はそんな“揚げ足取り”を完全に黙殺するかのように、正攻法にドラマを構築する。

 大統領に扮しているのがグレゴリー・ペックというのが効いていて、この名優がマジメに役に臨むのならば、細かいことを気にせずに映画に向き合おうという気になってくる。そしてラストの盛り上がりに至っては、もう“参った”と言うしかない。

 チャックを演じるジョシュア・ゼルキーは達者な子役だと思うが、ジェイミー・リー・カーティスが面白い(?)役で出ているのは興味深かった。ロバート・エルスウィットによる撮影と、エルマー・バーンスタインの音楽も、まあ立派なものだ。
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「シャザム!」

2019-05-20 06:29:50 | 映画の感想(さ行)

 (原題:SHAZAM! )楽しめる。シャザムはDCコミックのヒーローとしては底抜けに明るい。しかも単なる脳天気な野郎ではなくナイーヴな屈託も併せ持っている。何よりこの“見た目は大人、中身は子供”という設定が効いていて、ゴリ押し気味なキャラクターにも関わらず全く違和感を覚えない。演出も快調で、2時間を超える映画ながら、中だるみすることなくスクリーンに対峙出来る。

 幼い頃に母親と生き別れになり、一人きりで生きてきた14歳のビリー・バットソンは、フィラデルフィアにあるグループホームに入居することになる。そこには足が不自由なフレディをはじめ、5人の個性的な少年少女も住んでいた。里親は優しい人物だったが、母親のことが忘れられないビリーは、なかなか馴染めない。ある日、謎の魔術師に召喚されたビリーは、救世主として不思議な力を授けられる。彼が“シャザム!”と叫ぶと、大人のスーパーヒーローになるという仕掛けだが、当然のことながら内面はビリーのままなので、フレディと一緒になってスーパーパワーをいたずらに使うばかり。

 そんな彼の前に、邪悪な魔力を操る怪人Dr.シヴァナが現れる。実はシヴァナは子供の頃にシャザムの力を与えられるチャンスに遭遇したのだが、本人の性根の悪さから失敗したのだった。逆恨みした彼は、長年の研究により7体の魔神の力を召喚することに成功。ビリー(シャザム)を倒し、ついでに世界を征服しようと画策する。

 シャザムは見かけは大人だが、その言動はといえば早速ビールを買い込んだり、アダルトショップに出入りしたりと、まさにアホな中学生そのもの。そのギャップが大いに笑いを誘う。

 だが、ビリーはずっと母親を探していて、グループホームに入れられたのはその一件が関与していることが物語に厚みを与えている。後半で明かされるビリーの母親の“事情”は、観ていて切ない。それと同時に、新たな“家族”を得ようとする、ビリーの前向きな姿勢は好印象。このあたりの作劇は上手い。

 シヴァナの力は強大で、さすがのシャザムも苦戦する。どうなるのかと思っていたら、何と“友情パワー”で乗り切ってしまったのは実に愉快だ。デヴィッド・F・サンドバーグの演出はテンポが良く、観る者を飽きさせない。クライマックスのバトルが展開するのが遊園地である点はポップな仕上がりに貢献しているし、戦いの段取りも上手くいっている。

 変身後の主人公を演じるザッカリー・リーヴァイは絶好調で、表情も身のこなしも見事な“父ちゃん坊や”である。敵役のマーク・ストロングは凄みがあるし、ビリー役のアッシャー・エンジェルとフレディに扮するジャック・ディラン・グレイザーもイイ味を出している。エピローグの扱いは続編が製作されることを示しているが、今後もチェックしていきたい。
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“ポタフェス”に行ってきた。

2019-05-19 06:31:17 | プア・オーディオへの招待
 去る5月11日(土)、福岡市中央区天神の福岡天神センタービルにあるTKPガーデンシティにて開催された“ポータブルオーディオフェスティバル(通称:ポタフェス)2019福岡”に行ってみた。このイベントはDAPやパソコン、スマートホン等に繋ぐ小型の音響デバイスの展示会である。とはいえ、会場にいたのは1時間あまりで、各ブースは入場者でほぼ満席だったので試聴出来た機器はほんの数点だ。それでも出品されているアイテムには面白いものがあったので、いくつかリポートしたい。

 最も興味を惹いたのは、CROSSZONE社の頭外定位ヘッドフォンだ。通常、ヘッドフォンでの音楽鑑賞は音像が両チャンネルの間、つまりは“頭の中”に形成される。もちろんそれは音の輪郭が鮮明になるという点では有利だが、音場がリスニングルーム内に広がるスピーカーでのリスニングや、もちろん実際のライブ会場等とは別物である。しかしこの頭外定位ヘッドフォンは、文字通り音像が“頭の外”に形作られ、まるでスピーカーで聴くような自然なパフォーマンスを実現しているという。



