2ちゃんねるに掲載された“実録恋愛もどき”の書き込みの映画化ということで、色モノ扱いされても仕方がないような企画だが、どうしてどうして、出来上がった作品は恋愛映画の王道を歩む真っ当なシャシンである。
ラブストーリーの基本設定“ボーイ・ミーツ・ガール”の段取りから、二人の恋の行方が確固とした“必然性”に則って進展していくこと、そして迎える“誰もが納得する結末”など、近頃珍しい正統派のドラマツルギーを提示している。そもそもネタが“ネットがらみ”というイレギュラーなものであるから、尚更筋書きはノーマルに徹する必要があり、このあたりの作者の冷静さは評価して良いだろう。
こういう映画を観ていると、昨今ハヤリの「セカチュー」だの「韓流」だのといった偽善的恋愛ごっこドラマの薄汚さを再確認できる。
恋愛を進展させるものは、垢抜けた物腰やスマートな大道具小道具などではない。もちろん、恋愛当事者の“経済的状況”も二次的ファクターに過ぎず、ましてや「韓流」に代表される“クサさ100%の有り得ない展開”など問題外である。
恋愛で一番大事なのは“ハート”だ。


主人公の電車男は困っている女性を助けようとするほど勇敢で優しい。そして何よりマメだ。単にオタク的趣味にハマっていて経験がないだけで、本来はモテて当然だ。というか、彼みたいな男がモテなくて、いったい誰がモテるのだろうか。一見“高嶺の花”に思えるエルメス嬢が主人公に好感を持つのも当たり前である。
電車男役の山田孝之はびっくりするような好演。相手を好きになったことにより、自分の殻を破ろうとして七転八倒するオタク野郎を見事に実体化させている。クライマックスの告白場面では感動すら覚えてしまった。
エルメスの造形は浮世離れしているという意見もあろうが、もとより象徴的なキャラクターであるからこれで良いと思うし、限られた上映時間の中ではエルメス側を描き込む余裕がないのも確かだ。演じる中谷美紀が柔らかい雰囲気を上手く醸し出している。
電車男を“応援”するネットの住民達を悩みを抱えた数名のネットワーカーに絞り込んでいるのも物語を整理する上でポイントが高く、彼らを単なるヴァーチャルな存在として扱っていないため、手前勝手だと思わせるアドバイスに電車男が反応することに違和感がほとんどない。金子ありさによる脚本は巧妙だ。
また、2ちゃんねるならではのAAや独特の用語の使用も必要最小限に抑えられており、作者自身が“オタク趣味”に埋没していないことも嬉しい。
とにかく、リアリズムを踏まえた恋愛劇の佳篇であることは間違いなく、幅広い層に薦められよう。監督の村上正典は今後も映画を撮り続けて欲しい。
PS.今年の書き込みはこれにて終了。次は1月2日以降になります。