 実際に聴いてみると、明らかに従来のヘッドフォンとは違う。音像が“頭の中”ではなく“頭の真ん前”に現出するのだ。スピーカーでの鑑賞とは異なるかもしれないが、長時間の音楽鑑賞でも疲れないナチュラルな展開は、独自の存在感を発揮している。話によると、これは3つのドライバーユニットを巧みに配置することによって実現しているらしい。価格は高いが、それだけの価値はあると思う。

 ミキサーの作り手として知られる米国MACKIE社がリリースした密閉型ヘッドフォンのMC-150とMC-250は、安価ながら高性能だ。とにかく音が良い。エントリークラスの製品にありがちな、特定周波数帯域を持ち上げたような、ハデだけど聴き疲れするような展開には決してなっていない。業務用だからということもあり、聴きやすいフラットなテイストを持っている。しかも、情報量や解像度は及第点に達しており、不満を感じることはない。正直、衝動買いするところだった(まあ、ヘッドフォンはすでに保有しているので思い留まったが ^^;)。

 米国Skullcandy社のヘッドフォンCrusher360は、実に楽しい製品である。何とサブウーファーが付属しており、ヘッドフォンから独自に振動が響くのだ。しかも、通常の5.1chのAVシステムのようにサブウーファーが1台ではなく2個搭載されているため、低音部もステレオで出てくる。そのため臨場感が大きい。

 タブレット端末で映画などのソフトを再生しながらCrusher360を併用すると、これがなかなかイケるのだ。また、左側のイヤーカップを指先で上下にスライドすることによって低域をコントロールするというアイデアは優れもので、インターフェースの面でよく考えられている。パッドなどの部材は上質で、掛け心地も悪くない。



 さて、この催し物に足を運んだのは一昨年(2017年)に続いて2度目だが、今回も入場者の大半が若年層である(しかも、若い女子の姿も散見された)。加齢臭が充満する(笑)ピュア・オーディオのフェアとは大違いだ。考えてみれば当たり前で、今時の若い衆は“デカいシステムで音楽を聴くこと”に縁がない。それどころか“デカいシステム”の存在自体も知らない。たとえ知っていたとしても、金銭面及び居住環境面で導入する余地がないというのが実情だろう。

 ましてや“ポタフェス”に展示されているようなコンパクトで面白味のあるデバイスが市場に流通している現状では、昔のような“デカいシステムで聴くと、音が良い”というような御題目で若い層が動くはずがない。

 ピュア・オーディオの作り手が若者に振り向いてもらおうと考えるならば、ポータブルオーディオの発展形として提案するしかないと思う。もちろん、マニア向けの重厚長大モデルではなく、生活空間を圧迫しないサイズでセンスの良いエクステリアを備えたものが望ましい。
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「ある日本の絵描き少年」

2019-05-18 06:21:37 | 映画の感想(あ行)
 20分の短編アニメーションながら、アイデアがふんだんに投入されており、飽きさせない。しかもストーリーはシンプルながら奥深く、各キャラクターも“立って”いる。第40回ぴあフィルムフェスティバル・PFFアワード2018で準グランプリを受賞。各地の特集上映やいくつかの映画祭で話題を集めている作品だ。

 主人公シンジは子供の頃から絵を描くことが得意だった。小学校に上がると、同じく絵が大好きなマサルと出会い、仲良くなる。だが、マサルには知的障害があった。互いの家庭環境の違いも影響して、高学年になると2人は徐々に疎遠になっていく。シンジは長じて美大に進学し、漫画家を目指してコンテストに応募。思いがけず入選し、プロデビューのチャンスを掴む。しかし当初は順調に見えた漫画家稼業も、すぐにネタが払底して行き詰まってしまう。一方マサルは、独自の道を歩んでいた。



 漫画のコマ割りのような画面が動き出し、シンジとマサルの物語が展開する。2人の画力は随分と差があるように見えるが、眺めていて面白いのはマサルの絵の方だ。マサルの描く人物はなぜか全員プロレスラーの覆面を被っている。彼がプロレス好きだという説明はあるが、彼の母親や身近な人物も覆面のまま登場して劇中でキャラクター化するのがおかしい。

 シンジの絵は(技術的には)上手いが、ただそれだけだ。突き抜けたところが無い。そのことを自覚するのに、彼は長い年月がかかってしまった。果ては“描きたいものなんて最初から無かった”という認識に至る。これは、観ていて胸が苦しくなった。才能の有無というのは、厳然として存在するのだ。しかし、それでもシンジは(そして、我々のほとんどは)生きていかなければならない。その達観には、大いに感じ入ってしまう。

 後半には実写の部分もあるが、アニメーションのパートとの違和感はほとんどない。監督と脚本を担当する川尻将由の腕は確かで、今後も仕事をチェックしたい気にさせる。
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「一文字拳 序章 最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い」

2019-05-17 06:30:15 | 映画の感想(あ行)
 66分の中編。技術的には万全とは言えず、ストーリーは大雑把で、各キャストの演技も拙い。しかし、スクリーン全体からは楽しそうな雰囲気は漂ってくる。そして何より、パワーがある。インディーズの映画としての存在価値は大いにあると思う。

 山に籠もって修行していた空手家が、謎の怪人に襲撃されて殺害されるという事件が発生。その空手家の弟で、最強の武術家を目指す一文字ユウタは兄の敵を討つべく現場近くの町にやってくる。一方、売れない漫画家のシラハタは、今日も出版社に作品を持ち込むが、編集長から一蹴されてしまう。その帰り道、学生時代の後輩だったクラタと再会して意気投合するが、クラタを追いかける借金取り及び偶然に因縁を付けられた街のゴロツキ集団に絡まれて、2人はピンチに陥る。

 そこにやって来たのがユウタで、あっという間にチンピラどもを片付ける。シラハタとクラタはユウタと仲良くなり、怪人を探し出す手助けを買って出る。そんな中、謎の怪人とその仲間は、ユウタをなき者にしようと暗躍する。

 小さな町で都合良く展開する話には苦笑するしかないが、アクション場面だけは優れている。ユウタを演じる茶谷優太の身体能力は本物で、カメラワークや特殊効果で誤魔化してはいない。茶谷の演技は硬いが、将来性はあるだろう。クライマックスの大乱闘はそれなりに盛り上がる。白畑伸や倉田恭平、小矢菜奈美といった脇のキャストも味がある。

 監督の中元雄の手腕はまだまだであるが、がむしゃらなカツドウ屋精神は伝わってくる。ラストクレジットにはNG集まであるのだから、けっこう楽しめた。第40回ぴあフィルムフェスティバル・PFFアワード2018の入選作だ。
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「記者たち 衝撃と畏怖の真実」

2019-05-13 06:27:11 | 映画の感想(か行)

 (原題:SHOCK AND AWE )ロブ・ライナー監督作としては前回の「LBJ ケネディの意志を継いだ男」(2016年)よりも上質だ。もちろん、本作と同時期公開の「バイス」に比べれば大差を付けてリードする。やはり政治ネタを扱う場合は、正攻法が一番だ。「バイス」のように中途半端なケレン味を付与すると、認識の浅さを見抜かれる。

 9.11同時多発テロの翌年、ジョージ・W・ブッシュ米大統領はイラクのサダム・フセインが大量破壊兵器を保有しているとして、イラク侵攻に踏み切ることを宣言。テロに対する義憤に駆られていた多くの国民が、その決定を熱狂的に支持する。一方、中堅新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコット及び部下のジョナサン・ランデーとウォーレン・ストロベルは、ブッシュ政権の姿勢に疑問を抱いていた。

 同社は元従軍記者でジャーナリストのジョー・ギャロウェイに取材協力を依頼するが、ギャロウェイの幅広い情報網をもってしても、イラクが大量破壊兵器を保有している証拠は見つからない。そんな中、ニューヨークタイムズやワシントン・ポストなどの有力マスコミは政府方針に追随。ナイト・リッダーは開戦気分が高揚する世間の潮流の中で、孤立を余儀なくされる。

 現時点でこのネタを扱う理由は、強硬な姿勢を見せる現トランプ政権には9.11事件当時の共和党政権と通じるものがあるからだろう。もちろん、そこには民主党寄りのハリウッド映画人のスタンスが存在している。だが、そのことを度外視しても、本作でのマスコミの捉え方には大きな求心力がある。

 報道とは事実に則って成されるもので、事実の裏付けの無いネタなど本来はマスコミが扱ってはならないはずだ。しかし、時には政権への阿りや忖度、あるいは大衆への迎合を優先するあまり、虚偽を報じてしまう。アメリカはかつてベトナム戦争で痛い目に遭っていながら、政権およびマスコミは同じ過ちを繰り返している。イラク戦争の際にその欺瞞に気付いていたのが、ナイト・リッダー1社だけであったという苦い事実が重くのしかかる。

 登場人物は皆個性豊かで、題材がヘヴィでありながら人情味たっぷりに描かれている。ウォルコット役で出演もしているライナーの演出はスムーズかつ堅実で、余計なケレンは無い。上映時間が1時間半程度であるのもポイントが高く、作劇のキレの良さを印象付ける。ウディ・ハレルソンにジェームズ・マースデン、ジェシカ・ビール、ミラ・ジョヴォヴィッチ、トミー・リー・ジョーンズといったキャストも万全だ。
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